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ショウジョウバエ3倍体の維持や遺伝、attached-X


Date: Tue, 11 Apr 2000 13:20:31 +0900 (JST)
From: fukatsuアットマークnibh.go.jp (Takema Fukatsu)
Subject: [Jfly] Triploid fly

J-fly readers 各位

深津武馬@工業技術院・生命工学工業技術研究所です

ハエの勉強を始めたばかりなのですが、わからないことばかりで・・・。

(1)ショウジョウバエの3倍体の維持や遺伝はどうなっているのでしょうか

「ショウジョウバエの発生遺伝学」日本分子生物学会編(堀田・岡田編集)p.17
9〜には

三倍体のハエXXX3Aは雌であり、これと通常の雄(XY2A)を交配する。三倍体雌の減
数分裂では各染色体の分離がさまざまになり、受精卵の大部分は染色体異常(異数体
)となって生存できない。しかし常染色体について二倍体あるいは三倍体になれば、
性染色体の数がかなり変動しても生存できる。

これは一体どういう状況なのでしょうか。こういう交配ですべての常染色体がうまい
こと2nや3nになる確率はえらく低いような気がするのですが。こんな3倍体を維
持していくテクニックがなにかあるのでしょうか。

(2)attached-X(X^X), attached-XY(X^Y)について

こいつらが関わる遺伝と表現型を考えるとわけわからなくなるのですが、

X^X/ Yは雌でいいのですよね。ではX^X/ Xは?致死として扱っている文献もあります
が、明らかにtriple Xを実験に用いている論文(Sakaguchi & Poulson 1963 Genetic
s 48:841)もあります。Y/ Yは致死でいいのですよね。

X^Y/ Xは雌でいいのですか?ではX^Y/ Yは?

常識かもしれませんが、御教示いただければ幸いです。

深津 武馬

通商産業省 工業技術院 生命工学工業技術研究所
生物反応工学部 生物化学工学研究室 主任研究官 
昆虫寄生共生微生物グループリーダー
〒305-8566 茨城県つくば市東1−1
E-mail: fukatsuアットマークnibh.go.jp
Tel. 0298-61-6087 Fax. 0298-61-6080


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Date: Tue, 11 Apr 2000 16:37:45 +0900
From: fuyama-yoshiakiアットマークc.metro-u.ac.jp (Yoshiaki FUYAMA)
Subject: [Jfly] Triploid fly

深津様

At 13:20 04/11/00 +0900, Takema Fukatsu wrote:

>(1)ショウジョウバエの3倍体の維持や遺伝はどうなっているのでしょうか

幸いショウジョウバエの染色体数は少ないので、3倍体の雌を2倍体の雄と
交配すると、ある程度の確率で3倍体の雌が出現します。3倍体雌は妊性が
低いし、雄はいませんので、系統として維持するのは結構大変ですが、不可
能というわけではありません。しかし、現在、系統として維持しているとこ
ろはおそらくないと思います。

3倍体を作るにはいくつかの方法があります。compound autosomeといわれ
る常染色体の腕が2本付着した系統を用いる方法や、染色体不分離を多発す
る減数分裂突然変異を用いる方法などが伝統的なものです。

もっとも能率よく3倍体が得られるのは、単為生殖系統gyn-F9を用いる方法
だと思います。この系統の雌に、ふつうの2倍体雄を交配すると、子供の
20〜30%は3倍体になります。gyn-F9は、私が見つけたものですが、結
構需要があるらしく、現在はBloomingtonのストックセンターにも置いてあり
ます。という次第で、必要があればいつでも簡単に作れますので、昔のよう
に苦労して3倍体系統を維持する必要はないのです。

>(2)attached-X(X^X), attached-XY(X^Y)について

triplo-Xは完全な致死ではなく、よい条件で育てるとごくわずかですが出現
します。3倍体系統やatached-X系統などを利用して、比較的多量に作るこ
とも可能です。Y/ Yはおっしゃるとおり致死です。

>X^Y/ Xは雌でいいのですか?ではX^Y/ Yは?

X^Y/ Xは雌です。また、X^Y/ Yは雄です。いずれも正常に妊性があります。

お役に立てれば幸いです。



--
布 山 喜 章 : 東京都立大学大学院理学研究科生物学教室
Yoshiaki FUYAMA : Dept. of Biology, Tokyo Metropolitan University
     e-mail : fuyama-yoshiakiアットマークc.metro-u.ac.jp


Date: Wed, 12 Apr 2000 12:10:36 +0900 (JST)
From: fukatsuアットマークnibh.go.jp (Takema Fukatsu)
Subject: [Jfly] Parthenogenetic fly?

