Jfly ディスカッション


Discussion Menu | Jfly Japanese Home Page | Jfly English Home Page

エンハンサートラップでは、なぜキノコ体や唾腺がよく光るのか?


Date: Thu, 10 Feb 2000 00:17:29 +0900
From: biologyアットマークgipwc.shinshu-u.ac.jp (Masahiko Sakaguchi)
Subject: [Jfly] エンハンサートラップに関する初歩的質問

JFLYの皆様。信州大教育学部生物の坂口です。
エンハンサートラップに関する初歩的質問で申し訳ないですが以下の3点教えていた
だけませんでしょうか?

1.Gal4, UAS-GFPの系で成虫脳のGFP蛍光パターンを観察しはじめたのですが、キノコ
体でGFP蛍光パターンがみられるものが多く、非特異的なものではないかと不安です
。第2、第3染色体に飛んだものではGFP蛍光みられないもの、脳全体でGFP蛍光が見
られるものもあったのですが、X染色体に飛んだものでは4系統みて4系統ともキノ
コ体でGFP蛍光パターンがみられました。コメントいただければ幸いです。

2.幼虫で唾腺が光るのも、非特異的なものでしょうか?

3.Y染色体にP因子は転移するのでしょうか?
-----------------------------------------------------
坂口雅彦
〒380-8544 長野市西長野
信州大学 教育学部 理科教育 生物
-----------------------------------------------------


===================================

Date: Thu, 10 Feb 2000 16:06:14 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] エンハンサートラップに関する初歩的質問

かれこれキノコ体歴13年、GAL4 歴10年(もうそんなに経つか・・・)
なので、何かコメントした方がよろしいでしょうね。

At 0:17 AM +0900 00.2.10, Masahiko Sakaguchi wrote:
> JFLYの皆様。信州大教育学部生物の坂口です。

> 1.Gal4, UAS-GFPの系で成虫脳のGFP蛍光パターンを観察しはじめたのですが、キノコ
> 体でGFP蛍光パターンがみられるものが多く、非特異的なものではないかと不安です

これは「話せば長い」話なのですが、GAL4 の長所と限界を理解した
うえで、このシステムを有効に使いこなすために重要なポイントに絡
んでいますので、少し長いですが順序立てて書いてみます。

1:エンハンサートラップ系統では、約95〜98%の系統で、脳のど
  こかしらで何らかの発現が見られます。発現は、脳の特定の領域
  (キノコ体とか触角葉とか視覚葉とか)に局在するということは
  ほとんどありません。あちこちに散在する、一見ランダムに見え
  る分布になるのが普通です。ある特定の脳領域に注目した場合、
  一般に:
  a:脳のその領域だけで発現し、ほかの領域では全く発現を示さ
    ない系統は、まずない。(特異性不足の法則)
  b:脳のその領域の「全ての」神経細胞で発現する系統は、まず
    ない。(普遍性不足の法則)
  が成立します。

  ※「まずない」と書きましたが、これまで数千系統見てきたなか
   で、これに該当するような系統は、1つたりとも見つけたこと
   がありません。(あれば欲しいよぉ!!!)

  たとえば elav とかチャンネルタンパクの遺伝子みたいに、ある
  領域の神経細胞「全て」で発現するものもありますが、その場合
  はその領域だけでなく、他の領域でも全ての細胞で発現している
  ので、「特異的」ではありません。しかもこのような、脳の「全
  ての」細胞で発現を示す系統も、また非常にまれです。
  (よく聞かれるのですが、今のところ自信を持ってお薦めできる
   のは elav-gal4 だけです。それも transformant の系統によっ
   ては一部の細胞でしか発現を示さないので、注意が必要です。) 

  特異性不足の法則と普遍性不足の法則を組み合わせると、脳のあ
  る領域の全ての細胞で発現し、他の領域では全く発現しない GAL4
  系統なんて、非常に低い確率でしか存在しえないことが考察でき
  ます。従って、たとえばよく GAL4 系統を使って、
   「キノコ体で○○遺伝子を発現させると、××の効果が見られた」
  というような論文がありますが、これは実際には、
   「キノコ体の、よく調べてないけどどっかの一部の細胞と、そ
    のほか脳のあちこちの、よく調べてないけどいろんな細胞
    (とりあえず数はそんなに多くないみたい)で○○遺伝子を
    発現させると、××の効果が見られた」
  と言う意味でしかありません(これまでこの手の仕事に用いられ
  てきた系統はほぼ全て自分の目でチェックしていますから、信じ
  て下さい。)。ただ、こんな風に書くと Neuron や Science は
  掲載してくれませんから、論文ではもっと断定的な表現で書いて
  あるというだけです。;-)
  (この分野で長く仕事をしている人は、このあたりよく分かって
  いて、たとえば論文でも specific という表現を避けて preferential
  を使ったり、本文では書かないけど図の legend では他にどこで
  発現が見られるかを書いてあったりと、まあ慎重にやっているの
  ですが、実際に系統を扱わずに教科書やレビューを書く人や、若
  い学生などこの分野での経験が浅い方、それから sloppy な一部
  の研究者の方は、このへんの細かい留保的なニュアンスを、「論
  旨を明快にするために」無視してしまったりするので、ときに迷
  惑してます・・・。)


