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Drosophila Newsletter (Japanese) No. 14

The Newsletter of the Japanese Drosophila Research Conference (in Japanese)

April1998

1st Announcement of the 4th JDRC Meeting (1999)by NISHIDA Yasuyoshi
Meeting Report : 39th Annual Drosophila Research Conferenceby ADACHI Yoshitsugu
Laboratory Report : Pat Simpson's (Strasbourg, France)by USUI Kazuya
Technical TidBits
== Quick immunostaining using a 96-hole plateby OKABE Masataka and HIROMI Yasushi
== How to make a fly transfer tubeby FUYAMA Yoshiaki
== Growth rate controler?by MURATA Takehide
Please update the JDRC address book
New JDRC Charter


ショウジョウバエ通信 No.14

1998年 4月

この通信は研究室単位でお送りしています。研究室の方全員に読んでいただけるようご配慮お願いいたします。
  第4回研究集会の御案内(第1報)            西田育巧
  39th Annual Drosophila Research Conference 印象記  安達在嗣
  ラボ便り パット・シンプソン研(仏・ストラスブール)  碓井和也
  技術ノート
   『忙しいあなたに送る96穴プレートを用いた免疫染色』 岡部正隆、広海 健
   『簡易吸虫管と穴付きスポンジ栓の作成法』       布山喜章
   『エイプリルフールの夢物語?』            村田武英
  事務局より
   研究会名簿の変更情報をお知らせください        事務局
  会則について

第4回研究集会の御案内(第1報)

        第4回研究集会準備委員会 
        西田 育巧(名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻)

 日本ショウジョウバエ研究会第4回研究集会は、名古屋において下記のような日程
で開催する予定です。沢山の方の御参加をお待ち致しております。

日時:平成11年8月2日(月)午後1時〜8月4日(水)午後3時頃
場所:名古屋市千種区鹿子殿1ー1
    愛知県がんセンター 国際医学交流センター

 研究集会の内容は、ショウジョウバエ研究会のホームページなどを通じて、今後逐
次お知らせしてゆく予定ですが、これまでどおり、シンポジウムとポスターによる一
般発表と、技術セミナーを予定しています。参加申し込み、演題申し込み、発表要旨
の受付などは、第3回の時と同様にe-mailでお願いしたいと考えています。御協力の
程よろしくお願い致します。また、シンポジウム(2時間程度)については、下記の
ように企画案を募集致します。奮って、御応募下さるようにお願い致します。

シンポジウム企画案募集
 シンポジウムタイトル、オーガナイザー、予定演者と仮演題をお知らせ下さい。
 〆切:平成11年3月末日
 また、このような話が聴きたいというような御要望がありましたら、御連絡ください。

 研究集会は、ショウジョウバエ研究会の皆様によって作られていくものです。いろ
いろな御意見・御要望・御提案などをお寄せ下さい。できるだけ参考にして、有意義
な会となるようにしていきたいと考えています。御協力の程、宜しくお願いいたします。

 研究集会専用のe-mailアドレスは後程お知らせ致しますが、当面は、私の下記のア
ドレスに御連絡願います。
    nishida@bio.nagoya-u.ac.jp
 なお、今回の研究集会の会場は、愛知県がんセンター研究所生物学部の山口政光さ
んの御協力に依るものです。


39th Annual Drosophila Research Conference 印象記

          安達 在嗣(筑波大学大学院生物科学研究科)

プロローグ(唯々諾々の洋行編)

 あっしの洋行の土産話ですが。いやはやどうも…あんまり古い事なんで忘れちゃい
ましたよ。何なら御勘弁願いたいもんで…ただもうビックリして面喰らって、命から
がら逃げ帰ってきたダケのお話でゲスから… 
                        夢野久作「人間腸詰」より
 
