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X-gal染色の固定液


Date: Mon, 21 Sep 1998 18:42:55 +0900
From: seong-kihyeonアットマークc.metro-u.ac.jp (Seong,Ki-Hyon)
Subject: [Jfly] 固定液にかんして。

都立大大学院生の成(そん)と申します。
最近、X-gal satining を行っているのですが、固定液の選び方に関して質問します。

様々な発生段階でX-gal satiningをするときに使用する違う固定液を使用するみたい
です。例えば、embryoの場合はGlutardialdehyde、幼虫や成虫のCNSの場合はGlutara
ldehydeとなっていました。
このような使い分けは、どのような目的でやられているのでしょうか?
素人感覚では、同じX-gal satiningなので、もっぱら染色する組織のほうの固定しや
すさで、そのような選び方をしていると思うのですが、どうなんでしょうか?もしそ
うなら、固定のしやすさの違いを出す組織の違いは、なんでしょうか?

また、anti β-galによる染色の場合、FormaldehydeではなくGlutardialdehydeをよ
く使うとのことですが、それもなにか意味があるのでしょうか?

固定液の違いによって、染色の強さに違いがあるといったような経験をもたれている
方や固定液の選び方、固定時間の決め方におけるポイントを知っておられる方がいら
っしゃいましたら、そのことに関しても聞かせてください。

勉強不足で質問だらけですが、よろしくお願いいたします。

成 耆鉉 (ソンキヒョン):東京都立大学大学院理学研究科生物学教室 細胞遺伝学研究室
Seong Ki-Hyeon: Dept. of Biology, Tokyo Metropolitan University
e-mail: seong-kihyeonアットマークc.metro-u.ac.jp
TEL: 0426-77-1111(ex)3725


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Date: Mon, 21 Sep 1998 21:10:31 +0900
From: tmurataアットマークrtc.riken.go.jp (Murata, RIKEN Tsukuba)
Subject: [Jfly] 固定液にかんして。

村田アットマーク理研です。
ぼくはimaginal discを染色するときには、1 % glutaraldehydeを使っていますが、
発生ステージが進んでprepupaあたりになってCanton-Sでも青色の染色が出てくる
場合には、1 % glutaraldehyde + 2 % paraformaldehydeで固定しています。
これですとバックの染色は薄くなるのですが、シグナルの方も弱くなります。
原理はどうだか知りません。

また、anti beta-galによる染色の場合には4 % paraformaldehydeでやっています。

時間や濃度は、人から教えてもらったのをいくつかやってみて、うまくいった場合の
条件でやっています。一度やってみてうまくいったならその条件をできるだけ変えな
い方針でやっています。

村田 武英
305-0074 茨城県 つくば市 高野台 3-1-1
理化学研究所 ライフサイエンス筑波研究センター


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Date: Tue, 22 Sep 1998 03:28:48 +0900
From: itokeiアットマークnibb.ac.jp (ITO, Kei)
Subject: [Jfly] 固定液にかんして。

こんにちは、

>様々な発生段階でX-gal satiningをするときに使用する違う固定液を使用するみたい
>です。例えば、embryoの場合はGlutardialdehyde、幼虫や成虫のCNSの場合はGlutara
>ldehydeとなっていました。
>このような使い分けは、どのような目的でやられているのでしょうか?

もしかして私の書いた染色マニュアル(E_Staining_ItoKei.MSWord)
をご覧になりましたね。これには実は、深〜い事情があります。:-)

このマニュアルのX-gal染色のembryo編は、私がドイツでやっていた
プロトコルで、幼虫や成虫編は、その後日本でやっていたプロトコル
です。ドイツでは Glutardialdehyde(GDA)とラベルに書かれた試
薬を使っていたのですが、日本ではGlutaraldehyde(GA)という名
前のが売られていて、GDA なんてのはカタログになかったので、それ
以来 GA を使っています。

(グルタールアルデヒドにはアルデヒド基が2つあるはずので、GDA
 は実は、GA を丁寧に表現しただけなのでは、と思ってます。いちど
 ドイツに行ったときに、使っていた試薬瓶のラベルをちゃんと見直
 してみれば済むことなのですが、まだ機会がありません。)

というわけで、GA を embryo の固定に使っても、全く問題ありません。
混乱させてごめんなさい。

なおうちでは GA には、Polyscience社の

E.M. grade グルタールアルデヒド 25% 水溶液(フナコシ04-0019-09)

を使っています。10ml 入りのアンプルが10本入っています。


>また、anti β-galによる染色の場合、Formaldehydeではなく
> Glutardialdehydeをよく使うとのことですが、それもなにか意味
> があるのでしょうか?

