Jfly ディスカッション


Discussion Menu | Jfly Japanese Home Page | Jfly English Home Page

蛍光消失の早い destabilized EGFP と、DsRed を組み合わせた蛍光タイマー


Date: Tue, 13 Nov 2001 16:17:21 +0100
Subject: [Jfly] destabilized GFP
From: Tomoatsu Ikeya

チューリヒの池谷と申します。

今回、まわりで、使っている人がいないので、お尋ねします。

どなたか、clontech社のdestabilized EGFPを持ったtransgenic flyを作られた方が
おられましたら、うまいことfunctionalなのか教えて下さい。
要点は2点です。

1、蛍光は通常のEGFPと同じくらいなのか。多少暗くてもliveで検出可能なのか。
2、宣伝のとおり、ハエの中でもhalf lifeが2時間くらい?なのか。

ある反応に(一過的に)レスポンスする遺伝子の発現をトレースするのに使ってみた
いと思っているのですが、ハエでdestabilized GFPを使った論文は、ちょっと探した
限りないようなので、お聞きします。

よろしかったら、お知らせください。

--
Tomoatsu Ikeya

Zoological Institute
University of Zurich

Winterthurerstrasse 190
CH-8057 Zurich, Switerland

ikeyaアットマークzool.unizh.ch


**************************************

Date: Wed, 14 Nov 2001 05:57:47 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] destabilized GFP

> どなたか、clontech社のdestabilized EGFPを持ったtransgenic flyを作られた方が
> おられましたら、うまいことfunctionalなのか教えて下さい。

時間の流れるのが遅い(?)幼虫以降しか扱ってないもので、destabilized
EGFP のノウハウはないのですが、他にまだレスポンスがないようなので:

> ある反応に(一過的に)レスポンスする遺伝子の発現をトレースするのに使ってみた
> いと思っているのですが、

当然ご承知と思いますが、この場合 GAL4-UAS はかまさない方が得策だと思
います。GAL4 の発現が始まってからレポーター遺伝子がたくさん発現してく
るまでに数時間程度のタイムラグが出ますし、GAL4 自体の half life がかなり
長いと思われますから、レポーターの発現は、GAL4 の発現とはタイムコース
的にはかなりズレてしまう(発現の立ち上がりもたち下がりも遅れる)ことで
しょう。プロモーターや、転写調節因子の binding site が単離されていて、そ
こに EGFPを fusion させればいい場合は便利そうですね。

いとうκ


**************************************

Date: Tue, 13 Nov 2001 17:46:21 -0500
Subject: [Jfly] destabilized GFP
From: Akiko Satoh


私も、destabilized EGFP のノウハウはありません。
池谷さんの質問に便乗させていただきたくて、メールしています。
Living Colors Fluorescent timer について、似た2点について教えて下さい。
こちらは、DsRed をもとにしているので、多分かなり暗いとおもうのですが。

1、蛍光の強度は、EGFPと比較してどのぐらい弱いのか?
  多少暗くてもliveで検出可能なのか。
2、green -> red にかかる時間は、ハエの中では何時間ぐらいなのか?
  低温にすると、変化が遅くなりそうですし。

これって、本当のところ、ハエで実用可能なのでしょうか?

佐藤明子

Department of Biological Sciences
Lilly Hall
Purdue University
West Lafayette, IN 47907, USA
Phone:765-494-4933


**************************************

Date: Wed, 14 Nov 2001 09:50:18 +0900
From: "NAKAMURA, Akira"
Subject: [Jfly] destabilized GFP

筑波大・中村です.

私たちのグループでは,以前VASA-GFP,VASA-EGFPds2, VASA-EGFPds4をvasa
promoterでdriveさせるラインを作成しました.想定していた実験には適さなかった
ので,詳細の検討はしていませんが,融合タンパク質の挙動については以下のようで
した.

>1、蛍光は通常のEGFPと同じくらいなのか。多少暗くてもliveで検出可能なのか。

卵形成過程において,VASA-EGFPは十二分に明るく,内在性VASAの分布パターンを反
映してくれるのですが,dsのシリーズはGFPシグナルは非常に暗かったです.蛍光顕
微鏡,共焦点顕微鏡下でシグナルを見ることは出来ますが....

>2、宣伝のとおり、ハエの中でもhalf lifeが2時間くらい?なのか。

vasa promoterは基本的にgermlineで恒常的にactiveです.ですからnormalなコンス
トラクトの場合,卵形成過程で融合タンパク質が蓄積するのに対し,destabilized
versionではタンパクが不安定で蓄積されないために暗いのだと思われます.従っ
て,half lifeについては検討いたしておりませんが,destabilized sequenceはハエ
でも機能していると思われます.