 「卒業旅行を兼ねてアメリカに行ってみないか」と恩師である古久保(徳永)先生
に言われたのはいつ頃だっただろうか。我が研究室のホープである長尾智子女史がワ
シントンD.C.で開催される39th Annual Drosophila Research Conference でポスタ
ー発表を行うので鞄持ちとしてこれについていけというのだ。学会というものに殆ど
参加した事のない私に降ってわいた学会参加の話(しかも洋行)。特に意欲があった
わけでもないが特に断る理由もなかったので、初めての海外旅行に戸惑いながらもガ
イドブック(日本人のバイブル=地球の歩き方)に唯々諾々と従い旅行の準備をした
。出発は卒業式の当日だった。大学院生として居残るためか何の感慨も無く卒業式を
終え、筑波を去ってしまう友人との別れを惜しむ暇もなく空港へ向かう。空港の係官
の指示に唯々諾々と従いながら出国の手続きを済ませると飛行機は一路アメリカへ向
かった。
 日本を出発したのが3月23日の午後7時頃。飛行機に乗っていたのは10時間以
上。ワシントンD.C.の宿についたのが現地時間で同日の午後11時頃。初めて日付変
更線を越える人間には新鮮な感覚だった。1日得をしたはずなのだが有り難みは全然
わかない。
 翌日は丸1日時間が空いたが私はそのへんをぶらぶらして過ごした。ローストビー
フのサンドイッチがアメリカを感じさせる(凄い量のローストビーフと例の穴のあい
たチーズ!)。宿は築95年の相当なものでガタピシいう。この宿の近所には同様の
年代物の建造物が立ち並ぶ。学会の会場となるホテルまでは歩いて10分ほどで非常
に安全だ。アメリカは恐い所だと無闇に思っていたのでやや安心した。一つ気付いた
のは自動車(殆ど路駐)で、日本車が相当多いことだった。(全長20メートルのプ
ール付きのアメ車なんてどこにもない)これなら貿易問題にもなるだろう。

本編(天地晦冥のシャイなあん畜生編)


第1日目

 朝刊にはショッキングな少年犯罪のニュース。私の記憶が正しければ昨年5月の日
本発生物学会の時には神戸の事件が起きている。私のかかわる学会って一体…。宿で
の朝食にはべ−グルというパンがよくでた。日本でもたまに見かけるけどそんなに旨
いものなのかね、これが。

 学会の会場はワシントンD.C.にある Omni Shoreham Hotel だ。ガイドブックによ
ればこのホテルは歴代の大統領の就任パーティーが行われるらしい。ホテルの売店で
はクリントンの絵葉書やらシュワルツコフ司令官のキーホルダーやらいかにも「アメ
リカン」なモノが売られていた。昼からワークショップ「Molecular Genetics of
the Ecdysone Response」が行われている。高校ではエクジソンと習ったがエクダイ
ソンと発音するのだなと思いながらも肝心の内容が理解できない。私の仕事とはあま
り関係ないので会場を後にし、メトロをのりつぎスミソニアンへ行く。博物館見学は
楽しかったがこんなに歩いたのは実に久しぶりだ。午後7時頃会場へ戻る。すでに
Opening General Session は始まっており、予定と照らし合わせるとM.M.Green 氏の
講演「Histrical Perspective」らしい。どうやら w だか B だか何かの遺伝子の研
究史について語っているらしいのだが私にはさっぱり理解できない。スミソニアンへ
行った疲れがずしりとのしかかりとても眠い。会場はしばしば笑いに包まれる。理解
できずに取り残される私は惨めだ。いたたまれず次のメニュウ「Larry Sandler
Memorial Lecture」が始まる前に会場から逃げ出し宿へ戻る。初日に味わったのは激
烈な疎外感と鬱状態だった。

第2日目

 朝からPlenary Session I が行われる。タイトルを見れば何について話しているの
かは分かるが結論に至る過程が理解できない。ここでも相当みじめだ。たえきれずに
会場から逃走する。THE X FLIES と書かれたFlyBaseのデモ会場に逃げ込んだ。会場
にいた親切な係の人にFlyBaseの基本的な使い方を教えてもらう。なんとかコミュニ
ケーションがとれた。どうにか気を取り直して 午後からのポスターセッションへ。
しかし全く議論に参加できない。しかも事前にチェックしておいたものが結構キャン
セルになっているではないか。ここでも気分は憂鬱になる。明日に備えて夜の時間を
使ってポスターをひととおりチェックした。