布山様

御教示どうもありがとうございました。

>もっとも能率よく3倍体が得られるのは、単為生殖系統gyn-F9を用いる方法
>だと思います。この系統の雌に、ふつうの2倍体雄を交配すると、子供の
>20〜30%は3倍体になります。gyn-F9は、私が見つけたものですが、結
>構需要があるらしく、現在はBloomingtonのストックセンターにも置いてあり
>ます。という次第で、必要があればいつでも簡単に作れますので、昔のよう
>に苦労して3倍体系統を維持する必要はないのです。

いや、面白いのがいるんですね。ショウジョウバエはすごいや。ついでに、この単為
生殖系統の遺伝様式というのはどのようなものなのでしょうか。apomictic, endomic
tic, automictic?

深津 武馬

通商産業省 工業技術院 生命工学工業技術研究所
生物反応工学部 生物化学工学研究室 主任研究官 
昆虫寄生共生微生物グループリーダー
〒305-8566 茨城県つくば市東1−1
E-mail: fukatsuアットマークnibh.go.jp
Tel. 0298-61-6087 Fax. 0298-61-6080


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Date: Wed, 12 Apr 2000 13:51:16 +0900
From: fuyama-yoshiakiアットマークc.metro-u.ac.jp (Yoshiaki FUYAMA)
Subject: [Jfly] Parthenogenetic fly?

深津様

At 12:10 04/12/00 +0900, Takema Fukatsu wrote:

>いや、面白いのがいるんですね。ショウジョウバエはすごいや。ついでに、この単為
>生殖系統の遺伝様式というのはどのようなものなのでしょうか。apomictic, endomic
>tic, automictic?

正確に言えば、雌性生殖です。つまり、精子を必要とする単為生殖という
ことです。ただし、gyn-F9の場合、ms(3)K81という雄不妊系統の精子で受
精された場合にだけ父なし仔がうまれるので、かなり特殊な雌性生殖では
あります。

gyn-F9では減数分裂はおこりますので、その意味ではautomixisといってい
いと思います。遺伝的には、2つの劣性遺伝子が関与しており、両方とも
ホモ接合の雌が2倍体の卵を作ることがわかっています。また、2倍体卵
が作られる仕組みは、遺伝学的には、いわゆるcentral fusionであること
もわかっていますが、それ以上のことはまだわかっていません。

ショウジョウバエでは、雌産単為生殖は10種以上の種で報告されていま
すが、キイロショウジョウバエでは(きわめてラッキーなことに)上記の
例外的なケースを除いてまったく知られていません。つまり、キイロショ
ウジョウバエを1匹みたら、それには必ず両親がいると確信できるのです。
このことはあまり強調されていませんが、少なくとも古典遺伝学の研究材
料としてはきわめて重要なことです。

ついでですが、深津さんが(多分)興味を示されるであろうおまけを一つ。
おもしろいアイデアがありましたらぜひお聞かせください。

話というのは、上に出てきたms(3)K81という不妊突然変異のことです。
この雄は、正常に見える精子を作り、受精してsyngamyまで行くのですが、
その後、雄由来の染色体が選択的に脱落してしまうために、半数体胚の発
生をきたし、胚は孵化前に死んでしまいます。このことから、雄親由来の
染色体は何らかのインプリンティングを受けていると考えられますが、
ショウジョウバエではきわめてまれな'paternal effect mutation'の一つ
です。

で、私がおもしろがっているのは、ms(3)K81精子で受精された卵の発生異
常が、Wolbachiaによるcytoplasmic incompatibilityのそれときわめて似
ていることです。おそらく、Wolbachiaによるインプリンティングとなんら
かの共通点を持っているのではないかと想像しています。そう考えると、
Wolbachiaがさまざまな生物で単為生殖を誘発していることも理解できます。

以前に、D. simulansのWolbachia感染系統の卵がms(3)K81による胚致死を
救済できるのではないかと試したことがあるのですが、結果はネガティブ
でした。しかし、Wolbachiaにもいろんな系統があるので、可能性は完全に
否定されたわけではないと思っています。

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布 山 喜 章 : 東京都立大学大学院理学研究科生物学教室
Yoshiaki FUYAMA : Dept. of Biology, Tokyo Metropolitan University
     e-mail : fuyama-yoshiakiアットマークc.metro-u.ac.jp