Jfly ディスカッション


Discussion Menu | Jfly Japanese Home Page | Jfly English Home Page

ショウジョウバエ近縁種のゲノムシークエンシング戦略


Date: Mon, 3 Dec 2001 14:28:01 +0900
From: Toshiro Aigaki
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

Jflyの皆様
相垣@都立大です.
8月のショウジョウバエ研究会でmelanogaster 以外の種のゲノムシークエンシング について話題になりました.私が一応窓口になっていますが,その後議論がなされて いません.おもしろい研究ができて,かつ多くの研究者が利用できるようなものをと なると,それほど簡単ではありません.しかし,リソースがあれば,分子進化学的な 研究はもちろん,遺伝子の発現制御領域の構造比較等に活用する研究者は少なくない と予想されます.そこで,私の周辺から情報を収集して試案を作ってみました.これ をスタート地点としてjflyで議論を始めたいと思いますので,御意見をおよせ下さ い.

基本方針
現時点で全ゲノムシークエンスをやるのは現実的でないので,複数の種について BACライブラリーを作成し,研究テーマごとに目的の遺伝子を含む特定のBACクローン を選択して,それらについてショットガンシークエンスを行う.

種の選別基準
い)日本を含むアジア産のハエを利用する(材料入手の容易さ,地域性).
ろ) 飼育が容易(実験的検証が可能).
は) 比較ゲノミクスをやる上で系統関係が適当である(近いものと離れているもの).
に) 生物学的に興味ある現象が知られている(性決定,生殖的隔離,休眠機構など).

以上のような観点から,以下の4種を候補とします.
1) D. simulans (melanogaster species subgroup)
2) D. sechellia (melanogaster species subgroup)
3) D. auraria (melanogaster species group)
4) D. immigrans (subgenus Drosophila)

D. melanogaster との系統関係
Adh遺伝子配列を比較すると,以下の程度の塩基置換が起こっています(都立大の進 化遺伝学研究室/青塚さんからの情報提供).D. simulans (1.7%), D. sechellia (2.0%), D. auraria (9.0%), D. immigrans (23%)

D. simulans とD. sechelliaについては,BAC(3,000 クローン)の末端シークエンシ ングだけで全ゲノムのコンティグができるので,目的の領域を含むBACは即座にわか ります.残りの2種については,ハイブリダイゼーションやPCRをやる必要が生じる と思われます.

以下の情報は,D. aurariaとD.immigransの生物学的特徴について,都立大の布山さ んが北海道教育大学の渡部さん(現在中国滞在中)からの情報を含めて提供して下さ ったものです.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
Drosophila (Sophophora) auraria
・melanogaster species group内の最大のグループであるmontium subgroup
 のメンバーであり、多数の近縁種が知られている
・montium subgroupは、アジア、インド、アフリカが分布の中心であるが、
特に東南アジアには多くの種が分布する
・D. melanogaster にはみられない卵巣休眠が知れれているが、その程度に
は地理的変異がみられる
・実験室内での飼育が容易

Drosophila (Drosophila) immigrans
・Drosophila亜属のimmigrans species groupのメンバー
・immigrans species groupは、Drosophila亜属の中では、virilis species
groupと並ぶ代表的なグループであり、多くの近縁種が知られている
・virilis species groupが北米〜旧北区を中心に分布するのに対し、
immigrans species groupは熱帯起源と考えられており、東南アジアが分布
の中心である(アジアを代表するグループといえる)
・実験室内での飼育が容易
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
以上です.活発な議論をお願いします.
相垣


**************************************

Date: Wed, 05 Dec 2001 09:46:36 +0900
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species
From: matsuda

何を具体的に議論していくのかが、今一つはっきりしませんので、いくつかの質問と、
思いつく議論の対象をあげてみました。何となく、4種に決めましたが如何でしょう
かという感じがしましたので。

1.何種のゲノムシークエンシングが容量的に可能なのか。
2.基本方針に関しても議論の対象と考えるのか。
3.ショウジョウバエ属レベルの範囲にするのか。
4.このような材料がいいのではというような提案も含んで議論をするのか。
5.いつ頃まで、議論を続けて、どの様に最終的に決めていくのか。


-- 松田 宗男
杏林大学医学部生物学教室
181−8611 三鷹市新川6−20−2
Tel 0422-47-5512 3642 or 3652
Fax/tel 0422-71-1220
Email matsudamアットマークkyorin-u.ac.jp


**************************************

Date: Thu, 6 Dec 2001 16:24:43 +0900
From: Toshiyuki Takano-Shimizu
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

相垣さん、Jflyの皆様、

国立遺伝学研究所の高野敏行です。実はJflyに参加していないため情報入手が遅 れました。

相垣さんからのメールでは議論を始めるということなので、とりあえず具体的な種名 ではなく私なりの総論的な意見を述べます。まず、当然ながら発現調節領域の構造比 較が大きなねらいとして含まれていることからすると、紹介されたAdhのデータは おそらく直接あてはめめることはできないだろうと思います。正確には確認したわけ ではありませんが、おそらくはこのデータはコーデング内の変異をまとめたもので、 非コーデング領域に当てはめられるものではなかろうと思います。例えば、 melanogasterとsimulansとの比較では、同義サイトの違いはサイト当たり5〜10% 程度になります。この数字が調節領域の比較のひとつの参考になるデータです。もち ろんこれは塩基置換についてのみで、これ以外に挿入・欠失も実際には観察されま す。よく機能配列の探索に使われるvirilisなどでは、非コード領域では少なくとも 1回以上の塩基置換が起きていると考えられます。その場合には、保存されている領 域が見つかればそこには何らかの機能的な意義が予想されることになるわけですが、 これも遺伝子の近傍であれば(翻訳開始位置など少なくとも片側のアライメントする 位置が決まるため)配列のアラインメントも可能ではありますが、例えば数kb以上 離れたところではかなり難しいと予想されます。そこで、その中間に相当する種とし てpseudobscuraのシークエンスが進められています。知っている方も多いとは思いま すが、バークレイとテキサス(Baylor collegeのメディカル)でこの種のシークエン スプロジェクトが進行中です(バークレイは効率が悪く、Baylorのグループの方が進 んでいるそうです)。

simulansは最もmelanogasterに近い種としてまっ先に行う必要は間違いなくあると思 います。それと、松田さんのメールにあったあったようにどれくらいの種を候補とし て考えられているかという問題にも関わってきますが、一般に近い種から順次遠い種 へとすすめるのが常道だろうと思いますが、個人的には、これとは異なり、塩基置換 がある程度十分蓄積された種(もっとも遠すぎても無理ですので、例えば1かその程 度、これはpseudoobscura程度にあたります)について、同程度離れた種を3種以上 複数行ってみてはと考えています。この選択の利点は、共通祖先配列をできるだけ正 しく推定することを可能にすることで、変異が起こった種(系統)を明らかにできる ことです。仮に興味の形質を含んだ種が明らかであれば、その責任変異はその種の系 統で起こっていなければならず、単に2種間で違いがあるだけの情報よりも、変異の 起こった系統の推定ができれば、新たな情報を提供できることになります(興味の系 統以外で起こった変異はまず対象外にのぞけます)。

もちろんこうした祖先配列の推定は、順次近縁なものから遠縁のものを含むなかから も可能です。しかし、相同性から機能配列を推定する観点から言えば、比較的同じよ うな距離が離れた幾つかの種をターゲットにした方が効率(配列決定した種の数から のデータ量と質)が良い可能性は高いと思われます。例えば、pseudobscuraの配列に 加え、simulansの配列が決定された場合、simulansはpseudobscuraと比べ melanogasterに近すぎるため3種の共通祖先の配列の推定にはsimulansのデータはそ れほど効力を持ちません。それなら、もう少しmelanogasterとpseudobscuraと同じく らい前に分岐した種を用いた方が有効になり、しかもその種がmelanogasterと pseudobscuraと分岐してから独立に進化した時間がsimulnasと比べ長いため、その分 多くの変異を蓄積し情報量が増える結果となります。

とりあえず全体的な種の選択の個人的な見解を述べさせてもらいました。いかがでし ょう。

国立遺伝学研究所・集団遺伝研究部門
高野敏行



**********************
Toshiyuki Takano-Shimizu
Department of Population Genetics
National Institute of Genetics
Yata 1111, Mishima
Shizuoka-ken 411-8540
e-mail: totakanoアットマークlab.nig.ac.jp
FAX: 0559-81-6784
**********************


**************************************

Date: Thu, 6 Dec 2001 23:03:00 +0900
From: Toshiro Aigaki
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

松田様
相垣@都立大です.

At 9:46 AM +0900 12/5/01, matsuda wrote:

>何を具体的に議論していくのかが、今一つはっきりしませんので、いくつかの質問と、
>思いつく議論の対象をあげてみました。何となく、4種に決めましたが如何でしょう
>かという感じがしましたので。

説明不足ですみません.計画案は私が収集できる範囲の情報を元にして,とりあえず 選んでみたものです.その基準が正しいわけでもなく,決まっているわけでもありま せん.極めて柔軟に対応できるものです.


>1.何種のゲノムシークエンシングが容量的に可能なのか。

BACライブラリーがクローンあたり120kb入るとして,1種あたり1,000クローンです. ランダムに3,000 本(3X genome相当)程度を末端シークエンスすれば,ほぼ全ゲノム 分そろうだろうということです(遺伝研小原先生からの情報).このシークエンス自 体はABI3700 1台で2日程度の仕事なので,容量的な制約(シークエンサーを長時間 にわたって独占する)にはなりません.また,そのあとのBACクローン単位のショッ トガンも,大きな制約にはなりません.
ただし,BACライブラリー作製はショウジョウバエグループのだれかが担当しなけれ ばなりません.たぶん経験者がいないと思いますので,専門家に弟子入りして教えを こうことになります.これについては,どのくらいの作業日数がかかるかまだ把握し ていません.


>2.基本方針に関しても議論の対象と考えるのか。

もちろんです.御遠慮なくどうぞ.

>3.ショウジョウバエ属レベルの範囲にするのか。

これも含めて御意見どうぞ.

>4.このような材料がいいのではというような提案も含んで議論をするのか。

そうです.

>5.いつ頃まで、議論を続けて、どの様に最終的に決めていくのか。
>
議論の内容やいつまでに決めなければならないという期限もありません.要求しなけ れば,何も起こらないことだけは確実です.要求がまとまれば,いつでも話をもって いくことは可能です.

それから,具体的な種名をだすほど詳しくない方でも,”是非利用したい”,”必要 だ”,”いらない”,”こんな研究テーマをやりたい”などの声も聞かせて下さい.

相垣


**************************************

Date: Fri, 7 Dec 2001 11:10:22 +0900
From: 上田龍
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

> >1.何種のゲノムシークエンシングが容量的に可能なのか。
>
> BACライブラリーがクローンあたり120kb入るとして,1種あたり1,000クローンです.
> ランダムに3,000 本(3X genome相当)程度を末端シークエンスすれば,ほぼ全ゲノム

三菱生命研の上田です。

残念ながら、同じDrosophilaでも種によるゲノムサイズの違いには顕著なものがある
ようです(下記URL参照)。ゲノムプロジェクトで当初検討されたvirilis が現在
は取り上げられていないのは、ゲノムサイズがmelanogasterの倍ぐらいあることと、
repetitive seq.が染色体上に散在しているためmelanogaster との直接的比較が困難
なためのようです。
(そうですよね、雅敏さん。)
この議論の最初の頃、山本雅敏さんがezoanaをその一つとして推薦していらっしゃっ
たのはその理由に依るものと理解しています。

高野さんのご意見は大変建設的で議論の道筋をつけてくださったと思います。ただ進
化上の距離がそのままゲノム配列決定の容易さと相関しているかは素人の私には分か
りませんが、おそらく個別的な「種の事情」という物も勘案しなければいけないので
はないでしょうか?

というような、拡散させてしまう議論を持ち出してしまうのは本意ではありません。
私はこのプロジェクトに大賛成です。昨日のセミナーでもセレラがマウス(ratとdog
も)とヒトのゲノム配列を比較することの優位性を謳っておりましたが、機能未知の
遺伝子を対象とする上では比較ゲノム学的(?)アプローチは必須であると思います
。是非実現したいと思います。皆様のオープンな議論をお待ちします。

> ただし,BACライブラリー作製はショウジョウバエグループのだれかが担当しなけれ
> ばなりません.たぶん経験者がいないと思いますので,専門家に弟子入りして教えを
> こうことになります.これについては,どのくらいの作業日数がかかるかまだ把握し

誰か若い人で、私がやりたい、という元気な人はいませんかねえ。


http://www.cbs.dtu.dk/databases/DOGS/index.html
http://www.genomesize.com/insects.htm
............................................................................
上田龍
遺伝子機能研究ユニット
トランスレイショナル研究部
三菱化学生命科学研究所
〒194-8511 町田市南大谷11号
phone:042-724-6234
fax: 042-724-6314
...........................................................................


