Jfly ディスカッション


Discussion Menu | Jfly Japanese Home Page | Jfly English Home Page

三毛猫のX染色体の不活化の仕組み


Date: Sun, 13 May 2001 23:27:24 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] mechanism of tortoiseshell cat?

Jfly のみなさま、

「X染色体の不活化」という遺伝学の基本的トピックが、人にうまく
説明できなくて困っています。ハエの話ではありませんが、Jfly に
は動物学や遺伝学にお詳しい方が多いと思いますので、どなたか教え
ていただけませんか?

[トピック]
三毛猫(tortoiseshell cat)の毛の色は、X染色体に載っているあ
る特定の遺伝子で決まる。オスにはX染色体は1本しかないので、そ
れによってからだ全体の色が1色に決まってしまう。メスの場合は、
発生の過程で2本あるX染色体の一方の不活化が細胞ごとにランダム
に起こり、その細胞の子孫が増殖して成体の身体にパッチ状に分布す
る。ひとつのパッチではどちらか一方のX染色体のみが活性を持つた
め、それに応じて毛の色がブチになる。珍重される「オスの三毛猫」
は、染色体がXYでなくXXY(あるいはXXYYなど)になってい
るため、オスでありながらX染色体の不活化が起こるために生じる。

というふうに学生のとき教わったのですが、(教えていただいた方は
その後遺伝学系の某有名研究所の所長に栄転されたような気もします
;-)、不出来な学生は、以下のことが未だに分かっておりません。

1:毛の色が白と黒のブチになるのなら、上記の説明で納得できます
  が、なぜ白と黒だけでなく、茶色の毛も出現するのでしょう?

  白のパッチの細胞と黒のパッチの細胞が混じっている境界では茶
  色くなるのかな?ということで昔は納得した気になっていたので
  すが、体表面積の中のあれだけの広い領域で、白と黒の細胞は
  single cell レベルで混然と混じり合っているのでしょうか?1
  本の毛を作るのに参画する細胞はそう多くの数ではないと思いま
  から、一面の毛がすべて茶色になるには、すべての毛の形成に必
  ず白黒二種の細胞が均等に関与する必要があります。そんなにき
  れいに2種の細胞がまんべんなく混じり合い、そのすぐとなりで
  は白や黒の細胞だけが一面に分布しているというのは、不思議な
  気もします。茶色のパッチの中に、混じり合う細胞の比に応じて
  茶色にグラデーションが生じることや、茶色の中に黒の毛や白の
  毛がわずかに混じった部分が出現することがないように見えるの
  も、腑に落ちません。もしかしたら、拡散性のシグナルで周囲の
  毛の色を一定に揃えるような制御がかかっているのでしょうか?

2:具体的にどういう遺伝子にどういう変異があると白い毛、どうなっ
  ていると黒い毛になるのか、クローニングされているのでしょう
  か?またこの場合、白と黒のどちらかを野生型、どちらかを変異
  型と呼べるものなのでしょうか?

3:オスの三毛猫はXXY(あるいはXXYYなど)ですが、人間の
  場合この種の染色体過剰は短命だったり精神発育遅滞を伴ったり
  します。オスの三毛猫も、普通のオス猫に比べ、そのような症状
  があるのでしょうか?

4:ネコ以外ではこのような毛の例は知られているのでしょうか?
  白黒ブチの犬や牛はよくみかけますが、三毛犬とか三毛牛って、
  あまり聞きません。

猫の毛アレルギーなもので猫を近くから詳しく眺めるのが苦手なので、
猫好き (?) な方、よろしくお願いいたします。

いとうκ


**************************************

Date: Mon, 14 May 2001 10:44:49 +0900
From: mitohアットマークipc.kit.ac.jp (Masanobu Itoh)
Subject: [Jfly] mechanism of tortoiseshell cat?

京都工繊大の伊藤です

野生型A遺伝子をもつネコの毛は、根元と先端が黒く中間部が淡い褐色(総体的似に
茶色)。
aホモ個体の毛は全体が黒。
Aとa遺伝子の発現をエピスタティックに支配するのが性染色体上のO遺伝子。
OはAに対して抑制的に働く。
したがってOoヘテロでA遺伝子をもつ雌の毛色は、茶色と黒の2色になる。
実際に3色の三毛猫には、もう一つ別のぶち遺伝子Sが関与していて、SS、あるい
はSsのとき白い部分ができる。

三毛猫は黒/茶と白のぶち。
X染色体の不活化が関わっているのは前者の部分。
らしいです。
詳しくは、野沢兼(1990)遺伝 44:83-86 など。

At 11:27 PM 01.5.13, ITO, Kei wrote:
> 「X染色体の不活化」という遺伝学の基本的トピックが、人にうまく
> 説明できなくて困っています。ハエの話ではありませんが、Jfly に
> は動物学や遺伝学にお詳しい方が多いと思いますので、どなたか教え
> ていただけませんか?
>
> 1:毛の色が白と黒のブチになるのなら、上記の説明で納得できます
>   が、なぜ白と黒だけでなく、茶色の毛も出現するのでしょう?

