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ショウジョウバエ研究と生命倫理
Date: Mon, 9 Jul 2001 22:56:21 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] ハエと倫理?
(若) 年寄りの繰り言ですので、「また、いつものごとく五月蠅いなぁ」
と思われる方は、気にせず読み飛ばして下さいませ・・・。
いま、京都で行なわれている国際発生生物学会というのに来ています。
そのなかで、Bioethics in stem cell medicine というセッションが
ありました。他に同時進行のパラレルセッションがない夕食の時間帯に
お弁当提供で行なわれたもので、ヒト胚性幹細胞 (ES) を用いた研究と
生命倫理との兼ね合いに関し、科学者は今後どうしてゆくべきだろうか
という問題について、日本と英国の実状報告とそれにもとづくフリーディ
スカッションをするという趣旨でした。(結局前半の報告が長引いて、
フリートークの時間はほとんどなくなってしまったのですが。)
で、国際発生生物学会といっても、極東の日本までわざわざやってくる
外国人参加者は残念ながら非常に多いわけではなく、どのセッションで
も聴衆の8割くらいが日本人で、そこに外国人がちらほら、というのが
各会場の普通の光景なのですが、この Bioethics のセッションだけは、
会場に入ってびっくり、半分以上が外国人なのです。ここだけは、「国
際学会」の雰囲気が他よりずっと濃い!
要するに、外国人参加者はかなりの割合がこのセッションにも参加して
たのに対して、日本人の学会参加者の大半は参加してなかった、という
ことです。ハエ関係者もご多分に漏れず、学会にはショウジョウバエ研
究会の前夜祭かと思うくらい多くの方がいらしてますが、Bioethics の
セッションでお会いしたのは、片手の指の数以下。
もちろん、学会というのはいろいろな人とロビーで話し込んだり食事に
出かけたりして交流と情報交換を行なうのが大きな目的ですし、長丁場
の超過密スケジュールのなか、たかだか1つのセッションに来た人は生
命倫理に関心がある「偉い」人、来なかった人は悪い人、みたいな下ら
ない単純化をするつもりは、毛頭ありません。外国人も、わざわざ地の
果て日本で開かれる学会までやってくるような人は、色々なことに関心
や好奇心が高く、しかもお互い知り合いが少ないからセッションに参加
する以外にやることがない、外に食事に行くのも言葉が通じないから大
変だ、などいろいろな点でバイアスのかかった集団になっていたでしょ
うから、それぞれのお国の科学者の平均像を反映しているとは思いませ
ん。ただ、こういう重要な問題についてのセッションで、外国人がこん
なに集まるのに日本人の参加がこんなにも少ないのは、何だかなぁ、と、
つい思ってしまうわけです。
1:
日本だと、医学だろうが理学だろうが、研究者養成の過程で科学と社会
的倫理についてセミナーや講義を受ける機会は、皆無に等しいのが現状
です。倫理というと、大学入試のときにソクラテスやブッダの教えを丸
暗記して以来、まったくご無沙汰、ということが多いと思います。しか
し我々科学者の研究活動そのものが、倫理に関する従来なかった新しい
難しい問題を、続々と人類に突きつける「元凶」になっている実情を考
えると、科学者養成の過程で、いまのように倫理の問題は各自の自覚に
任せたままという状態を続けていくのは、やはりさすがにまずいのでは
ないでしょうか?
2:
サルやマウスを使った実験に比べ、ハエは殺すのがあまり苦になりませ
ん。毎日大量のハエを、「自分の掛け合わせには不要だ」という理由だ
けでアルコールに放り込み、古くなった飼育ビンのハエを生きたまま電
子レンジやオートクレーブで煮殺したり、フリーザーで凍死させたり。
仕方ないことではあるのですが、尊い生命を科学研究のために犠牲にさ
せていただいているという敬虔な意識が、こういうことをやっているう
ちにともすれば薄くなってしまってる自分に気付いて、愕然とすること
があります。どれだけのハエを研究のために犠牲にするのか、実験に使っ
たハエをどのように処理するのかといった問題は、ハエを科学研究に用
いることが人類の福利に及ぼす貢献と、動物愛護の精神のバランスをい
ろいろ勘案した結果、いま一般的になっているような方法に落ち着いて
いるわけです。しかし新たにハエの研究室に入ってきた若い方などには、
大量の生命を当然のようにボンボン殺すやり方を見て、はじめは少し面
食らった人もおられるのではないでしょうか?その気持ちは大切だと思
います。逆に、たくさんのハエを殺すことを何とも思わなかった方は、
ちょっと考えていただければ少し嬉しいです。
3:
ヒトの遺伝子治療とか ES 細胞とかいうと、「自分はハエだから、基礎
科学だから、まあ関係ないや」とつい思ってしまうことがあります。で
も一方では、「モデル生物であるショウジョウバエは、遺伝子や発生過
程の基本原理がヒトなどとほとんど共通だから、ハエで得られた知見は
そのまま人類自身を理解する早道になる」などといって、ポストを得た
り研究費をいただいたりしているわけです。「台所の三角コーナーにわ
く迷惑な小さなムシ」を細かく調べることに、大不況の中これだけの国
民の税金を使わせていただいているのには、その成果が国民の何かの役
に立つだろうという期待があるからでしょう。ポストやお金を貰うとき
だけ「自分たちの研究はヒトに関係ある」と言い、生命倫理などややこ
しい問題に関しては「自分の研究はヒトとは関係ない」と逃げるのは、
やはりちょっと卑怯かな、と反省しました。ハエの研究者だろうが医学
研究者だろうが、社会から見たら同じ生命科学者なわけで、それにとも
なう社会的責任は、引き受けざるを得ないでしょう。生命倫理の難しい
問題も、学術審議会の委員をなさっているような偉い名誉教授から大学
院に入りたての学生まで、各自がそれなりの立場で、何がどういう動き
になっているのか一応はフォローして、聞かれたら自分自身の情勢判断
と自分の意見をきちんと言えるようにしておくことも大切なのかな、な
どと考えたりしました。
私も「生命倫理問題に関する科学者の社会的責任」などを日頃から考え
ているわけでは全くなく、「先着250名様お弁当無料配布」に誘引され
てこの Bioethics のセッションに参加したクチですので、偉いことは
全然言えないのですが、でも、このセッションが終わったあと「普通の
サイエンスのセッション」の会場へ移動したら、こちらは打って変わっ
て日本人が山のように居て外国人がちらほら、という状況をみて、ちょっ
と残念で、いろいろ考えてしまいました。
お騒がせしました・・・。
いとうκ
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From: "Koyama Yumi"
Subject: [Jfly] RE: [Jfly] ハエと倫理?