**************************************

Date: Mon, 17 Dec 2001 11:26:59 +0900
From: watadaアットマークsci.ehime-u.ac.jp (Masayoshi WATADA)
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

愛媛大学の和多田です。
 相垣さんのGenome sequencing of other speciesに関する12月3日の提案から,
あまり議論が進んでいないので,私の意見を書こうとしていたら,林さんの最高マー
クのラベルが付いたメールが送られてきました。今後,この関係の議論は別の場所で
なされることになるとは思いますが,せっかく書いたので投稿します。私が思うに,
議論が発展しない理由は2つあって,1つはJflyのほとんどのメンバーがキイロ
ショウジョウバエだけを使っているので,他のハエに関する関心や知識がないこと。
もう1つは,相垣さんの提案がかなり具体的でかつ,まとまっているのでそれがかえ
ってあだになっていると思えることです。
 相垣さんの提案では種の選別基準に次のい)〜に)を用いていました。
  い)日本を含むアジア産のハエを利用する(材料入手の容易さ,地域性).
  ろ) 飼育が容易(実験的検証が可能).
  は) 比較ゲノミクスをやる上で系統関係が適当である(近いものと離れているも
の).
  に) 生物学的に興味ある現象が知られている(性決定,生殖的隔離,休眠機構な
ど).
そして4種を候補としていますが,
 1) D. simulans と2) D. sechellia については,私がショウジョウバエ研究会に
参加していなかったこともあって,その根拠がわかりにくいと感じました。 melanog
aster 種亜群にはD. mauritianaや D. teissieri もいるのに,なぜ D. simulans
と D. sechellia なのかという説明が欠けていると思いました。D. melanogaster と
の系統関係やクローニングに関しては D. mauritianaや D. teissieri も D. simul
ans やD. sechellia と同等の基準にあると思います。
 3) D. auraria に関してはそう異論はありませんが,卵巣休眠を除けば takahash
ii 種亜群や,ananassae 種亜群のハエも系統的には候補になる資格があると思いま
す。ちなみに,北大のひとは認めていませんが,キイロショウジョウバエにも ovari
an diapause の論文はあります(Saunders and Gilbert 1990)。
 4) D. immigrans (subgenus Drosophila) に関しては私は別の意見を持っていま
す。種の選別基準のい)〜に)をそのまま適用すると,D. albomicans の方がより規
準に合致する種ではないでしょうか。相垣さんの immigrans 種亜群に関する説明は
全く正しいのですが, D. immigrans は例外的で,分布は汎世界的であり,かつ交配
可能な近縁種はいないと思います。一方,D. albomicans の分布は東南アジアであり
,かつては日本での分布も南西諸島だけだったのが,今では西日本では秋には優占種
になっており,最近では京都や岐阜でも採集されるようになっています。さらにD. a
lbomicans は近縁の8種ぐらいと交雑可能です。京都工繊大の山本さんが推薦してい
る D. ezoana (subgenus Drosophila) は ,日本にもいるし,virilis 種群のハエ
ですので, D. virilis の代わりとするには,良い種だと思いますが,あまり研究が
されていない種のような気がします(研究需要がない?)。

**************************************************
和多田 正義 わただ まさよし  〒790-8577 愛媛県 松山市文京町3番地  共通教育棟
愛媛大学 理学部 生物地球圏科学科 生態環境変遷学講座
Email: watadaアットマークsci.sci.ehime-u.ac.jp
Tel: 089.927.9641
Fax: 089.963.4510
**************************************************


**************************************

Date: Mon, 17 Dec 2001 15:09:02 +0900
From: watadaアットマークsci.ehime-u.ac.jp (Masayoshi WATADA)
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

愛媛大学の和多田です。
 先ほどのメールの中で,「immigrans に交配可能な近縁種はいない」と書きました
が,formosana が交配可能であるとの指摘を受けました(Lin & Yeh (1983) Chinese
J. Ent. 1: 55-71.)。お詫びとともに訂正させていただきます。

**************************************************
和多田 正義 わただ まさよし  〒790-8577 愛媛県 松山市文京町3番地  共通教育棟
愛媛大学 理学部 生物地球圏科学科 生態環境変遷学講座
Email: watadaアットマークsci.sci.ehime-u.ac.jp
Tel: 089.927.9641
Fax: 089.963.4510
**************************************************


**************************************

Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species
From: Takao Koana
Date: Mon, 17 Dec 2001 16:51:56 +0900

Jflyの皆様

 鉄道総研の小穴です。文献(梁 環境変異原研究 9 55−65、1987)
によるとX線の変異原性を翅毛スポットテストで見ると、変異スポットの出現頻度
が2齢から蛹の初期までの約80時間に1000倍に増える、ということです。
これがすべて標的細胞の増加によるとすると2の10乗が1024なので、翅の
原基細胞の分裂周期は8時間という計算になりますが、これは正しいでしょうか。
どなたか翅原基の細胞周期を教えて下さいませんか。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
小穴孝夫
(財)鉄道総合技術研究所 環境工学研究部・事業推進室
〒185-8540 国分寺市光町2-8-38
tel 042-573-7316 fax 042-573-7349
JRtel 053-7316 JRfax 053-7349
e-mail koanaアットマークrtri.or.jp


**************************************

Date: Tue, 18 Dec 2001 16:28:57 +0900
From: fuyama-yoshiakiアットマークc.metro-u.ac.jp (Yoshiaki FUYAMA)
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

和多田様 皆様

At 11:26 12/17/01 +0900, Masayoshi WATADA wrote:

> 1) D. simulans と2) D. sechellia については,私がショウジョウバエ研究会に
>参加していなかったこともあって,その根拠がわかりにくいと感じました。 melanog
>aster 種亜群にはD. mauritianaや D. teissieri もいるのに,なぜ D. simulans
>と D. sechellia なのかという説明が欠けていると思いました。D. melanogaster と
>の系統関係やクローニングに関しては D. mauritianaや D. teissieri も D. simul
>ans やD. sechellia と同等の基準にあると思います。

D. sechellia が入っているので、黒幕ではないかと思われているかも
知れませんが、私が推薦したわけではありません。念のため。
melanogaster subgroupは、どうせ外国でやるだろうから、他のグルー
プの方がいいのではないかというのが、私の意見です。

>  3) D. auraria に関してはそう異論はありませんが,卵巣休眠を除けば takahash
>ii 種亜群や,ananassae 種亜群のハエも系統的には候補になる資格があると思いま
>す。ちなみに,北大のひとは認めていませんが,キイロショウジョウバエにも ovari
>an diapause の論文はあります(Saunders and Gilbert 1990)。

となると、melanogaster species-groupの代表選手を何か一つ選ぶとし
たら、ということになるわけですが、D. aurariaそのものが面白いとい
う意味ではなく、最大のグループであるmontium subgroupの代表として
推したような次第です。D. kikkawaiでもいいとは思いますが、cosmopolitan
であるというのが、ちょっと面白くないですね。

現在、montium subgroupのハエを使っている人は多くないですが、一ヶ
所拠点ができれば、これを足掛かりにして、種分化遺伝子や形態の種間
差に関わる遺伝子の探索などに道が開けるのではないかと思います。

> 4) D. immigrans (subgenus Drosophila) に関しては私は別の意見を持っていま
>す。種の選別基準のい)〜に)をそのまま適用すると,D. albomicans の方がより規
>準に合致する種ではないでしょうか。

次のステップは、subgenus Drosophila代表ということになるわけですが、
subgenusの模式腫であるD. funebrisはあまり魅力がありませんね。
virilis groupはアメリカが本場で、D. virilisのプロジェクトはすでに
動いているらしいので、今さらという気がします。

となると、残りは、やはりimmigrans groupになるかなということです。
D. immigransそのものはcosmopolitanですし、あまりこだわることもない
と思います。ただし、melanogasterから、subgenusレベル離れた代表で
すから、近縁種が多いといったことは、どちらかというと2次的な意味に
なるのではないですかね。

D. albomicansに近縁腫が多いからいいのではというのは、ちょっとどう
かなという気がします。確かにタクソンの数は多いですが、あまりにも近
すぎて、少なくとも分類屋の手に負えないグループだと思います。(岡田
先生は、このグループは手を付けませんでした!) 種間の形態的な差が
ほとんどなく、しかも、生殖的隔離も不完全となると、これを使って一体
何を調べるのかが問題だと思います。種分化初期の遺伝的分化をみるには
面白い材料であることには同意しますが、それには、たくさんのタクソン
調べる必要がありますので、molecular phylogeneticsの分野になるように
思います。



--
布 山 喜 章 : 東京都立大学大学院理学研究科生物学教室
Yoshiaki FUYAMA : Dept. of Biology, Tokyo Metropolitan University
     e-mail : fuyama-yoshiakiアットマークc.metro-u.ac.jp


**************************************

Date: Thu, 20 Dec 2001 11:22:00 +0900
From: watadaアットマークsci.ehime-u.ac.jp (Masayoshi WATADA)
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

布山様, Jflyの皆様,

> D. sechellia が入っているので、黒幕ではないかと思われているかも
> 知れませんが、私が推薦したわけではありません。念のため。
 はなから黒幕がいるなんて,ハエの毛先ほども思っていませんのでご安心を。
他のグループの方がいいのではないかという意見には賛成です。やるとしたらバッテ
ィング覚悟で, D. simulans かなという思いもありますが。

> となると、melanogaster species-groupの代表選手を何か一つ選ぶとし
> たら、ということになるわけですが、D. aurariaそのものが面白いとい
> う意味ではなく、最大のグループであるmontium subgroupの代表として
> 推したような次第です。
 この文の後に書かれている布山さんの意見も含めて,結果的にD. auraria を選ぶ
ことには賛成です。

> となると、残りは、やはりimmigrans groupになるかなということです。
> D. immigransそのものはcosmopolitanですし、あまりこだわることもない
> と思います。
>
> D. albomicansに近縁腫が多いからいいのではというのは、ちょっとどう
> かなという気がします。
 私が D. albomicans を推したのは,種の選別基準のい)〜に)を総合的に適用す
るとD. immigrans がより適合すると思ったからで,近縁腫が多いからいいと単純に
考えたわけではありません。いずれにせよ,みんなが議論して種が決定されれば良い
ことではないでしょうか。
 ショウジョウバエ属以外のハエもさらなる候補として考えたのですが,私の考えた
ところでは,基準に合う良いハエはいませんでした。3番手,4番手のハエを選ぶと
したら,ショウジョウバエ属から選ぶ方が良さそうです。



**************************************************
和多田 正義 わただ まさよし  〒790-8577 愛媛県 松山市文京町3番地  共通教育棟
愛媛大学 理学部 生物地球圏科学科 生態環境変遷学講座
Email: watadaアットマークsci.sci.ehime-u.ac.jp
Tel: 089.927.9641
Fax: 089.963.4510
**************************************************


**************************************

Date: Thu, 20 Dec 2001 14:37:51 +0900
From: Hiroshi Matsubayashi
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

京都工芸繊維大学ショウジョウバエ遺伝資源センターの松林です。

キイロショウジョウバエ以外の種のゲノムシークエンスについての議論ですが、相垣
さんの試案について

> 種の選別基準
> い)日本を含むアジア産のハエを利用する(材料入手の容易さ,地域性).
> ろ) 飼育が容易(実験的検証が可能).
> は) 比較ゲノミクスをやる上で系統関係が適当である(近いものと離れているもの).
> に) 生物学的に興味ある現象が知られている(性決定,生殖的隔離,休眠機構など).
>
の4つを挙げているのですが、(に)や(ろ)とも関連してくるかもしれないのです
が、これまでの研究の蓄積が在るか否かと云うのも一つの基準として挙げられるので
はないかと考え投稿しました。例えば、マーカーとして使える突然変異やバランサー
などが豊富に在るかといったことも、将来その種を使って遺伝学的に解析していく上
では重要だと思います。アメリカでvirilisが真っ先に取り上げられたのも(ろ)(
は)や近縁種の豊富さ等もあると思いますが、やはり突然変異、染色体地図を始め古
典遺伝学の蓄積が在ることが大きいと思います。
そうした観点からキイロショウジョウバエ種群の一つとしてアナナスショウジョウバ
エなど多いにその候補となるのではないでしょうか? 私自身が過去にアナナスジョ
ウジョウバエを使っていたからというのもあるかもしれませんが、客観的にみてキイ
ロショウジョウバエ以外でvirilis、simulansとならんで最も突然変異等充実してい
るのではないかと思います。御承知のように日本のショウジョウバエ研究の大先達、
森脇大五郎先生始めその研究の多くが日本の研究者により引き継がれていることもあ
ります。(い)(ろ)については問題なく、(は)についてもキイロショウジョバエ
亜群の代表として、また(に)ではショウジョウバエとしては唯一、雄において組換
えが起こるという特筆すべき性質をもちます。

以上、種を選ぶ基準について私が考えたところです。

-------------------------------------
松林宏
京都工芸繊維大学
ショウジョウバエ遺伝資源センター
〒616-8354 京都市右京区嵯峨一本木町
電話 075-873-2660(内線 37)
電話 075-873-2657(ダイヤルイン)
Fax 075-861-0881
mail matsubayashiアットマークDGRC.kit.ac.jp
-------------------------------------


**************************************

Date: Sat, 29 Dec 2001 13:26:44 +0900
From: Toshiyuki Takano-Shimizu
Subject: [Jfly] RE: Genome sequencing of other species

JFLYの皆さん、

すっかり遅いメールになりました。なにぶん自分のことで忙しく、ゆっくり考える時 間もなく、このような年の瀬になってしまいました。今頃このようなメールが送信さ れるのに抵抗を感じる方も多いでしょうが、相垣さんの提案されている他種の配列決 定プロジェクトに関するコメント2です。

このプロジェクトの主要なポイントは非コード領域の配列情報の活用にあると思いま す。その際のデータベースの利用の方法として
(1)個人研究者が自ら見い出した配列の保存性を調査する。
(2)ほとんど事前の知識無しに、保存配列の探索から研究材料を絞り込む手段とし て利用する。

といったことが挙げられます。(1)の場合には、一種づつ検索にかけることも可能 ですが、(2)については基本的には複数配列のアラインメント情報を必要としま す。アラインメントの解析ソフトは幾つか開発されており、実際に利用されている方 も多いことでしょう。実行の際の問題は、第一にトランスポゾンや重複などの大きな 挿入配列の検知と各種の変化に対するペナルティーの振り方にあります。塩基置換 (これもtransitionタイプのものとtransversionタイプのものではペナルティーに差 をつける必要があります)と塩基の挿入、欠失にどのようなペナルティーを与えるか でまったく異なる結果を得られます。たとえば、挿入、欠失をふんだんに入れること で塩基のマッチングを増すことも、多数の塩基の置換を許して最低限の挿入、欠失し か入れずアラインメントをとることも可能です。このように、ペナルティーは結果に 重大な影響を与えます。これは、もちろんコンピューター・ソフトの問題ではなく私 達の突然変異についての情報不足のせいです。したがって、こうした情報をえるため には多くの種の配列を決定することが必要です。