伊藤雅信



============================================
Masanobu Itoh
Dept. Applied Biology, Kyoto Institute of Technology
Matsugasaki, Sakyo-ku, Kyoto 606-8585 Japan
Fax: 81+75-724-7760  Tel: 81+75-724-7788
============================================


**************************************

Date: Mon, 14 May 2001 11:18:00 +0900
From: fuyama-yoshiakiアットマークc.metro-u.ac.jp (Yoshiaki FUYAMA)
Subject: [Jfly] mechanism of tortoiseshell cat?

伊藤様

At 23:27 05/13/01 +0900, ITO, Kei wrote:

>1:毛の色が白と黒のブチになるのなら、上記の説明で納得できます
>  が、なぜ白と黒だけでなく、茶色の毛も出現するのでしょう?

白とか黒は常染色体の遺伝子ですので、Xの不活化は関係ありません。
毛色を茶色にする遺伝子(Orange)がX染色体上にあるため、この遺伝子
座に関してヘテロ接合のメスが三毛猫になります。Orangeを持つXが
不活化した領域が地色(白、黒、トラなど)になり、野生型遺伝子を持つ
Xが不活化した部分が茶色になります。

当然のことながら、茶色の部分にも白やトラなどが重なってきますので、
一様な茶色にはなりません。また、黒と茶色の「二毛猫」も原理的には
同じことです。

>2:具体的にどういう遺伝子にどういう変異があると白い毛、どうなっ
>  ていると黒い毛になるのか、クローニングされているのでしょう
>  か?またこの場合、白と黒のどちらかを野生型、どちらかを変異
>  型と呼べるものなのでしょうか?

白い毛は普通のアルビノ遺伝子座(C)の外に、優性の白(W)などがあり、
複雑なようです。黒はいわゆるnon-agoutiで、agouti遺伝子の機能欠
損ですね。したがって、劣性です。

ネコの遺伝子でクローニングされたものは、おそらくないのではないか
と思います。ネズミは遺伝学の研究材料として有用ですが、ネコはさほ
ど役に立ちませんので。

>3:オスの三毛猫はXXY(あるいはXXYYなど)ですが、人間の
>  場合この種の染色体過剰は短命だったり精神発育遅滞を伴ったり
>  します。オスの三毛猫も、普通のオス猫に比べ、そのような症状
>  があるのでしょうか?

ヒトのXXY(Klinefelter症候群)の患者に学習障害はみられるようで
すが、短命とは聞いたことがありません。
(参考: http://www.tokyo-med.ac.jp/genet/ks/indexj.html)

なお、オスの三毛猫は船乗りには守護神として人気があり、高値で取り引
きされるそうです。attached XYを作ると大儲けできるかも:-)

>4:ネコ以外ではこのような毛の例は知られているのでしょうか?
>  白黒ブチの犬や牛はよくみかけますが、三毛犬とか三毛牛って、
>  あまり聞きません。

イヌは知りませんが、ウシでは、X連鎖の毛色の遺伝子があり、品種
によって(アンガスだったかな?)まだらの模様になります。ヒトでも
まれに見られます(anhidrotic dysplasia)。体のかなりの部分の皮膚
の色が白くなって、ホルスタイン牛のような模様になるそうです。

猫の遺伝に関しては、野沢謙一先生の書かれた本がありますが、手もと
に無いので、書名が出てきません。ウェブサイトとしては、あまり詳し
くはありませんが、以下のようなものがあります。

http://members.tripod.com/~siamkatze/cca/genetics.html

ご参考まで。

--
布 山 喜 章 : 東京都立大学大学院理学研究科生物学教室
Yoshiaki FUYAMA : Dept. of Biology, Tokyo Metropolitan University
     e-mail : fuyama-yoshiakiアットマークc.metro-u.ac.jp


**************************************

Date: Mon, 14 May 2001 12:07:25 +0900
From: fuyama-yoshiakiアットマークc.metro-u.ac.jp (Yoshiaki FUYAMA)
Subject: [Jfly] mechanism of tortoiseshell cat?