第3日目

 暑い。エル・ニーニョ現象による異常気象らしい。スライドセッションは未だに理
解できない。ポスターセッションの会場を彷徨する。昨日チェックした所へ行ってみ
た。Xuelin Li 氏 (University of California)が [Switch of functional
specificity of the Hox protein Ultrabithorax by activity modulation.] とい
うタイトルのポスターを出していた。Ubx のactivation domain を変化させるとAntp
様の機能を示したというものだ。何か話そうと考えているうちに他の人が熱心に議論
を始める。悲しきかな横で聞いていても何についての議論なのかが全然分からない。
あきらめて他の所へ。ここでも白熱した議論が展開されているのだがやはりとりつく
島もない。がっくりとしつつも前日チェックしたところを行脚する私。
[Charactarization of synaptic function in nalyot ,a mutant allele of adf1
that affects olfactory learning] と題されたポスターを眺めていると「いやー遅
れちまったよ(原文英語)」といいながら容貌魁偉なる紅毛碧眼の演者氏が現れた。
「何か質問ある?」と彼。「いまみているところです」と私。ショウジョウバエの電
気生理になじみの無い私は、3令幼虫のシナプス電位を計測しているのを見て「小さ
くて大変なのでは?」と聞いてみた。すると彼はこういった。「小さいだって?!こ
んなにでかいじゃないか!」「こんな事簡単だよ!僕たちのラボに来ればすぐにでき
るようになるさ!」そのあと私の名札を見た彼はこうつづけた。「筑波大かい?リョ
ーヘイ・カンザキは知っているね?!彼のやっている事の方がずっと難しい事だよ!
」私はただただ彼の勢いに圧倒されていたのだった。
 この日の夜ペンシルバニア大学のQ.Gao 氏と夕食をともにする機会に恵まれた。
Gao 氏はこの学会でorthodenticle 遺伝子の発現調節についてのポスター発表を行っ
ている。彼の所属するR.Finkelstein の研究室と私の所属する徳永研とはともに
orthodenticle 遺伝子を研究対象としており協力関係にあるのだ。アメリカで活動す
る研究者の話を聞く絶好のチャンスである。レストランへ向かう道すがら彼の話に耳
を傾ける。曰く、研究室のボスが忙しいと学生の事をいちいち構わなくなり、これが
学生を不安にすることがよくあるそうだ。不安に駆られた学生はひたすら命令を待ち
望むようになり悪循環に陥るらしい。(このとき私は心の中でNow I amと呟いた)
Gao 氏はせっかくボスが自由にさせてくれるのだからこれは大きな好機とすべきなの
だといった。すると私のいる研究室は相当恵まれた環境にあるということになる。「
そうだったのか〜ふ〜ん」とおもいながらタイレストランへはいる。タイ料理を食べ
ながら彼の話を聞く。(ワシントンD.C.でタイレストランへいくのは2軒目だが店員
の愛想が非常によい。タイ料理店はどこもこうなのであろうか?)彼の目から見ると
私は典型的な日本人男性らしい。飼い慣らされた感じのおとなしさがGao 氏をしてこ
う言わしめたのだ。"You are shy." 一方で日本の女性の方が海外ではaggressive
(=積極的という肯定的ニュアンスであり、「攻撃的」等人格上の欠点を意味するも
のではない)になりやすいと指摘。日本の男性は封建的な男尊女卑の環境の中でスポ
イルされる反面、立場の弱い女性はかえってしっかりするようになるらしい、ともい
った。そして長尾女史のaggressiveな性格はアメリカでの研究生活に適していると指
摘した。学会の会場でも様々な年代の女性が数多くいたように思う。アメリカという
国はaggressiveな姿勢であれば多くのチャンスに恵まれる国だということらしい。
 私は以前に大学新聞で「アメリカの大学生は1日に2時間くらいしか眠らない」と
いうアメリカ人留学生の投書を読んだことがあったので、彼等がどのくらいのハード
ワーカーなのかを知りたかった。しかしそのことを聞くとGao 氏は、1日7時間の睡
眠は必要だといった。なんだ、普通じゃないか。仕事はハードにこなすが休息もとり
、本を読んだり映画を見たりして完璧な人間(complete man)になれとアドバイスし
てもらった。大いに学んだ様な気がした私だった。

第4日目

 昨日のアドバイス通りにaggressiveな姿勢でスライドセッションに臨む。しかし全
然分からない。死ぬときは前のめりだという誰かの言葉を思い出した。ポスターセッ
ションでもできるだけ話をするように努力した。が、この日は偶然日本人のポスター
に引き寄せられる事が多くそのときの会話は当然日本語で行われた。ポスターの会場
では企業の製品デモも同時に行われており、顕微鏡や出版物が展示されていた。その
中で私が一番興味を持ったのはApplied Scientificのvial filler だった。100本
のバイアルに数秒間でエサをいれる事が出来るというアイデア商品で説明を聞いてい
ると面白かった。
 午後4時頃非常に眠たくなったので宿にもどる。これも昨日Gao 氏から貰ったアド
バイスの一つだ。曰く、「眠たくなったら寝て起きた後頑張ればよい」。戻る途中で
長尾女史と午後7時に食事の約束をする。午後8時8分起床…。…学会会場に向かう
…。ショウジョウバエの電気生理についてのワークショップがある予定だったがキャ
ンセルになっていた。人の忠告を受け入れる時にはよく検討した方がいいと思った。

最終日

 Plenary Session II が行われた。人は初日よりも少な目だ。最初の [The Immune
Responce of Drosophila] から最後の [The Drosophila Genome Project] までいた
がやはり殆ど理解できなかった。ショウジョウバエの持つ抗生物質の遺伝子を植物に
導入して抗菌性を持った遺伝子組換え作物を作るという話や、ゲノムプロジェクトで
1bp決定するのに50セントかかるので総額55、000、000ドルが必要になる
、という部分的な話しか理解できなかった。