あと,EGFPでも蛍光を発するようになるのに2時間ぐらいかかると言われていたはず
ですから,GFP遺伝子の発現から蛍光を検出できるようになっるまでにラグがあるこ
とになります.さらにds2の場合,理論的には蛍光を発するようになる前にタンパク
の半分は分解されていることになります.結局のところ作ってみて,動くかどうか調
べて見るしかないというのが現状でしょうか?

なかむら


**************************************

Date: Wed, 14 Nov 2001 14:44:37 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] destabilized GFP

At 5:46 PM -0500 01.11.13, Akiko Satoh wrote:
> 池谷さんの質問に便乗させていただきたくて、メールしています。
> Living Colors Fluorescent timer について、似た2点について教えて下さい。

Fluorescent timer は“ライバル商品”なもので使ってませんが、ERATO
の皆さまとの共同研究で、最近こんな論文を書かせていただきました(な
ぜか JBC ^_^;)。UAS-GFP と UAS-DsRed を共発現させて、蛍光が出る
時間の差を利用して発現開始の順序を見ようというものです。2つのレポー
ターを入れないと入れないのが不便ですが、ハエの掛け合わせだけで気軽
に試せる点が長所です。

http://www.jbc.org/cgi/reprint/276/32/29621.pdf

この場合ですと、

> 1、蛍光の強度は、EGFPと比較してどのぐらい弱いのか?

上記論文で使っている DsRed S197Y は Vladislav Verkhushaさんが作っ
たもので、単体では Clontech から今春発売された DsRed 2 と同等か、
ちょっと明るいくらいの蛍光を示す改良型です。特許取ろうかと一瞬考え
ましたが、「うちから買った製品を改良して特許を取っちゃダメ」と
Clontech の書類に書いてありました・・・。

で、これを UAS に組み込んだ UAS-DsRed は、上記論文に使った初期バー
ジョンだと、巷に流布している Barry Dickson の UAS-GFP S65T 系統よ
り、3倍くらい暗いです。その後作って、いま transformant をスクリー
ニング中の改良バージョンだと、 UAS-GFP S65T 系統とかなり近いレベ
ルの明るさで蛍光が出るようです。この差は UAS の種類や、レポーター
の挿入部位の違いによるものだと思います。初期バージョンは UAS 部分に、
卵母細胞でもよく発現するという UASP というのを使ってしまったので、
UAST を使っている UAS レポーターとは、発現パターンに若干の違いが
出てしまうことがありました。そこで UAST につなぎ直したのが、改良
バージョンです。

論文の Fig1 見ていただけると分かりますが、DsRed はタンパク産生後、
はじめ弱い緑の蛍光を出し、ついで緑の蛍光が減って赤い蛍光が増えてき
ます。これはタンパクが数段階の過程を経て成熟してくるためと言われて
います。タンパク産生から緑蛍光までの時間は、GFP とほぼ同等です。そ
のあと緑から赤に変わる時間が、かなり長いわけです。突然変異の入れ具
合により、中間段階での緑の蛍光があまり強くないヤツや、とても強いヤ
ツが出来てきます。緑→赤の変化が素早いものは、まだ実用化されていな
いようです。Clontech の DsRed 2 は、従来より3倍早く明るくなると宣
伝されていますが、これはピーク値の蛍光量が3倍多いため、従来と同等
の明るさに達するのに 1/3 の時間で済むという話であって、赤蛍光がピー
クに達するまでの時間やタイムコースは、それ以前のものとほとんど変わ
りません。これは Verkhusha さんの DsRed S197Y も同様です。


>   多少暗くても live で検出可能なのか。

というわけで、赤い光は live で検出可能です。うちでは UAS-DsRed S197Y
transformant 系統の一次スクリーニングは、幼虫の腸や筋肉で発現させ
て蛍光を実体顕微鏡で見ながらやりました。(最終スクリーニングは解剖
した脳で共焦点でやってますが。)

> 2、green -> red にかかる時間は、ハエの中では何時間ぐらいなのか?

