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「loss of function, gain of function」の日本語訳?
Date: Tue, 23 Jan 1996 10:07:48 +0900
From: tanimuraアットマークrc.kyushu-u.ac.jp (Teiichi Tanimura)
Subject: [Jfly] LOF & GOF
ショウジョウバエ研究者各位
loss of function, gain of functionの日本語訳として用いられている用例をご存知
でしたら教えて下さい。あるいはご提案ください。よろしく。
九州大学 理学部生物学教室 細胞機能学講座 谷 村 禎 一
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Date: Tue, 23 Jan 1996 14:22:55 +0900
From: nikiアットマークmito.ipc.ibaraki.ac.jp (仁木雄三)
Subject: [Jfly] LOF & GOF
黒岩先生のホメオボックス(講談社サンエンティフィク)では、
loss of functionが機能欠失型
gain of functionが機能獲得型
と訳されています。欠失より喪失の方がわかりやすいかと思います。欠失だとdeleti
on を連想させます。
所で、parasegmentは擬体節ですか、疑似体節でしょうか。前者の方が圧倒的に使
われていますが。
ついでにblastoderm (胚盤葉、胞胚) micropyle(卵門、精孔)など使い方に多少
(かなり)の混乱がありますね。いずれも私は前者が正しいと思っていますが。とに
かく講義などで学生に教えるときなど、いろんな訳語がでまわると大変混乱します。
仁木雄三
茨城大学・理学部・自然機能科学科・分子生命機能科学講座
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Date: Tue, 23 Jan 1996 11:40:00 +0500
From: ryuアットマークlibra.ls.m-kagaku.co.jp (Ryu Ueda)
Subject: [Jfly] LOF & GOF
生命研の上田です。
私も困っています。もちろん手元にある辞書のたぐいには載っておりません。
そこで大胆にも,どういう訳が当てはまるかと考えてみますと,
loss of function (mutation)=機能喪失型(化)あるいは不活性化(突然変異)
gain of function (mutation)=機能獲得型(化)あるいは活性化(突然変異)
というのを思いつきます。
「活性化突然変異」という語はhypermorphにはいいかもしれませんが,antimorphや
neomorphに適用するには違和感がありますね。
どなたかもう少しいい用例をご存じでしょうか?
上田龍
三菱化学生命科学研究所
先端研究部門 神経発生遺伝学研究グループ
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Date: Wed, 24 Jan 1996 12:19:41 +0900
From: tanimuraアットマークrc.kyushu-u.ac.jp (Teiichi Tanimura)
Subject: [Jfly] LOF & GOF: Japanese translation/summary
loss of function (mutation)=機能喪失型(化)あるいは不活性化(突然変異)
gain of function (mutation)=機能獲得型(化)あるいは活性化(突然変異)
こういう訳語は意味だけでなく、”語感”が大事なのでぼくは「機能欠損型
/機能獲得型」が好きです。
黒岩先生のホメオボックス(講談社サンエンティフィク)では、
loss of functionが機能欠失型
gain of functionが機能獲得型
と訳されています。欠失より喪失の方がわかりやすいかと思います。欠失だとdeleti
on を連想させます。
以上の返答をいただきました。ありがとうございました。口頭発表などでは英語で言
ったほうがわかりやすいのですが、文章にするときには説明が必要になりますから和
訳もいるわけです。
私の好みでは、「機能欠損」「機能獲得」でいこうと思います。「機能獲得」という
用語がそれだけで意味する感じはわかりにくのですが。作用獲得のほうがわかる。
九州大学 理学部生物学教室 細胞機能学講座 谷 村 禎 一
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Date: Wed, 24 Jan 1996 14:33:29 +0900
From: fuyama-yoshiakiアットマークc.metro-u.ac.jp (Yoshiaki FUYAMA)
Subject: [Jfly] LOF & GOF
谷村さんのポストに刺激されて、文部省の学術用語集遺伝学編をみて、びっくり
仰天しました。
なんと、amorphは「無定形態」となっているではありませんか。こんな
言葉聞いたことがありません。これって、何のことでしょうか?