エピローグ(捲土重来?飛翔回天?編)

 国内の学会にも殆ど参加したことのない者の目からみた海外の大きな学会というコ
ンセプトでこの印象記は書かれている。学会全体を鳥瞰した印象記を書く事など私に
は到底無理な相談だ。学会の会期中は無様に会場を右往左往していただけなのだから
。振り返ってみると反省する事頻りである。しかし自分の力不足を痛感できたのは今
後の励みになる。長尾さんには旅行中大変お世話になりまた大変迷惑をかけた。たい
へん感謝しておりますと共に鞄持ちとして何の役にも立たなかった事おわびする次第
です。最後にこの印象記を書く機会を与えて下さった方々と、この印象記を最後まで
読んで下さった方々に深く感謝いたします。

補足として…http://www.faseb.org/genetics/gsa/pa98-00.htmで学会のタイトルな
どを見る事ができます。
                       1998年4月16日筆者記す


ラボ便り

Institut de Geneique et de Biologie Moleculaire et Cellulaire
                          碓井 和也

 私は、昨年の7月より、フランスのストラスブールにあるIGBMC(遺伝学、分子及
び細胞生物学研究所, CNRSの1つ)のパット・シンプソンのラボで、ベルギー、イギ
リスに続き、3度目のPostDoc として働いています。私の日本の友人たちにはストラ
スブールという街はあまりなじみが無く、『それって、ドイツ?』とよく聞かれます
。ここは白ワインで有名なアルザス地方の中心地であり、またEUの地理的中心地とし
て、ヨーロッパ議会会議場も置かれています。ストラスブールは、ドイツとライン川
で隔たれた国境沿いの街で(ちなみに、私たちのアパートからドイツまでが、3.5 km
、ラボまでが11 km)、過去に戦争が起こる度に何度かドイツ領とフランス領を行っ
たり来たりしたために、あらゆる面でドイツの影響を受けています。市内には、フラ
ンス語とドイツ語由来の地名が混在し、マーケットでも独マルクが使えるなど、スト
ラスブールはドイツというのもまんざら間違いではなさそうです。人々は、自分たち
をフランス人でありながら、フランスにもドイツにも属さないアルザシアンと呼んで
います。言語的には、フランス語の他、ドイツ語の方言であるアルザシアンの2ヵ国
語が話されています。このため、日常生活にはフランス語かドイツ語が必要不可欠です。
 私が、働いているIGBMCは、核内レセプターの研究の第一人者であり、度々、ノー
ベル賞候補となっているピエール・シャンボン教授が、米国大手薬品会社の寄付を受
け1995年に設立した新しい研究機関です。IGBMCはストラスブール郊外のサイエンス
パーク内にそびえる鏡張り5階建ての超近代建築です。同僚の一人は『シャンボン教
授のベルサイユ宮殿』と形容していました。殺風景な造成地内に突如立ち並ぶ超近代
的な建物はまるでSFに出てくる近未来都市のような趣です。建物はあまりに新しく清
潔で、初めは無機的で落ち着かなかったことを覚えています。IGBMCには計13の研究
グループがあり、日本人は私を含め5人が所属しています。
 Drosophilaのラボは、パットのラボ以外に3つあり、発生における遺伝子発現のホ
ルモンによるコントロール、ホメオボックス遺伝子ファミリーの機能解析、グリア細
胞の発生を支配する遺伝子等をそれぞれ研究テーマとしています。
 私の所属するのは パット率いるDrosophilaのグループです。パットは、フランス
国籍を持つイギリス人の女性で、会議やセミナーで忙しい合間を縫って、自ら研究を
続けています。ラボには、パットが直接率いるグループ(私はここに属します)の他
に、semi-independentな研究者またはグループが3つあります。メンバーは、
Positionを持つ人パットを含め4人 、 Postdoc2人、大学院生4人、技官3人の総
勢13名、国籍は、フランス(7)イギリス(2)ドイツ(1)ギリシャ(1)日本(
11)イタリア(1)の構成です。IGBMCでは、外国籍のリーダーが多くかつ、メンバ
ーの半分以上が、フランス人ではないラボがかなりあります。このため、IGBMC内の
コミュニケーションは英語が主です。フランスということで言葉のことが心配でした
が、少なくともIGBMC内では公の掲示は全て英語とフランス語の並記、研究者同士の
会話は、主に英語、セミナーは全て英語で行われています。ただ、技官の人達とは、
私の拙いフランス語で何とか意思の疎通を図っています。
 ラボの行事は、週各1度開かれるラボ間持ち回りの研究所内セミナー(業績発表会
;formal)・無脊椎動物研究グループ内のJournal club(論文紹介や議論;informal
)・ラボ内グループミーティング(最新の結果の報告;informal)、この他に不定期
に週2、3回 IGBMC 以外の研究者によるセミナーが開かれます。Informalなセミナ
ーは和気あいあいとした雰囲気で行われ、活発な討議がなされます。
 仕事時間についていえば、一般に、ヨーロッパでは休みを多くとり時間的に余裕の
ある生活をしているという印象があるかもしれませんが、少なくともここに限っては
、そうではなさそうです。バカンスには夏に3週間、クリスマスには、2週間ぐらい
休みをとるのが普通ですが、通常は皆勤勉で、人により時間帯は多少異なりますが、
多くの人が土曜、日曜日も仕事をしています。
 うちのラボでは昨年10月から新しく、『昆虫の胸部に生えるBristle patternの進
化的研究』がスタートし、Drosophila およびそれ以外の昆虫のBristle patterning
を研究テーマとし、関連する遺伝子のクローニングや、発現patternの解析などを行
っています。そのため、野外にみんなで昆虫採集に出かけたり、ラボ内には、
Drosophilaの他にイエバエや、蚊、カメムシなどの得体のしれない昆虫が、飼育され
ています。
 研究室の特徴は、研究室間差、リーダーの個人差が大きく、一般化するのは無理だ
と思います。ただ、私の所属するラボに限って言えば、みんな親しみやすく、互いに
率直に自分達の考えを話し合えます。でも人々は日本人に比べてちょっと杜撰で個人
主義なところがあります。提出した書類が行方不明になったり、奨学金が数ヵ月手違
いで振り込まれなかったり、時間にルーズだったり。色とりどりの薬品が何層にも重
なり彩られた電子天秤や、封入剤で完全にシールされた顕微鏡のレンズにも腹をたて
てはいけません。放射性物質や発癌性物質の杜撰な管理に対して、その危険性を説く
のは無駄だと気付くまでには、すこし時間が必要かもしれません。それでも、気軽に
何でも議論できる環境は魅力の一つです。
 日本では、米国がPostDoc先として最も人気のある国だと思いますが、選択肢の一
つとしての非英語圏もなかなか面白いところではないでしょうか。では、この辺で失
礼いたします。 
               ストラスブールにて、1998年4月 碓井 和也