上記のハエで GFP の蛍光が検出できるようになってから DsRed の蛍光が
検出できるようになるまでの時間は、eye disc で調べると個眼12列ぶん
位の遅れです。つまり18時間くらいということですね。「蛍光が検出で
きるようになる」というのは、共焦点の場合なら各波長のレーザー強度や
フィルター特性や検出器の感度設定でさまざまに変わってしまうので、あ
くまで「目安」でしか言えません。発現開始からの時間を正確に計るとい
うよりは、どの細胞で先に発現が始まったのか、順序を調べるという程度
の目的の方が確実だと思います。


At 9:50 AM +0900 01.11.14, NAKAMURA, Akira wrote:
> 筑波大・中村です.
...
> とになります.さらにds2の場合,理論的には蛍光を発するようになる前にタンパク
> の半分は分解されていることになります.

蛍光タンパクは、産生後かなりの量が適切な folding に失敗するなどして分
解され、実際に蛍光を発するようになるのは作られた量のごく一部のようで
す。DsRed S197Y が3倍明るいのは、1分子あたりの蛍光が3倍多いわけ
ではなく、1.2倍になっているだけで、そのかわり大腸菌で調べると、産生
される分子の量自体が2.5倍になっていました。そのぶん、「ゴミ捨て場」
である inclusion body へ蓄積される量が減っています。つまり蛍光強度を
増やす工夫として、分子あたりの蛍光量を増やすという方法だけでなく、
分解されにくくするという方法もあるわけです。逆に言えば、わざと分解さ
れやすくした改変型は、それだけ暗くなってしまうということでもあるのか
も知れません。

いずれにせよ、細胞1つを可視化するには、ものすごい数の GFP 分子が必要
です。細胞がラベルされるというのは、それだけの GFP 分子が産生されてい
るということです。もし GFP が 100 分子や 1000 分子しか産生されなかっ
たら、その細胞は恐らく蛍光は検出されないことでしょう。しかし異所発現
実験をした場合、ある種の毒素遺伝子や転写調節因子遺伝子なら、100 分子
や 1000 分子しか産生されない細胞でも、十分な効果を発揮する可能性があ
ります。つまり異所発現実験の場合、「GFP などで強く光った細胞だけで影
響が出ていると考えるのは、トンでもない間違い」ということになります。
しかし、100 分子や 1000 分子の GFP でも十分検出されるようにギンギンに
検出感度を上げたコントロール実験をしたうえで discussion をしているきち
んとした実験例は、あまり見かけませんねぇ。明らかに他にラベルされてる
細胞があるのにそれを無視して興味のある細胞だけの発現の効果を discussion
している論文は、それだけインパクトの強い結論を誘導できるためか、とき
おり見かけるのですが・・・。

いとうκ


**************************************

Date: Wed, 14 Nov 2001 08:54:19 +0100
Subject: [Jfly] destabilized GFP
From: Tomoatsu Ikeya

池谷です。

とても早いレスありがとうございます。やはり、日本人のliving imageの関心の高さ
には、スイスの人も驚くでしょう。国民の趣向性の違いなのでしょうか?

筑波の中村さんの指摘はとても参考になりました。私は、promoter下にdsEGFPをつな
いで、ある刺激に対する発現の変化を記述し、それをスクリーニングの一つの指標に
と、取らぬ狸の、、、を考えていたのですが。vasaの例からいくと、刺激によって、
遺伝子の一過的発現上昇が高く、ある程度、1ー2時間程度、発現が保たれると、変
化を検出できるかもしれないなと、思いました。

伊藤さん、むちゃくちゃ長い2ndレスおそれいります。

>つまり異所発現実験の場合、「GFP などで強く光った細胞だけで影
>響が出ていると考えるのは、トンでもない間違い」ということになります。
>しかし、100 分子や 1000 分子の GFP でも十分検出されるようにギンギンに
>検出感度を上げたコントロール実験をしたうえで discussion をしているきち
>んとした実験例は、あまり見かけませんねぇ。


上記と似たような事は、何とかspesific-Gal4にも言えるのではないでしょうか。しっ
かりとした発現場所の記載もないことがありますし、特にnon-autonomousな効果のあ
るものや、pleiotropicな遺伝子を扱う場合には、着目している器官だけではなく、
もうすこし広い視点をもたないと、2nd effectを見ているのではないかと、気にして
ます。

余談ですが、
それにしても、living colorはこれから、独立法人になる生物系研究団体にとっては、
商品価値があるのでは。以前、GFPやRFPのパッチが入った熱帯魚は売れるとか、GFP
tattooは絶対クラブで流行ると冗談をしたのですが、、、。

Thanks again


**************************************

Date: Wed, 14 Nov 2001 18:06:32 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] destabilized GFP

