Jfly ディスカッション


Discussion Menu | Jfly Japanese Home Page | Jfly English Home Page

遺伝学用語:trans heterozygote等の定義


Date: Wed, 14 Jan 2004 19:32:58 +0900
From: TSUJIMURA Hidenobu
Subject: [Jfly] 遺伝学用語 (3599)

Jflyのみなさま

 文献に、trans heterozygote や double trans heterozygote、
あるいは、double heterozygote ?の用語が出てきますが、
これらの用語の正確な定義を教えて頂けませんか。

辻村秀信


************************************

Date: Thu, 15 Jan 2004 11:14:19 +0900
From: Naoto JUNI
Subject: [Jfly] 遺伝学用語 (3602)

ショウジョウバエ遺伝資源センター 従二です。
所属変わってからはじめての投稿です。

double heterozygoteは、文字通り2つの遺伝子座について(野生型とmutant allele
の)heterozygoteになっているということで、それらがおなじ染色体上かあるかとか
(番号の異なる)別の染色体上にあるかとかいう区別をしません。
これは遺伝学上でsynthetic dominanceなどの概念を理解するのに重要だと思われま
す。

trans heterozygoteはdouble heterozygoteのうち、2つの遺伝子座が同じ染色体上
にあり、相同染色体上の一方が一方の遺伝子座についてmutant、もう片方がもう一方
の遺伝子座についてmutantになるようなものをさします。つまり
a + / + b
のような場合です。それに対して、
a b / + +
のようなdouble heterozygoteをcis heterozygoteといいます。
これは、cis-trans test, complementation test, cistron, complonなどの
遺伝学上の概念に必須です。

double trans heterozygoteという言葉はなじみがありません。
Life Science Dictionary Project
http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/WebLSD/ejindex-j.html
の共起表現にhitしません(double heterozygoteやtrans heterozygoteは
もちろんあります)。
trans heterozygoteを冗長に言ったたものだと思われます。


従二 直人 じゅうに なおと PhD
京都工芸繊維大学 ショウジョウバエ遺伝資源センター


************************************

Date: Fri, 16 Jan 2004 10:42:27 +0900
From: TSUJIMURA Hidenobu
Subject: [Jfly] 遺伝学用語 (3603)

従二さん   明解な解説ありがとうございました。

そこで、もう一度確かめておきたいのですが、これでよろしいですか。

doubel heterozygous 異なる2つの遺伝子座について、どちらについてもヘテロ になって
      いる場合で、同一染色体上か否かは問わない。
      すなわち、次のすべての場合を含む。
      a +/+ b , a b/+ + , a/+; b/+

trans heterozygous 異なる相同染色体上に、2つの異なる変異がそれぞれへテロに
      ある場合で、同じ遺伝子座の2つの異なる対立遺伝子に関する場合と、 2つの異なる
      遺伝子座に関する場合の両方を含む。すなわち、次の2つを含む。
      a +/+ b, a[1]/a[2]     <−−(これは新たに付け加えたもの です)

辻村秀信


************************************

Date: Fri, 16 Jan 2004 15:49:23 +0900
From: Naoto JUNI
Subject: [Jfly] 遺伝学用語 (3604)

on 1/16/04 10:42 AM, TSUJIMURA Hidenobu at tsujmr@cc.tuat.ac.jp wrote:
> 従二さん   明解な解説ありがとうございました。
> そこで、もう一度確かめておきたいのですが、これでよろしいですか。
>
> doubel heterozygous 異なる2つの遺伝子座について、どちらについてもヘテロ
> になって
>       いる場合で、同一染色体上か否かは問わない。
>       すなわち、次のすべての場合を含む。
>       a +/+ b , a b/+ + , a/+; b/+

そうなります。

> trans heterozygous 異なる相同染色体上に、2つの異なる変異がそれぞれへテロに
>       ある場合で、同じ遺伝子座の2つの異なる対立遺伝子に関する場合と、2つの異なる
>       遺伝子座に関する場合の両方を含む。すなわち、次の2つを含む。
>       a +/+ b, a[1]/a[2]     <−−(これは新たに付け加えたものです)

異論があるかもしれませんが、厳密には前者のみをさすと思います。

後者は普通に、「a[1]とa[2] のheterozygote」と言えばいいのであって、
わざわざ trans をつけることによってしか表現しえない意味があるでしょうか。

私の考えるところ、後者のようなケースでtrans heterozygoteと言うには
a[1]とa[2]を何か特別な理由で区別しよう意識が働いているのだと思います。

たとえば、次のような場合なら私としては不自然とは思いません。

1. a[1]とa[2]が一遺伝子座のalleleだと証明されていない段階で、
それぞれを別の遺伝子と見なしている場合。

2. 同じ遺伝子座でありながら、phenotypeや性質が全く別のカテゴリーに
なっていて、alleleを区別することに意味がある場合(N, Ax, fa, ndのように)。

3. 大きな遺伝子などで良くあるように、alleleによって変異のspectrumや変異を起
こしているドメインが大きく異なっていて、それを区別することに意味がある場合
(たとえば、intralocal complementationがあるような場合)。


しかし、科学の世界の(とくに外国語の)用語は、人によって意味範囲の
異なるクサイところではなく、直球ど真ん中の意味で使うのが間違いないと思います。
自分なら、1の場合を除いて、「a[1]とa[2]のheterozygote」とか「a[1]とa[2]
のheteroallelic combination」という表現を使います。

従二 直人 じゅうに なおと PhD
京都工芸繊維大学 ショウジョウバエ遺伝資源センター