自己フォローです。

At 11:18 05/14/01 +0900, Yoshiaki FUYAMA wrote:

>猫の遺伝に関しては、野沢謙一先生の書かれた本がありますが、手もと
>に無いので、書名が出てきません。

伊藤さんの記事を見て、野沢謙先生の名前を間違えていることに気付きました。
訂正します。お詫びがてら、書名を紹介しておきます。ただし、在庫はないよう
です。

 野澤 謙 著
 「ネコの毛並み ―毛色多型と分布― 」
 裳華房 ポピュラー・サイエンス 133
四六判/172頁/本体価格1500円+税/1996年3月
ISBN4-7853-8633-9

目次

1. 飼いネコと野良ネコ

2. 家畜ネコの生いたち
 2.1 古代エジプトからヨーロッパへ
 2.2 アジア・日本へ
 2.3 ヒトの生活圏の中で

3. ネコの毛色の遺伝
 3.1 毛色と毛長に関する遺伝子
 3.2 毛色多型の具体例

4. ネコの集団遺伝学
 4.1 集団遺伝学とは
 4.2 ネコの毛色多型による集団遺伝学

5. 絵に描かれたネコ

6  日本ネコの毛色の遺伝子頻度

7. 日本ネコの繁殖構造−ヒト、サルとの比較
 7.1 繁殖集団の構造
 7.2 繁殖構造のモデル

8. 日本ネコにおける形質頻度の地域差

9. アジアのネコ・世界のネコ
 9.1 世界各地での調査報告から
 9.2 日本ネコの系統をさぐる
 9.3 遺伝的な汚染

参考書
謝辞
索引
--
布 山 喜 章 : 東京都立大学大学院理学研究科生物学教室
Yoshiaki FUYAMA : Dept. of Biology, Tokyo Metropolitan University
     e-mail : fuyama-yoshiakiアットマークc.metro-u.ac.jp


**************************************

Date: Mon, 14 May 2001 15:39:54 +0900
From: Kazushige Hamada
Subject: [Jfly] mechanism of tortoiseshell cat?

招猫倶楽部というネコ好きのサイトに「三毛猫の科学」という記事があります。


参考文献として次の物が挙げられています

『猫の歴史と奇話』 平岩米吉著  築地書館
『ねこ』 木村喜久弥著 法政大学出版局
『三毛猫の遺伝学』 ローラ・グールド著 翔泳社
『ネコの毛並み』 野澤 謙著 裳華房
『図解雑学 遺伝子のしくみ』 池北雅彦・小原康治著 ナツメ社


濱田@KIT

------------------------------------
京都工芸繊維大学繊維学部応用生物学科
濱田和成 (hamadaアットマークipc.kit.ac.jp)


**************************************

Date: Mon, 14 May 2001 23:20:31 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] mechanism of tortoiseshell cat?

At 10:44 AM +0900 01.5.14, Masanobu Itoh wrote:
> 三毛猫は黒/茶と白のぶち。
> X染色体の不活化が関わっているのは前者の部分。
> らしいです。

At 11:18 AM +0900 01.5.14, Yoshiaki FUYAMA wrote:
> 白とか黒は常染色体の遺伝子ですので、Xの不活化は関係ありません。

ううむ、そうなんですか。十五年来の疑問氷解・・・。Thanks! です。

ところで、mammal の毛って、幾つの細胞から形成されるのでしょう?
ハエの剛毛と同様に single cell の細胞突起なのでしょうか?それとも
複数の毛母細胞の突起が、よじり合わさってるのでしょうか?

いとうκ@長髪なもので、毛母細胞へのストレスが心配・・・。


**************************************

Date: Tue, 15 May 2001 07:10:40 +0900
Subject: [Jfly] mechanism of tortoiseshell cat?
From: Masataka Okabe

> ところで、mammal の毛って、幾つの細胞から形成されるのでしょう?
> ハエの剛毛と同様に single cell の細胞突起なのでしょうか?それとも
> 複数の毛母細胞の突起が、よじり合わさってるのでしょうか?

三毛猫の件、勉強になりました。

いとけいさんが気にしているヒトの毛に関して言えば、毛は表皮でいう角質(垢)と
おなじものです。主成分となる蛋白質が異なることで、しなやかな垢と固い毛という
異なる性質を示しているだけです。毛包上皮において、上皮細胞が分裂増殖をくり返
し、つぎからつぎに層を成して体の外に向かって押し出されていきそれが毛となりま
す。その過程で毛を構成する上皮細胞は核を失い、ほぼ均質な細胞質を獲得します。
ということで、毛は非常に多くの上皮細胞が脱核して集まったものです。

岡部@遺伝研
----------------------------------
岡部正隆
国立遺伝学研究所 発生遺伝研究部門
〒411-8540 三島市谷田1111
http://www.nig.ac.jp/labs/DevGen/hiromi-j.html

Masataka Okabe M.D.,Ph.D
Division of Developmental Biology
National Institute of Genetics
TEL 81-559-81-6809
FAX 81-559-81-6768
----------------------------------


**************************************

Date: Tue, 15 May 2001 07:59:14 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] mechanism of tortoiseshell cat?

