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P因子は長い間維持している間に自然に転移する?


Date: Sat, 7 Jul 2001 14:55:22 +0900
From: Akira Komatsu
Subject: [Jfly] P因子の自然転移?

JFly の皆様、

エンハンサートラップラインについてお伺いしたいことがあります。
P因子は、長い間維持している間には、自 然に(コンタミではなく)Pが落ちたり他
の場所に転移したりする可能性があるので しょうか? P挿入系統とは、そのような
不安定さを持っているものなのでしょう か? 
また、そのようなことを論じた論文がありましたら、お教え下さい。

また、P因子挿入系統を長期間保存するときに何か気をつけることがありましたら、
お教え下さい。

小松

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小松 明
東京女子医科大学・医学部・第一生理
郵便番号:162-8666
東京都新宿区河田町8−1
電話:03-3353-8111 ext.22322, 22323
FAX: 03-5269-7413
e-mail: akomatsuアットマークresearch.twmu.ac.jp
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Date: Mon, 9 Jul 2001 13:30:14 +0900
From: Hiroshi Matsubayashi
Subject: [Jfly] P因子の自然転移?

京都工芸繊維大学ショウジョウバエ遺伝資源センターの松林です。

余り注意を払われていない様に思われる原因として、nativeなP因子をバックグラン
ドに持っていることによりP因子が抜け落ちる可能性があるように思います。形質転
換体を作製する段ではP因子フリーのCantonS由来のw系統を用いたりするのですが、
その後は不用意に素性な判らないマーカー、バランサー系統と交配したりして別のnative
なP因子が持ち込まれていて、その産生するtransposaseにより不安定化するわけです。
具体的にそうした可能性を論じた論文は知らないのですが、P因子挿入部位を決めよ
うとP因子由来の配列をプライマーとしてinverse PCRをしたら予想外のおそらくnative
なP因子を検出してしまった経験はあります。古いラボラトリーストックにはP因子は
存在しないといわれていますがどの程度信用していいものなのでしょうか?もちろん
サイトタイプによりP因子が存在しても転移は起きない場合が多いのでしょうが。

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松林宏
京都工芸繊維大学
ショウジョウバエ遺伝資源センター
〒616-8354 京都市右京区嵯峨一本木町
電話 075-873-2660(内線 37)
電話 075-873-2657(ダイヤルイン)
Fax 075-861-0881
mail matsubayashiアットマークDGRC.kit.ac.jp
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Date: Mon, 09 Jul 2001 16:46:29 +0900
From: Takashi MATSUO
Subject: [Jfly] P因子の自然転移?

都立大細胞遺伝研究室の松尾です。

松林さんの先ほどのコメントに関しまして、

> 余り注意を払われていない様に思われる原因として、nativeなP因子をバックグラン
> ドに持っていることによりP因子が抜け落ちる可能性があるように思います。形質転
> 換体を作製する段ではP因子フリーのCantonS由来のw系統を用いたりするのですが、
> その後は不用意に素性な判らないマーカー、バランサー系統と交配したりして別のnative
> なP因子が持ち込まれていて、その産生するtransposaseにより不安定化するわけです。
> 具体的にそうした可能性を論じた論文は知らないのですが、P因子挿入部位を決めよ
> うとP因子由来の配列をプライマーとしてinverse PCRをしたら予想外のおそらくnative
> なP因子を検出してしまった経験はあります。

私もinverse PCRで同様の経験があり、クローニングしてみたらKP element様の
non autonomousなwild P elementでした。松林さんのおっしゃる通りその気で見
ると怪しい系統や染色体はいろいろ浮かんできます。中でも、delta2-3などその
成立過程などからみて怪しいのではないかと個人的にはにらんでいるのですが、
inverse PCRで確かめたことはありません。backcrossで失われる表現型につい
て、いままで染色体のbackgroundの違いということにして目をつむっていました
が、そのうち(Pに限らず)トランスポゾンの関係している割合がかなり多いん
じゃないかと感じています。ゲノム配列が決定されて、それと自分の配列を比べ
る作業をして違っていた場合として今まで最も多かったのがトランスポゾンの有
無です。SNPらしきものはうちの研究室でまだ一例しか聞いたことがありませ
ん。ハエの遺伝的個体差もその気になれば特定できる時代ですが、その原因とし
てトランスポゾンは重要で、P elementに限らなければ今も研究室のストックの
中で日々遺伝子改変を続けているのではないでしょうか?(笑)

東京都立大学 松尾隆嗣


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Date: Mon, 9 Jul 2001 22:48:34 +0900
From: Eiji Nitasaka
Subject: [Jfly] P因子の自然転移?