At 8:54 AM +0100 01.11.14, Tomoatsu Ikeya wrote:
> 池谷です。

> 上記と似たような事は、何とかspesific-Gal4にも言えるのではないでしょうか。

基本的に、何とかGAL4の発現が「specific」と書いてある時点で、その論文
はウソ(というか、安心して信用できない)と思ってまちがいないと私は考え
てます。^^;

> しっかりとした発現場所の記載もないことがありますし、

ハエをもらって試したら、論文に出ている写真のちょっと外側の領域がビカ
ビカ光ってたこともありました。そこでトリミングするなよ、っつうか。 ^_^;

> 特にnon-autonomousな効果のあ
> るものや、pleiotropicな遺伝子を扱う場合には、着目している器官だけではなく、
> もうすこし広い視点をもたないと、2nd effectを見ているのではないかと、気にして
> ます。

これは、まさに重大な問題です。最近これに関しては、日本語の総説でちょっと
触れさせていただきました。(蛋白質核酸酵素・ゲノム特集号・近日発売予定。)

> 商品価値があるのでは。以前、GFPやRFPのパッチが入った熱帯魚は売れるとか、GFP
> tattooは絶対クラブで流行ると冗談をしたのですが、、、。

遺伝研に居られた gcm の細谷さんも、以前そのアイデアを出してました。植物
に入れて生け花に使うとか。(たぶん草月流なら受け入れるのでは、とのことで
す。本当か?)彼は小説の執筆構想も練っていて、ある日、主人公が友人達と生
まれて始めてディスコ(当時はクラブとはいわなかったのです・・・)に行くと、
自分の体が緑に光っているのを発見し、「俺は transgenic だったんだぁ」と気
付くのだそうです。そこに到るストーリー展開の構想が、その後着々と進んでい
るのかどうかは、ご本人にお確かめ下さい。^_^;;

いとうκ

**************************************

Date: Wed, 14 Nov 2001 17:02:38 -0500
Subject: [Jfly] destabilized GFP
From: Akiko Satoh

伊藤さん、詳細な御解説、ありがとうございます。大変、参考になりました。
ハエで promoter activity をみるのなら、clontech の 製品 Fluorescent timer
より、伊藤さんの作成されたハエを用いる方が良さそうですね。

私が興味を持っているのは、Fluorescent timer fusion protein を用いて、新生さ
れてすぐと、合成されてから少し時間がたってからの融合蛋白とを見分けられないだ
ろうかということです。

細胞全体をラベルするのと違って、細胞内の局在部位によっての色の差をみるつもり
です。緑→赤の変化が素早くないと意味がないです。

clontech の Fluorescent timer として売られている DsRed E5 mutant の単離/解
析の論文によると、HEK 293 cell line で発現させた場合、赤色蛍光が緑色蛍光に3ー
8時間程遅れて観察される様です(このグラフの時間を表す横軸、なんか変なのでよ
くわかりませんが)。この早さでハエの中で変化するのであれば、なんとか実用可能
と思えるのですが同時に in vitro での 緑→赤 変化が37度と比べて、50度だ
と著しく早くなることが示されています。これ以上の温度と色変化についての情報は
ありませんが、ハエの飼育温度の20度、25度だと、もっとずっと遅かったりする
のだろうかと思ったのです。

今すぐ実際使ってみようと思っているわけではなく、少し興味を持っていて、どんな
もんだろうかと考えているという感じです。どなたか今後お使いになって、何か情報
を得られたなら、ぜひ教えてください。

どうもありがとうございます。

それにして伊藤さんは、日本に住んでおれるのに、こちらの昼や夕方にもメールされ
ているので、驚きです。でも、ちゃんと、こっちの夜中にも長いメールを送ってたり。


佐藤明子
インディアナ在住


**************************************

Date: Thu, 15 Nov 2001 12:08:25 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] destabilized GFP

At 5:02 PM -0500 01.11.14, Akiko Satoh wrote:

> 私が興味を持っているのは、Fluorescent timer fusion protein を用いて、新生さ
> れてすぐと、合成されてから少し時間がたってからの融合蛋白とを見分けられないだ
> ろうかということです。

これはあんまりお薦めしません。細胞質中の一般的な濃度ではモノマーで存
在する GFP にたいし、DsRed はテトラマーで存在します。融合タンパクにす
ると、そのまた4量体になるので、巨大な分子コンプレックスとなってしま
い、アグリゲーションを起こしたり細胞毒性を持ったりすることがかなりあ
るようです。GFP のほうを融合タンパクにして、DsRed はなるべく単体で使
うのがお薦めです。