****************技術ノート*****************


忙しいあなたに送る96穴プレートを用いた免疫染色

            文責:国立遺伝学研究所発生遺伝研究部門 岡部 正隆
            監修:国立遺伝学研究所発生遺伝研究部門 広海 健

はじめに


 通常のショウジョウバエの組織染色はwhole mountで行われるために、Eppendorf
チューブの中で染色を行います。組織がチューブの底に沈むのを待ち、何回もピペッ
トで試薬を交換して行います。組織がうまく沈まないために、試薬の交換時に組織を
吸い取ってしまい、貴重なサンプルが徐々に減っていく……、こんな経験がどなたに
でもあろうかと思います。

 今回は、イエローチップで作ったバスケットと96穴プレートを使って、楽に
whole mountの免疫染色を行う方法を御紹介します。組織片を入れたバスケットをピ
ンセットでウェルからウェルに移動して染色するため、途中で組織片を無くすことが
ありませんし、リンスの度に組織片が底に沈むのを待つ必要がありません。ですから
、同時に複数種類の変異体を染色するのも苦になりません。また、germ line cloneや
embryoにmicro injectionを行った時など、わずかな数(〜10個)のembryoを染色
する時にも適しており、決してembryoを紛失することがありません。
 毎日会議に追われていて、組織学実験を行うことを既にあきらめてしまった教官の
方々も、この方法でしたら大きな道具を必要としませんから、セミナー中や会議中に
もこっそりと染色を続けることができます。きっと御満足いただけることでしょう。
実験の合間に会議に出席しておられる広山健(仮名)さんは、「ピンセットでバスケ
ットを隣のウェルに移すだけなので、ファイルの間にプレートを忍ばせておけば、会
議中でもできる。」と絶賛しています。

<必要なもの>

(どこの研究室にもあるものは書いてありません。)
・Falcon 3912 Micro Test III Flexible Assay Plate (平底96穴プレ
ート)
・Falcon 3913 Micro Test III Flexible Lid (フタ)
・ナイロンメッシュ