At 7:10 AM +0900 01.5.15, Masataka Okabe wrote:
> いとけいさんが気にしているヒトの毛に関して言えば、毛は表皮でいう角質(垢)と
> おなじものです。

そうか、あれは「アカの固まり」だったのか。じゃ、なくなっても
気にする必要は全然ないですね。ぜんぶ剃っちゃった方が清潔かも?
^_^;;

いとうκ@これで安心して眠れる (?)


**************************************

Date: Tue, 15 May 2001 18:56:00 +0900
From: watadaアットマークsci.sci.ehime-u.ac.jp (Masayoshi WATADA)
Subject: [Jfly] mechanism of tortoiseshell cat?

 愛媛大学の和多田です。三毛猫のメカニズムについては伊藤さん(京都工繊大)や
布山さんが説明されているのでもう必要がないと思いますが,ネコ以外の例について
少し蛇足を。
 哺乳類一般の毛色に関しては前述の野沢先生が,”動物集団の遺伝学”名古屋大学
出版会,p189,に書いています。それによると,黒(アグチ),茶,白,銀,淡
色,及び斑紋は哺乳類一般に見られる遺伝的変異で,家畜では毛色多型として見られ
るようです。理屈の上では”三毛”は他の哺乳類でも起こりうると思いますが,家畜
の茶色はネコのようなX染色体上にあるOrangeではないようですし,家畜の場合の毛
色多型は品種の遺伝的マーカーとして用いられるので,”三毛”を作るような人為選
択はおこなわれてこなかったのでしよう。
 ペットとしては,三毛猫のメカニズムとは異なりますが,錦鯉に大正三色とか昭和
三色というのがあります。大正三色というのは紅白に墨(黒)が入ったもの,昭和三
色は黒地に白が入り,さらに緋色がかぶったものだそうです。三色はふつう”さんし
ょく”と読みますが,錦鯉の場合は専門家は”さんけ”というそうです。

追伸:野沢先生は京大霊長類研究所でサルの集団遺伝学を研究されていた方ですが,
それ以前はショウジョウバエを研究材料にされていたこともあり,ショウジョウバエ
に無縁の方ではありません。

**************************************************
和多田 正義 わただ まさよし 
〒790-8577 愛媛県 松山市文京町3番地  共通教育棟
愛媛大学 理学部 生物地球圏科学科 生態環境変遷学講座
Email: watadaアットマークsci.sci.ehime-u.ac.jp
Tel: 089.927.9641
Fax: 089.927.8915(共通教育事務室)
**************************************************


**************************************

Date: Wed, 16 May 2001 00:25:16 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] mechanism of tortoiseshell cat?

ますます勉強になります。ついでにさらに質問:

At 6:56 PM +0900 01.5.15, Masayoshi WATADA wrote:
>  哺乳類一般の毛色に関しては前述の野沢先生が,”動物集団の遺伝学”名古屋大学
> 出版会,p189,に書いています。それによると,黒(アグチ),茶,白,銀,淡
> 色,及び斑紋は哺乳類一般に見られる遺伝的変異で,家畜では毛色多型として見られ
> るようです。

人間の場合、黒髪、茶髪、金髪、銀髪、白髪は、すべて毛に含まれるメラニン
の量の違いで決まるのですよね。(染めてる人を除く ^^;)ヒト以外の動物の場
合、多様な毛色の差は、すべてメラニンの量の違いで決まるのでしょうか?そ
れともメラニン以外の色素もあるのでしょうか?

あと、人間でも黒の中に茶色の髪の毛がちょっとパッチ状に混じっていること
があります。女性によく見かける気がするのですが、これは気のせいでしょう
か?(メッシュで染めてるのなら、あんな地味な色にはしないと思う。)X染
色体の不活化による体表面のパッチは、人間でも女性には必ず生じているはず
ですが(網膜の赤緑色盲はそうですね)、髪の毛の色にもこのパッチが出るこ
とはあるのでしょうか?

いとうκ


**************************************

Date: Thu, 17 May 2001 15:53:29 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] mechanism of tortoiseshell cat?