> 析の論文によると、HEK 293 cell line で発現させた場合、赤色蛍光が緑色蛍光に3ー
> 8時間程遅れて観察される様です
...
> ありませんが、20度、25度だともっとずっと遅かったりする
> のだろうかと思ったのです。

うちの例だと、EGFP と DsRed S197Y が蛍光ピーク値の半分の蛍光強度に達す
る時間の差は、大腸菌細胞の場合、温度に対して指数関数的に減少し、近似式 
  時間差=238 x exp (4 - t )/8.75 )
になります。(tは摂氏の温度)

18, 21, 25, 28, 37 ℃の場合で、この近似式の計算結果は、
48.1, 34.1, 21.6, 15.3, 5.5 時間になります。

DsRed が緑色蛍光を出すまでは、GFP とほぼ同じタイムコースなので、
Fluorescent timer fusion protein の緑→赤の蛍光変化は、ほぼ上記の GFP
と DsRed の時間差と同じような値になると思います。HEK 293 cell line で、
37 ℃で数時間の3ー8時間の時間差ということは、上記の近似式に大体あっ
ていますから、これを演繹すると、21℃、25℃では 34 時間、22 時間と
いう時間差になってしまいます。細胞内輸送を見るには、ちょっとのんびり
しすぎてますね。

> それにして伊藤さんは、日本に住んでおれるのに、こちらの昼や夕方にもメールされ
> ているので、驚きです。でも、ちゃんと、こっちの夜中にも長いメールを送ってたり。

たぶん period 遺伝子が壊れているんだと思います。^_^;;

いとうκ


**************************************

Date: Thu, 15 Nov 2001 12:51:35 +0900
From: Hideyuki Okano
Subject: [Jfly] [Jfly] destabilized GFP

destabilized GFPの件、私も気になりましたので、ご専門家の理研
BSI宮脇研の永井 健治氏にご意見をいただきました。

以下、永井さんのコメントです。 

すでに昨日から議論が進行しておりますので、一部重複になりますが、
先程の伊藤 啓さんのコメントと相互補完し、ご参考にして下さい。


  (岡野 栄之)

> At 4:17 PM +0100 01.11.13, Tomoatsu Ikeya wrote:
> >なたか、clontech社のdestabilized EGFPを持ったtransgenic flyを作られた方が
> >おられましたら、うまいことfunctionalなのか教えて下さい。
> >要点は2点です。
> >
> >1、蛍光は通常のEGFPと同じくらいなのか。多少暗くてもliveで検出可能なの
か。

’蛍光は’というのは蛍光スペクトルではなく蛍光強度のことをきいていると思いま
すが、
もちろん暗くなります。Liveで検出可能かどうかは使用する検出器に依存します。

これでは返答になっていないのでもう少し詳しく書きますと、

ご存知かとは思いますが、destabilized EGFP(dGFP)はX. Liが開発したもので詳し
くはJBC 273, 34970 に書かれています。dEGFPはEGFPのC末にマウスのオルニチンデ
カルボキシラーゼのPEST配列がフュージョンされており、このPEST配列はユビキチン
化を必要としないタイプのものですが、26Sプロテオソームで分解を受けます
(Nature 360, 597)。従いまして問題はショウジョウバエに同様の経路が存在するか
否かです。この辺りは先ずショウジョウバエの培養細胞を使って検討してみるといい
かもしれません。