2:さて、以上を踏まえて、なぜキノコ体でGFP蛍光パターンが観察
  されるものが非常に多いのか?にお答えします。

  A:脳本体(左右の視覚葉を除いた中央の部分)の細胞数は、片
    半球あたり約2〜3万です。このうちキノコ体の細胞数は、
    2500〜3000です。従って、脳本体の全細胞の10〜15%は、
    キノコ体の細胞ということになります。
  B:前述の「特異性不足」の法則から、ほとんどの系統では、脳
    のあちこちの細胞で GAL4 の発現が見られます。
  c:したがって、全細胞の10〜15%を占めるキノコ体の細胞の
    うち、何らかの一部分の細胞で発現が見られる可能性は、非
    常に高い、ということになります。
  D:脳のほとんどの部位は、「絡まった毛糸玉」のようなぐちゃ
    ぐちゃな構造をしています。従って、異なるサブセットの細
    胞が GAL4 を発現すれば、全然ちがった神経線維パターンが
    みえることになります。一方キノコ体は、脳の中で唯一、
    3000本もの線維がほぼ同一の形態で、密集並行した線維構
    造を持っています。従ってどの一部分のサブセットが染まっ
    ても、一見同じ、特徴的な「キノコ体パターン」が見えるこ
    とになります。
  E:以上より、かなり多くの GAL4 系統で、特徴的な「キノコ
    体パターン」が観察されるということになります。実際そう
    ですね。

  F:では、キノコ体内の発現パターンは、さまざまなサブセット
    になっているのでしょうか?その通りです。キノコ体の細胞
    は、産生時期や投射する lobe の違いにより、大きく3種類
    に分かれ、その中でも走行パターンにより、それぞれいくら
    かの形態的サブタイプがありますが、星の数ほどある「キノ
    コ体がラベルされる系統」のなかで、これらのパターンは、
    それこそありとあらゆる組み合わせで観察されます。しかも、
    特異性不足の法則と普遍性不足の法則により、一つのサブタ
    イプの細胞だけが全て、明瞭にラベルされる系統なんてのは、
    滅多にありません。

  G:さて、サブセットならば、キノコの形がくっきり見えるので
    はなく、線維がパラパラと離散的に見えるのではないか?答
    えは否です。キノコ体の線維は、直径が100〜200 nm と、
    光の波長の半分から4分の1です。従って光学顕微鏡では、
    63〜100倍の高解像レンズを使ったとしても、染まっている
    線維と、そのすぐ横の染まっていない線維とをきちんと解像
    することは出来ません。密集して並行する線維の、たぶん10
    本に1本も染まっていれば、全体が染まっているように見え
    るでしょう。低倍のレンズや実体顕微鏡レベルでは、なおさ
    らです。また細胞体も、キノコ体の細胞は、周囲の他の脳細
    胞よりはるかに小さく密集しているという特徴があります。
    (なぜかは知りません。。。)従って、3000のうちの数百で
    も染まっていれば、ちょっと見には全体が染まっているよう
    に見えてしまいます。(ただしこれは、1ミクロン程度の切
    片やコンフォーカルをよく観察すれば、見分けることができ
    ます。)

3:このように、キノコ体で蛍光が観察される系統が、非常にしばし
  ば見いだされる、というのは、おわかりいただけたと思います。
  それにしても、脳の他の部分の神経線維の蛍光パターンに比べ、
  キノコ体の蛍光パターンがやけにくっきり見えるのは、なぜでしょ
  うか。これには2つの理由があります。

  A:まず人間の視覚認識能力の問題があります。物体からパター
    ン認識をして特徴のある形態を抽出し、他を捨象するという
    視覚の特性上、シンプルで形態のはっきりした物体が、とく
    に沢山いくつも並んでいるようなものは、非常に目に入りや
    すく、いっぽう不規則でランダムなパターンの物体は、目に
    入りにくいという傾向があります。キノコ体が光る系統も、
    はじめはシンプルで特徴的なキノコの蛍光が、まず目に飛び
    込んできますが、よくよく観察しているうちに、その周囲の
    「有象無象の」いろいろな線維が、実際はキノコ体と同様に
    ラベルされているのが見えてきます。

    キノコ体だけでなく、視覚葉や、触角葉、中心複合体など、
    コラム状、網目状、糸球体状、円周上、放射状、扇状といっ
    た「言葉で形容しやすいはっきりした構造」を持った部位の
    細胞がラベルされている系統でも、これらの線維の蛍光が、
    まずパッと目に飛び込んできます。その回りのぐちゃぐちゃ
    した形態の線維も、よく見たらラベルされている、というの
    は、キノコ体の場合と同様です。