その後も各方面で情報を蒐集した結果 (?)、九州大学で線虫をやっておら
れる野村さんから、以下のような過去問をいただきました。皆さまのおか
げで、いまならほぼ満点が取れそうです。tortoise(亀模様)は二毛猫で、
三毛猫は calico(キャラコ模様)だったのですね。(研究社英和・和英辞
典、不正確だぞ・・・。)キャラコは木綿の布の種類の名前ですが、原産
の地名(インドのカリカット)から来た名称だそうです。

狭義のキイロショウジョウバエ研究と直接関係なくても、遺伝学や発生学
のセミナー・講義で話のネタに使えそうな話題提供、今後も募集しており
ます。よろしくお願いいたします。

いとうκ

=================================

それから一昨年,学部生にこんな試験問題をだしました。ご参考まで。
種本は J. Hered. 1973 Sep-Oct;64(5):272-8でした。

発生生物学問題

問1
「どうして三毛猫が三色の毛色になるのか、どうして雄の三毛猫がめずらしいのか」
について書いた以下の文章の空欄を下の語群から選んだ最も適当な言葉で埋めなさい。

 雌の猫の性染色体構成は(   )であり、雄の猫の性染色体構成は(   )で
ある。三毛猫にはほとんど雄がいない。三毛猫の赤色と黒色の毛色はX染色体に連鎖
している遺伝子Orangeによって支配されている。この遺伝子がOの時は赤色の毛色を
つくりだし、oの時は黒色の毛色を作り出す。三毛猫の場合はこの遺伝子に関して
(   )接合であることがわかっている。赤色と黒色のまだらになるのは、胚発生
の途中で雌に2個ある(   )染色体のうちのどちらか一方がランダムに選ばれて
凝縮して(   )され、その結果が色素細胞の分裂・移動を経ても変化しないから
である。すなわちOが含まれるX染色体のほうが(   )されている色素細胞が入
った毛は赤い色、oが含まれているX染色体の方が(   )された色素細胞が入っ
た毛は黒い色となる。ではどうして雌猫では白の混じった三色の毛色になるのだろう
か?  毛の色はその色をだす色素細胞が毛根に移動していった結果決まるのだが、
まったく別の遺伝子(piebald spotting)が、色素細胞の毛根への移動を支配してい
る。この遺伝子がSの場合は色素細胞の移動を抑えるようにはたらき、sの時は移動
を抑えない。そこで猫の遺伝子型が(   )やSsであると色素細胞の移動が抑えら
れるため色素細胞の入らない毛(白い毛)がスポット状にあらわれ赤、黒、白の3色
の毛色の三毛猫 (calico cat)となる。この遺伝子型が(   )の場合には色素細胞
の移動が全く抑えられないので白点の無い二色の猫(tortoise cat)ができあがる。
三毛猫で雄が少ないのは毛色がこのように決まるからで、雄の三毛猫は染色体異常で
あり性染色体型が(   )となっており、不稔である。

【語句】(同一語句を何回選んでもよい)
SS, Ss, ss, XX, XXY, XY, XYY, ホモ, ヘテロ, 不活性化,
活性化, OO, Oo, oo, X, Y, 


**************************************

Date: Thu, 17 May 2001 17:39:40 +0900
From: fuyama-yoshiakiアットマークc.metro-u.ac.jp (Yoshiaki FUYAMA)
Subject: [Jfly] mechanism of tortoiseshell cat?

伊藤様 皆様

At 15:53 05/17/01 +0900, ITO, Kei wrote:

>その後も各方面で情報を蒐集した結果 (?)、九州大学で線虫をやっておら
>れる野村さんから、以下のような過去問をいただきました。皆さまのおか
>げで、いまならほぼ満点が取れそうです。

このシリーズまだ続いておりますので、バレないうちに私の間違いを
告白しておきます。

At Mon, 14 May 2001 11:18:00 +0900, Yoshiaki FUYAMA wrote:

>イヌは知りませんが、ウシでは、X連鎖の毛色の遺伝子があり、品種
>によって(アンガスだったかな?)まだらの模様になります。ヒトでも
>まれに見られます(anhidrotic dysplasia)。体のかなりの部分の皮膚
>の色が白くなって、ホルスタイン牛のような模様になるそうです。

ウシはうそでした。限性遺伝の例をうろ覚えで書いてしまいました。
まだあります。ヒトのanhidrotic dysplasiaは汗腺などの異常で、まだ
ら模様は特殊な染色で観察されるようです。教科書の絵の記憶からの早
とちりでした。

失礼いたしました。



--
布 山 喜 章 : 東京都立大学大学院理学研究科生物学教室
Yoshiaki FUYAMA : Dept. of Biology, Tokyo Metropolitan University
     e-mail : fuyama-yoshiakiアットマークc.metro-u.ac.jp