GFPを転写活性化のレポーターとして使う場合の注意点がいくつかあります。
1)GFPタンパク質は転写されてから光りだすまでにラグがある。
 一体どのくらいのラグがあるかというと論文によってまちまちで、ある論文では3
0分位で蛍光を観察することが可能であるというのが載っており、それを根拠にプロ
モーター活性のONを十分見ることが可能であるとされています(よく引用されてい
る)。しかしながらその根拠になっている論文の実験方法は大腸菌にIPTGによってド
ライブする発現ベクターに入ったEGFPを導入し、液体カルチャーの対数増殖期にIPTG
を添加して、何分後に蛍光が見られるかというものです。このような実験系ではGFP
そのものの蛍光増加だけでなく、大腸菌の増加つまりプラスミドそのものの増加も加
味しなければなりません。その辺りも考えずIPTGを添加してから30分たったら蛍光
がdetectできたのでGFPはタンパク質に翻訳されてから光りだすまで30分であると
いう結論に達するのはかなり問題があるでしょう。
 またin vitroのタンパク質合成系を用いた実験では蛍光光度計を用いて測定してい
るのですが、タンパク質に翻訳されてから光りだすまで数分というのもあります。し
かしこれも
大大大量にタンパク質を作らせておいてかつ高感度ディテクターであるホトマル(光
電子倍増管)を使い、しかも(これは推測)印加電圧を800ボルトくらいにしてつ
まりゲインを最大付近にして測定している結果であまり当てになりません。
 では本当はどれくらいなのか?特にpracticalにはどれくらいか?HeLaやCHOなどの
mammalianの細胞にTetONやecdysonでドライブする発現ベクターに入ったEGFPを導入
し、誘導をかけ高NAの対物レンズがついた蛍光顕微鏡で観察した場合は大体3-4時間
ほどで見えてきます。蛍光顕微鏡ではなく蛍光光度計で測定すると1-2時間くらいで
差が現れます。トランスジェニックフライやトランスジェニックマウスの場合でもほ
ぼ同様のラグがあると考えられます。
 このことから、”ある反応に(一過的に)レスポンスする遺伝子の発現をトレース
するのに使ってみたい”という実験をする場合、GFPのタンパク質の安定性もさるこ
とながら、蛍光性取得までの時間を十分熟知する必要があるでしょう。GFPの蛍光が
観察された瞬間をもって”プロモーターがONになった”とは言えないですし、GFPの
蛍光が消えた時をもって”プロモーターがOFFになった”とも言えないのです。
 今後、タンパク質ができたら素早く光る改良型GFPができるのを期待すべきです。
さらにその改良型GFPにdestabilizedシグナルを付けるとtranscriptional reporter
としてかなり有用になるでしょう。

2)mRNAの半減期も考慮しなければならない。
これはGFPとは関係ないですが、、”ある反応に(一過的に)レスポンスする遺伝子
の発現をトレースするのに使ってみたい”と考えて実験する人のほとんどが、興味の
あるプロモーターにレポーターをつなげるだけのコンストラクションで実験をしてい
ます。量的に周期的変動をするタンパク質やターンオーバーの激しいタンパク質(例
えばimmideate early response gene)などはそのmRNAも激しくターンオーバーしてい
ます。そしてそれは多くの場合3’UTRにあるmRNA不安定化配列によって、できた
mRNAが素早く分解されるためです。転写のレポーターアッセイが成り立つ条件はmRNA
の寿命がタンパク質の寿命とほぼ同じかもしくは短い場合です。プロモーターはOFF
になっているのにmRNAがいつまでも存在していてはせっかくレポータータンパク質
の寿命を短くしてあげても意味がなくなるのです。従いまして、理想的には見たい遺
伝子のORFだけをレポーター遺伝子に置き換えたコンストラクション(その遺伝子の
mRNA不安定化or安定化に関わる配列を使用する。この場合は転写のレポートではな
く、その遺伝子そのものの活性化をレポートすることになる)で検討すべきでしょ
う。

こうなってくるとレポータータンパク質に求められる条件は「すぐ光り、すぐ壊れ、
かつシグナルが強い」ということになります。上述のように現在汎用されているEGFP
はディテクションされるまでにかかる時間は顕微鏡を使って観察するとして4時間で
す。そこに半減期が2時間になるシグナルを入れてしまうと「光りだす前に壊れる」
というタンパク質が存在することになってしまい、大きくシグナルをロスしてしまい
ます。X. LiのdEGFPの論文にもその辺りのことが書かれていて、ウエスタンでタンパ
ク質が分解されていく時間と蛍光の減少でタンパク質が分解される時間が一致せず、
その理由として「光りだす前に壊れる」に言及しています。壊れる前に十分光出す改
良型destabilizedGFPができれば問題解決するのですが。その点に関しては現在ク
ローンテックから3種類のdestabilizedEGFPが販売されており、それぞれ半減期が
mammalian cell中で1時間、2時間、4時間です。「壊れる前に十分光出す」を期待
するのであれば半減期4時間タイプがいいでしょう。しかし、繰り返しになります
が、この半減期がショウジョウバエで成り立つかどうかはショウジョウバエの培養細
胞で確認する必要があります。ちなみにEGFPの半減期はmammalian細胞において大体
2-4日です。3日たっても半分にしか減りません。PFA固定してしまえば1ヶ月以上安
定して蛍光を出します。

> >Living Colors Fluorescent timer について、似た2点について教えて下さい。
> >こちらは、DsRed をもとにしているので、多分かなり暗いとおもうのですが。
> >
> >1、蛍光の強度は、EGFPと比較してどのぐらい弱いのか?
> >  多少暗くてもliveで検出可能なのか。