  B:さらに、細胞質内の分子密度の問題があります。上述のよう
    に、キノコ体細胞は脳の他の神経細胞に比べ、細胞体が小さ
    く(平均の半分程度)、線維も細いという特徴があります。
    従って、細胞の総体積は、他より数倍以上小さいはずです。
    ゲノムに初めから存在する遺伝子の発現は、産物の濃度によ
    るフィードバック制御を受けるでしょうから、小さい細胞で
    あれば、そのぶん少しの分子しか作られていないと思われま
    す。しかしエンハンサートラップ系統の GAL4 や、それで
    活性化される GFP などのレポーター、エフェクターの遺伝
    子の発現は、このフィードバック制御を受けません。従って
    同じレベルの GAL4 発現量であれば、小さい細胞ほど、細
    胞質あたりの GFP 濃度が濃く、強い蛍光を発揮することに
    なります。(もちろん実際には、エンハンサーの活性の強さ
    は細胞ごとに違いますから、小さなキノコ体細胞が弱くしか
    ラベルされない系統や、巨大な細胞が強くラベルされる系統
    もたくさん存在します。)

  C:フィードバック制御を受けないエンハンサートラップ系統で
    は、このように小さな細胞は一見強い発現を示しているよう
    な錯覚が生じうるわけですが、ちゃんとフィードバック制御
    を受けるはずの内在性の遺伝子の産物に対する抗体染色では、
    このような錯覚は生じないでしょうか?実は生じえます。

    細胞質に分布するタンパクであれば「体積密度一定」のフィー
    ドバックを受けますから、小さい細胞や細い線維が集まった
    部位でも、大きな細胞や太い線維が集まった部位でも、タン
    パクの密度はほぼ一定になることが期待できます。しかし細
    胞膜に局在するチャンネルやレセプターのタンパクの場合、
    かりに膜の面積あたり一定の密度で分布するよう発現が制御
    されているとしても、小さい細胞や細い線維が集まった部位
    では、部位の体積あたりに膜が占める密度自体が高いので、
    膜タンパクの体積密度も高いことが強く考えられます。従っ
    て、これらのタンパクを抗体などでラベルすると、膜表面の
    面積密度としては他の細胞と同じレベルに発現調節されてい
    るのにも関わらず、小さな細胞や細い線維は濃くラベルされ、
    強い発現が生じているように錯覚してしまうという危険が考
    えられます。

以上のように、エンハンサートラップ系統や抗体染色のパターンから
発現の強さを検討する場合、細胞の形の明快さ、体積、膜密度などを
勘案した上で、他の細胞との発現の強弱を議論しないとなりません。
これは非常に難しいことなのですが、とても大切なことだと思います。



さて、もとのメールに戻ります。以上の議論を踏まえると、

> 。第2、第3染色体に飛んだものではGFP蛍光みられないもの、脳全体でGFP蛍光が見
> られるものもあったのですが、

よぉぉぉぉぉく観察すれば、一見GFP蛍光がみられないと思われる系
統でも、実はかなりの細胞で発現があると思います。強い UAS-GFP
系統を使い、冷却 CCD カメラで15 秒くらい長時間露光して調べてみ
ると、発現が本当に脳のどこにも見られない系統は、本当に稀にしか
見つかりません。

GFP のようなレポータータンパクは、それでも何百何千の分子がない
と光が見えませんが、細胞死を起こさせる毒素などのエフェクタータ
ンパクでは、一分子だけでも効果を発揮する場合もあります。このよ
うな場合、GFP ではほとんど見えないような弱い発現しか示さない細
胞での毒素等の発現が、表現型の決め手になる場合が生じることも否
定できません。注意が必要です。

また逆に、一見脳全体でGFP蛍光が見られる系統でも、よぉぉぉぉぉく
観察すれば、じつは脳のごく一部の細胞でした発現が見られない場合
が多いです。小学校の頃、クラスの同級生が3人同じおもちゃを持っ
ていれば、「みんな持ってるもん」と言って親にねだったものですが、
これと似ていますね。

コンフォーカルで観察すればまだ問題は少ないですが、普通の蛍光顕
微鏡の場合、焦点面外からの蛍光のバックグラウンドが強いので、蛍
光を出している細胞と出していない細胞が入り交じって存在する場合
(すなわち、事実上ほとんどの系統の脳)、全体がラベルされている
ように見えがちです。染色が滲んで周囲に拡散してしまう X-gal 染色
も同様です。また、グリア細胞は細い線維を細胞のあいだに網のように
巡らせているので、これが染まると脳全体が染まっているように見え
がちです。(黒い網タイツの女性の脚が遠目には全部黒く見えるのと
同じ原理。)注意が必要です。



> 2.幼虫で唾腺が光るのも、非特異的なものでしょうか?