これはおそらく様々な生物種のゲノム配列決定後に生ずる問題です。そして、このノ ウハウこそどれだけ情報を引き出せるかのキーポイントになるでしょう(正解を知ら ずにやるわけで、誤った結果はいくらでもでてきます)。有効な解決法は、かなり多 数の種、たとえば50種、についてλライブラリィから相同非コード領域の配列を決 定し、その情報から各タイプの突然変異の起こりやすさ(正確には固定確率)を推定 し、それをフルシークエンスを行った種の配列アライメントに利用するといったもの です。これは、フルシークエンス(といってもヘテロクロマチンは除きますが)プロ ジェクトとは、密接な連係・協力は必要としますが、ある意味独立なもになるかもし れません。フルーシークエンスと異なり、領域数については、全体像の把握と推定が できればいいのでそれほど多くを必要としないと思います。やってみなければわかり ませんが、たとえば100領域とか。

この作業は、いたって地味ですが、必ず何らかの生物種で必要になります。現在、国 立遺伝学研究所の林さんがまとめ役で、「ナショナルバイオリソースプロジェクト」 なるものの情報が伝わっていると思います。この中では、ハエ屋のなかでそのプロジ ェクトがいかに重要かということもですが、それをハエでやらないといけない理由も 明らかにする必要があるでしょう。ハエの特徴は、言うまでもなく遺伝学の手法の豊 富さにありますが、古くから多くの種について分類、系統解析がなされてきたことも 挙げられるでしょう。これを利用し、50種といった多くの種の配列から変異のパタ ーンを推定し、その後の非コード領域のアライメントに役立てる。それをまず、ハエ から行うことも提案できるのではと思います。多くの種を行うことは各系統間のブラ ンチの長さを短くし、できるだけ正確に変化のタイプと方向を決定するのにはどうし ても必要です。

以上のコメントはこうした提案がなされていないようなので、上田さんが以前メール で呼びかけられた(この時はバックの作成といったことでしたが)ことに習い、ぜひ どなたかこの提案に賛同し積極的にしてみようという方がでてきてほしいと願って送 るものです。もしこうした提案がすでに相垣さんのところで検討中でしたらごめんな さい。これは事前に誰かと相談をしたわけでもない、まったくの個人的な考えです。 「ナショナルバイオリソースプロジェクト」への提案は一応取りまとめが終わってい ることになっていると思いますが、今なら提案をすることは可能ではないでしょう か。やる気と馬力のある方はぜひ、直接相垣さんか林さん(お二人の名前を勝手に出 してごめんなさい)に連絡をとってみてはどうでしょう。

実はまだメーリングリストに参加していないため、JFLYのメールに何らかのリスポン スを期待されても応答できません。もし私個人への質問、注文等がある場合(無責任 なメールの投げっぱなしにはならないよう、努力します)には、メールに個人のアド レスも加えていただけると助かります。ただ、本日一杯、来年は4日からしかメール は読めませんが。

どうぞよろしくお願いします。


国立遺伝学研究所
高野敏行




**********************
Toshiyuki Takano-Shimizu
Department of Population Genetics
National Institute of Genetics
Yata 1111, Mishima
Shizuoka-ken 411-8540
e-mail: totakanoアットマークlab.nig.ac.jp
FAX: 0559-81-6784
**********************


**************************************

Date: Sat, 29 Dec 2001 16:53:04 +0900
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species
From: matsuda

Jflyの皆様 杏林大の松田です。
other species に馴染みのない方が多いと思いますので。今まで取り上げられた種の
系統関係のさわりをお知らせします。遅いですが、議論の参考にして下さい。

Jfly で名前の挙がっている種の系統関係です。
Genus Drosophila
Subgenus Scaptodrosophila
Subgenus Hirtodrosophila
Subgenus Dorsilopha busckii
Subgenus Sophophora
Group obscura
Subgroup obsucura pseudoobscura
Group melanogaster
Subgroup suzukii suzukii
Subgroup melanogaster melanogaster simulans
Subgroup takahashii lutescens takahashii
Subgroup ananassae ananassae
Subgroup montium kikkawaii auraria
Group willistoni
Subgenus Drosophila
Group virilis virilis ezoana
Group replete hydei
Group fubebris funebris
Group immigrans immigrans albomicans

-- Muneo Matsuda
Kyorin University
School of Medicine, Department of Biology
6-20-2 Shinkawa, Mitaka, Tokyo 181-8611
JAPAN
Tel/Fax +81 422 71 1220
Tel +81 422 47 5512, 3642
Email matsudamアットマークkyorin-u.ac.jp


**************************************

Date: Sat, 29 Dec 2001 17:37:40 +0900
From: fuyama-yoshiakiアットマークc.metro-u.ac.jp (Yoshiaki FUYAMA)
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

松田様 皆様

このところ、レポートの採点ばかりやっているためか、ミスが気になり
ますので、ちょっと訂正させてください(^^ゞ

At 16:53 12/29/01 +0900, matsuda wrote:

>Jfly で名前の挙がっている種の系統関係です。

>Genus Drosophila
> Subgenus Scaptodrosophila
> Subgenus Hirtodrosophila

現在のショウジョウバエの分類学では、Scaptodrosophilaも
Hirtodrosophilaも、Genusに格上げされています。

> Subgenus Dorsilopha busckii
> Subgenus Sophophora
> Group obscura
> Subgroup obsucura pseudoobscura

   →Subgroup obscura
> Group melanogaster
> Subgroup suzukii suzukii
> Subgroup melanogaster melanogaster simulans
> Subgroup takahashii lutescens takahashii
> Subgroup ananassae ananassae
> Subgroup montium kikkawaii auraria
> Group willistoni
> Subgenus Drosophila
> Group virilis virilis ezoana
> Group replete hydei

  →Group repleta

> Group fubebris funebris

  →Group funebris > Group immigrans immigrans albomicans
--
布 山 喜 章 : 東京都立大学大学院理学研究科生物学教室
Yoshiaki FUYAMA : Dept. of Biology, Tokyo Metropolitan University
     e-mail : fuyama-yoshiakiアットマークc.metro-u.ac.jp


**************************************

From: "Shigeo Hayashi"
Subject: [Jfly] RE: [Jfly] Genome sequencing of other species
Date: Tue, 1 Jan 2002 09:36:32 +0900

明けましておめでとうございます。2002年第一号のメールです。

比較ゲノムと比較形態学をつなげられないかと考えています。近縁種間でかたちが異
なる体の部分として、生殖器、精子が良く知られていますが他に脚などはどうでした
でしょうか?tarsasなどは数・かたちがvariation豊かだったように思います。他に
もeggshellのかたち(松野さん!)など着目すべき箇所はあるかもしれません。

松田様、布山様、その他ご存じの方、知見をご披露いただけるとありがたく思いま
す。

林 茂生


**************************************

Date: Tue, 1 Jan 2002 14:05:54 +0900
From: fuyama-yoshiakiアットマークc.metro-u.ac.jp (Yoshiaki FUYAMA)
Subject: [Jfly] RE: [Jfly] Genome sequencing of other species

林 様 皆様

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

At 9:36 AM 02.1.1 +0900, Shigeo Hayashi wrote:

>比較ゲノムと比較形態学をつなげられないかと考えています。近縁種間でかたちが異
>なる体の部分として、生殖器、精子が良く知られていますが他に脚などはどうでした
>でしょうか?tarsasなどは数・かたちがvariation豊かだったように思います。他に
>もeggshellのかたち(松野さん!)など着目すべき箇所はあるかもしれません。

tarsusの形態的な変異としては、Hawaiian Drosophilaのmodified-tarsus
subgroupが有名で、あらゆるバリエーションがありますが、数の変異とい
うのはあまりないと思います。

Hawaiian以外で、変異が多いのは、Subgenus Sophophoraの種にみられる
sex-combの数や形ですね。ananassae subgroupなどは、sex-combの形でし
か区別できないような種が少なくないです。montium subgroupの種は巨大
なsex-combを持っており、種間の変異も大きいです。

上記のような、tarsusの変異は、雄に固有であり、ショウジョウバエの中
では比較的まれな二次性徴の例ですが、当然、その進化には、性選択が重
要な役割を果たしたと考えられます。性選択による進化は、その速度がき
わめて速いのが特徴ですので、ゲノム全体としての分化はきわめて小さい
にも関わらず、特定の形態的形質に関わる遺伝子あるいはその発現調節機
構には大きな種間変異がみられるといった、興味深い系を提供するものと
思います。

このような雌雄差はありませんが、immigrans groupやZaprionus属のfemur
にみられる特殊な剛毛の列やコブの列も不思議です。immigrans groupとい
うのは、このような剛毛列をもっていることで定義されたため、これがあれ
ば、なんでもimmigrans groupの放り込まれていたのですが、近年の分子進
化学的な研究によれば、系統的にまるで関係のない種が混じっているようで
す。つまり、収斂進化ということですね。この剛毛列がどのような機能をも
つかは見当が付きませんが、どうやら、適応的に中立な形質ではなさそうで
す。

==
布山 喜章 Yoshiaki FUYAMA fuyama-yoshiakiアットマークc.metro-u.ac.jp
東京都立大学理学研究科生物学教室


**************************************

Date: Thu, 3 Jan 2002 17:49:20 +0900
From: watadaアットマークsci.ehime-u.ac.jp (Masayoshi WATADA)
Subject: [Jfly] RE: [Jfly] Genome sequencing of other species

林様 皆様,

 伊藤さんのメールの後で,”年寄り”がメールを出すのは緊張しますが,あえて出
しました。こういうのは慣れだと思うので,一度出したら後はやみつきになるかも。
>
> 比較ゲノムと比較形態学をつなげられないかと考えています。近縁種間でかたちが異
> なる体の部分として、生殖器、精子が良く知られていますが他に脚などはどうでした
> でしょうか?
>
 どういう形で,比較ゲノムと比較形態学がつなげられるか,具体的には私にはわか
りませんが,もしできたらとても面白いと思います。形に関しては布山さんが答えら
れているので,質問の意図とは,ずれるかもしれませんが,色や模様について近縁種
間の差違があるものを紹介します。
 今まで話題になったショウジョウバエでは,montium species subgroup や albomi
cans が含まれる nasuta complex でおでこが白いのとそうでないのが近縁種間で存
在します。前者は雄のみ白いものや雌雄白いもの,白くないものが比較的近縁種間で
存在します。後者は雄のみ白いものが存在します。ただし形はいろいろで,白くない
ものもいます。 nasuta complex の白さは細かい毛が密生していることによるもので
,色ではなくて,近縁種間でかたちが異なると種といっても良いと思います。また,
montium species subgroup にはアンテナが白いもの(ヒゲジロショウジョウバエ)
もいます。
 体に黒い線があるものでは,obscura species subgroup (フタスジショウジョウバ
エ)やmontium species subgroup (ムナスジショウジョウバエ)及び,ショウジョ
ウバエ亜属では robusta species group が近縁種間で黒線のあるなしや数が異なる
ものがいます。黒点のような模様では,suzukii species subgroup では雄の翅の黒
い模様に近縁種間の差があります。ショウジョウバエ亜属の quinaria species grou
p では腹部背板の黒斑に近縁種間で違いがあります。

**************************************************
和多田 正義 わただ まさよし  〒790-8577 愛媛県 松山市文京町3番地  共通教育棟
愛媛大学 理学部 生物地球圏科学科 生態環境変遷学講座
Email: watadaアットマークsci.sci.ehime-u.ac.jp
Tel: 089.927.9641
Fax: 089.963.4510
**************************************************


**************************************

Date: Fri, 4 Jan 2002 21:41:49 +0900 (JST)
Subject: [Jfly] RE: [Jfly] Genome sequencing of other species
From: TOMARU Masatoshi

あけましておめでとうございます。

林さん、みなさん、
都丸@ショウジョウバエ遺伝資源センター.京都工繊大です。

比較ゲノムの手法ではどのくらいのことまで推測できるのでしょうか。

ちょっと気になって。

系統的に離れた種間で異なる形態形質に関して、その遺伝的要因が
どのようなものであるのか調べるのは面白いと思います。
進化に興味のある人なら、それが何か知りたいと思いますし。

気になるのは、比較ゲノムという統計的、確率論的な説明で
満足できるのか、というところです。
遺伝子(産物)同士の相互作用という説明ではない、もっと、
なんというかメタな説明にならざるを得ない気がしますが。

近縁種の間の小さな形態の違いであっても、複数の
遺伝子が関与していることがあること。
明確な形態の違いが、系統的に離れた種間で見られても、
少数の遺伝子の関与とは限らないこと。
高野さんのいうように、非コード領域が重要だと
思うのですが、そうすると、系統的に離れた種間では
違いがありすぎて比較できない可能性があること。
なーんてこと考えると(思考方法が縛られていそーなので)
何か発想の転換を、ぼくがしないとだめなのかしら
とも思いますけども。

種間の違いに関わる因子を見つけるのは、交配ができる
近縁種同士に限る。そういった考えではない比較ゲノムの
方法は、(遺伝学から見れば)メタなアプローチなのだから、
とりあえず、メタな説明をして、それを個々の問題に
分解できればいいのでしょうけども。
そういう方法論ってあるのでしょうか。

話逸れちゃいましたね。

melanogaster と simulans complex のあいだの
複眼のサイズとかはテストケースとして使えません?
ばらつきがありすぎてだめかしら。

-- 都丸 雅敏 tomaruアットマークipc.kit.ac.jp
京都工芸繊維大学ショウジョウバエ遺伝資源センター
〒616-8354 京都市右京区嵯峨一本木町
電話 075-873-2660(内線 34)
電話 075-873-2655(ダイヤルイン)
Fax 075-861-0881


**************************************

Date: Sun, 6 Jan 2002 13:57:06 +0900
From: sawamuraアットマークDGRC.kit.ac.jp (Sawamura, Kyoichi)
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

最近の Genome sequencing of other species に関する話題、楽しく拝見させていた
だいております。

比較ゲノムと比較形態学をつなげるために、発想の転換や新しい手法が必要になるで
あろうという点、全くその通りだと思います。ただ、このような研究の転換点におい
て、先人の知恵もまた参考になるのではないでしょうか。

