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gene trap を使った遺伝子ノックアウト法


From: Hirotaka Kanuka
Date: Mon, 14 May 2001 22:55:43 +0900
Subject: [Jfly] P{GT1}

Jflyの皆様:

今年の春あたりから、データベースにRubin研の名前でP{GT1}というP挿入系統のinverse PCRのデータが順次載せられています(現在約160系統)。いつもながら新しいP系統の情報をバシバシ公開してくれて、ますますカリフォルニアに足向けて寝られない今日この頃です。このpGT1というベクター、おそらくこの文献のものと思われるのですが(Lukacsovich T. et al., Dual-Tagging Gene Trap of Novel Genes in Drosophila melanogaster. Genetics. 157(2):727-742, 2001)、とすると非常に精度の高いエクソントラップ系統ということになります。

この論文↑、僕も読んで非常に感銘を受けたのですが、実はもうこのP{GT1}系統が遺伝子潰しの主流となりつつあるのでしょうか? もう既にお試しの方がいらっしゃいましたら、「これはスゲーよ」etcご意見伺えれば幸いです。
(ハエの業界は流れが速いので、自分だけ取り残されないか不安なのが本音)

嘉糠

嘉糠洋陸
kanukaアットマークbrain.riken.go.jp
理研・細胞修復(三浦チーム)


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Date: Tue, 15 May 2001 09:36:19 +0000
Subject: [Jfly] P{GT1}
From: "Daisuke Yamamoto"

Dear All,
早稲田の山元です。Dual tagging Gene Trapはうちで開発したものなので、自分で
「スゲーよ」とは言えませんが、これまでのenhancer trapの弱点は解決できている
と思います。外国からはかなり引き合いがあり、USAのほかUniversity of Cambridge
でpublic stockをこのベクターで作成中です。1000ラインのオーダーで今後publicly
availableになってゆく予定です。
山元大輔


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Date: Wed, 16 May 2001 01:07:38 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] P{GT1}

At 10:55 PM +0900 01.5.14, Hirotaka Kanuka wrote:

> この論文↑、僕も読んで非常に感銘を受けたのですが、実はもうこのP{GT1}系統
> が遺伝子潰しの主流となりつつあるのでしょうか? もう既にお試しの方がいらっ
> しゃいましたら、「これはスゲーよ」etcご意見伺えれば幸いです。

山元さんのメールにもあるように、エンハンサートラップはエンハンサーという
相当長距離に働く転写活性調節領域を利用している都合上、

1:トランスポゾン挿入によって影響を受ける遺伝子が、挿入部位からかなり離
  れていることがある。場合によっては、近傍の遺伝子をひとつ飛ばして、そ
  の向こうの遺伝子だったりする。イントロンの中に飛び込んでいるのに、そ
  の遺伝子でなく隣の遺伝子に影響している場合さえあるかも。

2:同様に、発現パターンも、いちばん近傍の遺伝子でなく、より遠い遺伝子や、
  ひとつ飛ばしてその向こうの遺伝子のパターンをミミックしていたりする。

3:遺伝子の発現は、非常に大ざっぱに言うとエンハンサー、プロモーター、ス
  プライシングの3段階で制御されていると言ってよいと思いますが、エンハ
  ンサートラップは一番大まかなエンハンサーの制御しか検出しないので、in
  situ などで調べた実際の遺伝子発現とは、かなり異なる場合もある。(むし
  ろ、エンハンサーしか検出していない割には、発現と適合している場合が結
  構多いのが驚き、と考えるべきかも。)

などの問題がありますが、ジーントラップだと、これらは非常に改善されます。
挿入部位にある遺伝子をつぶしている可能性は、エンハンサートラップに比べて
はるかに高いですし、発現パターンも、スプライシングで何種類もの発現パター
ンが出る場合を除き、実際の遺伝子とかなり似ていると思います。

もっとも、マウスなどのジーントラップでたまに起こる、挿入された部位が遺伝
子の後ろの方だった場合はオリジナルのタンパクの後ろに GAL4 がくっついた
fusion になるだけで、タンパクの活性は損なわれず、表現型が出ないことがあ
る、などという事態は、ハエのジーントラップでも同様に起きると思います。
ジーントラップ配列が挿入されていればかならず遺伝子がノックアウトされてい
ると即断せず、発現量やタンパクの活性などを自分で確かめることが大事でしょ
う。

ジーントラップの難点は、系統を作るときの歩留まりがエンハンサートラップよ
りは低いことです。ただ、遺伝子領域に挿入されなかったハエがすぐ分かるよう、
マーカーがうまく工夫されていますから、ちゃんと挿入のあるハエを選ぶのはべ
らぼうに大変な作業ではなく、ちょっと気合いを入れれば、1つの研究室でもあ
る程度の規模で実現できる作業だと思います。もちろん、public に出た系統を
もらってくるのが一番ラクなのは、言うまでもありませんけど。

ジーントラップ系統コレクションを大規模に作って提供する試みは、山元さんの
ところで現在行なわれていないのであれば、日本ではやっていないと思います。
2年前の冬に、生命研の上田さんと東大の西郷さんのオーガナイズで、日本で今
後どんなゲノム関連プロジェクトをやるといいか、集まって話し合ったことがあ
りましたが、イギリスやアメリカでジーントラップやエンハンサートラップの系
統作成を大規模に行なうという情報があったということもあり、GAL4 系統をこ
れ以上作るのは、もういいだろう、という話の雰囲気になりました。それよりも
UAS による遺伝子強制発現系の充実を図った方がいいのではないか、ということ
で、EP とは異なる特性を持つ相垣さんの GS (gene search) 系統への支持が多く、
その後相垣さんの御努力で着々と系統作成が進み、さまざまな方が共同研究でス
クリーニングをされてます。