さて、こちらはキノコ体の場合とは全く状況が違います。どこが違うか
というと、

1:唾腺が光る系統が「多い」というのではなく、ほとんど百発百中で
  光る。
2:唾腺の様々なサブセットの細胞が、系統によってランダムな組み合
  わせで光るのでなく、ほぼ全ての唾腺細胞が必ず光る。

という点です。これは従って、錯覚でなく、本当に分子メカニズムが存
在すると考えられています。最も有力な説は、Andrea Brand が最初に
作成した GAL4 のコンストラクトに、唾腺で必ず活性化するような配列
が含まれていたというものです。このコンストラクトから GAL4 coding
region の前の部分をすっぽり他のものに置き換えた改良バージョンを作っ
て試したらいいのではないか、と言っていた人は何人も居ましたが、試
したけどうまく行かなかったのか、試さなかったのか、いずれにせよ
Andrea Brand のバージョンの、この部分の欠点を克服した系統は出回っ
ていません。

本当は、たとえば GAL4 系統で毒素を強制発現させた場合、幼虫はずっと
自分の唾腺に自分が分泌した毒を食べ続けることになるので、あまり良く
ないような気もしますが、それで問題が生じうるような実験には、この系
を使わない、というのが、一番確実な解決法でしょう。


> 3.Y染色体にP因子は転移するのでしょうか?

これまで見た中で、GAL4 エンハンサートラップ系統では、第4染色体
に転移しているものはありますが、Y染色体に入ったものは知りません。
理論的に入りうるのかどうかは、むかしPの転移のメカニズムについて
Engels などと闘っていた、群馬大の吉原さんあたりが詳しいのではない
でしょうか。  > よろしく。

さて、私の印象を言うと、Pは遺伝子の coding region でなく、プロ
モーター部やその上流、あるいはイントロンなど、発現を制御する機能
を持つあたりに入りやすいようです。細胞内でPが転移するとき、DNA
は染色体にパックされていますから、ヒストンなどが絡み合って作る
染色体高次構造の中で、外側からアクセスしやすいところにPは入りや
すいのだろうと思います。(よく知りませんが、たぶん個々の遺伝子に
ついては、発現が活性化されるべきかどうかを制御するエンハンサー、
プロモーター領域だけが高次構造の外側に出ていて、エクソンなどは
普段は高次構造の内側にしまい込まれ、活性化するときだけ引き出され
てくるのじゃないでしょうか。だとすると、Pがエクソン内にあまり入
らない理由が説明できるのですが。)

そう考えると、活性化した領域を(ほとんど?)持たないY染色体には、
あまりPは入らないのではないかと思います。


<<蛇足>>
このように、特異性不足の法則と普遍性不足の法則から、GAL4 系統を
遺伝子の異所的強制発現のドライバーに用いて実験するのは、場合によっ
てはかなりいい加減な実験になりかねないことが分かると思います。
一般論としては、

1:細胞の運命決定や末梢神経の軸索の path finding など、細胞間相互
  作用や拡散性シグナル因子の到達範囲を考えた一定範囲内さえ考慮す
  れば、その他の部分で発現があろうがなかろうが、実験結果に影響を
  与える可能性が非常に少なそうならば、安心して実験して良い。
  (cell autonomous もしくは、部位レベルで autonomous と言って
   よい場合。)

2:個体の行動制御や記憶・学習など、脳や他の体の領域の中で、自分が
  注目している部分だけでなく、遠い他の領域での発現も影響を与える
  可能性が否定できない場合は、
  A:自分が興味を持っている部分以外でどのような細胞で発現が起き
    ているのか?
  B:それらの細胞だけで発現が起きて、自分が注目している部分の細
    胞では発現が起きていない場合、同じ表現型が誘発されることが
    ないか?
  を、きちんと確かめるなどして、非常に慎重にやった方がよい。
  (部位レベルでも autonomous とは言えない場合。)

ということになるでしょうか。とはいえ、この方法が全然使えないと言う
わけではありません。何しろ、非浸襲的に一部の細胞の機能だけを変えて
効果を見る、という実験は、ほかにそういくつも代替法があるわけではあ
りませんから。ただ、慎重に実験計画を立て、結果を緻密に考察する必要
があるということです。このへんをおろそかにした論文がいくつかあり、
「だからエンハンサートラップを使った実験はいい加減な結果しかでない」
と懐疑派に攻撃されるネタにされたりしているのは、非常に残念です。
この手の実験を計画中の方は、ぜひ参考にして下さい。


長くなりましたので、とりあえずこのへんで。

いとうκ


===================================


===================================
Date: Fri, 11 Feb 2000 16:43:06 +0900
From: Moto Yoshihara
Subject: [Jfly] エンハンサートラップに関する初歩的質問

群馬大学行動研の吉原です。

> > 3.Y染色体にP因子は転移するのでしょうか?
>
> これまで見た中で、GAL4 エンハンサートラップ系統では、第4染色体
> に転移しているものはありますが、Y染色体に入ったものは知りません。
> 理論的に入りうるのかどうかは、むかしPの転移のメカニズムについて
> Engels などと闘っていた、群馬大の吉原さんあたりが詳しいのではない
> でしょうか。  > よろしく。