<バスケットの作成>

イエローチップを用意します。先端から27mm位のところ(メーカーによって多少位
置が異なるかもしれません)を鋭いカミソリでカットします。先端側は捨ててしまい
、ピペットマンに接続する側を使います。カットした断端をバーナーで一瞬あぶり、
机に置いたナイロンメッシュに押しつけます。そうしますと、底にナイロンメッシュ
が張り付いたバスケットができます。一度に20〜30個のイエローチップをナイロ
ンメッシュに溶接し、実体顕微鏡でメッシュの裏側から観察し、メッシュがイエロー
チップにしっかり溶接されているかをチェックします。次に、イエローチップの溶接
面の周りにはみ出しているメッシュや、溶接面に生じたバリをはさみできれいに切り
取ります。これを平底96穴プレートのウェルに入れてみます。ウェルからはみ出す
部分をカミソリで切りとり、バスケットがちょうどウェルにおさまるようにします。
バスケットがウェルからはみ出していると、96穴プレートにフタをした時に毛細管
現象でとなりのウェルに試薬が移動する原因になります。これでバスケットが完成し
ました。私達は作りおきしたバスケットを50mlのFalcon tubeに入れて保存してい
ます。もちろん、バスケットは洗って再利用できます。

<96穴プレートとバスケットの基本的な使い方と注意点>

各ウェルの中に試薬を注ぎ、ピンセットで組織を入れたバスケットをウェルからウェ
ルに移動することによって染色を進めて行きます。注意点は以下の通りです。

 1.気泡を入れないように注意をする。
 2.バスケットを次のウェルに移動するときは、必ずキムワイプの上にバスケット
を一瞬置いて前の溶液を拭い去る。
 3.over nightの反応以外では、きちっとフタをしない。
 4.1次抗体の反応など、over nightでの反応を行う時は、プレートとフタの間に
つまようじを一本入れる。(プレートとフタが密着したときに生じる毛細管現象によ
って、ウェルの中の抗体がなくなることを防ぐため。)
 5.抗体は使う直前にウェルに注ぎ、 使い終わったウェルの中の試薬はアスピレー
ターでこまめに除いておく。
 6.一つのバスケットの中に入れる組織の量が多すぎると、染色むらを起こす場合
がある。(1つのバスケットに入れる組織の量の上限は、3齢幼虫10匹分のmouth
hook+eye discもしくはembryoであれば10個程度です。)

<96穴プレートを用いた免疫染色の一例 eye discの染色>


「ウェルの使い方」
このFalconのプレートはたてにA〜H、横に1〜12の番号が振ってあります。通常、
1回の免疫染色で2枚のプレートを使用しています。各ウェルに注ぐ試薬は以下の通
りに決めてありますが、すべての試薬を注入してから始めるという意味ではありませ
ん。A〜Hまでの全ての列を使って8種類の遺伝子型の組織を同時に染色できますが、
各列で異なる抗体を使う場合は隣の列の抗体の混入を防ぐために1列あけるようにし
ています。

プレート1
・1、2は固定液 (PLP)
・3はPBS
・4〜6はPBT (PBS + 0.1% TritonX-100)
・7はPBT+n (PBT + 50ul/ml Normal Goat Serum)
・8は1次抗体
・9〜11はPBT
・12はPBT+n

プレート2
・1は2次抗体
・2〜4はPBT
・5は0.5mg/ml DAB
・6は0.5mg/ml DAB + 0.003% H2O2
・7〜9はPBT
・10はPBS
・11は50% Glycerol
・12は80% Glycerol

「解剖と固定」
・スライドグラスの上に固定液を数滴のせ、固定液の中で3齢幼虫を解剖します。
・一方のピンセットでmouth hook、もう一方のピンセットで胴体を把持して、胴体を
前後に引きちぎります。eye discとbrain, 中腸が固定液に曝され固定が始まります
。引きちぎる時に、mouth hookとbrainの間でeye discが前後に引っ張られますが、
適度な張力を保ちながら4、5秒待つとeye discが前後に延ばされて、形良く固定さ
れます。
・組織をバスケットに移します。

・バスケットを1番のウェルにセットし、あらかじめ固定液を1、2番のウェルに注
いでおきます。イエローチップの先端を1mm程切り、必ずPBTでチップの内面を濡らし
ておきます。解剖を行っていたスライドグラスから少量の固定液とともにdiscを1番
のウェルに移します。この時、PBTでイエローチップの内面を濡らしておかないと、
解剖したdiscがチップの内壁に張り付いてしまいます。
・バスケットの中で固定を開始させますと、discが底のメッシュに張り付いたままい
びつな形で固定されてしまいます。やはり固定液の中で解剖するか、バスケットに移
動させる前にスライドグラスの上などで固定を始めることをお勧めします。
・解剖に用いた固定液はかなり汚れているので、1番の固定液で軽くすすいだ後、2
番の固定液に移します。解剖に10分、ウェルの中で30分固定します。固定が終了
したらバスケットを3番のウェルに移し、他の列の固定が終了するまで時間調整します。
・mouth hookの色(y+ とy- )でgenotypeを区別することにより、同じバスケット
内にコントロールの組織を入れることができます。また、discとembryoを混ぜて扱え
ば、同時に染色することが出来ます。
・embryoの染色の場合は、固定が終わったembryoをメタノールもしくはPBTとともに
バスケットに移して、先に進めます。