ショウジョウバエにおける比較ゲノム研究のさきがけは、遠縁の種間でどの染色体腕
が相同であるかを推定した、いわゆる Muller's elements の提唱(Muller (1940) p
p. 185-268 in The New Systematics (Huxley ed.); Sturtevant & Novitski
(1941) Genetics 26, 517-541)だと思います。これは、それぞれの種における遺伝
子の連鎖地図を比較することによって得られたアイデアですが、その基礎には複数の
種における知識の蓄積があったことは重要です。そもそもこのアイデアの出発点にな
った研究は、Sturtevant (1920-21) が作成した simulans の連鎖地図です(Genetic
s 5, 488-500; 6, 43-64; 6, 179-207)が、詳細な突然変異の比較(simulans と me
lanogaster の間では相補性検定が可能)から遺伝子の配列に共通性のあることを見
い出しています(種間での染色体逆位が細胞学的に観察される前に、遺伝学によって
これを予測!)。

このような歴史に学んで、比較ゲノムと比較形態学をつなげる研究を進めるためには
、複数の種における基礎的な発生遺伝学の推進が必要ではないでしょうか。そのため
には、まず melanogaster 以外の種において、突然変異系統の収集、バランサーの作
成、形態形成異常を引き起こす遺伝子の大規模スクリーニングなどから始めるのが常
套手段のように思います。このような観点からも、ディスカッションの一番はじめに
相垣先生が提案されました複数の基準種の設定は意義があると思います。また、将来
、遺伝学的知見が重要になるでしょうから、突然変異などの沢山知られている種をそ
の候補とすべき、という松林さんの意見にも賛成です。

基準となる種の設定については、下記のような案(melanogaster を含む系統群をど
んどんと外に広げていく)を提案します。
melanogaster species subgroup から1種
melanogaster species group から1種
Subgenus Sophophora から1種
Genus Drosophila から1種

最近のゲノム研究を拝見しておりますと、ジグソーパズルの断片を、例えば、これは
空色これは木の色というふうに一気に分類して、大まかな輪郭をつかむ、というよう
な印象を持ちます。着実に断片の隣同士をつなげていくような、地道な研究も一方で
重要になってくると思います。

京都工芸繊維大学 ショウジョウバエ遺伝資源センター 澤村京一


**************************************

Date: Sun, 6 Jan 2002 16:12:46 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

At 1:57 PM +0900 02.1.6, Sawamura, Kyoichi wrote:
> には、まず melanogaster 以外の種において、突然変異系統の収集、バランサーの作
> 成、形態形成異常を引き起こす遺伝子の大規模スクリーニングなどから始めるのが常
> 套手段のように思います。

突然変異やバランサーの系統を作るとなると、一つ一つの種について
まず純系を作らないとならないと思いますが、melanogaster の場合
Canton S や Oregon R は200〜300世代の近親交配を続けて樹立され
ているはずですから、近縁種で新たに純系を作るとなると、2週間で
1世代としても、とても5年じゃ終わらない?

純系に近い系統がある程度すでに樹立されている種、という観点で考
えると、どのような候補が残るのでしょう?

いとうκ


**************************************

Date: Sun, 6 Jan 2002 17:16:26 +0900
From: sawamuraアットマークDGRC.kit.ac.jp (Sawamura, Kyoichi)
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

いとうκ 様

>突然変異やバランサーの系統を作るとなると、一つ一つの種について
>まず純系を作らないとならないと思いますが、melanogaster の場合
>Canton S や Oregon R は200〜300世代の近親交配を続けて樹立され
>ているはずですから、近縁種で新たに純系を作るとなると、2週間で
>1世代としても、とても5年じゃ終わらない?

これ(純系の作成)について、私は楽観的です。先にバランサーさえ出来てしまえば
、染色体をホモ化することは簡単だと思います(卵が先かニワトリが先かという議論
になってしまいますが)。また、野生種の中には沢山の染色体逆位を平衡多型(劣性
致死遺伝子を伴って?)として維持しているものがありますので、これらがバランサ
ーの出発点として使えるのではないでしょうか。melanogaster でも研究の初期(1
910年代)には、野外集団由来の染色体逆位が(組み換え抑制因子として)活躍し
ていたと思います。

>純系に近い系統がある程度すでに樹立されている種、という観点で考
>えると、どのような候補が残るのでしょう?

この観点(遺伝的手法の適用可能性)から、候補は結構絞られてしまうと思いますが
、どなたか発言お願いします。

澤村


**************************************

Date: Mon, 7 Jan 2002 14:09:45 +0900
From: fuyama-yoshiakiアットマークc.metro-u.ac.jp (Yoshiaki FUYAMA)
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

伊藤様 皆様

At 16:12 01/06/02 +0900, ITO, Kei wrote:

>突然変異やバランサーの系統を作るとなると、一つ一つの種について
>まず純系を作らないとならないと思いますが、melanogaster の場合
>Canton S や Oregon R は200〜300世代の近親交配を続けて樹立され
>ているはずですから、近縁種で新たに純系を作るとなると、2週間で
>1世代としても、とても5年じゃ終わらない?

Canton S や Oregon Rが、かって、近親交配を続けた経緯があるからと
いって、純系だと思うのは幻想だと思います。毎世代、新しい突然変異
が生ずるからです。

D. melanogasterの場合、致死突然変異だけで、ゲノムあたり、毎代2〜
3%の確率で起こりますね。弱有害突然変異を含めると、これよりかなり
高くなるはずです。Kondrashovが予想(期待)するように、毎代1を越え
るかどうかは、微妙なところですが。

こういった名門系統でも、かなりの数の劣性致死突然変異を持っている
とふんでいますが、どなたか調べた経験はありませんか?

>純系に近い系統がある程度すでに樹立されている種、という観点で考
>えると、どのような候補が残るのでしょう?

という次第で、私は、そんなことに手間をかけるのはあまり意味がない
ように思います。ヒトゲノムプロジェクトだってそんなことはやってい
ませんし(^^ゞ

--
布 山 喜 章 : 東京都立大学大学院理学研究科生物学教室
Yoshiaki FUYAMA : Dept. of Biology, Tokyo Metropolitan University
     e-mail : fuyama-yoshiakiアットマークc.metro-u.ac.jp


**************************************

Date: Mon, 7 Jan 2002 15:38:40 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

At 2:09 PM +0900 02.1.7, Yoshiaki FUYAMA wrote:

> こういった名門系統でも、かなりの数の劣性致死突然変異を持っている
> とふんでいますが、どなたか調べた経験はありませんか?

以前 NP コンソーシアムで GAL4 系統の大量作成をやったとき、既存の
isogenized white 系統にどうもいろいろ変異が乗っているように思われた
ので、当時群馬大学の吉原さんが、CS をもとに isogenized 系統を作りま
した。CS のビンから1匹ずつとってきて、それを iso にしていって、外見
や行動がなるべく正常そうで、元気で子供を良く産む系統を選んだのです
が、致死になってしまう系統がボロボロ出てきて、すごかったですよ。突
然変異スクリーニングに十分使えるくらいの頻度だね、と吉原さんと話し
合ったものです。P を飛ばすみたいにホットスポットの問題もないですし、
EMS みたいに有毒物質を扱う不安もないので、皆さん如何ですか?^_^;
(マッピングは大変でしょうけど。)

また、交尾行動の実験で野生型コントロールとして CS を使おうと思い、
世界各国、いくつもの知り合いのラボから CS を集めて比べたところ、ヘ
テロセクシャルなものからほとんど完全にバイセクシャルなものまで本当
にさまざまで、驚いたことがあります。CS が確立されてから、ラボごと
に、ものによっては80年近く隔離して維持されているわけですから、独
自の変異はいろいろ貯まっているだろうし、1つのラボでずっと維持され
ていた系統でも、1992年の CS と 2002 年の CS では、だいぶ変わって
しまっていると思います。ハエの脳の標準的なアトラスを作って各領域の
サイズ等を突然変異と精密に比較しようという standard brain というプロ
ジェクトがありますが、その会合でも、今年の CS と10年後の CS は違う、
何をもって standard と呼ぶのか?という議論が出ました。ハエもワイン
と同じで、系統(品種)だけでなく、ラボ(産地)、実験した年(生産年)
の3つの情報を記載すべきなのかも知れません。

10年ほど前からずっと提案しているのだけれど誰も本気に相手にしてくれ
ないのですが、この機会なので、ついでに。

上記の通り、CS や OR の純系のハエというのは、

 1:ある時点(近親交配を繰り返された時点)では遺伝的にきちんと揃っ
   ていた。
 2:その後染色体がバランスされないでフロートの状態のまま、隔絶さ
   れた環境で少ない匹数でずっと維持されてきた孤立集団が多数存在
   する。

という点で、ハワイなど離島に広がったハエと、期間こそだいぶ違え、似
ている点があると思います。純系のハエは、最初に誰からもらったかが各
研究室の記録をたどれば分かることが多いと思いますから、Morgan 以来
の履歴を辿って答え合わせすることが、ある程度可能です。(上記の求愛
行動の実験では、Benzer 研由来と思われるハエは堀田研から取り寄せた
のも Jeff Hall 研から取り寄せたのも、同じ求愛傾向を示しました。)これ
は離島のハエなどを用いた進化研究との大きな違いです。世界中から CS
や OR のハエを集めて SNP など微小な変異を検出して、分子進化から辿れ
る系統樹(というのかな?)を作り、各ハエの過去の履歴と比較して、分
子進化の速度がいま普及している理論と本当に一致するのかを検証したり、
分子進化から予想されるハエ集団の枝分かれと歴史に記録されたハエ集団
の枝分かれを比べて、両者が本当に一致するかを確かめたり、というよう
な研究は、ダメ?

数十年程度の孤立環境では、この手の研究をするには短すぎますか?


> >純系に近い系統がある程度すでに樹立されている種、という観点で考

> ように思います。ヒトゲノムプロジェクトだってそんなことはやってい
> ませんし(^^ゞ

純系ではないですが closed colony を1300年以上続けた貴重な系統が日
本にあったのですけど・・・。

いとうκ


**************************************

Date: Mon, 7 Jan 2002 17:30:58 +0900
From: fuyama-yoshiakiアットマークc.metro-u.ac.jp (Yoshiaki FUYAMA)
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

At 15:38 01/07/02 +0900, ITO, Kei wrote:

>純系ではないですが closed colony を1300年以上続けた貴重な系統が日
>本にあったのですけど・・・。

3世代位前までは、かなりopenだったようですよ(^^ゞ

--
布 山 喜 章 : 東京都立大学大学院理学研究科生物学教室
Yoshiaki FUYAMA : Dept. of Biology, Tokyo Metropolitan University
     e-mail : fuyama-yoshiakiアットマークc.metro-u.ac.jp


**************************************

Date: Fri, 11 Jan 2002 11:44:00 +0900
From: Toshiro Aigaki
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

JFLYの皆様,
相垣アットマーク都立大です.
 いろいろ議論がでましたが,シークエンス情報が役立つという観点で種を選ぶとな ると,研究をやっている人の興味しだいで変わりますので,なかなか一致させるのは 難しくなります.いっそのこと,部分比較ゲノムを多数の種についてやるという方針 の方が独創的な成果につながるように思われます.部分というのは,PCRで増やした 遺伝子の一部というケチなものではなく,例えば,BACクローン(1クローン 100-120kb)で何本という単位です.全ゲノムシークエンスを出すことは,現時点では 技術的にも大変なことです.仮に多大な時間と経費を使ってできたとしても,その利 用は一部の研究者に限られたものになる可能性があります.それに対して,BACライ ブラリーを多数の種で整備することで,多様なニーズにこたえられると思います.制 御領域を含めた配列が得られることや,2種を比べるのとは違って,進化の過程で生 じたゲノムの多様性を比較できる,などの利点があります.ショウジョウバエのコミ ュニティとしては,全ゲノムシークエンシングを目指すより,このような柔軟な対応 ができるインフラを整備することが最も有用であると考えます.もちろん,各研究者 が目的のBACを同定したら,そのシークエンシングができるように整備することも含 めます.配列情報は時間と共に蓄積していきますし,シークエンシングの技術,設備 が変われば,あっという間に全ゲノムシークエンスができるようになるかもしれませ ん.それは,そのときよろこんでそうすればよいだけです.山ほどあるショウジョウ バエの種を全部やるわけにはいきませんが,澤村さんがまとめてくださったように, 体系的に選ぶ方法とすでに興味深い生物現象について研究がなされているものを選ぶ ということでよいと考えます.私の理解では,JFLYの議論にでてきた種は数えられる くらいなので,それらを含めて10種程度についてBACライブラリーを整備すれば,少 なくとも国内の研究者の要望にこたえられるのではないかと思います.まちがってい たら御指摘ください.ライブラリーを作成した後,研究者が利用しやすいリソースに なるよう配布体制も整備しておくことも大事です.
相垣


**************************************

Date: Fri, 11 Jan 2002 14:07:22 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

At 11:44 AM +0900 02.1.11, Toshiro Aigaki wrote:

> バエの種を全部やるわけにはいきませんが,澤村さんがまとめてくださったように, > 体系的に選ぶ方法とすでに興味深い生物現象について研究がなされているものを選ぶ > ということでよいと考えます.私の理解では,JFLYの議論にでてきた種は数えられる > くらいなので,それらを含めて10種程度についてBACライブラリーを整備すれば,少 > なくとも国内の研究者の要望にこたえられるのではないかと思います.