伊藤さん、長い文おつかれさまでした。

ご指名されてしまいましたが、冷や汗もんです。実は私、8年前ここに移ってきた時
に「これからはNeuroscienceに集中するためにP因子の論文は絶対読まない」と決心
し、実行してしまいましたので、この8年のP因子転移機構に関する進歩を全く
followしておりませんし、遺伝学会もさぼってますので他人とこの話題に関して雑談
したこともありません。多分、九大の仁多坂さんや、生命研の上田龍さん(Engelsと
勝負できる立派なおヒゲをお持ちですし)らの方がはるかにご存じだと思いますので
、諸先輩方、宜しくお願いします。たらい回しですみません。私も教えていただきた
いです。
****************************************
Motojiro Yoshihara, Ph.D.
Institute for Behavioral Sciences
Gunma University School of Medicine
Showa-machi, Maebashi, Gunma 371-8511, JAPAN
****************************************
===================================


Date: Tue, 15 Feb 2000 17:29:44 +0900
From: Moto Yoshihara
Subject: [Jfly] エンハンサートラップに関する初歩的質問

群馬大学行動研の吉原です。

松林さんよりいただいたご教示に関して私からも恥ずかしながら初歩的質問をさせて
ください。

> > 3.Y染色体にP因子は転移するのでしょうか?
>
> 転移します。
> ただし伊藤氏が書かれているようにY染色体は全体が不活性なヘテロクロマチンのた
> め転移する頻度は低いかも知れません(sprematocyteでは活発に発現していますが)。
> しかし一番の問題点はたとえ転移してもマーカーであるwなりryの発現がPosition
>effect
> により抑えられてしまい転移の事実を識別できないということの様です。
> 以前SpradlingのグループがY染色体上の様々な位置にPを飛ばした報告を出していま
> す。その時はPosition effectを抑えるためにエクストラなY染色体を持たせ転移を起
> こさせていました。

Spradlingらによる実験の解釈が循環論法になっているような気がするのですが、
「position effectを抑えるためにエクストラなY染色体を持たせ転移を起こさせてい
た」のであれば、それによって発現の抑えられた状態が解除されているわけですよね
。それなら、「全体が不活性なヘテロクロマチンのため転移する頻度は低い」本来の
Y染色体の状態ではなくなっているわけですね。そうすると、それによって転移頻度
は上がっている可能性が十分あります。この問題をclearするため、「エクストラなY
染色体を持たせ転移を起こさせ」るのではなく、転移を起こさせた後で、「エクスト
ラなY染色体」にしてマーカーが発現されやすくような実験はなされているのでしょ
うか?また、通常の状態でもdetectされる、低いYへの転移頻度というのはどのぐら
いなのでしょうか?

ご教示いただけたら幸いです。



****************************************
Motojiro Yoshihara, Ph.D.
Institute for Behavioral Sciences
Gunma University School of Medicine
Showa-machi, Maebashi, Gunma 371-8511, JAPAN
****************************************
===================================


Date: Tue, 15 Feb 2000 19:07:20 +0900
From: Eiji Nitasaka
Subject: [Jfly] エンハンサートラップに関する初歩的質問

仁田坂@九大です。

Y染色体にどの程度の頻度でP因子が転移するか? ということですが

Berg and Spradling, Genetics 127:515- (1991)にextra-Yを使わないような
条件での転移に関して多少記述があります。
P{ry[+]11}をX染色体からJumpstarter(懐かしいですね;delta2-3ではない
autonomous-Pです)を使って雄で転移させていますが、1019系統の独立に転移させた
P{ry[+]}の内訳は

Y: 1 (normal Yとありますが、y[+]Yから派生したものでしょうか)
y[+]Y; 4 (おそらく、X染色体由来のy[+]領域に転移)
2; 541
3; 398
4; 35
double, unstable or scoring error; 40
となっています。

このうちy[+]Yの1系統は第2との転座系統のようです。
いろいろディスカッションもありますし、それほど正確な値ではないと
思いますが、眼色マーカーが検出できるようなY染色体への転移は0.1%程度
なのでしょうね。もちろん転移していても検出できないものもあると
思います。

あまり関係ないと思いますが、Preston and Engels(1989)は自然集団から
Y染色体上に完全型のP因子が乗っている系統を見つけています。
またy[+]YにP-lacWの乗った系統をX染色体のmutagenesisにつかったことが
ありますが、これはそこそこ転移したように思います。
Date: Tue, 15 Feb 2000 16:20:00 -0800
X-Original-To: jflyアットマークnibb.ac.jp
From: Hiroshi Matsubayashi
Subject: [Jfly] エンハンサートラップに関する初歩的質問
X-Priority: 3
MIME-Version: 1.0
Reply-To: jflyアットマークnibb.ac.jp
Sender: itokeiアットマークnibb.ac.jp
To: jflyアットマークnibb.ac.jp

京都工繊大の松林です。お呼びでないですが

> 3.Y染色体にP因子は転移するのでしょうか?