Date: Fri, 13 Jul 2001 15:47:26 +0900
日本大学の小山と言います。
院生時代にショウジョウバエをかじった時からJflyに参加させていただいています。
今はカエルを対象に実験をしていますが、続けてJflyを愛読させていただいておりま
す。
さて、倫理観の問題についてですが、いとう様の言われている内容を興味深く読ませ
ていただきました。
ちょっと外れてしまうかもしれませんが、私もこの倫理観についてどうしたものかと
他大学の先生に相談したところでしたので、是非議論していただきたいと思い私の考
えを書かせていただきました。
今年の三月に三省合同の「ヒトゲノム・遺伝子解析に関する倫理指針」が告示され、人
のゲノムを扱う研究者はこの指針に沿って研究を進めるようにとおふれがありました
ね。
学生実習で頬の粘膜から遺伝子を抽出してSNP解析する何ていう気軽なものも、きち
んとした手続きを踏まないと、あとあと大変なことになるんだなあと思いました。
だからといって倫理指針にのっとって研究や実習にあたれと言われても、当研究室の
ボスだって困惑している状態です。
倫理委員会を設置し・・・などと急に言われても誰が音頭を取るの?といった状況で
す。
他大学でも急いで倫理委員会を設置しなくてはと大変な状態らしいです。
この倫理指針には、研究で生き物を犠牲にする哀れみの心や慈悲の心を持たなくちゃ
いかんと言ったことは書いてはありませんでした、常識だからでしょうか。
人のゲノム解析が個人情報の漏洩や悪用につながらないようにとの準備でしょうか。
生き物に対する哀れみにしても、ゲノム解析による他人への間接的な迷惑にしても、
自分が悪いことをしていると感じない人はたくさんいるでしょう。
感じる感じないは個人の性格によるものですよね。
最近ハムスターを使って実験を始めました、炎症が起きて痛々しい姿を見ると本当に
実験をやめてしまいたくなります。
私は自分の身に置き換えて考えがちで、さぞ痛いだろうとか、苦しいだろうとか考え
てしまうのです。
ですからハムスターに出来る限り苦痛を与えず、この実験を丁寧に愛情をかけて行い
早く成功させようと考えています。
まあ、私みたいに感じなくてもいいと思いますが、笑いながら殺したり処置したりす
る気持ちだけは改めて欲しいと思います。
この研究業界って、その分野の研究に抜きん出ていればどんな事でも許されるような
事を話す人も居ますが、この件だけは許さないで欲しいと思います。
このような倫理観をでもどうやって研究者に持ってもらうのかは私にはわかりませ
ん。
研究者がこのような倫理観を絶対に持たなくてはいけないの?なんて言われても、
「持ってないなら研究者を辞めれば」なんて思っていても言えないし・・・。
はっきり言ってショウジョウバエ時代には研究に対して倫理観を持って実験したこと
は全くありませんでした。
顕微鏡下でつぶしたハエを見た時に、ギョッとして気持ち悪いと感じるぐらいでし
た。
動物だとかわいそうだなあと心が痛みますが、逆に愛情も湧いてそれが倫理観を生み
出すような気もします。
だらだらと長々書いてしまいました。
また機会がありましたら倫理の問題を取り上げてください。
ありがとうございました。
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小山 由美
日本大学薬学部臨床薬剤学研究室
пifax)047−465−7216
〒274-8555千葉県船橋市習志野台7-7-1
Koyama Yumi
Department of Biological Pharmaceutical Sciences, College of pharmacy,
NihonUniversity
7-7-1Narashino-dai,Funabashi,Chiba274-8555,Japan
FAX : +81-474-7216
e-mail : kyumi1アットマークpha.nihon-u.ac.jp
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