相垣さんの提案に賛成なのですが、先月来の一連の議論を見ていて少し
気になった点が。

melanogaster から広げてゆけばいろいろ出来るのでは・・・、誰か
が使うのでは・・・、という一般論の意見はいろいろ出てますが、「私
はこの種(1つでも複数でも)を調べるのが面白いと思う。この種をや
れば、これまで分からなかったようなこういうことが分かるはずだ。だ
から、ぜひ支援して欲しい!」という、具体性とモチベーションにあふ
れた燃える提案が、あんまり(ほとんど)出てきてないように思えます。
この状況では、「国内の研究者の要望」というものが本当に存在するの
か?本当に将来そういう需要が日本の研究者の間に生じてくるのか?と
いう点が、いささか疑問です。この不景気で財政超赤字のご時世に、国
民の税金をたくさん使わせていただくからには、もうちょっと具体的な
「こういう研究ができるはずだ」という展望がないと、申し訳ないよう
に思います。

メダカの人たちの提案を見せていただきましたが、「どうしてもやるぞ、
こんだけ努力してるんだから、支援してくれ」という意気込みが、我々
よりずっとずっと上回っているように感じました。やはり過去10年以上、
現実的な事情からゼブラを使いつつも、内心はメダカをやりたいやりた
いと思い、努力してきたというモチベーションの蓄積が、影響している
ように思います。それに比べると私たちのショウジョウバエ近縁種に関
する議論は、「燃えるモチベーション」に欠ける面が否定できません。

下手をすると、「ゲノムで予算が出るらしいから、誰が使うか分からな
いけどとにかくお金を申請して研究資源を作っておこう」としていると
外部から思われかねませんが、それでは、誰も走らない高速道路をせっ
せと作る建設族と、変わらなくなってしまいますもの。

もちろん、本当にやりたい研究提案は Jfly などに流すとネタ割れして
しまうので、ひそかに考えを暖めて科研費の申請書に書くのだ、という
のは賢い戦略ですから、そうならばよいのですが。

数年後に、melanogaster から近いもの遠いものをバランス良く含む10
種ほどのショウジョウバエ other species について BAC ライブラリー
や一部のシーケンスなどの研究資源が揃い、これらの種についてある程
度確立した基準系統や変異系統がシステマティックに維持され、容易に
分与を受けられるようになる、という状況が来ると考えたとき、「それ
を誰かに使ってもらおう」ではなく、「それを使って私がこういう研究
をやろう」と考える人が私たちの中から大勢出てくれないと、投入した
税金が無駄になります。そっちを真剣に考えることが、今後数年間わた
したち各自に課せられた課題になると思います。



あるいは発想を変えて、別にショウジョウバエ近縁種に限らずに「燃え
ることができる研究対象」を別個に考えてもいいのかも知れません。ハ
エの研究者には、ムシ好きの人が多いですよね。それを単に趣味と割り
切って研究と区別するのではなく、ハエでは出来ないことを研究し、ハ
エの知見をより広い視野から「相対化して」理解するためのツールとし
て、もっと真剣な研究対象にするのも1つの方法かも。カイコやコオロ
ギ、ハチなど他の昆虫を用いた研究は多々ありますが、ハエの研究者か
ら見ると今ひとつ「燃える」ことができないようですね。何がいいんで
しょう?

クワガタにひそかに燃えているハエ研究者は諸処にいるようですが、こ
のさい思い切って本業に取り込むとか。

いとうκ


**************************************

Date: Fri, 11 Jan 2002 19:42:01 +0900
From: Toshiro Aigaki
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

伊藤さんの”燃えるモチベーション”に関する指摘はもっともです.小型魚類にくら べると,研究のフェーズが異なるため,”分かりやすい燃え方”が難しいところで す.しかし,どこかの高速道路のようにother species genome librariesの利用者が いないという事態は心配しなくてもよいと思います(仮に,あまり利用されなかった としても,BACライブラリーを作るだけなら,イノシシ道をつくる程度でしょう). 具体的な案として出てこないのは,大事なネタをばらしたくないということかもしれ ません.一般的な利用法としては,遺伝研の林さんが以前ふれたように,形態の多様 化の基盤をゲノム配列と関連づけていくという研究です.このような視点で具体的な テーマを考えている方はすでにおられると思います.また,分子進化の研究者からす れば,よだれがでるようなリソースになると思います.彼らがjflyに参加していない ので,もりあがりに欠けるのかもしれません.
相垣


**************************************

Date: Sat, 12 Jan 2002 02:18:35 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

At 7:42 PM +0900 02.1.11, Toshiro Aigaki wrote:

> いないという事態は心配しなくてもよいと思います(仮に,あまり利用されなかった > としても,BACライブラリーを作るだけなら,イノシシ道をつくる程度でしょう).
でも、BAC ライブラリーを10種にもわたってちゃんと作って配布可
能な体制を作るのだって、大変な仕事だと思います。それが「全然利
用されない」のはもちろん、「あまり利用されない」のだって、税金
だけでなく相垣さんの努力と人生の時間が、あまりに報われない・・・。^^;

> テーマを考えている方はすでにおられると思います.また,分子進化の研究者からす > れば,よだれがでるようなリソースになると思います.彼らがjflyに参加していない > ので,もりあがりに欠けるのかもしれません.

分子進化の研究者の皆さんのあいだでは、研究会やメーリングリスト
で、この手の議論(ショウジョウバエの種間比較の有用性)は実際に
盛り上がっているのでしょうか?

melanogaster のゲノム配列が解明されたころ産まれた子供が、もう
おむつが取れて歩き出すくらいの時間がすでに経ったのですから、
「こんなリソースがあればよだれがでるから、ハエの皆さんぜひ作っ
てくれよ」くらいのアプローチを、分子進化の人からすでに受けてい
てもいいころかも知れません。もし日本の分子進化の皆さんが、ハエ
なんかにはあんまり興味を持ってないとしたら、むなしい片想いになっ
てしまいます。

こういうのは、向こうからアプローチして来るのを待つのがいいのか?
こっちからもっとアピールした方がいいのか、もうすぐバレンタイン
デーですが、それと同じように悩むところですね。

other species なんかやったって虚しいだけだからやめちゃえ、と言
いたいわけではありません。むしろ逆で、近縁グループの種を幾つも
体系的に調べて全体像を丹念に比較するなんて仕事は、線虫やゼブラ
やマウスやヒトではとても出来ない、ショウジョウバエでしか出来な
い貢献になりますから、意義は大きいと思います。ただその意義を最
大限に活かすためには、1:得られるデータや研究資源を有効利用す
る方策を、今のうちから皆が真剣に考えておくこと、2:データや資
源を作る人でなく、使いたい人が、密かにアイデアを暖めるだけでな
く今のうちから積極的にコミットすること、が大切だと思います。

いとうκ


**************************************

Date: Sat, 12 Jan 2002 13:11:07 +0900
From: Toshiro Aigaki
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

At 2:18 AM +0900 1/12/02, ITO, Kei wrote:
>
>でも、BAC ライブラリーを10種にもわたってちゃんと作って配布可
>能な体制を作るのだって、大変な仕事だと思います。それが「全然利
>用されない」のはもちろん、「あまり利用されない」のだって、税金
>だけでなく相垣さんの努力と人生の時間が、あまりに報われない・・・。^^;

見通しがないプロジェクトを提案しても,だれも認めてくれませんよ.
無駄になるのは,プロポーザルの準備に要する時間と労力.それも貴重ですが.

相垣


**************************************

Date: Tue, 15 Jan 2002 13:31:32 +0900
From: Atsuko Date-Ito
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

お茶大の伊達です。

>> テーマを考えている方はすでにおられると思います.また,分子進化の研究者からす
>>
>> れば,よだれがでるようなリソースになると思います.彼らがjflyに参加していない
>>
>> ので,もりあがりに欠けるのかもしれません.
>分子進化の研究者の皆さんのあいだでは、研究会やメーリングリスト
>で、この手の議論(ショウジョウバエの種間比較の有用性)は実際に
>盛り上がっているのでしょうか?

分子進化をかじっている者として、レスが遅くなってしまったことをお詫びします。
私自身も系統分類を専門にしているわけではなく、持っている知識も微々たるもので
すが、個人的な意見として述べさせていただきます。

以前遺伝研の高野さんがメールで述べられたかと思うのですが、基本的にはその意見
に賛成です。melanogaster近縁種は種分化の議論をする上で配列比較は重要であるた
め、simulansやアフリカ産になりますがyakubaなどが有用だと思います。その他の種
については、遺伝子レベルでの塩基置換がある程度十分蓄積された種がよいのではな
いでしょうか。

これは個人的な意見ですが、ある遺伝子(族)について分子進化学的な解析を行う場
合、興味ある遺伝子(あるいはその表現型)の特徴によって調べる種は決まってくる
と思うのです。または、近縁から配列を決めていく段階で「これはこの種を調べたら
もっと面白いかも」という候補が見つかって調べていくようなやり方で。ですから、
研究者によって興味ある種は個々に異なってくるでしょうし、全員を納得させるよう
な種というのはあげられないなぁというのが率直な感想です(私自身はtakahashiiが
興味の対象)。

また、実験のストラテジーとして、既知の配列をもとにして異種間でPCRをしたり、
ライブラリーからスクリーニングをしたりしているわけなのですが、遠縁のものだと
その系がうまく働かないことが多いです。そういった観点からいうと、
pseudoobscuraやvirilis, immigransといった配列の情報があれば、その種を手がか
りとしてすすめることが容易になると思います。

ゲノムレベルの解析になると、noncoding region の比較が可能かどうかの問題が出
てくると思いますし、これは以前にも述べられていたと思うので、割愛します。

配列レベルから私が言えることはこれくらいですが、個人的にはやはりbiologicalに
違いがあるようなものの比較が面白いですね。

非常に低レベルの意見で申し訳ありませんが、一言述べさせていただきました。


伊達敦子

============================================
伊達 敦子 Atsuko Date-Ito
文部科学省統計数理研究所COE研究員/お茶大・理・生物  〒112-8610 文京区大塚2-1-1
03-5978-5372(tel), 5373(fax)
E-mail address: datteアットマークcc.ocha.ac.jp
============================================


**************************************

Date: Wed, 16 Jan 2002 16:50:18 +0900
From: sawamuraアットマークDGRC.kit.ac.jp (Sawamura, Kyoichi)
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

比較ゲノムということで、その名もずばり、「D. melanogaster, D. simulans: so s
imilar so different (CNRS-Gif)」というワークショップから、今朝戻ってきました
。頭がホットな内にと思い、メールを書いています(時差ボケのせいもあって、正確
な議論を提供できりかどうか分かりませんが)。

ヒトに続いて近い将来、チンパンジーのゲノムが解析されると、これからますます近
縁種を比較することの重要性が認識されると思います。そのような時にショウジョウ
バエで何が貢献できるかと考えると、 いとうκ さんがおっしゃる通り、「近縁グル
ープの種を幾つも体系的に調べて全体像を丹念に比較する」ということになると思い
ます。こんなことは、本当に他のモデル生物では不可能です。

>other species なんかやったって虚しいだけだからやめちゃえ、と言
>いたいわけではありません。むしろ逆で、近縁グループの種を幾つも
>体系的に調べて全体像を丹念に比較するなんて仕事は、線虫やゼブラ
>やマウスやヒトではとても出来ない、ショウジョウバエでしか出来な
>い貢献になりますから、意義は大きいと思います。

上記のワークショップでも、次はどのショウジョウバエ種のゲノムか、ということが
話題になりました。皆さんもご存じのようにアメリカでは pseudoobscura というこ
とになっているようです。しかし、もっと melanogaster に近縁なものが有用だとい
う意見が多く聞かれました。ワークショップには、集団遺伝学者も参加しておられま
したが、彼らはもっと極端で、 melanogaster や simulans (さらに mauritiana や
sechellia を含めて)の種内多型とこれらの系統関係に興味があるようでした。実際
、複数(5個位)の melanogaster 個体(地域集団)のゲノムシークエンスプロジェ
クトが計画中(UC-Davis)とのことでした。これでは、集団遺伝に興味のない者にと
ってはあまり有り難くないかもしれません(1匹くらい simulans を入れてしまえと
いう冗談も囁かれましたが)。もう少し、melanogaster から離れている、しかし ps
eudoobscura 程は離れていない、中間の種が、進化遺伝の対象になると思います。

澤村

**************************************

Date: Thu, 17 Jan 2002 09:39:26 +0900
From: Nobuyuki INOMATA
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