もう一つ話に出たのは、完全長の cDNA コレクションを作成して片端から UAS
につなげて形質転換系統を作り、任意の遺伝子について UAS-cDNA 系統が手に
入るようにしよう、という案でしたが、これは手間が膨大なわりに、それ無しで
は実現不可能な利用価値がどこまであるか、という問題をその後いろいろと吟味
した結果、けっきょく本格的にはやらないことになったと記憶しています。RNAi
に使ったり in situ のプローブに使ったりするという目的には、完全長はむしろ
それほど必要でなく、GS 系統や EP 系統が充実すれば、UAS-cDNA 系統コレク
ションの存在意義は薄れてしまうので。

2年前のショウジョウバエ研究会でアナウンスしたきり追加情報が出ない日本の
GAL4 エンハンサートラップ系統の公開はどうした?という疑問もおありのこと
と思います。遺伝研の林さんと後藤さんの大変なご尽力で、GAL4 挿入隣接領域
のシーケンスとゲノムへのマッピングはほぼ終了していて、同一 locus に入った
ものを整理すると、だいたい 2000 系統以上くらいにはなりそうです。整理の作
業はこれからで、整理がつきしだい一般公開する算段をしています。が、これだ
けの数の系統を1つの研究室で内部用に維持するのと、広く一般に(=世界中に)
系統分与する態勢を構築するのとはかなり別問題で、どこの研究室で、どのよう
な形で分与体制を作れるかが、まだうまく確定していません。たいへん遅れてい
て申し訳ありませんが、もうしばらくお待ちいただけますと幸いです。

いとうκ


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Date: Wed, 16 May 2001 09:11:12 +0900
From: Toshiro Aigaki
Subject: [Jfly] P{GT1}

相垣@Gene Search です.

P{GT1}の利点はcoding regionに飛び込んだものを選択できるということだとおもい
ます.それと,ひょっとしたらこれまでのPとはinsertion site のpreferenceが違う
かもしれないという期待です.
ちょっとした問題点は(違ったら指摘して下さい,大輔さん),w+の発現は遺伝子の
trailaer sequenceの付加に依存することになっていますが,本物の遺伝子でなくて
もこのシグナルは結構でてくるとおもわれます.GSで強制転写産物を解析すると,あ
きらかに何の意味もない配列,例えば遺伝子の上流側に走ってもポリAがついたもの
ができます.したがって,w+が発現しても必ずしも遺伝子トラップしてない可能性は
あります.もちろん,luciferaseでGAL4の発現をモニターすれば別です.しかし,ゲ
ノムにきちっとマップされるものであれば,遺伝子をトラップしてなくても有用な材
料になりえます.Pは染色体の場所によって挿入される頻度が違うのはよく知られて
ますが,いずれにせよ確率の問題ですから,できるだけたくさんラインをつくる,し
かも構造の違ったPを飛ばすのは有意義です.

ところで,GS系統は20,000系統作成する計画です.遺伝研の林さんと協力して,全て
mappingします.計画の内容と系統の利用については,8月の研究会でアナウンスす
る予定です.乞う御期待.
相垣敏郎


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Date: Wed, 16 May 2001 10:41:29 +0000
Subject: [Jfly] P{GT1}
From: "Daisuke Yamamoto"


早稲田の山元です。相垣さんの指摘、
> ができます.したがって,w+が発現しても必ずしも遺伝子トラップしてない可能性は
> あります.もちろん,luciferaseでGAL4の発現をモニターすれば別です.
は実際にある筈と思います。我々は同時にGAL4発現を見ているのでこれまでに調べた
系統は全てgeneをtrapしていましたが。別のラボでGal4発現のない赤眼のgene-trap
lineについてmolecularに調べたところ(というのは行動スクリーニングでphenotype
があったので調べたのですが)、P{GT1}は何れも本命の遺伝子のすぐ5'側に入ってい
てスカは今のところ一つもないですが、それには理由があるわけです。繰り返し
になりますが、私たちはGAL4発現を同時にモニターしている。もう一つのグループ
はphenotypeを見ている。つまり、眼の色が濃いというだけの系統はどこにPがはいっ
たかを調べていない、と言うことです。もっとも印象としては眼の色だけでも高率
にsuccessful trapping eventsを回収できると感じてはいます。我々のデータから言
うと(Lukacsovich et al, Genetics 157,727, Fig 4 B)、眼がgrade4の濃い赤眼
でGAL4発現が見えなかったのは10%しかありません。上の例からわかるよう
にluciferaseによってGal4発現が検出できなくてもtrapしているケースがそのうちか
なりの割合を占める筈なので、外れは多くとも数%と見積もられます。
山元大輔

--
Daisuke YAMAMOTO, Ph.D.
Professor of Genetics
School of Human Sciences
Waseda University
2-579-15 Mikajima, Tokorozawa,
Saitama 359-1192
Japan
Phone: +81-42-947-6731
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