Jfly ディスカッション


Discussion Menu | Jfly Japanese Home Page | Jfly English Home Page

メンデルの「雑種植物の研究」の新訳


Date: Tue, 9 Mar 1999 15:15:02 +0900 (JST)
From: motojiroアットマークakagi.sb.gunma-u.ac.jp (Moto Yoshihara)
Subject: [Jfly] Mendel

JFLYの皆様、

群馬大学行動研の吉原です。

既にご存じの方も多いと存じますが、
メンデルの「雑種植物の研究」の新訳が今年出ました(岩槻邦夫・須原準平訳、岩波
文庫)。しばらく絶版になっていて探しておられた方も多いのではと思い、お節介に
もお知らせ致します。私もその一人で、古本屋で探そうと、意を決して神田まででか
けたところ、三省堂で新刊を見つけてびっくりしました。

遺伝学の仕事をいろいろやったあとで今読み返すと、新たな強い感銘を受けます。実
験結果を説明した行間から、科学者として生きるということはこういうことなのだと
、襟を正させられる思いがしました。メンデルは結局最後までacademic positionに
つけなかったわけですが、科学者とはとても言えない人たちが多くのacademic posit
ionsをoccupyしている現在の日本では(ひょっとして医学部だけかも?)、大学院生
の皆さんが「科学者として生きること」についての正しいimageを持ちにくいかもし
れないと思います。そんな若者達に是非読んでほしいと思います。
植物学に造詣の深い訳者による訳注が非常に適切なのと、解説にある、「小石川植物
園のメンデルのブドウがなぜエンドウでなくてブドウなのか(私も変な感じがしてま
した)」、などのanecdotal storyもちょっと面白いです。

僭越ながら、お知らせまで。

**********************************
Motojiro Yoshihara, Ph.D.
Institute for Behavioral Sciences
Gunma Uiniversity School of Medicine
Showa-machi, Maebashi, Gunma 371 JAPAN
**********************************


===================================

Date: Mon, 15 Mar 1999 15:27:59 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] Mendel

> 群馬大学行動研の吉原です。
>
> 既にご存じの方も多いと存じますが、
> メンデルの「雑種植物の研究」の新訳が今年出ました(岩槻邦夫・須原準平訳、岩波
> 文庫)。しばらく絶版になっていて探しておられた方も多いのではと思い、お節介に
> もお知らせ致します。

買いました。これで新旧揃いました。この手の内容だと、横書きは確かに
読みやすいですね。


> メンデルは結局最後までacademic positionに
> つけなかったわけですが、科学者とはとても言えない人たちが多くのacademic posit
> ionsをoccupyしている現在の日本では(ひょっとして医学部だけかも?)、大学院生
> の皆さんが「科学者として生きること」についての正しいimageを持ちにくいかもし
> れないと思います。そんな若者達に是非読んでほしいと思います。

ちゃんとした大学がなかったような町では、修道院がアカデミックな活動
を担う中心でしたから、メンデルはそれなりに academic position に
ついていた、といえると思います。彼は修道士であると同時に近所の学校
の物理学の代用教員をやっていて、正式の教員ではありませんでしたが、
それは彼が教員免状の試験に落ちたから、仕方がないです。修道院のお金
で大学に行かせてもらったのに、学位を取らずに帰ってきてしまったのも
敗因ですね。

メンデルは、実験の成果が世に認められず、研究を続けることも出来なかっ
た不幸な人、というイメージが受け入れられていますが、彼はエンドウ豆
の実験のあと、自ら望んで修道院長になり、多忙のため研究が出来なくなっ
てしまったわけで、本人がそれを本当に不幸に思っていたのかどうかは、
わかりません。現代日本において、学部長や学長や所長や総長や文部大臣
をされている方々が、自分のことをどれくらい不幸に感じているのかを想
像するに、メンデルも、いまの人がセンチメンタルに考えるほど不幸じゃ
なかったのかも知れません。

いとうκ


===================================

Date: Mon, 15 Mar 1999 18:34:22 +0900
From: Takuma Yamada
Subject: [Jfly] Re: Mendel

吉原さん

いい情報をありがとうございます。ついでに風の谷のナウシカのモデルになったとい
ううわさのある堤中納言物語のなかの短編「虫愛づる姫君」やダーウィンの「種の起
源」などにも興味を持つひとが増えてくれるとうれしいですね。


> メンデルも、いまの人がセンチメンタルに考えるほど不幸じゃ なかったのかも知れま
>せん。 いとうκ

面白い見方ですが、少し論点がずれているようなので一言。おっしゃるとおりメンデ
ルは教員免状の試験に落ち学位を取らずに帰ってきた点では敗者かもしれませんが、
その科学的な業績に関しては当時のどんなえらい教授よりも勝者でした。メンデルが
私生活でどれだけ幸せだったかどうかに関しては定説はありませんし、おそらく今後
もないでしょう。逆にほぼ確実にいえることは、
1)メンデルは彼自身の研究の重要性をはっきり認識していたこと。
2)その業績がその後約34年間にわたってほぼ完全に無視されたこと。
にあるのではないかと思います。

もし興味があれば
Daniel L. Hartl and Vitezslav Orel
What Did Gregor Mendel Think He Discovered?
Genetics 131: 245-253 (1992)
を御覧ください。

http://www.netspace.org/MendelWeb/MWhartl.html

をあければネットでも読む事ができます。その結論は以下の通りです。
We conclude that Mendel understood very clearly what his experiments meant
for heredity. He deserves, not only the eponymous credit for Mendelism, but
also the historical credit and a considerable measure of respect and
admiration for his remarkable insights.

山田 琢磨(遺伝研)