仁田坂@九大です。

私も実験室系統らしきものからP因子を検出したことが数例あります。
多くが、バランサー系統で例えば、X染色体にもBascをもつtriple balancer 系統の
H41はかなり多くのコピーを持っていました。また、y; bw; st(y sn[w]; bw; stで
はない)も短い、数コピーのP因子を持っているのがサザンでわかったことがありま
す。

これらは、おそらく集団遺伝系のラボなどで、自然集団由来の系統と交配して使って
いたものをラボで代々維持しており、後に再構成したものに由来すると考えていま
す。自然集団からミュータントを拾ってみたりしていた人由来の系統もP因子がコン
タミしているものが結構あって泣かされました(Mel Greenなど)。

P因子がコンタミしている系統は、in situやサザンでもわかりますが、delta2-3と
交配すると必ず複眼の一部がアポトーシスを起こして凹むハエが出てくることからも
わかります(コピー数が少ないと一部にしか出てきませんが・・)。


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Date: Tue, 10 Jul 2001 14:19:29 +0900
From: Akira Komatsu
Subject: [Jfly] P因子の自然転移?

小松@東京女子医大です。

いろいろなご意見ありがとうございました。松林さんのコメントに付加情報を加えて
纏めると、こういうことですね。

形質転換体を作製する段ではP因子フリーのCantonS由来のw系統を用いたりするので
、安定に維持できるが、その後不用意に素性の判らないマーカー、バランサー系統と
交配したりして別のnativeなP因子が持ち込まれると、その産生するtransposaseによ
り不安定化する。P因子がコンタミしている可能性の高い一番やばい系統は、自然集
団由来の系統と交配して使っていたものを後に再構成したもの。集団遺伝系のラボか
らもらった系統には注意すべし。やばそうなものとしては:y; bw; st はP因子が入
っているものがあった。delta2-3 もその成立過程からみて怪しい。

でも、delta2-3 なんかはみんな使っていたのですから、これから紛れ込んでいたら
、どうしようもないですね。
なお、大阪府立大学の蒲生寿美子先生から、以下のコメントをいただきました。

エンハンサートラップラインについてのメールを拝見しました。
P因子は、長い間維持している間には、復帰し白眼等が出現する確率が、自然突然変
異の比較的復帰変異しやすい、B、wよりも高頻度であると感じています。昔、兵庫教
育大の山口先生が普通10の-5乗程度の復帰が、P因子のラインだと 10の-3乗から10
の-4乗と言われていたと記憶してますが。復帰するなら他の場所に転移する可能性も
ある訳ですが、その経験はまだ無いです。復帰個体出現は10年ぐらい扱っていて数
回経験しています。はじめはコンタミと思って捨てていましたが、コンタミ以上の頻
度であることに気付いてから、復帰変異体として別に残すこともあります。 


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小松 明
東京女子医科大学・医学部・第一生理
郵便番号:162-8666
東京都新宿区河田町8−1
電話:03-3353-8111 ext.22322, 22323
FAX: 03-5269-7413
e-mail: akomatsuアットマークresearch.twmu.ac.jp
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Date: Wed, 18 Jul 2001 17:43:34 +0900
From: "YAMAMOTO, Masa-Toshi"
Subject: [Jfly] P因子の自然転移?

> > P因子は、長い間維持している間には、自 然に(コンタミではなく)Pが落ちたり
>他
>> の場所に転移したりする可能性があるので しょうか? P挿入系統とは、そのよう
>な
> > 不安定さを持っているものなのでしょう か? 