やはり検出器の問題が大きいでしょう。dsRedはEGFPより暗いとはいえ、ちゃんとで
きてしまえば十分明るい蛍光タンパク質です。しかしオワンクラゲとは違いサンゴか
らクローニングさんれたためか温度が低いほど蛍光性獲得までに時間がかかります。
オワンクラゲ由来GFPが37度での効率の良い蛍光性獲得を目指して改良がなされて
きたのと反対に、dsRedは20度で効率の良い蛍光性獲得を目指して改良がなされる
べきでしょう。そうすればカエルやショウジョウバエなどの室温に近い温度で飼育す
る動物を扱う研究者にとって観察しやすい蛍光タンパク質になるに違いありません。
とはいうものの現在のdsRedが室温で全く光らない訳ではないので光学系をしっかり
整えてやれば満足の行くデータが得られるものと思います。

> >2、green -> red にかかる時間は、ハエの中では何時間ぐらいなのか?
> >  低温にすると、変化が遅くなりそうですし。

この蛍光指示薬はgreenからredへ蛍光色が変化するのをgreenとredの蛍光強度の比に
換算しなおして、transcriptional activityをレポートしようとするものですから、
少なくともgreenが先ず検出されなければなりません。しかしながら、温度が低くな
ればなるほどgreenが検出されるまでに時間がかかります(もちらんredも)。従いま
してtranscriptionのONははっきり言って見れません。またgreenからredへの変化は
室温ではかなり遅いです。少なくとも1日以上はかかります。ということでOFFも見
れません。
greenからredに変わるということは極めて面白い現象ですが、それだけでは
scientificに面白くないのでA. TerskikhのScience 290, 1585の論文は
transcriptional reporterとしての有用性に関する実験もしてあるのでしょう。

”ある反応に(一過的に)レスポンスする遺伝子の発現をトレースするのに使ってみ
たい”

この”一過的”がどういうダイナミクスなのかによりますが、一般的に言えば
fluorescence timerの系は使わない方が無難でしょう。もしそのダイナミクスが”
日”単位であれば使ってみるのも良いかも知れません。


--
**********************************************

Hideyuki Okano, M.D., Ph.D.
Professor
Department of Physiology
Keio University School of Medicine
35 Shinanomachi, Shinjuku-ku, Tokyo 160-8582, Japan.
Phone 81-3-5363-3746. Fax 81-3-3357-5445
e-mail: hidokanoアットマークsc.itc.keio.ac.jp (Hideyuki Okano)


**************************************

Date: Thu, 15 Nov 2001 16:15:19 +0900
From: "Murata, T. (RIKEN Tsukuba)"
Subject: [Jfly] Re: destabilized GFP

いとうさん
 この一連のGFPの話題は、ぜひともJflyのアーカイブとして記録し、HPで公開して
下さい。
 お手数をおかけしますが、よろしくお願い致します。

 むらた
--

//
Takehide MuraTa Ph. D.
BioResource Center, RIKEN
Tsukuba Science City, Ibaraki 305-0074, Japan.
e-mail: tmurataアットマークrtc.riken.go.jp
HP: http://www.rtc.riken.go.jp/DNA/
phone: +81-298-36-3612, fax: +81-298-36-9120

>>>> Japanese Address <<<<
305-0074 茨城県 つくば市 高野台 3-1-1
理化学研究所 筑波研究所
バイオリソースセンター
村田 武英,研究員
//


**************************************

Date: Thu, 15 Nov 2001 17:25:02 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] Re: destabilized GFP

> いとうさん
>  この一連のGFPの話題は、ぜひともJflyのアーカイブとして記録し、HPで公開して
> 下さい。

う、
Jfly で流れたメールは全て整理して公開することにしてるんですが、この2年
分のアーカイブが世紀をまたいで整理待ち・・・。済みません。

いとうκ


**************************************

Date: Thu, 15 Nov 2001 20:56:18 -0500
Subject: [Jfly] destabilized GFP
From: Akiko K Satoh

> しかしながら、温度が低くな
> ればなるほどgreenが検出されるまでに時間がかかります(もちらんredも)。従いま
> してtranscriptionのONははっきり言って見れません。またgreenからredへの変化は
> 室温ではかなり遅いです。少なくとも1日以上はかかります。

> DsRed が緑色蛍光を出すまでは、GFP とほぼ同じタイムコースなので、
> Fluorescent timer fusion protein の緑→赤の蛍光変化は、ほぼ上記の GFP
> と DsRed の時間差と同じような値になると思います。HEK 293 cell line で、
> 37 ℃で数時間の3ー8時間の時間差ということは、上記の近似式に大体あっ
> ていますから、これを演繹すると、21℃、25℃では 34 時間、22 時間と
> いう時間差になってしまいます。細胞内輸送を見るには、ちょっとのんびり
> しすぎてますね。