1次抗体に入れるまでは以下の通りです。

プレート1
・1、2の固定液 合計30分
・3のPBSで時間調整
・4〜6のPBTで合計1〜2時間
・7のPBT+n は30分以上 
・8の1次抗体は4度でover night

抗体液は140ul/ウェル使用します。
この時、フタとプレートの間につまようじを入れることを忘れずに。

(2日目)
・9〜11のPBTは合計2時間
・12のPBT+n は30分

プレート2
・1の2次抗体は室温で2時間
・2〜4のPBTは合計2時間
・5の0.5mg/ml DABは3分
・6の0.5mg/ml DAB + 0.003% H2O2で発色し、実体顕微鏡で色具合をチェック
・7〜9のPBTは合計30分
・10のPBS は2分
・11の50% Glycerol に入れて、組織が底に沈むまで
・12の80% Glycerol でover night

最後に観察しやすいようにマウントして出来上がりです。

「この方法のオリジナルは、ワシントン大学セントルイス校のRoss L Cagan博士のア
イデアです。」



簡易吸虫管と穴付きスポンジ栓の作成法

  布山 喜章(都立大理学部生物)

 昨年のショウジョウバエ研究会で披露された上田さんのビデオの中で、駒込ピペッ
トを利用した吸虫管の作り方が紹介されていました。大量のハエを扱うには便利そう
でしたが、使いこなすにはかなりの肺活量を要するのではないかいう印象を受けました。

 都立大で使っているもう少し小型の吸虫管と、それとセットで用いる穴付きのスポ
ンジ栓の作り方を下記のウエブサイトで紹介しておりますので、関心のある方はご覧
下さい。
http://www.comp.metro-u.ac.jp/~yfuyama/Drosophila/method-intro.html



エイプリルフールの夢物語?

   村田 武英  (理化学研究所 ライフサイエンス筑波研究センター)

短報
 Hae Scientific 社およびHae Systems 社中央研究所は、このたび新型の昆虫飼育
装置を開発した。この装置は、Hae Scientific社の従来製品同様に調光機構、恒温恒
湿機構および内臓タイマーによる照明および温度のプログラム制御が可能である。特
筆すべき点は、あらたに成育期間制御機構が付加されたことである。この機構は、装
置内に置かれた昆虫の成育期間を自由にコントロールすることが可能であり、たとえ
ばキイロショウジョウバエの場合、受精から成虫の羽化までの期間を最短48時間、
最長100日まで設定することが可能である。装置内におく飼育ビンの材質はプラス
チック及びガラス製のいずれも可能である。なお、この装置の詳細については特許出
願中でもあり公開していない。また、製品化の時期や価格についても検討中である。
(1998年4月1日、Hae Scientific社広報部発表)

上記のような短報をエープリルフール用の原稿として(?)理研の村田 武英さんよ
りいただきました。ショウジョウバエの発生を仕事とされているかたにとって、ハエ
のステージングにはいつも頭を悩まされていることと思います。こんな装置ができた
らなあと、多くの人がお思いのことでしょう。本当にだれかつくって見ませんか?
                             (木村 記)



事務局より

研究会名簿の変更情報をお知らせください

     事務局 丸尾 文昭

桜の季節も過ぎ、研究室の構成員の移動も一段落した頃と思います。そこで、新規の
方や転出された方の情報、名簿の内容の変更についてご連絡ください。

・最新版の名簿は研究交流支援を目的に研究会ホームページで提供しています。1998
年4月現在 418 件(151 研究室)の登録があります。
http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~maru/JDRC/
・郵便番号はこちらで調べられる範囲で7桁化してあります。間違いのある場合や個
別番号のある場合はぜひお知らせください。

・卒研生は原則として掲載していませんが、Jfly Mailing list 参加者などは掲載し
ています。
・伊藤さんの管理されている Jfly ML 参加者名簿への変更情報は反映させています
。ただ、Jfly ML に参加されていないメンバーの登録もお忘れなく。
・研究室でまとめてくださると助かります。(共通項目は省略し、変更事項だけ書い
ていただけば結構です。)
・変更情報は以下の要領でご報告ください。(研究室で一括の場合、要点のみで構い
ません。)
-----------------------------------------------------------------
日本ショウジョウバエ研究会名簿変更情報

変更事項:内容変更、新規入会、登録抹消 (←不要な項目を消去してください)
氏名:
ふりがな:
身分:
e-mail:
所属:
所在地:(〒     )
TEL:
FAX:
その他:
-----------------------------------------------------------------
上記の内容に必要事項を記入して、e-mail、FAXまたは郵送で送ってください。
e-mail:maru@biol.tsukuba.ac.jp
FAX:0298-53-6669
郵送:〒305-8572 つくば市天王台1-1-1 筑波大学生物科学系 丸尾文昭