転移します。
ただし伊藤氏が書かれているようにY染色体は全体が不活性なヘテロクロマチンのた
め転移する頻度は低いかも知れません(sprematocyteでは活発に発現していますが)。
しかし一番の問題点はたとえ転移してもマーカーであるwなりryの発現がPosition effect
により抑えられてしまい転移の事実を識別できないということの様です。
以前SpradlingのグループがY染色体上の様々な位置にPを飛ばした報告を出していま
す。その時はPosition effectを抑えるためにエクストラなY染色体を持たせ転移を起
こさせていました。


===================================
Date: Wed, 16 Feb 2000 13:03:24 +0900
From: Hiroshi Matsubayashi
Subject: [Jfly] エンハンサートラップに関する初歩的質問

京都工芸繊維大学の松林です。

 参照した論文は Zhang and Spradling, Insertional mutagenesis of Drosophila
heterochromatin with single P elements. PNAS, 91:3593-3543(1994) です。先の
投稿の時はろくに論文を見返さず書いたので間違えがありました。良く読んでみると
dysgenicなXYの通常な雄に(X染色体上にPZを乗せている)、attatched Xの雌を交配
して次世代のXXYの雌で転移を検出しています。つまり、転移が起こる個体はエクス
トラのYを持っているわけではなく吉原さんが指摘したように”転移を起こさせた後
で、「エクスト
ラなY染色体」にしてマーカーが発現されやすくような実験”を行っているようです。
この場合496の転移のうち3つのY染色体への転移7つのautosomeのヘテロクロマチン
への転移を起こしています(10/496=2%)。またこれれら10系統のPZは全てエクスト
ラYを除くとry-になってしまうようです。一方、通常の転移を起こさせた場合Yお
よび他の染色体のヘテロクロマチンへの転移は24/7825=0.3%という数字が引用されて
います。また同じ論文の中で、由来は深く書いてありませんがエクストラYを持って
も持たなくてもry-なY染色体へのPZ挿入系統を用いて、同染色体へのlocal transposition
も効率よく行えることを示しています。
 以上のことからY染色体上(ヘテロクロマチン)ではマーカーの発現が低下するた
め転位の検出効率が低下するのは間違えないと思います。また”通常の状態でもdetect
される、低いYへの転移頻度”については手持ちの論文からは見つかりませんでした。
Y染色体は経験無いのですが常染色体のヘテロクロマチン領域への挿入系統では強い
position effect variegationのため個眼のほんの一部のみ色が付く(マーカーとし
てwを用いた場合)様な系統はまれに取れることはあります。


===================================
Date: Mon, 21 Feb 2000 11:31:27 +0900
From: Moto Yoshihara
Subject: [Jfly] エンハンサートラップに関する初歩的質問

群馬大行動研の吉原です。

仁田坂さん、松林さん、どうもありがとうございました。勉強になりました。

ついでに、この間から毎日気になってしょうがないので、もう一つだけ初歩的な疑問
にどなたか答えていただけないでしょうか?

「heterochromatin部に挿入した配列は、やはり唾線でpolytene化されないのでしょ
うか?また、chromosomal in situではdetectされないのでしょうか?」

P因子挿入の場合にかぎらず、例えば、古典的なposition effect variegationがおこ
るような場合も、heterochromatin領域の変動に伴い、唾線の細胞によっては、ある
細胞では着目したマーカー遺伝子を含む領域がpolytene化されたり、別の細胞では
polytene化されなかったりというようなことがおこるのでしょうか?

松林さんのおっしゃる、
> Y染色体は経験無いのですが常染色体のヘテロクロマチン領域への挿入系統では強い
> position effect variegationのため個眼のほんの一部のみ色が付く(マーカーとし
> てwを用いた場合)様な系統はまれに取れることはあります。
のような場合も、唾線はどうなってるんでしょうね?

入試などいろいろ慌ただしい時期に恐縮ですが、是非ご教示お願いします。

****************************************
Motojiro Yoshihara, Ph.D.
Institute for Behavioral Sciences
Gunma University School of Medicine
Showa-machi, Maebashi, Gunma 371-8511, JAPAN

My affiliation will be changed
at the beginning of April, 2000 to:
The Center for Learning and Memory at MIT
77 Massachusetts Ave
Cambridge, MA 02139, USA
****************************************


===================================
Date: Mon, 21 Feb 2000 18:08:57 +0900
From: Hiroshi Matsubayashi
Subject: [Jfly] エンハンサートラップに関する初歩的質問

京都工繊大松林です。

> 「heterochromatin部に挿入した配列は、やはり唾線でpolytene化されないのでしょ
> うか?また、chromosomal in situではdetectされないのでしょうか?」

 唾腺組織のDNAを取ってきてサザンをやると多くの場合様々な程度polytene化の程
度が低下しているようです(例えば、Karpen and Spradling (1990) Cell 63: 97-107,
Wallrath et al. (1996) Chromosoma 104: 519-527)。唾腺へのin situでは染色体の
根本クロモセンターとの境界部ににシクナルが検出されることが多いようです(見え
ないこともあるようですが)。私の経験でも(1系統だけですが)シグナルはでまし
た。

> P因子挿入の場合にかぎらず、例えば、古典的なposition effect variegationがお

> るような場合も、heterochromatin領域の変動に伴い、唾線の細胞によっては、あ

> 細胞では着目したマーカー遺伝子を含む領域がpolytene化されたり、別の細胞では
> polytene化されなかったりというようなことがおこるのでしょうか?