Jflyの皆様、

猪股@九大です。
最近のGenome sequencing of other speciesに関する話題、興味深く拝見させていた だいております。この話題に関しては相垣さんのご提案をはじめ、これまでに投稿さ れた方々の意見にはおおむね賛成です。高野さんの総論にあるように情報を取り出す 効率と進化的な距離さえ考慮されれば得られる「一般的な情報」は大差ないでしょう から、具体的な種の選別にあたっては個人的にはこだわりはありません。相垣さんが 述べられたように「Jflyの議論にでてきた種は数えられるくらいなので、それらをす べてこのプロジェクトでおこなうことが可能」であれば、これまでによせられた種に ついての貴重な意見は尊重されるべきでしょう。ですから直接このプロジェクトにつ いては今さら何か発言しなければ、ということはありませんでした。
しかし、最近、いとけいさんの指摘された「1:得られるデータや研究資源を有効利 用する方策を、今のうちから皆が真剣に考えておくこと、2:データや資源を作る人 でなく、使いたい人が、密かにアイデアを暖めるだけでなく今のうちから積極的にコ ミットすること」つまり「「燃えるモチベーション」に欠ける面」というのが気にな りましたので、other speciesを経験している立場から意見を述べたいと思います。 まず、非常に残念なことにこれまで投稿された方がJflyでは少数派であるはずの other speciesを経験された方に限られている点です。これはJfly参加者の多くがキ イロショウジョウバエを主材料にしていて、上記のプロジェクトそのものには現時点 では直接関係がない、あるいは魅力がないからだと思います。Jflyとショウジョウバ エ研究会は同一のものではありませんが、いとけいさんの御尽力により参加者の多く は重複していることを考えますと、ここでの意見交換はショウジョウバエ研究集会に 直結することでしょう。ですからGenome sequencing of other speciesに関して majorityである方々の意見はどのようなものであれ大変参考になるはずです。みなさ んの関心なくしてはother speciesはいつまでたってもotherのままです。other speciesに対する関心の低さは昨年のショウジョウバエ研究集会のときに身を持って 感じました。次に、other speciesにはキイロショウジョウバエにはない興味ある現 象がたくさん知られていますが、実際、それらに対してother speciesを使ってみる とパイロット実験である塩基配列の比較などは比較的簡単にできますが、その結果を 踏まえたうえでより踏み込んだ解析となるとキイロショウジョウバエでは常識的なこ とであってもなかなかむずかしいのが現状だということです。ここに将来、比較ゲノ ムと比較形態学が発展する余地が有ると感じています。発想の転換や新しい手法が必 要になるでしょうが、そのためにはやはり、沢村さんが述べられたようにother speciesでの遺伝学の発展は必要不可欠です。私自身もそうですが、そのようなツー ルが発達することでキイロショウジョウバエ研究者にとってother speciesが使いや すい魅力ある対象になると思います。other speciesの情報を常にキイロショウジョ ウバエに還元していくやり方ではなく、other speciesそのものの情報を真に引き出 すようなやり方です。極論をいえば配列比較をして、これは似てます、違います、だ けでは納得できないでしょうし、魅力薄だと思います。ただし、やるとすれば比較的 短い期間である程度整備されなければ、other speciesの遺伝学は認知されないので はないかとも考えています。この手のリソースの整備はGenome sequenceに比べ、格 段に地味で時間もかかる骨の折れる仕事ですので、とりわけ個々の研究室には不向き ではないでしょうか。Genome sequencing of other speciesの先のこととして実現可 能なのでしょうか。そこには「燃えるモチベーション」は存在しないですかね。個人 的には、もし、Genome sequencing of other speciesをここまで視野にいれるとすれ ば、また少しでも魅力を感じて頂けたら、特定の種の選別にあたってもう一度Jflyあ るいはショウジョウバエ研究会参加者全員でじっくり議論されるべきだと思っていま す。今さら議論をむしかえすのも恐縮ですが、いかがでしょうか。
思いきってハエ以外の材料の開発に目を向けるということもおもしろそうですが、キ イロショウジョウバエからの移行を前提とすると得策ではないように思います。その 問題は切り離して議論可能なことではないでしょうか。そうなったら「ショウジョウ バエ研究会」でなくなってしまうかも。

*****************************************
〒812ー8581
福岡市東区箱崎6ー10ー1
九州大学大学院・理学研究院・生物科学部門
分子集団遺伝学講座
猪股 伸幸
TEL: 092ー642ー4344
FAX: 092ー642ー2645
E-mail: ninomscbアットマークmbox.nc.kyushu-u.ac.jp


**************************************

Date: Thu, 17 Jan 2002 17:00:02 +0900
From: "Etsuko T. Matsuura"
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

At 9:39 AM +0900 02.1.17, Nobuyuki INOMATA wrote:

> しかし、最近、いとけいさんの指摘された「1:得られるデータや研究資源を有効利
> 用する方策を、今のうちから皆が真剣に考えておくこと、2:データや資源を作る人
> でなく、使いたい人が、密かにアイデアを暖めるだけでなく今のうちから積極的にコ
> ミットすること」

> んの関心なくしてはother speciesはいつまでたってもotherのままです。other
> speciesに対する関心の低さは昨年のショウジョウバエ研究集会のときに身を持って
> 感じました。

> とであってもなかなかむずかしいのが現状だということです。ここに将来、比較ゲノ
> ムと比較形態学が発展する余地が有ると感じています。発想の転換や新しい手法が必
> 要になるでしょうが、


議論の本筋からはずれますが、前々回の研究集会で”other speciesのゲノムを”と
発言した年寄りの繰り言です。

集団/進化の分野からの参加については、研究集会のたびに主催者の方が苦労してき
ておられますが、集団/進化の分野とショウジョウバエ分子生物学の交流をはかるこ
とによって日本のショウジョウバエ研究をもりあげようとしたことは、研究会設立の
動機のひとつでした。その意味でも、少なくともother speciesのゲノムへの「イノ
シシ道」のつくことは、ショウジョウバエ研究の新たなステップとして、大切だと思
います。other speciesに親しんできた人たちはその魅力と難しさを積極的に示し、
mealnogasterをもっぱらとしてきた人たちは、これまでの自分の研究が近縁種の利用
からどんな風に発展できるのかといったようなことに考えを巡らす、その交流の蓄積
がこれまでにない研究分野を生む土壌となるのではないかと、原点に立ち戻った期待
をしています。今は、多くの人の興味や関心が高まって、またショウジョウバエを専
門としないの外からの参加もあって、という状況を作り出す第一歩、というところな
のではないでしょうか。いとうさんの先のご指摘は大事にしたいと思いますし、柔軟
な議論をあせらずに進めていただきたいと思います。

松浦悦子
============================
松 浦 悦 子
お茶の水女子大学理学部生物学教室
〒112-8610 文京区大塚2-1-1
TEL 03-5978-5377
FAX 03-5978-5373
E-mail etmatsuアットマークcc.ocha.ac.jp
============================


**************************************

Date: Thu, 17 Jan 2002 23:55:21 +0900
From: Otsuna Hideo
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

基生研・名大の大綱 (D2) と申します。

これまで、主に比較遺伝学、比較形態学の面から討論が進んできました。しかし
、脳研究の分野から一つも意見が出ていないので、このままでは other species
の選択に脳研究分野からの意見が反映されないのではと危機を感じ、未熟ながら
一言述べさせていただきます。

始める前に、あまりに今回の私の意見がこれまでの討論とは、かけ離れているよ
うに感じる方もいると思うので少し前置きを・・・

>other speciesの情報を常にキイロショウジョ ウバエに還元していくや
>り方ではなく、other speciesそのものの情報を真に引き出 すようなや
>り方です。極論をいえば配列比較をして、これは似てます、違いま
>す、だけでは納得できないでしょうし、魅力薄だと思います。

猪股さんの意見に賛成です。双方に還元の他に、複数が結びついて初めて分かる
ということも重要だと思います。
また、ゲノム配列の比較だけのために other species を選ぶのではない、これ
までのモデル動物では分からなかった新しいことが、他の昆虫を使うことで見え
てくればよい。という風に私はとらえています。

>「私はこの種(1つでも複数でも)を調べるのが面白いと思う。この
>種をやれば、これまで分からなかったようなこういうことが分かるは
>ずだ。だから、ぜひ支援して欲しい!」という、具体性とモチベー
>ションにあふれた燃える提案が、あんまり(ほとんど)出てきてない
>ように思えます。
>この状況では、「国内の研究者の要望」というものが本当に存在する
>のか?本当に将来そういう需要が日本の研究者の間に生じてくるの
>か?という点が、いささか疑問です。この不景気で財政超赤字のご時
>世に、国民の税金をたくさん使わせていただくからには、もうちょっ
>と具体的な「こういう研究ができるはずだ」という展望がないと、申
>し訳ないように思います。

いとうκの述べたこの内容を今回の意見は一部汲んでいるのではないかと考えて
います。

これまでにほ乳類では犬、猫、フェレット、マウス、ラット、ヒト、サルといっ
た異なる種類の動物を使って、それぞれのメリット(脳のサイズ、発生期間、行
動実験の種類、芸の仕込みやすさ等)を生かした脳研究がされています。昆虫で
も、タバコスズメガ、カイコ、ハチ、コオロギ、ゴキブリ、イエバエ、ショウジ
ョウバエといった異なる種類を用いて、それぞれのメリットが生かされた脳研究
がされています。
そしてほ乳類と昆虫に共通な感覚情報処理機構(視覚情報処理ではレチナやラミ
ナ、嗅覚では糸球体構造)もこれまでに発見されてきました。
そのほか、同種目内(双羽目内)での神経線維の形態の差と行動様式の差を結び
つける研究( J. Comp. Neurol. 1997 E. K. Buschbeck and N. J. Strausfeld
)等も行われてきました。

現在、ショウジョウバエの成虫の脳を研究しているラボは、国内では片手の指で
足りてしまうほどしかないのですが、その研究をしている人が一度は思うであろ
うことに、
「ショウジョウバエの脳に電極を刺して神経活動が見れたらなー」ということが
あります。
実際、Sarcophaga bullata、Calliphora erythrocephala では中枢神経細胞に電
極を刺して、視覚刺激を与えながら細胞から応答を取っています。私がいとうκ
のもとに来てからこれまでに何度、この電気生理学的知見の蓄積をうらやんだこ
とか・・・逆に、other species の研究者はショウジョウバエで使える遺伝学ツ
ール、分子生物学的知見をうらやんだりもしてましたけど。

ショウジョウバエは脳のサイズが小さく神経細胞の同定が、現在研究されている
昆虫の中では、最も容易な部類に入ります。しかし同定した神経細胞から電気応
答がとれないということは、現在の脳研究の流れからみるとかなりのデメリット
です。
そこで、ショウジョウバエで網羅的に神経細胞を同定したあと、発生過程と成虫
の神経細胞で発現している遺伝子を解析し、(そのとき調べた遺伝子は、これま
で蓄積している発生過程での機能データと結びつけて理解できる)そこで得られ
た構造、発生、発現遺伝子の3つの知見を other species に適応する。その後
other species の電気生理学的知見(ある知覚情報処理においた、ある神経細胞
の役割)を結びつけられれば、分かることが今よりずっと増えるだろうなと思う
のです。
新しく解析できることとして、神経細胞の形態形成と脳の知覚情報処理機能の関
係の解析、in vivoでの神経発火と各遺伝子の関係の解析などが、考えられます


今回述べたようなことからは
1. すでに電気生理学的、解剖学的知見がある程度蓄積している
2. 脳の構造がショウジョウバエと似ており、ショウジョウバエの脳の構造記載
と分子神経細胞学の知見がフィードバックできる。
という点で
Musca domestica(たしか、free flight でしか交尾しない。飼いにくそうです
が・・・でも日本中いたるところにいるので入手が容易。)
Calliphora erythrocephala(すでにラボストックが存在。)
Sarcophaga bullata(すでにラボストックが存在。)

を Genome sequencing of other species /BAC ライブラリー作成/分子生物学
、遺伝学的ツールの充実の候補に入れてもらいたいと思います。
今回挙げた種類はこれまでに議論にのぼらなかったものばかりなので、選択を混
乱させるようですみません。

しかし

> すでに興味深い生物現象について研究がなされているものを選ぶ
> ということでよいと考えます.

という相垣さんの意見とも一致しています。
その上、ここで挙げた種についてはすでに何人もの研究者が扱っているので、そ
の種を研究する研究者のコミュニティーをゼロから作る必要もありません。

>あるいは発想を変えて、別にショウジョウバエ近縁種に限らずに「燃
>えることができる研究対象」を別個に考えてもいいのかも知れませ
>ん。ハエの研究者には、ムシ好きの人が多いですよね。それを単に趣
>味と割り切って研究と区別するのではなく、ハエでは出来ないことを
>研究し、ハエの知見をより広い視野から「相対化して」理解するため
>のツールとして、もっと真剣な研究対象にするのも1つの方法かも。
>カイコやコオロギ、ハチなど他の昆虫を用いた研究は多々あります
>が、ハエの研究者から見ると今ひとつ「燃える」ことができないよう
>ですね。何がいいんでしょう?

ということとも、一致していると思えます。
我がボス殿・・・燃えられそうな気がしません?

それではJflyの皆様、お忙しいところ長々と失礼致しました。

大綱英生

-------------------------------------------------------
Otsuna Hideo
National Institute for Basic Biology
Division of Cell proliferation
Myodaiji, Okazaki, 444-8585 Aichi, Japan
Tel: 0564-55-7532 (from Abroad: 81-564-55-7532)
Fax: 0564-55-7533 (from Abroad: 81-564-55-7533)
email : otsunaアットマークnibb.ac.jp

Division of Biological Science
Graduate School of Science Nagoya University
email : otsunaアットマークbiol1.bio.nagoya-u.ac.jp
-------------------------------------------------------


**************************************

Date: Fri, 18 Jan 2002 11:21:22 +0900
From: watadaアットマークsci.ehime-u.ac.jp (Masayoshi WATADA)
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

愛媛大学の和多田です。
 1月11日付けのいとうさんのメールでの指摘については,今までJflyに投稿
されていなかったひとたちが意見の述べられているので,今回,私はこのことについ
てふれませんが,BACライブラリーができたら使ってみたいと思っている一人である
ことは述べておきたいと思います。
 1月11日付けの相垣さんのメールで 
> 私の理解では,JFLYの議論にでてきた種は数えられる
>くらいなので,それらを含めて10種程度についてBACライブラリーを整備すれば,少
> なくとも国内の研究者の要望にこたえられるのではないかと思います.