*名簿の変更情報は随時受け付けておりますので、いつでも個別にご報告ください。

よろしくお願いいたします。


「日本ショウジョウバエ研究会」会則


1. 本会を「日本ショウジョウバエ研究会」(JDRC: Japanese Drosophila Research
Conference)と称する。
2. 本会はショウジョウバエを利用した研究を行う人およびショウジョウバエ研究に
興味を持つ人を広く結集し、相互の情報交換と研究討議を行う場を提供する。
3. 上記の趣旨に賛同する者は誰でも会員になれる。
4. 本会には代表1人を含め世話役4人を置く。
5. 代表は本会運営の責任者であり、また研究集会の計画・実行に責任を持つ。代表
は研究集会が開かれるごとに交代する。
6. 代表以外の世話役のうち、1人は「ショウジョウバエ通信」の編集を担当し、全
員に必要な情報を伝達する。
7. 他の1人が事務局を分担し、名簿の管理、通信の発送、金銭の出納を行う。
8. 世話役は会員全体のために、緊密に連絡し広い視野で活動する。
9. 世話役は2人ずつ2年毎に交代し連続4年勤める。4年を越えるのは認めない。世
話役を辞めたのち4年間は再び世話役になることができない。
10. 新しい世話役は地域、研究分野等のバランスを考慮して現世話役が決定する。会
員は世話役に候補者を推薦することができる。
11. 世話役の交代は研究集会時に行い、出席者の承認を得る。
12. 新しい世話役に不満がある者は代わりの候補を立てて選挙を要求できる。
13. 会の運営費が不足してきた時には、これを徴収することがある。この場合、研究
室を主管する立場にある者が多くを負担するものとする。
14.この規定に無かったり、詳しく決めてない事態が発生した場合の処理は世話役に
一任する。

補則

1. 入会するには事務局へ申込む。研究会名簿に登録され「ショウジョウバエ通信」
を受け取ることができる。同時にJfly mailing listにも参加されるようお勧めします。
2. Jfly は伊藤啓氏のボランティアによって運営されています。ショウジョウバエ研
究会の活動ではありませんが、良好な協力関係のもとに、情報伝達等に利用させても
らっています。
3. 何らかの事情で任期中に世話役の交代が必要になる場合の手続きは14 項を適用し
て対処する。
 (以上)


日本ショウジョウバエ研究会(世話役)

 西田 育巧(代表):〒464-8602 名古屋市千種区不老町 名古屋大学 大学院理
学研究科 生命理学専攻 発生生物学研究グループ Tel: 052-789-2472 
Fax: 052-789-2511 E-mail: nishida@bio.nagoya-u.ac.jp
 林 茂生:〒411-8540 三島市谷田1111 国立遺伝学研究所 系統生物研究センタ
ー 無脊椎動物遺伝研究室 Tel: 0559-81-6823 Fax: 0559-81-6825 
E-mail: shayashi@lab.nig.ac.jp
 丸尾 文昭(事務局): 〒305-8572 つくば市天王台1-1-1 筑波大学生物科学系
 Tel: 0298-53-4909 Fax: 0298-53-6669 
E-mail:maru@biol.tsukuba.ac.jp
 木村 賢一(通信):〒068-8642 岩見沢市緑が丘2丁目 北海道教育大学岩見沢
校 生物研究室 Tel: 0126-32-0341 Fax: 0126-32-0255 
E-mail: kimura@iwa.hokkyodai.ac.jp
 ホームページ:http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~maru/JDRC/
 Jfly:伊藤 啓 〒194-8511 町田市南大谷11号 三菱化学生命科学研究所内 科
学技術振興 事業団山元行動進化プロジェクト Tel: 0427-21-2334 
Fax: 0427-21-2850 E-mail: itokei@fly.erato.jst.go.jp
 Jfly サーバー:http://flybrain.jst.go.jp/jfly/

編集後記:本号から「技術ノート」と称して、新しいテクニック、簡単だけど役にた
つ工夫や道具、機械の体験レポートなどを企画しました。たとえば、「自分達の研究
室では、実験技術に関して、こんな工夫をしたら非常に便利になった」とか、「ちょ
っと他の研究室の人に話したら、えらく感心された」とか、「Jflyで、実験テクニッ
クに関する質問をしたら、こんなsuggestをもらうことができた」など、テクニック
などに関する情報、何でも結構です。みんなで共有できる情報をお持ちのかた、研究
室で眠らせないで、是非お教え下さい。(KK)

(ショウジョウバエ通信 14 号終)