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UAS-Tau-GFPと神経線維の染色
Date: Thu, 8 Jul 1999 19:20:26 +0900
From: Yoshiki Takamatsu
Subject: [Jfly] UAS-Tau-GFP
東京都神経研の高松です。
国内でUAS-Tau-GFP (Brand, 1995) をお持ちで、分譲していただける方がいらっしゃ
いましたら、ご連絡お願い申し上げます。
ところで、Tau-beta-gal では神経繊維の先端あるいは細かいところまではラベルで
きないのでしょうか?Callahan and Thomas, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, vol.91,
5972-5976, 1994 の論文では長いaxon のmost distal portion はラベルできないと
のことですが、GAL4 /UAS system で発現させれば転写量が多くてこの問題を克服で
きるかもしれないとのことでした。しかし、成虫脳で同じGAL4 flyでUAS-GFPS65T で
見えるのに、UAS-tau-beta-galで抗体染色すると見えないところがあるようです。単
に分子量の違いを反映しているということかもしれませんが。確かにTimmons et.
al., Dev. Genet. 1997, Vol. 20, 338-347のGFP とbeta-gal のdouble reporterの
論文では、brain ではGFP のほうがreliableと記載されています。
また、UAS-Tau-GFP とUAS-Tauではいかがでしょうか。
高松芳樹
〒183−8526
東京都府中市武蔵台2−6
(財)東京都医学研究機構
東京都神経科学総合研究所
神経細胞生物学研究部門
電話 (042)325−3881
内線4521,4503
FAX (042)321−8678
===================================
Date: Sat, 10 Jul 1999 01:12:24 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] UAS-Tau-GFP
At 7:20 PM +0900 99.7.8, Yoshiki Takamatsu wrote:
> 東京都神経研の高松です。
> 国内でUAS-Tau-GFP (Brand, 1995) をお持ちで、分譲していただける方がいらっしゃ
> いましたら、ご連絡お願い申し上げます。
一応持ってますが、論文に出ている最終版でなく、一世代前のかも知れませ
ん。S65T でなく S65T/I167T (?) かなにかの GFP を使ったバージョンで、
あまり発現は強くありませんでした。他にどなたもいらっしゃらなければ、
差し上げますが。。。
> ところで、Tau-beta-gal では神経繊維の先端あるいは細かいところまではラベルで
> きないのでしょうか?
できません。
> Callahan and Thomas, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, vol.91,
> 5972-5976, 1994 の論文では長いaxon のmost distal portion はラベルできないと
> のことですが、GAL4 /UAS system で発現させれば転写量が多くてこの問題を克服で
> きるかもしれないとのことでした。しかし、成虫脳で同じGAL4 flyでUAS-GFPS65T で
> 見えるのに、UAS-tau-beta-galで抗体染色すると見えないところがあるようです。単
> に分子量の違いを反映しているということかもしれませんが。
beta-gal は非常に大きなタンパクで、しかも4量体で作用していると言われて
います。tau-beta-gal では、こんなかたまりがタウにくっついて、繊細な細胞
骨格の間をドコドコと運ばれて行くわけです。細い線維の先の方になると、物理
的にも「つまって」しまって、あまり輸送がスムーズに行かないようです。いっぽ
う GFP は、beta-gal に比べ遙かに小さく、たしか2量体で作用すると聞いた事
があります。(ちゃんと調べてないのでごめんなさい。)だから細胞質中の受動
拡散だけでも、かなり先まで染まります。モーターが付いていない状態でも、tau-
beta-gal よりきれいです。
> 確かにTimmons et.