>余り注意を払われていない様に思われる原因として、nativeなP因子をバックグラン
>ドに持っていることによりP因子が抜け落ちる可能性があるように思います。形質転
>換体を作製する段ではP因子フリーのCantonS由来のw系統を用いたりするのですが、
>その後は不用意に素性な判らないマーカー、バランサー系統と交配したりして別のnative
>なP因子が持ち込まれていて、その産生するtransposaseにより不安定化するわけです。


 これ以外にもいくつかの話題が提供されていましたが、これらを読ませて頂きながら、年をとったんだなーと実感してしまいました。

 詳細はわすれましたが、Cy/Pmと一般に呼ばれ、詳細な遺伝子型が明らかにされていないものの中には(おそらく複数系統あるでしょう)非常に強いP因子活性があり、高率でGD不妊を引き起こすものがありました。特に、MRと呼ばれた系統の維持に使用されたBalancerでP因子が欠如しているものは皆無でしょう。バランサーはきみの悪い染色体です。あまり信用というか信仰するのは危険でしょう。FM7などもFM6などとヘテロにしたり、さらに第2、第3のバランサーを同時に存在させると、組換えを起こして化けてしまう事があります(詳しい事は省略します)。

 ショウジョウバエの系統は、しだいにP因子が存在する傾向に変化していますので、そのうちP因子を持たない系統はなくなっています。そこで、特にバランサーなどの有用系統でこれにはPは入っていないと確認されている系統があれば、お知らせください。系統として維持しておきたいと思いますので。

よろしくお願いします。
山本雅敏(京都工芸繊維大学・ショウジョウバエ遺伝資源センター)


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From: "Yoshihara motojiro"
Subject: [Jfly] Re: [Jfly] P因子の自然転移?
Date: Thu, 19 Jul 2001 03:54:27 -0400


>From: "YAMAMOTO, Masa-Toshi"
> 詳細はわすれましたが、Cy/Pmと一般に呼ばれ、詳細な遺伝子型が明らかにされて
いないものの中には(おそらく複数系統あるでしょう)非常に強いP因子活性があ
り、高率でGD不妊を引き起こすものがありました。特に、MRと呼ばれた系統の維持に
使用されたBalancerでP因子が欠如しているものは皆無でしょう。バランサーはきみ
の悪い染色体です。あまり信用というか信仰するのは危険でしょう。FM7などもFM6
などとヘテロにしたり、さらに第2、第3のバランサーを同時に存在させると、組換
えを起こして化けてしまう事があります(詳しい事は省略します)。
>
> ショウジョウバエの系統は、しだいにP因子が存在する傾向に変化していますの
で、そのうちP因子を持たない系統はなくなっています。そこで、特にバランサーな
どの有用系統でこれにはPは入っていないと確認されている系統があれば、お知らせ
ください。系統として維持しておきたいと思いますので。


This is Moto Yoshihara at MIT:

I want to add "legs of a snake" to Masatoshi-san's comment.

Long long time ago I did Southern blot analyses of laboratory strains kept
in Hotta lab with Takasu-san at Univ. of Tokyo. We didn't detect any P
element in CyO chromosome while SM1, Cy / Pm strain had a lot of P
elements as Masatoshi-san says. It may be one reason why CyO is most
commonly used these days as a second chromosome balancer instead of SM1. I
remember FM7(c?) / sc[10-1], TM1, Me / TM6, Ubx and C(1)DX in Hotta lab
were P element free. But I am not sure whether they are still P element
free or not. P-free environment is really important for P element
mutagenesis. Many people including me suffered from the hidden-P problem
many years ago. From my experience you may be able to maintain P-inserted
chromosomes stably if balanced with FM7, CyO or TM6.

Please bear in mind that commonly used markers also are not necessarily
stable (e.g., Lobe), maybe because some marker mutations might be caused by
transposon insertion.

I hope my very young days help a little bit! Moto

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Motojiro Yoshihara, Ph.D.
Center for Learning and Memory
Massachusetts Institute of Technology
50 Ames St. Room E18-605
Cambridge, MA 02139
TEL 1-617-452-2726
FAX 1-617-452-2249
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