 手元に論文がないので詳しくは分かりませんが、この手の仕事は古くからあるよう
に思います。古典的なw mottled 等を用いてその唾腺を観察するような仕事です。結
論としては細胞ごとにpolytene化されてたりされてなかったりするように記憶してい
ます。

> 松林さんのおっしゃる、
> > Y染色体は経験無いのですが常染色体のヘテロクロマチン領域への挿入系統では
強い
> > position effect variegationのため個眼のほんの一部のみ色が付く(マーカー
とし
> > てwを用いた場合)様な系統はまれに取れることはあります。
> のような場合も、唾線はどうなってるんでしょうね?

  多くの体細胞はpolytene化していることを考えると、唾腺でどうなっているかと
いう問題はより普遍的な現象のモデルとして興味深い物です。PEVが何故起こるかと
いうことについて、古典的な考えではクロマチン構造が遺伝子発現に影響するという
考えが主流なのですが(いわゆるヘテロクロマチン化)、Spradling等はgene copy数
の under representation(under polytenizationによる) そのものが遺伝子発現の
低下と結びついているという考えを提唱しています(例えばSpradling (1993) Cold
Spring Harbor Symp, Quant. Biol. 59: 585-596)。この論文では、polyten 細胞の
under polytenization を多くの生物で見られるsomatic DNA eliminationや繊毛虫等
で見られる大核の分化等とも共通する現象として捉えていて、その根本にトランスポ
ゾンの関与を示唆しています。事実はともかく非常に野心的な興味深い考えだと思い
ます。


===================================
Date: Mon, 21 Feb 2000 19:51:38 +0900
From: Eiji Nitasaka
Subject: [Jfly] エンハンサートラップに関する初歩的質問

>「heterochromatin部に挿入した配列は、やはり唾線でpolytene化されないのでしょ
>うか?また、chromosomal in situではdetectされないのでしょうか?」
>

仁田坂@九大です。私が指名されたわけではないんでしょうが、たまたま
その辺を調べた論文が手元にありました。
Zang and Spradling (1995) Genetics 139, 659-

PZ elment(P[ry+])がY染色体と常染色体のヘテロクロマチンに入った
入った系統を使って、蛍光in situとサザンで唾腺染色体のPZのシグナル
強度とユークロマチンのマーカー強度の比較を行っています。

その結果:ほかの体細胞では正常であるにもかかわらず、3齢幼虫の唾腺では
Y染色体ではPZの増幅がほとんど起こっていない(roryだけでなく、プラスミド
の配列などのシグナルがほとんど検出できない;)。ところが常染色
体ではばらつきはあるものの、唾腺で普通にPZが増幅されているっていうものでし
た。機構などいろいろディスカッションがあります。

ヘテロクロマチンの生成機構を考える上で興味深い論文があります。
Dorer and Henikoff (1994) Cell 77, 993-

P[w+]elementが同じサイトでタンデムにのコピー数を増やすにつれて
PEVが眼色に起こっていくというものですが、結局反復配列が多数あること
でペアリングをおこし染色体の2次構造が形成され、ヘテロクロマチン化
するという仮説です。動原体付近にはトランスポゾンなど反復配列が
たくさんたまっているのですが、これは組換え率が低いため組換えで
除かれないからですが、反復配列がたまったからヘテロクロマチン
化としているということでしょうか? なんか説明が悪いですね。
最近のこの辺の研究の進展は追っていませんが、もっと違うことも
わかってきているんでしょうね。


===================================
Date: Tue, 22 Feb 2000 00:08:02 +0900
From: Tomokazu Ohshiro
Subject: [Jfly] エンハンサートラップに関する初歩的質問

タンデムにのコピー数を増やすにつれてPEVが眼色に起こっていく
Cosupression の例のなかにはヘテロクロマチン化によるもの以外に
ひよっとしてRNAi によるものがあるのではないのでしょうか?
Ketting et al., 1999 Cell 99, 133-141のFig.6を見ていてそう思いました。
案外su(var)などの変異体のなかにハエのRNAiに関わる遺伝子座が含まれて
いたりして。。。

そう言えばハエではRNAiに関わる遺伝子座のスクリーニングなんて誰も
やっていないのですかね。

今回の議論とはあんまり関係ない話ですいません。

東北大 加齢研
大城


===================================
Date: Tue, 22 Feb 2000 02:15:45 +0900
From: Eiji Nitasaka
Subject: [Jfly] エンハンサートラップに関する初歩的質問

>タンデムにのコピー数を増やすにつれてPEVが眼色に起こっていく
>Cosupression の例のなかにはヘテロクロマチン化によるもの以外に
>ひよっとしてRNAi によるものがあるのではないのでしょうか?
>Ketting et al., 1999 Cell 99, 133-141のFig.6を見ていてそう思いました。
>案外su(var)などの変異体のなかにハエのRNAiに関わる遺伝子座が含まれて
>いたりして。。。

そうですね。十分その可能性もあると思います。ただ、コピー数が
同じでも染色体にばらついていると割と転写産物の量はコピー
数に比例するのに対して、同じ場所でタンデムにあると明らかに
転写が抑えられるということから染色体のヘテロクロマチン化
というモデルが考えられたようです。

