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ハエの学習異常の表現型とエサの影響


Date: Thu, 29 Mar 2001 11:41:02 +0900
From: Akira Komatsu
Subject: [Jfly] 学習異常とエサ

インジェクション用シリコンオイルから話題が変わります。

> Martin Heisenberg のラボの人が中国でハエの学習実験を指導するた
> めに、ドイツから学習異常の突然変異系統一式を携えて半年間だか中国
> の大学に滞在し、学習アッセイをやってみせたら、エサのレシピも全部
> 同じに揃えたのに、ハエがちゃんと学習してしまって、学習異常の表現
> 型が全然出ない。困ったあげく、エサの原料を全部ドイツのいつものス
> トックを送ってもらって、それでエサを作ってハエを育てたら、やっと
> 学習異常の表現型を示してくれた。どうもドイツの食材に比べ、中華の
> 食材は頭の健康に良すぎるらしい?? なんて話も聞いたことがありま
> す。
>
> いとうκ

Tim Tully のところでは学習成績を上げるためにエサを工夫していて、同じ条件で学
習異常も調べていると聞きました。逆に学習異常がエサで直ってしまうのであれば、
学習異常の突然変異って何なのか分からなくなる危険がありそうです。突然変異によ
ってはエサの特定の成分が効いている可能性はあるでしょうが...。学習異常の突然
変異系統一式ってどんな系統なのですか?

小松


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小松 明
東京女子医科大学・医学部・第一生理
郵便番号:162-8666
東京都新宿区河田町8−1
電話:03-3353-8111 ext.22322, 22323
FAX: 03-5269-7413
e-mail: akomatsuアットマークresearch.twmu.ac.jp
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Date: Thu, 29 Mar 2001 12:38:42 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] 学習異常とエサ

At 11:41 AM +0900 2001.3.29, Akira Komatsu wrote:
> 習異常も調べていると聞きました。逆に学習異常がエサで直ってしまうのであれば、
> 学習異常の突然変異って何なのか分からなくなる危険がありそうです。

まあ学習異常というと、エサだけでなく、季節によってラーニング
スコアが変わるとか、テクニシャンが変わると実験が再現できない
とか、ジェネティックバックグラウンド変えると全然結果が変わる
とか、いろいろな話を聞きます。ジェネティックバックグランドに
関しては、

de Belle, J. S., and Heisenberg, M. (1996).
Expression of Drosophila mushroom body mutations in alternative
genetic backgrounds: a case study of the mushroom body miniature
gene (mbm).
Proc Natl Acad Sci U S A 93, 9875-80.

という論文があります。これは学習だけでなく脳構造の変異も、バッ
クグランドで変わりうるという内容ですが。

また、A,B 2つの匂いを嗅がせながら一方では電気ショックを与え、
一方では与えないという訓練をしてから、ハエをT型迷路に移して
2つの匂いを嗅がせ、どちらにの匂いの方へ行くかを調べる実験で
は、突然変異によって結果が悪かった場合、「匂いと電気ショック
の相関を学習できなくなった」と解釈するのでなく、「電気ショッ
クによってパニックに陥いりやすくなる、あるいはパニックに陥っ
てから回復しにくくなる」と解釈できなくもない、という考え方も
あります。パニックになれば、2つの匂いを冷静にかぎ分けること
は難しい。じっさい論文にはなってませんが、パニックへの陥りや
すさは 学習異常の変異系統によって差があるという話もどこかの学
会で出てました。入試でも、「勉強ができない」人と「勉強できる
けどあがりやすい」人とは、試験の点数だけでは区別できないわけ
で。。。

因果関係が比較的明白に解析できる初期発生の致死突然変異なんか
に比べると、まさに、「学習異常の突然変異って何なのか分からな
い」と考えた方が正しいと思います。そのことを意識しながら、な
おかつ現在の技術的・知識的限界のなかでどこまで科学的に意味が
ある実験を組み立て、解釈を考えてゆくかを厳しく突き詰めてゆく
ことが、とくに学習を含む行動実験の場合には大切そうですね。

いとうκ