それに、neomorphを「突然変異型対立遺伝子」というのも、意味が通
じないですよね。教科書などでこんな訳語を使われたら混乱のもとだと思いま
す。
今頃気づいても手遅れかも知れませんが、何とかならないものでしょうか。
布 山 喜 章 : 東京都立大学理学部生物学教室
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Date: Wed, 24 Jan 1996 15:48:58 +0900
From: itokeiアットマークfly.erato.jrdc.go.jp (ITO, Kei)
Subject: [Jfly] LOF & GOF
hypermorph、hypomorph、antimorph などはどう訳すことになっているの
ですか?機能増強型、機能減少型、機能反転型?
伊藤啓@えらと
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Date: Wed, 24 Jan 1996 16:17:53 +0500
From: ryuアットマークlibra.ls.m-kagaku.co.jp (Ryu Ueda)
Subject: [Jfly] LOF & GOF
Yoshiaki>谷村さんのポストに刺激されて、文部省の学術用語集遺伝学編をみて、
Yoshiaki>びっくり仰天しました。
Yoshiaki>なんと、amorphは「無定形態」となっているではありませんか。こんな
Yoshiaki>言葉聞いたことがありません。これって、何のことでしょうか?
Yoshiaki>それに、neomorphを「突然変異型対立遺伝子」というのも、意味が通
Yoshiaki>じないですよね。教科書などでこんな訳語を使われたら混乱のもとだと思います。
実は私もこの事をポストしようと思っていました。中途半端ですが,(啓さんのメー
ルも来ましたし)以下のメッセージを送ります。
昭和52年発行の「遺伝学辞典」田中信徳監修 共立出版によりますと,
(少し長くなりますが,)
「対立遺伝子」の項に,
「・・・新しく生じた任意の対立遺伝子は,それが同型接合の状態にあるときの表現
型効果と,他の既知の対立遺伝子の一つと異型接合の状態にあるときの表現型効果と
によって,すなわちそれ自身の遺伝的作用と,他の対立遺伝子との相互作用の特性に
よって認知される。このような観点を基礎として,対立遺伝子はアモルフ,ハイポモ
ルフ,ハイパーモルフ,アンチモルフ,ネオモルフ,同類対立遺伝子などに分類され
る。・・・・」
というふうに,この項ではカタカナで表記してあります。(ちなみに同類対立遺伝子
(isoallele,Stern&Schaeffer1943)とはこの辞典ではtsを例に取って説明してあり
ます。)
ところが,それぞれの項をみると,
amorph=無定形態とか,hypermorph=高次形態,hypomorph=低次形態,neomorph=ネオ
モルフ,antimorph=アンチモルフという和訳がでてきます。(前3者は律儀に日本語
で訳してあり,後2者はカタカナのところを見ると別々の人が担当したんでしょうか。)
文部省の学術用語集遺伝学編は手元にありません(後で図書室にいって見てきます)
。しかしおそらくこの流れから来たのではないでしょうか。
ところでこの「形態」という訳がでてきた経緯を察すると,
もともと「allele(Johannsen1909)」という語が「allelomorph(Bateson&Saunders190
2)」の短縮形で,allelomorph=対立形質という言葉を考えると,対立遺伝子という概
念自体が表現型を元に考えていたと推察します。ですから,このmorphを訳するとき
に(しなければいけないわけですが)形質とせずに形態としちゃった人がこのごちゃ
ごちゃの原因ではないでしょうか。
眼の色を形態という言葉と結びつけるのはちょっと苦しいです。形質ならまだしも。
ひるがえってMullerの定義をどう訳するのが正しい(現代風?)のか,考えてみるべ
きでしょう。当然,歴史的な意味も加味すべきで,morphを日本語訳にも入れたいと
思うのです。さて,・・・・(考慮中)・・・・。
上田龍
三菱化学生命科学研究所
先端研究部門 神経発生遺伝学研究グループ
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Date: Wed, 24 Jan 1996 19:23:33 +0900
From: fuyama-yoshiakiアットマークc.metro-u.ac.jp (Yoshiaki FUYAMA)