と書かれていますが,私も種類を絞るより,10種類ほどにすることに賛成なので,
今まで提案のあった種を,澤村方式に従ってリストアップしてみました。文面から判
断してはっきり主張していないものは省きましたので,漏れているものがあったら指
摘して下さい(カッコ内は提案者)。

(1) melanogaster species subgroup から
    D. simulans (相垣さん)
    D. sechellia (相垣さん)
(2) melanogaster species group から
    D. auraria (相垣さん)
    D. ananassae (松林さん)
    D. takahashii ? (伊達さん)
(3) Subgenus Sophophora から
    なし
(4) Genus Drosophila から
    D. immigrans (相垣さん)
    D. albomicans (和多田)
    D. ezoana (山本さん)

 合計で8種類です。D. sechellia だけが日本にはいませんが,10種類も使うな
らmelanogaster species subgroup のメンバーとして入ってもいいのではないでしょ
うか。D. takahashii に関しては,伊達さんははっきり提案しているわけではないの
ですが,私も賛成ですので一応?付きで入れました。melanogaster species group
の中で,ananassae (D. ananassae) やmontium (auraria) species subgroup は系
統的に古いグループと考えられているのに対し,takahashii species subgroup は系
統的には melanogaster species subgroup に近い新しいグループと考えられていま
す。ただし,私の提案するのは,D. takahashii の近縁種 の D. lutescens (雌で
は区別できないほど近い)です。理由はD. takahashii の分布の中心が東南アジアで
あるのに対し(日本での分布は南西諸島,九州四国南部,八丈島), D. lutescens
は北海道から九州までくまなく分布する,日本を代表する優占種であるからです。
  (3) Subgenus Sophophora からのものがないのは,melanogaster species group
以外の Sophophora が日本には少ないからだと思いますが,入れるとしたら obscura
species group の D. bifaciata か,その近縁種で日本固有種の D. imaii が良いの
ではないでしょうか。
  (4) Genus Drosophila からのD. ezoana は都立大のストックリストにもありま
せんが,おそらく北大のグループが持っていると思いますし,北海道で採集すること
も可能です。
  (5) Genus Drosophila 以外からという選択もありますが,今のところ良い候補
が見つかりません。
 皆様のご意見をお願いします。

**************************************************
和多田 正義 わただ まさよし  〒790-8577 愛媛県 松山市文京町3番地  共通教育棟
愛媛大学 理学部 生物地球圏科学科 生態環境変遷学講座
Email: watadaアットマークsci.sci.ehime-u.ac.jp
Tel: 089.927.9641
Fax: 089.963.4510
**************************************************


**************************************

Date: Sat, 19 Jan 2002 16:56:59 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

いとうκ@今週はずっと地方巡業中なので Jfly 経由で。

(あ、もちろん某遺伝研の研究室のように、隣の部屋同士で Jfly 経由
 でディスカッションするのも、大歓迎です。)

At 11:55 PM +0900 02.1.17, Otsuna Hideo wrote:
> 「ショウジョウバエの脳に電極を刺して神経活動が見れたらなー」ということが
> あります。
...
> 1. すでに電気生理学的、解剖学的知見がある程度蓄積している
> 2. 脳の構造がショウジョウバエと似ており、ショウジョウバエの脳の構造記載
> と分子神経細胞学の知見がフィードバックできる。
> という点で
> Musca domestica(たしか、free flight でしか交尾しない。飼いにくそうです
> が・・・でも日本中いたるところにいるので入手が容易。)
> Calliphora erythrocephala(すでにラボストックが存在。)
> Sarcophaga bullata(すでにラボストックが存在。)
> を Genome sequencing of other species /BAC ライブラリー作成/分子生物学
> 、遺伝学的ツールの充実の候補に入れてもらいたいと思います。

個人的には、ニクバエ Sarcophaga は、腐ったレバーをエサに使うので臭くて
かなわないので、ちょっと避けたい・・・。クロバエ Calliphora は、ホルモ
ン制御の研究では蓄積がありますが、脳研究ではやはりイエバエ Musca がいち
ばん研究が盛んでしょうね。ハエ脳のアトラスもイエバエのものですし。歩きな
がら地上で交尾するキイロショウジョウバエと違い、free flight で交尾するイ
エバエでは、メスはショウジョウバエ同様左右の目が離れているのに対し、オス
だけはトンボなどの空中捕食性昆虫と同様、左右の眼が正中付近まで大きく広がっ
ていて、視野前方の詳細な立体視が可能になっています。「飛びながら移動物体
を追尾する」という行為が、オスだけに要求されるのと関連があるのでしょうね。
もちろんこの視野の違いに対応して、オスの視葉には、視野前方に相当する部分
にメスにはない特別な回路領域があったりします。立体視のメカニズム解明には、
サルの視覚野よりは便利な系かも知れません。

さて、ショウジョウバエの脳に電極を刺して神経活動が見れたら、ということは、
細胞の活動そのものをきちんと調べるためにも、また、電極を刺すことだけが神
経研究だと思っている一部の(自称)脳研究者と (^^;) 多少は実のある話をするた
めにも、貴重なことではあります。ショウジョウバエ脳でも一部の大きな細胞で
は電気生理学的研究が行なわれていますが、他の大型昆虫に比べはるかに貧弱な
研究しかないのは事実です。が、

> を Genome sequencing of other species /BAC ライブラリー作成/分子生物学
> 、遺伝学的ツールの充実の候補に入れてもらいたいと思います。

この中のどこまでを「充実」させれば、ショウジョウバエで得られた知見をもと
にイエバエやクロバエやニクバエを有効利用できるのか、ということになると、
そこには難しい問題があります。これまで出てきたショウジョウバエother species
の場合には、BAC ライブラリーが揃い、ある程度のシーケンスがなされ、それぞ
れの種の系統が安定して入手可能な体制が整えば、それだけで、これまで不可能
だった様々な研究が可能になる可能性が高いです。が、イエバエのBAC ライブ
ラリー作成が入手可能になり、ラボストックが入手できたところで、それだけで
これまで出来なかった脳研究が何か可能になるかというと、そこはかなり謎です。
キイロショウジョウバエで取られた抗体や in situ プローブを使ってこれらのハ
エで細胞を同定することは、すでに可能なわけですから、それ以上の進展を望む
のならば、けっきょくは遺伝子導入系の開発や異所発現系の実現、突然変異系統
の蓄積などの「分子生物学、遺伝学的ツールの充実」を行なわないと、たいした
進歩にはならないでしょう。しかしそれには、現在ショウジョウバエ other
species の議論で検討されている作業とは、比較にならないレベルの努力が要求
されます。

けっきょく問題は、イエバエやクロバエをもっと便利な実験系にすることに自分
の人生の将来をかけようという「燃えるモチベーション」を持つ研究室、研究者
が、どれだけ居るか?ということになります。日本が国際社会の中で貢献してゆ
くという点では、世界的にある程度の人数が居なくてはなりませんし、日本の税
金でやるからには、ある程度の人数が日本にも居て、その成果を活かせなくては
なりません。しかし現状では日本には、イエバエやクロバエの脳研究にそこまで
入れ込む意欲がある研究室は、おそらく無いでしょう。この状態でイエバエのゲ
ノム解析に投資をすることは、田舎の高速道路建設と同じになってしまいます。

電気生理学がすでに広く実施されている昆虫に対して、分子生物学、遺伝学的ツー
ルの充実を図るという計画では、日本ではカイコガを使うプロジェクトが始動中
です。日本の名産であるカイコガは、大量の突然変異系統コレクションがあり、
脳細胞、神経回路の同定と電気生理学的解析の組織的作業も進んでいます。さい
きん遺伝子導入も可能になり、エンハンサートラップ法も実用化し、GAL4-UAS
遺伝子発現駆動系も動くことが確認されたそうです。むかし農林省が国策として
蚕糸産業を守るために諸外国からの系統提供要求を拒んだという歴史的経緯があっ
たりするらしくて、日本以外ではカイコガの研究人口が皆無に近く、ヤママユガ
やスズメガなど他の種類の蛾の研究が盛んであるという問題はありますが、カイ
コガは少なくとも農業害虫でなく、世界中にいる昆虫なので、輸出の問題はあり
ません。(逆に、外国でよく使われている蛾の中には、日本への持ち込みが禁止
されているものもあります。コオロギも、日本でよく使われている種は欧米への
持ち込みが禁止されていて、欧米でよく使われている種は日本への持ち込みが禁
止されているので、国際的なモデル生物にはなり得ません。)

 ・単にキイロショウジョウバエの研究を繰り返すのではなく、ショウジョウバ
  エでは出来ないことの何をカイコガで明らかにできるのかという問いに答え
  る研究案を提示すること
 ・世界中にカイコガ利用者を広げるための宣伝プロモーション活動を行なうこと

など、日本のカイコ研究者のやる気次第だと思いますが、ある程度の可能性は開
かれていると思います。イエバエやクロバエの研究では、これだけの運動を組織
できるかどうか?

というわけでポイントは、大綱くんが自分自身でどれだけイエバエやクロバエを
やりたいか?周りの人をその研究に引き込めるだけの魅力と研究計画を掲示でき
るか?という点にかかってきそうです。やってみますか? ^^;


いっぽう、大型ハエ類で分子生物学をやりたい/やっている人が居ないのも事実
ですが、同時にキイロショウジョウバエに本気で電極を刺している人が居ないの
も事実です。脳が小さいから電気生理が出来ない出来ないと不満を言うばかりで、
本気で自分の人生をかけて試している人が少ない。意地悪く言えば、大型昆虫で
は電気生理以外やれることがないわけですが (^^;) 、ショウジョウバエでは他にも
やれることが沢山あるので、今ひとつ電気生理へのモチベーションが盛り上がら
ないという面もあります。しかしキイロショウジョウバエでも、嗅覚細胞や味覚
細胞、胚や幼虫の運動神経(神経筋接合)では細胞単位の電気生理がルーチンに
行なわれていて、突然変異や shibire 遺伝子の異所発現を使った解析がうまく
行っているわけですから、本気でやれば、脳の神経細胞でもかなりの解析が可能
なはずです。そっちの方が、クロバエやイエバエに投資するより、早道ではない
かなぁ、と個人的には思います。

やる気と技術とアイデアがある人がもし居らっしゃれば、電気生理や光学イメー
ジングの実験道具一式を揃えるくらいの資金と(狭いけど)場所と、ご本人への
給料は提供しますよ。  > 皆さま

いとうκ


**************************************

Date: Sun, 20 Jan 2002 18:14:06 +0900
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species
From: Masaki Sone

> この中のどこまでを「充実」させれば、ショウジョウバエで得られた知
> 見をもと
> にイエバエやクロバエやニクバエを有効利用できるのか、ということに
> なると、
> そこには難しい問題があります。これまで出てきたショウジョウバエ
> other species
> の場合には、BAC ライブラリーが揃い、ある程度のシーケンスがなされ、
> それぞ
> れの種の系統が安定して入手可能な体制が整えば、それだけで、これま
> で不可能
> だった様々な研究が可能になる可能性が高いです。が、イエバエのBAC > ライブ
> ラリー作成が入手可能になり、ラボストックが入手できたところで、そ
> れだけで
> これまで出来なかった脳研究が何か可能になるかというと、そこはかな
> り謎です。
> キイロショウジョウバエで取られた抗体や in situ プローブを使ってこ
> れらのハ
> エで細胞を同定することは、すでに可能なわけですから、それ以上の進
> 展を望む
> のならば、けっきょくは遺伝子導入系の開発や異所発現系の実現、突然
> 変異系統
> の蓄積などの「分子生物学、遺伝学的ツールの充実」を行なわないと、
> たいした
> 進歩にはならないでしょう。しかしそれには、現在ショウジョウバエ > other
> species の議論で検討されている作業とは、比較にならないレベルの努
> 力が要求
> されます。

京都大学医学研究科の曽根です。

other speciesのゲノム解析の議論を興味深く拝見させていただいていました。
異なった立場の方もいらっしゃることとは思いますが、私自身にとっては、あく
までも、ヒトを理解するためのモデル生物としてmelanogasterがあり、
malenogasterをよりよく理解するために、other speciesのゲノム解析の進展に
期待しています。おそらく、ゲノム生物学の醍醐味は、ゲノムを「全体」のまま
で解析していくことにあるのだろうと思っていますが、一つまたは少数の遺伝子
の機能を集中的に解析していく、従来型の分子生物学研究にとっても、近縁種の
ゲノム情報は貴重な情報源になっていくのではないかと思っています。近縁種の
ゲノム上では、in vitro mutagenesisでmutationを入れていくのとある意味で同
じことが、進化的な淘汰の圧力が起こっている中で起こっているわけで、プロモ
ーター領域であれコーディング領域であれ、ルーチン的にmelanogasterと複数の
近縁種の遺伝子配列を比較できるようになれば、そのメリットは大きいと期待し
ています。あくまでも近縁種の情報をmelanogasterに還元していくという立場に
立てば、近縁種でmalenogasterと同じだけの実験ができる必要は、必ずしもない
と思いますが、近縁種でもある程度の解析ができれば非常にhelpfulだとも思い
ます。脳研究に携わっている身としては、電気生理のできる系にも非常に魅力を
感じます。

そこで、近縁種にはまるっきりの無知なのですが、いくつか疑問点があります。

(1)目的の遺伝子を含むBACクローンの迅速な同定法について。近い種に対し
ては、自動的ににBACが得られるが、少し遠い種については、in situかPCRが必
要とのことでした。それも少し面倒な気がするのですが、マウスとヒトのように
染色体の配列に対応関係は付いていないのでしょうか。

(2)melanogasterの蛋白質に対する種々の抗体は、(もちろんケースバイケー
スでしょうが)近縁種に対しても免疫染色に使えることが多いのでしょうか。

(3)近縁種に対してRNAiが試みられた例はないのでしょうか。

(4)相垣先生の最初のメールに「飼育が容易」ということが条件の一つに挙げ
られていましたが、「容易」ということはもう少し具体的にどういうことでしょ
うか。malanogasterと同じエサで、malanogasterと同じインキュベータで飼育で
きるのでしょうか。malanogasterのように簡単に卵をたくさん集めて解析できる
のでしょうか。

(5)より贅沢を言えば、突然変異系統の蓄積はさすがに大変でしょうが、せめ
てゲノム上への遺伝子導入ができるといいと思うのですが、それは結構難しいの
でしょうか。

昨年のショウジョウバエ研究会には欠席させていただいたので、もしも議論が重
複していたらご容赦下さい。上記の条件をよりよく満たす種があれば、それをゲ
ノム解析の候補にしていただけると幸いです。

曽根雅紀    Masaki Sone, Ph. D.