グルタールアルデヒドは、ホルムアルデヒドより固定が強力です。
したがって細かい組織でも頑丈に固定することができます。
孵化直後の1齢幼虫の CNS のような、とんでもなく小さな標本
の場合、グルタールアルデヒドで強力に固定した方が、ホルムア
ルデヒドよりもいい場合があります。

ただし、グルタールアルデヒドは固定が強力な分、抗原の活性を
失わせる力も強く、多くの抗原は、グルタールアルデヒドで固定
すると抗体染色に反応しなくなってしまいます。β-galは非常に
丈夫なタンパクなので、グルタールアルデヒド固定でも大丈夫で
すが、他の抗原を染めたい場合には、やめておいた方がいいで
しょう。

またグルタールアルデヒドはアルデヒド基が2つついているので、
固定の際に分子の片方が遊離アルデヒド基として残ることがあり、
これが抗体と反応して、non specific な染色になり、バックグ
ラウンドが上がってしまうことがあります。

というわけで、普通の抗体染色には、ホルムアルデヒドを使うこ
とをお薦めします。グルタールアルデヒドを使うのは、
  1:標本が非常に壊れやすく、ホルムアルデヒドでは十分固
    定できない
  2:調べたい抗原が十分丈夫で、グルタールアルデヒド固定
    しても抗原性を失わない
場合のみです。いずれにせよ、ホルムアルデヒドの場合はホール
マウント CNS だと 30-50 分の固定が好適ですが、グルタール
アルデヒドなら 10 分程度で十分です。

両者の折衷として、村田さんが X-gal で報告されているように、
ホルムアルデヒドと薄いグルタールアルデヒドを混ぜて使う方法
もあります。


なお、ホルムアルデヒドでなくパラホルムアルデヒドを使うのが
「本格的」ということになっているようですが、私の経験では、
ホルムアルデヒドでぜんぜん問題ない場合が、少なくありません。
GAL4 で発現させた β-gal や tau などのレポーター遺伝子や、
核タンパクや、22C10 などの場合、パラホルムアルデヒドを使っ
たことは一度もありません。

ただし安い「ホルマリン(37%)」ではなく、
Ultra pure EM grade (Methanol Free, 10%)
のホルムアルデヒド(Polyscience 社、フナコシ04-1040-18)
を使っています。


ホルムアルデヒドとパラホルムアルデヒドを使い比べて、明らか
にパラの方が良い場合があることを経験された方、どういう場合
に差があったか、教えて下さい。


また、アルデヒドを用いた固定法では、タンパクは固定できても
膜タンパクについた糖鎖などは固定できないので、そういうもの
を染色したい場合は、PLP 固定液を使います。パラホルムアルデ
ヒドがタンパクを、periodate-lysine が糖鎖を固定します。

Stock A:
  mix: Lysine−HCl (リジン塩酸) 0.365 g
      H3O 10 ml
  add 0.1 M Na2HPO4 to pH 7.4
  mess up with 0.1 M Phsphate Buffer to 20 ml
  store at 4 degree C (max 10 days )

Stock B:
  mix: Paraformaldehyde (PFA) 0.2 g
      H3O 5 ml
warm to 60 degree C (ca. 20 min.)
add 1N NaOH a few drops to dissolve PFA
filtrate
store at 4 degree C (max only a few days )

Just before use:
mix
    Stock A  3 ml
    Stock B  1 ml
    NaIO4 (メタヨウ化酸ナトリウム) 8.56 mg
   (total   4 ml)



さて、ホルムアルデヒドや PLP で固定して染色した場合、とくにDAB
で染色すると、標本が非常にもろくなってしまい、スライドグラスや
キャピラリーにマウントする場合に壊れやすくなってしまいます。この
ようなときは、染色が済んでから、高濃度のグルタールアルデヒドに長
時間つけて(2%、30分以上1時間程度)、カチカチに後固定してしま
えば、扱いやすくなります。

ただし!!! DAB 染色するときに感度アップのためニッケルを使っ
ているときは、この方法は使えません。何故かはよく知りませんが、
ニッケル入りの DAB で固定した黒い染色像は、グルタールアルデヒ
ドで後固定すると、みるみる透明になってしまいます。

(これに限らず、ニッケルを使った染色は時間の経過とともに染色が消
 えやすく、3年もすると見えなくなってしまったりします。昔の標本
 を観察し直したくなることは、結構あることなので、よほどの事情が
 ない限り、ニッケルを入れるのは避けた方が良いです。)

とりあえずこれくらいで。

いとうK@にぶぶ

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Date: Tue, 22 Sep 1998 12:30:41 +0900
From: seong-kihyeonアットマークc.metro-u.ac.jp (Seong,Ki-Hyon)
Subject: [Jfly] 固定液にかんして。


そう、ズバリ、伊藤先生の染色マニュアルをみました。化学構造式をちょっと考えれ
ば、わかることでした。でも、固定に関していろいろ勉強になりました。ありがとう
ございます。

ついでにもう一つ質問したいと思います。
ある、エンハンサートラップ系統の蛹期のはえを、固定後、腹側を割いてX-galで染
めたところ、おなかのトラキアが染まりました(それ以外もいろいろと染まっていま
す。)。管内全体が染まっているようなので、洗い段階で管内のものまで洗いきれず
に残ったと思うのですが、どう思われるでしょうか?管内が染まった原因に染色時間
が長くなってしまったということもあると思いますが、こういう場合に、洗い段階で
は解決することができるのでしょうか?

ご丁寧に答えてくださった、村田先生と伊藤先生(深夜にすみませんでした。)に感
謝します。
成 耆鉉 (ソンキヒョン):東京都立大学大学院理学研究科生物学教室 細胞遺伝学研究室
Seong Ki-Hyeon: Dept. of Biology, Tokyo Metropolitan University
e-mail: seong-kihyeonアットマークc.metro-u.ac.jp
TEL: 0426-77-1111(ex)3725