Subject: [Jfly] LOF & GOF
>amorph=無定形態とか,hypermorph=高次形態,hypomorph=低次形態,neomorph=ネオ
>モルフ,antimorph=アンチモルフという和訳がでてきます。(前3者は律儀に日本語
>で訳してあり,後2者はカタカナのところを見ると別々の人が担当したんでしょうか。
>)
>
>文部省の学術用語集遺伝学編は手元にありません(後で図書室にいって見てきます)
>。しかしおそらくこの流れから来たのではないでしょうか。
どうもそのようですね。文部省の用語集もこのとおりです。ただし、neomorph
には、突然変異型対立遺伝子、antimorph には、抑制型対立遺伝子という訳語が
ついています。
実は、動物学編と遺伝学編が全く同じ訳になっていることがわかりました。もち
ろん、前者の方がずっと早くに出版されたので、それとの統一をとるため、やむ
をえず変な訳を用いたのではないかと想像しています。遺伝学の専門家がこんな
訳語で納得するとは思えませんので。
>ひるがえってMullerの定義をどう訳するのが正しい(現代風?)のか,考えてみるべ
>きでしょう。当然,歴史的な意味も加味すべきで,morphを日本語訳にも入れたいと
>思うのです。さて,・・・・(考慮中)・・・・。
そうですね。何でもカタカナというのも芸がないですものね。それにしても
昔の日本人の造語力はすごいと思います。ただし、優性と劣性というのは、
いただけないですが。
布 山 喜 章 : 東京都立大学理学部生物学教室
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Date: Thu, 25 Jan 1996 15:34:16 +0900
From: motojiroアットマークnews.sb.gunma-u.ac.jp (Moto Yoshihara)
Subject: [Jfly] LOF & GOF
群馬大学の吉原です。
LOF & GOFに関する諸先輩方の蘊蓄あふれるmails, とても興味深く読ませていただき
ました。私も以前からこれらの言葉に関してはずっと気になっておりましたので、こ
の際、浅学の若手を代表して質問させてください。
--morphというMullerによる用語と近頃はやりの--of functionという用語との対応は
どのように考えたらよいのでしょう?neomorphやhypermorphの場合はgain of functi
onでいいように思うのですが、するとantimorphの場合はどうなんでしょう?
--morphという言い方は、遺伝学が「abstract science」であった時代の言い方で、d
ominant, recessiveと同様に、arbitraryな言葉だと思うのですが、一方、--of func
tionと言う言葉もmolecular biologyを意識して(productの量が増えるとか減るとか
)使われている言葉だとは思うものの、この--of functionもやはりある一つのfunct
ionに関して見たときのarbitraryな言い方であると思います。だとすると--of funct
ionというような言葉を敢えて使う意義はあるのでしょうか?
NHKの「生命」で遺伝子の多形と表現形の多様性に関して毛利衛さんが全くの嘘をし
ゃべらされているのなどをみると、このあたりの言葉の混乱は古典遺伝学と分子遺伝
学が混乱している今日の遺伝学教育と無縁ではないように思えるのですが。
どなたかご教示いただけたら幸いです。
群馬大学行動生理 吉原基二郎
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Date: Thu, 25 Jan 1996 22:27:41 +0500
From: ryuアットマークlibra.ls.m-kagaku.co.jp (Ryu Ueda)
Subject: [Jfly] LOF & GOF
三菱化学生命研の上田です。
Moto>--morphというMullerによる用語と近頃はやりの--of functionという用語との
対応は
Moto>どのように考えたらよいのでしょう?neomorphやhypermorphの場合はgain of f
uncti
Moto>onでいいように思うのですが、するとantimorphの場合はどうなんでしょう?
虚を突かれた思いです。質問はfunctionという語がその(変異した)遺伝子座の単独の
機能を指すのか,あるいは野生型のalleleとのhetero接合体の表現型に及ぼす機能
としてとらえるか,ということですね。違ってますか?