> al., Dev. Genet. 1997, Vol. 20, 338-347のGFP とbeta-gal のdouble reporterの
> 論文では、brain ではGFP のほうがreliableと記載されています。
tau や kinesin などのモーターが付いていないただのbeta-gal は、受動拡散
が非常に悪いので、よほど運がよい場合以外は線維はちゃんと染まりません。
太い線維だけしか染まらなかったり、細胞によっては細胞体しか染まらなかっ
たりするので、注意が必要です。GFP はその点、コンフォーカルで見ても非常
に細かいところまで染まって見えます。
いずれにせよ、モーター無しの beta-gal や GFP は、細胞毒性が少なく、かな
り強力かつ広範に発現させても、発生異常や行動異常は見られないので比較的安
心して使えます。tau がついていると、表皮細胞などでは発生異常を起こします
し、致死になったり成虫の行動がおかしくなったりすることもあります。注意が
必要です。
> また、UAS-Tau-GFP とUAS-Tauではいかがでしょうか。
beta-gal や GFP がついていないただの tau は、分子量もそのぶん小さいので
より線維の先まで染まります。また毒性も、より少ないです。UAS-tau-beta-gal
と掛け合わせると死んでしまうけれど、UAS-tau なら死なないという GAL4 系
統がかなりあります。ただそれでも、ただの beta-gal や GFP よりは毒性があり、
UAS-tau と掛け合わせると死んでしまうけれど、UAS-beta-gal なら死なないと
いう系統もかなりあります。また、tau を発現させると行動にも影響が出ることが
あります。tau の異常発現は synaptic vesicle の軸索先端への輸送に影響を与え
るという学会発表もありました。
従って UAS-tau-GFP と UAS-tau では、tau のほうが線維の先まできれいに見
えますが、tau は抗体の感度の問題か、胚の神経だと先まであまりきれいに染まり
ません。幼虫以後の方がいいです。いっぽう UAS-tau-GFP は、胚でもかなりき
れいに見えるようです。どのステージで見たいのかによって、選択が変わってきま
すね。
いとうκ
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Date: Sat, 10 Jul 1999 15:48:39 +0900
From: Yoshiki Takamatsu
伊藤さん、tau, beta-gal, GFP についての詳細な情報をご提供くださいまして、誠
にありがとうございました。
たしかにTau-beta-galでは太い神経はきれいにラベルできるのですが、キノコ体の
lobe のような細い繊維の束では、その構造自体が検出できないことがあります。
あるGAL 4 line では(また、既にpublishされているMJ94などのラインでは)、
GFPS65T でみるとキノコ体のlobe が観察できるのですが、beta-gal、Tau-beta-gal
のどちらでも活性染色および抗体染色の両方でlobe の構造が観られませんでした。
しかし、一方で、beta-galの活性染色でくっきりとlobe の構造が確認できるGAL 4
line もいます。このへんになると一つの可能性として、同一lobe 内でも、そのさら
に細かいsubdivisionで微妙に 繊維の太さがちがうためなのだろうと考えています。
ちょっと話が偏ってしまいました。
今後、教えていただいた点を考慮に入れて観察したいと思います。
高松芳樹
〒183−8526
東京都府中市武蔵台2−6
(財)東京都医学研究機構
東京都神経科学総合研究所
神経細胞生物学研究部門
電話 (042)325−3881
内線4521,4503
FAX (042)321−8678
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Date: Sun, 11 Jul 1999 21:08:20 +0900
From: itokeiアットマークnibb.ac.jp (ITO, Kei)
Subject: [Jfly] UAS-Tau-GFP
>あるGAL 4 line では(また、既にpublishされているMJ94などのラインでは)、
>GFPS65T でみるとキノコ体のlobe が観察できるのですが、beta-gal、Tau-beta-gal
>のどちらでも活性染色および抗体染色の両方でlobe の構造が観られませんでした。
>しかし、一方で、beta-galの活性染色でくっきりとlobe の構造が確認できるGAL 4
>line もいます。このへんになると一つの可能性として、同一lobe 内でも、そのさら
>に細かいsubdivisionで微妙に 繊維の太さがちがうためなのだろうと考えています。
おっしゃるとおり、beta-gal がついたレポーターだと、系統によってか
なり染まり具合が異なります。キノコ体のケニオン細胞は非常にヘテロな
細胞集団ですから、線維の太さの違い、レポーターの発現量の違い、細胞
内の軸索輸送の活発さの違いなど、様々なファクターがあると思います。
なお、α、β lobe の細い線維だと太さは100〜200ミクロンです。光の
波長の2分の1〜4分の1ですから、光学顕微鏡では原理的に、細かい構
造は見えません。更にいえば、lobe の線維のうちたとえば4本に1本が
点々と染まっているような場合でも、光学顕微鏡の分解能以下の「点々」
なので、一様に全体が染まってしまうように見える、ということもありま
す。注意が必要です。必ず細胞体の部分をよく観察して、2500〜3000
のケニオン細胞のうち何割程度が染まっているかを確認する必要がありま
す。系統によっては、細胞体は2〜300しか染まっていないのに、各 lobe
は全体が一様に染まっているかのように見えるものもあります。これらの
細胞からの線維が、lobe 内に一様に分散して分布しているためだと思われ
ます。
いとうK
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Date: Mon, 12 Jul 1999 11:40:37 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] UAS-Tau-GFP
自己訂正フォロー:
> なお、α、β lobe の細い線維だと太さは100〜200ミクロンです。光の
> 波長の2分の1〜4分の1ですから、光学顕微鏡では原理的に、細かい構
> 造は見えません。
ミクロンじゃなくて、ナノメートル。
100〜200 nm です。もちろん。失礼!
なお、可視光の波長は、大体400〜700 nm です。顕微鏡の
解像力(分解能)は、波長/(2×開口数)の式であらわさ
れるので、開口数(NA)1.4 の油浸レンズを使い、550 nm
前後の緑の光で観察した場合、
550 / (2 x 1.4 ) = 196 nm
で、この距離だけ離れた2点までは原理的には解像できるはずで
す。
200ミクロンの神経線維なら、電気生理でも何でも出来てしまい、
たいそう便利なのですが。。。
いとうκ