あと、su(var)のなかにヒストンに代わる、ヘテロクロマチンにおける
DNA-binding proteinがあったように思います。他にどんなのが
あったかは調べてません・・・

仁田坂@九大


===================================
Date: Tue, 22 Feb 2000 09:42:56 +0900
From: Moto Yoshihara
Subject: [Jfly] エンハンサートラップに関する初歩的質問

群馬大行動研の吉原です。

仁田坂さん、松林さん、大変詳しいご教示ありがとうございました。
議論が面白くなってきましたので、ちょっと首をつっこませていただきます。

> >タンデムにのコピー数を増やすにつれてPEVが眼色に起こっていく
> >Cosupression の例のなかにはヘテロクロマチン化によるもの以外に
> >ひよっとしてRNAi によるものがあるのではないのでしょうか?
> >Ketting et al., 1999 Cell 99, 133-141のFig.6を見ていてそう思いました。
> >案外su(var)などの変異体のなかにハエのRNAiに関わる遺伝子座が含まれて
> >いたりして。。。
>
> そうですね。十分その可能性もあると思います。ただ、コピー数が
> 同じでも染色体にばらついていると割と転写産物の量はコピー
> 数に比例するのに対して、同じ場所でタンデムにあると明らかに
> 転写が抑えられるということから染色体のヘテロクロマチン化
> というモデルが考えられたようです。
>
> あと、su(var)のなかにヒストンに代わる、ヘテロクロマチンにおける
> DNA-binding proteinがあったように思います。他にどんなのが
> あったかは調べてません・・・

「RNAiでは?」、という大城さんのご意見おもしろいですね。でも、もしRNAiが完全
にtransにはたらくのなら、仁田坂さんのおっしゃる
>コピー数が
> 同じでも染色体にばらついていると割と転写産物の量はコピー
> 数に比例するのに対して、同じ場所でタンデムにあると明らかに
> 転写が抑えられる

という事実とは合わないですが、RNAiはcisに効くということでしょうか?

でも、良く似た遺伝子がgenome上でclusterしていることも多いですから、もしこの
ようなcosuppressionが働くと困らないですかね?

ちょっと専門外でbackgroundの勉強不足のため、ピンぼけな意見かもしれませんが、
もしそうならすみません。

****************************************
Motojiro Yoshihara, Ph.D.
Institute for Behavioral Sciences
Gunma University School of Medicine
Showa-machi, Maebashi, Gunma 371-8511, JAPAN

My affiliation will be changed
at the beginning of April, 2000 to:
The Center for Learning and Memory at MIT
77 Massachusetts Ave
Cambridge, MA 02139, USA
****************************************
===================================

Date: Wed, 23 Feb 2000 19:06:37 +0900
From: Tomokazu Ohshiro
Subject: [Jfly] エンハンサートラップに関する初歩的質問

>「RNAiでは?」、という大城さんのご意見おもしろいですね。でも、もしRNAiが完全
>にtransにはたらくのなら、仁田坂さんのおっしゃる
>>コピー数が
>> 同じでも染色体にばらついていると割と転写産物の量はコピー
>> 数に比例するのに対して、同じ場所でタンデムにあると明らかに
>> 転写が抑えられる
>
>という事実とは合わないですが、RNAiはcisに効くということでしょうか?


トランスポゾンがタンデムにならぶと両隣のトランスポゾンからreadthrough
してきた正逆両方向の転写産物が生じやすくなり、それらがアニールしてdsRNA
ができ、結局supressionがおこりやすくなると考えてもよいのではないでしょうか?
Ketting et al., のdiscussionからそのように想像できます。
ただしそんなことがホントに起こっているかどうかはわかりませんけども。


>でも、良く似た遺伝子がgenome上でclusterしていることも多いですから、もしこの
>ようなcosuppressionが働くと困らないですかね?

プロモーターがしっかりしているかぎり、同一方向に並んでいる遺伝子群なら
そのようなことはないと思います。ただし各遺伝子の向きがバラバラなときも多いの
で、
その場合はたしかに困りますね。

ハエのcosupressionの原因については非転写領域が重要であるとか、Polycomb に
依存しているとか等、クロマチンレベルでの原因を示す確実な証拠があります。
が、NeurosporaでCosupression が起こらない変異体にRNA depenent RNA
polymerase (ひよっとしてnucleaseとしても効く?)の変異体が見つかっているので、
なにかしらRNAを介したpost-transcriptional gene-silencing がcosupressionに関
わっている
のではと期待できます。さらにはRNAiの現象をクロマチンレベルでの現象と
結び付けようとする議論もあります(ホンマかね? TIG. 15, 358-363.1999)。

RNA depenent RNA polymerase なんてまさにウイルスか
トランスポゾンによって持ち込まれた遺伝子みたいなものですよね。
Ketting et al., Tabara et al., などにもdiscussされてましたが、
ウイルス、トランスポゾンの抑制のためにRNAiが進化したと考えるアイディア
は大変面白いと思いました。



東北大 加齢研 
大城