お2人のお返事は、どちらも、緑→赤の変化は、低温では遅くなり、ハエでは1日以
上かかるということですね。では、残念ながら使えませんね。


>> 私が興味を持っているのは、Fluorescent timer fusion protein を用いて、新生さ
>> れてすぐと、合成されてから少し時間がたってからの融合蛋白とを見分けられないだ
>> ろうかということです。
>
> これはあんまりお薦めしません。細胞質中の一般的な濃度ではモノマーで存
> 在する GFP にたいし、DsRed はテトラマーで存在します。融合タンパクにす
> ると、そのまた4量体になるので、巨大な分子コンプレックスとなってしま
> い、アグリゲーションを起こしたり細胞毒性を持たりすることがかなりあ
> るようです。GFP のほうを融合タンパクにして、DsRed はなるべく単体で使
> うのがお薦めです。

DsRed がテトラマーであるので融合蛋白に適さないというのは承知しています。それ
でもなお、”UAS GFP fusion なんとか”のハエがいろいろと手に入る今日では
DsRed fusion protein には魅力を感じています。CFP/YFP の dual-labeling の方が
成功の確率は高いでしょうが、CFP/YFP の普及率は、GFP のそれと比べて、著しく低
いわけですから。それに、赤緑の方が多くの共焦点が対応していますし、蛍光の分離
も良いです。また、CFP/YFP との triple-labeling が可能。

ところで、DsRed fusion protein は、GFP fusion protein に比べて、どの程度、作
成困難なのでしょう。

少なくとも、ここの Department の人は、染色体局在 DsRed (Histon H3B との融
合), ミトコンドリア局在 DsRed (cytochrome c oxidase との融合) を作成して成功
しています。

結構、うまくいったりしませんか?
少なくとも、clontech は、dual-labeling については、CFP/YFP よりも GFP/DsRed
を勧めていますけれど、これは信じるにあたわず?

実際に作成された方、”うまくいく、全然ダメ”等、感想を聞かせていただけたらと
思います。論文として発表された例はほとんどないように思われます。


佐藤明子

(ちょっと、私は宣伝文句に弱いのかも・・・・。)


**************************************

Date: Fri, 16 Nov 2001 11:50:36 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] destabilized GFP

At 8:56 PM -0500 01.11.15, Akiko K Satoh wrote:

> DsRed がテトラマーであるので融合蛋白に適さないというのは承知しています。それ
> でもなお、”UAS GFP fusion なんとか”のハエがいろいろと手に入る今日では
> DsRed fusion protein には魅力を感じています。

> 少なくとも、ここの Department の人は、染色体局在 DsRed (Histon H3B との融
> 合), ミトコンドリア局在 DsRed (cytochrome c oxidase との融合) を作成して成功
> しています。

細い細胞骨格にモノレールみたいにのっかって運ばれる軸索輸送系は、
難しいみたいですね。kinesin-lacZ, tau-lacZ, tau-GFP みんな多かれ
少なかれ毒性があります。細胞の中にも、巨大な分子アグリゲーショ
ンが存在しても大丈夫な場所と、けっこう問題を起こしやすい場所が
きっとあるはずで、それによってダメージが変わるのでしょうね。

> 少なくとも、clontech は、dual-labeling については、CFP/YFP よりも GFP/DsRed
> を勧めていますけれど、これは信じるにあたわず?

CFP/YFP よりも GFP/DsRed のほうがいいと思いますが、これはタン
パクの種類がどうこうという問題ではなくて、CFP や YFP のピークと
うまく適合するレーザー光源がないから、という問題が大きいと思い
ます。ただ光ればいいだけならレーザーはいろいろな波長のものが出
ていますが、共焦点に使えるような、光強度が安定でふらつきが非常
に少なくて、強力で、しかもビームの形がきれいなレーザーって、ホ
ントに少ないみたいです。

レーザーを使わず、従来型蛍光顕微鏡の水銀 or キセノンランプ+バン
ドパスフィルターの組み合わせなら、適当なフィルターを買えば CFP/
YFP もかなり使えるのではないかしら。うろ覚えですが、量子効率的
には YFP がいちばん高く、明るかったような。

> 実際に作成された方、”うまくいく、全然ダメ”等、感想を聞かせていただけたらと
> 思います。論文として発表された例はほとんどないように思われます。

私も経験談・感想聞きたいです。どなたか是非よろしくお願いします。

いとうκ