私は単純に前者だと解釈していました。従ってantimorph(例えばreceptorのdominant
negative formを想像しているのですが)もタンパクは作るし,野生型のタンパクに
期待される機能の反対の(打ち消す)機能を**獲得した**のだからgain of function
mutationに分類されるのだな,と思っていました。
けれども,もし後者だとしても結論は一緒ではないでしょうか。
XXmorphというのはそのmutant alleleのホモ接合体と,野生型のalleleとのhetero接合体
との形質の差を説明するための定義ですよね(誰かMullerの原著を読んだ人いません
か?)。hypomorph(あるいはamorph)は,hypo/+でも+/+と表現型はかわりません。
(haplo-insufficiencyは例外とする。)その意味でhypomorphあるいはamorphがloss of
function mutationといわれてもまあそうかなと思います(多分その意味でいっている
人はいないと思いますが)。
ところがantimorphはanti/+でも表現型が変化するでしょう。その意味でもgain of
functionと言えませんか。(alleleのcombinationとしては野生型の機能がlossしている
じゃないかという疑問ですよね。)
Moto>だとすると--of functionというような言葉を敢えて使う意義はあるのでしょうか?
少なくともhypomorphic mutationという言葉を知らない人でもloss of function mut
ation
という言葉なら内容の想像がつくと思います。
Moto>NHKの「生命」で遺伝子の多形と表現形の多様性に関して毛利衛さんが全くの嘘をし
Moto>ゃべらされているのなどをみると、このあたりの言葉の混乱は古典遺伝学と分
子遺伝
Moto>学が混乱している今日の遺伝学教育と無縁ではないように思えるのですが。
私も,詳細は忘れましたが,あれ何か変なこといってるな,と感じたことを覚えてい
ます。
ただ,遺伝学教育の乱れとはまた違う原因のような気がします。
ところで,和訳の件ですが,
amorph=無形質対立遺伝子,amorph(ic) mutation=無形質突然変異
hypomorph=低形質対立遺伝子,以下同じ
hypermorph=高形質対立遺伝子
neomorph=新形質対立遺伝子
antimorph=反形質対立遺伝子
というのはどうでしょう。
形質を機能とするともっとかっこいいですが,でもあまりに意訳にすぎるのでは
ないでしょうか。
こんな提案をしても(仮にここに参加されている皆さんが賛成される何らかの案が
決まったとしても)既にオーソライズされているものがあるわけで,いたずらに
現状を混乱させるだけのような気がするのが悲しい。
上田龍
三菱化学生命科学研究所
先端研究部門 神経発生遺伝学研究グループ
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Date: Fri, 26 Jan 1996 19:54:37 +0900
From: fuyama-yoshiakiアットマークc.metro-u.ac.jp (Yoshiaki FUYAMA)
Subject: [Jfly] LOF & GOF
>--morphという言い方は、遺伝学が「abstract science」であった時代の言い方で、d
>ominant, recessiveと同様に、arbitraryな言葉だと思うのですが、一方、--of func
>tionと言う言葉もmolecular biologyを意識して(productの量が増えるとか減るとか
>)使われている言葉だとは思うものの、この--of functionもやはりある一つのfunct
>ionに関して見たときのarbitraryな言い方であると思います。だとすると--of funct
>ionというような言葉を敢えて使う意義はあるのでしょうか?
無意味な言葉を増やして学生たちのメモリーを占拠することはあまり感心した
ことではありませんが、科学というのは、一般化と抽象化がつきものですから、
ある程度は仕方がないと思います。
dominant, recessive が arbitrary であることには異論がありませんが、対立
遺伝子間の相互作用を表現型レベルで記述するには便利であり、今後も生き残
ると思っています。例えば、集団遺伝学の分野で、遺伝子頻度の変化を問題に
する場合、自然選択は表現型に対して働くので、個々の対立遺伝子の特性がわ
かったとしても、遺伝子型と表現型との関係がわからなければ手のつけようが
ありません。この場合、適応度に関して、ある遺伝子が別の対立遺伝子に対し
て優性であるか劣性であるかが重要であって、その遺伝子が amorph だとか
hypomorph であるとかいった情報は役に立ちません。
私の印象としては、amorph とか hypomorph といった用語は、昔より今の方が
頻繁に目にするように思います。学生時代に教わった遺伝学では、こんな言葉
は聞いた記憶がありません。(単なる不勉強だったにすぎないかもしれません
が。) 遺伝子の機能に関して物質レベルで理解されるようになって、突然変
異遺伝子の性質を記述するのに便利なために、押入れの中で埃をかぶっていた
用語を引っぱり出してきて使いだしたように感じているのですが、年輩の皆様、
いかがなものでしょうか。
布 山 喜 章 : 東京都立大学理学部生物学教室