京都大学医学研究科腫瘍生物学講座
606-8501 京都市左京区吉田近衛町
TEL : 075-753-4426 FAX : 075-753-4478
E-mail : soneアットマークlmls.med.kyoto-u.ac.jp


**************************************

From: "Shigeo Hayashi"
Subject: [Jfly] RE: [Jfly] Genome sequencing of other species
Date: Sun, 20 Jan 2002 21:40:11 +0900

遺伝研 林です。私は回答者としては適任ではないのですが気分転換にお答えしま
す。

> (1)目的の遺伝子を含むBACクローンの迅速な同定法について。近い種に対し
> ては、自動的ににBACが得られるが、少し遠い種については、in situかPCRが必
> 要とのことでした。それも少し面倒な気がするのですが、マウスとヒトのように
> 染色体の配列に対応関係は付いていないのでしょうか。

 必要なBACは遺伝子のcoding領域に対するPCRで容易に同定できます。今話題になっ
ている程度の種間でしたらmelanogasterの染色体構成に概ね一致しているはず。BAC
クローンのcontigを作ること自体に技術的困難はありません。

> (2)melanogasterの蛋白質に対する種々の抗体は、(もちろんケースバイケー
> スでしょうが)近縁種に対しても免疫染色に使えることが多いのでしょうか。

 多いと思います。

> (3)近縁種に対してRNAiが試みられた例はないのでしょうか。
 Triboliumで成功するくらいだから使えないはずはない。

> (4)相垣先生の最初のメールに「飼育が容易」ということが条件の一つに挙げ
> られていましたが、「容易」ということはもう少し具体的にどういうことでしょ
> うか。malanogasterと同じエサで、malanogasterと同じインキュベータで飼育で
> きるのでしょうか。malanogasterのように簡単に卵をたくさん集めて解析できる
> のでしょうか。

 種によりますがうちで飼っているものはmalanogasterと同じエサでokです。そのよ
うなものは京大医学部でも飼育可能と言うことです。

>
> (5)より贅沢を言えば、突然変異系統の蓄積はさすがに大変でしょうが、せめ
> てゲノム上への遺伝子導入ができるといいと思うのですが、それは結構難しいの
> でしょうか。

 transformationもpiggybacのベクターが使えます。すでにCarrollのlabでやってい
ます。

 ここまで聞いたらあなたもやるしかないでしょう。健闘を祈る。


**************************************

Date: Mon, 21 Jan 2002 16:31:08 +0900
From: Toshiro Aigaki
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

At 6:14 PM +0900 1/20/02, Masaki Sone wrote:

>(4)相垣先生の最初のメールに「飼育が容易」ということが条件の一つに挙げ
>られていましたが、「容易」ということはもう少し具体的にどういうことでしょ
>うか。malanogasterと同じエサで、malanogasterと同じインキュベータで飼育で
>きるのでしょうか。malanogasterのように簡単に卵をたくさん集めて解析できる
>のでしょうか。


相垣です.
御質問の回答は,林さんが答えてくださったとおりです.
以下補足.

”飼育が容易”の中には,飼育法が確立されているでもよいと思います.これまで出 てきたショウジョウバエのother speciesのなかにも,melanogasterと全く同じでは うまく育たないものがあるかもしれません.たとえば,25度で飼うのは不適当など. どなたか詳しい方,飼育の実態をまとめてくださると助かります.
飼育のことを心配するのは,自分でそのハエを使って実験するかもしれない人で,情 報だけ必要ば人は,むしろ系統学的にどの位置にあるかの方が重要ですね.両方を満 たすようなものが選択ができればベストです.


また,飼育が容易かどうかは個人差もあります.

>>個人的には、ニクバエ Sarcophaga は、腐ったレバーをエサに使うので臭くて
>>かなわないので、ちょっと避けたい・・・。

さらに,自分は平気でも,近所の研究室から苦情が来る場合もあります.


**************************************

Date: Mon, 21 Jan 2002 17:13:36 +0900
From: Otsuna Hideo
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

再び、基生研/名大の大綱 (D2) です。

>(あ、もちろん某遺伝研の研究室のように、隣の部屋同士で Jfly 経由
> でディスカッションするのも、大歓迎です。)

Jflyに出した意見にJfly 上でお返事が帰ってきたので、いとうさんとは同部屋
で3mくらいしか離れていませんが、折角なのでこのままやらせていただきます。

>けっきょく問題は、イエバエやクロバエをもっと便利な実験系にすることに自分
>の人生の将来をかけようという「燃えるモチベーション」を持つ研究室、研究者
>が、どれだけ居るか?ということになります。日本が国際社会の中で貢献してゆ
>くという点では、世界的にある程度の人数が居なくてはなりませんし、日本の税
>金でやるからには、ある程度の人数が日本にも居て、その成果を活かせなくては
>なりません。しかし現状では日本には、イエバエやクロバエの脳研究にそこまで
>入れ込む意欲がある研究室は、おそらく無いでしょう。この状態でイエバエのゲ
>ノム解析に投資をすることは、田舎の高速道路建設と同じになってしまいます。

たしかに、現時点では田舎の高速道路でしょう。
しかしこの高速道路を造る前に、住民である他の昆虫や無脊椎動物で電極を刺し
て研究している人達に少しは聞いた方がいいかな、と思います。(自分で聞けっ
て返事が来そうですが・・・そんな個人で聞くのではなく、そういった人たちが
集まる班会議や集会等で、
1、もし大きいハエで電気生理と分子生物学が可能になったときに使うかどうか?
2、またショウジョウバエ分野からの技術支援があるとして、その開発をやりた
いラボがあるかどうか?)
いとうさんも知っているでしょうが、他の昆虫で電気生理をしている人たちはシ
ョウジョウバエを扱っている人たちに比べて研究費の面では恵まれない部分が多
いです。それは分子生物学が可能か否かで分けられてしまっている気がします。
「分子生物学が可能なら、無脊椎動物でも人に結びつけて現象を理解できる。」
この了解をもとに、多くの場合お金がでていると思えるのは気のせいでしょうか?
ともあれ、他の無脊椎動物や昆虫を扱っている人たちが、自分たちの実験系とコ
ンセプトが応用できて、同時に分子生物学の研究とも結びつく動物がいれば、や
ってみる気になっても不思議はないと思います。
カイコガを使うことについてはいとうさんのおっしゃるとおり、だと思います。
しかし、ショウジョウバエの分子生物学的知見を応用するとなると、どうなので
しょう?
酵母とハエとヒトを比べているくらいだから、そんなに問題はないのでしょうか?
また発生システムの比較という面では、羽(鱗粉)や背中(剛毛(?)の数)、
アンテナの節というふうにかなり違うので・・・比較可能なのでしょうか?
大きいハエでも確認という意味で、実験をやり直す必要があると思いますけど。
しかしそこにかける手間暇は、大きいハエの方が圧倒的に少なくてすむと思いま
す。
また脳も、カイコは大きいハエよりさらに大きいですよね(脳のサイズだけでシ
ョウジョウバエの本体より大きかった)。これでは、記載がやりにくそうです。
研究者の数が圧倒的に多いという面では、ぐうの音もでません。またそれが、新
しいモデル動物を作るという意味で一番重要なことであるとも思います。

>というわけでポイントは、大綱くんが自分自身でどれだけイエバエやクロバエを
>やりたいか?周りの人をその研究に引き込めるだけの魅力と研究計画を掲示でき
>るか?という点にかかってきそうです。やってみますか? ^^;

私は、現在利用しているGAL4エンハンサートラップ法がこのハエで使えるのなら
、もちろん扱います。ただし、私自身がそうしたハエを作るとなると・・・今は
学生ですし、これからポスドク放浪の旅が始まりますし、そこで3〜5年経って、
論文一本ようやくでたらその内容が、他のハエでショウジョウバエと同じことが
できました。では就職が無くなってしまうと思います。
私に研究室一つくれれば話は別ですが。
ラボヘッドになれば次の職を心配するよりも、どんなプロジェクトを組み、どれ
だけの人を集めることが出来るのかということのほうが重要でしょうから。
(言っていて自分自身が怖くなってきました。)

>本気でやれば、脳の神経細胞でもかなりの解析が可能
>なはずです。そっちの方が、クロバエやイエバエに投資するより、早道ではない
>かなぁ、と個人的には思います。
>
>やる気と技術とアイデアがある人がもし居らっしゃれば、電気生理や光学イメー
>ジングの実験道具一式を揃えるくらいの資金と(狭いけど)場所と、ご本人への
>給料は提供しますよ。

これもたしかに、おっしゃるとおりです。
自分の論文がでた後で時間があれば、一ヶ月くらい、ショウジョウバエを電気生
理が動いているラボに持ち込んで、ためしにやってみたいと考えています。

ところで、Musca domestica と Sarcophaga bullata は肉で飼うということなの
ですが(飼育がやっかい)、 Calliphora erythrocephala はどうなのでしょう
?これと同じクロバエ科のPhanicia cuprina (ヒツジキンバエ、ときどき電気
生理の材料に選ばれている)は日本では釣りの餌(サシ)として売られています
。よってクロバエは飼育が簡単そうですが・・・肥溜めに発生するものもいるく
らいですし。
ちゃんとした飼い方を本で探したのですが見つからず、どなたか知っている人が
いましたら、この機会に知りたいと思いますのでお手数ですがお願いできません
か?

また比較遺伝学、比較ゲノ ム、比較形態学はこれらのハエでは成り立たないの
でしょうか?
それともこの面でも、鱗翅目は問題ないのでしょうか?
Genome sequencing of other species の主な目的であるこれらの学問は、種と
してどのくらい離れていてもなりたつのか、それとも一つの科の中でしか成り立
たないのか、どなたかお教え願えませんか?

大綱英生
  -------------------------------------------------------
Otsuna Hideo
National Institute for Basic Biology
Division of Cell proliferation
Myodaiji, Okazaki, 444-8585 Aichi, Japan
Tel: 0564-55-7532 (from Abroad: 81-564-55-7532)
Fax: 0564-55-7533 (from Abroad: 81-564-55-7533)
email : otsunaアットマークnibb.ac.jp

Division of Biological Science
Graduate School of Science Nagoya University
email : otsunaアットマークbiol1.bio.nagoya-u.ac.jp
-------------------------------------------------------


**************************************

Date: Tue, 22 Jan 2002 09:29:50 +0900
From: sawamuraアットマークDGRC.kit.ac.jp (Sawamura, Kyoichi)
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

比較ゲノムについての議論、最近2方向に分岐を始めていると思います。(1)系統
進化や形態進化など多様性そのものの興味と、(2)ショウジョウバエで困難な研究
ができるような新たなモデル生物捜しです(これらは、コインの裏表のようなもので
はありますが)。この際、これらは分けて議論した方が実りがあるのではないでしょ
うか?

(2)については、あまりよく分かりませんので、(1)について1つだけコメント
。これまで、ショウジョウバエといろいろな昆虫、節足動物、あるいは他の生物と比
較して、体制の変革をともなうような大進化の研究は、分子発生レベルで、結構沢山
のことが分かってきたのだと思います。これに比べて、近縁種における特徴的な形態
の分化、見た目には区別できないような同胞種の存在、など種分化につての分子発生
レベルでの研究は遅れているように感じます(交配実験による研究は古くからありま
すが)。

このような点で、和名に XXショウジョウバエ と付く生物という範囲(科学的根拠に
乏しいですが)での議論を、と思います。イエバエなど、ショウジョウバエ科以外の
研究も大変意義があると思いますが、別に議論の機会を設けてはどうでしょうか(メ
ーリングリストのタイトルを変えて)?
澤村


**************************************

Date: Tue, 22 Jan 2002 13:02:17 +0900
From: Yusuke Uchiyama
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species

内山@京大農学部です。

澤村さんの発現に対するレスです。実は今日この後セミナーでお会いすることになって
いるのでここで申し上げなくてもよさそうなものですが、同部屋の伊藤さんと大綱さん
もここで議論をしているので私もopenにここで意見を申し上げることに致しました。

"Sawamura, Kyoichi" wrote:

> 比較ゲノムについての議論、最近2方向に分岐を始めていると思います。(1)系統
> 進化や形態進化など多様性そのものの興味と、(2)ショウジョウバエで困難な研究
> ができるような新たなモデル生物捜しです(これらは、コインの裏表のようなもので
> はありますが)。この際、これらは分けて議論した方が実りがあるのではないでしょ
> うか?

この当りについては同意致します。確かにここ最近の議論はこの二方向に分岐して来て
いますしそれが混ぜこぜになっていることで少し読む側として混乱を感じるのも事実で
す。

> このような点で、和名に XXショウジョウバエ と付く生物という範囲(科学的根拠に
> 乏しいですが)での議論を、と思います。イエバエなど、ショウジョウバエ科以外の
> 研究も大変意義があると思いますが、別に議論の機会を設けてはどうでしょうか(メ
> ーリングリストのタイトルを変えて)?

むしろ現在この議論をすることに用いられている"other species"という言いまわしに若
干の多義性があるのでしっかりとこの場合における"other species"とはショウジョウバ
エ科の他種であるとして(2)については例えば"Genome sequencing of other model
insects"等というSubjectのもとに議論を行えば良いのではないでしょうか。

内山 有祐
京都大学大学院農学研究科昆虫生理学分野


**************************************

Date: Tue, 22 Jan 2002 14:12:24 +0900
From: Yusuke Uchiyama
Subject: [Jfly] Genome sequencing of other species and other model insects

内山@京大農学部です。

先程自分でいったガイドラインに沿ってSubjectを一連の議論から少し変えてあ
ります。

一連の議論のなかであまり行動をやっている人からの発言が無かったので少し行
動学の方からこの当りの情報が欲しいなあという話題をさせて頂きます。

先ずは"other model insects"についてですがカイコガについて少し述べておき
たいと思います(私自身最近になってカイコガに乗り換えました)。
先ず、伊藤さんがご指摘になっていたショウジョウバエで出来ないけれどもカイ
コガで出来ることですが、いわゆる「昆虫学」の知識をお持ちの方には常識であ
るかとも思いますがカイコガのフェロモンはほぼボンビコールと呼ばれる化合物
のみから成り立っております。そのため、カイコガのフェロモン受容系を研究す
る研究からはいわゆる嗅覚情報処理(多様な匂いのブレンドを嗅ぎ分ける脳のし
くみ)についての知見はあまり期待できないのではないかと考えております。そ
のかわり、カイコガではそこが単純である分受容したフェロモンのシグナルを如
何に情報処理して匂い源への定位を行うのかといった点についてはいろいろなこ
とが分かるという期待があります。この当りがショウジョウバエとの違いという
点で一番最初に私の頭に浮かんだ点です。他にもカイコガは単食性の昆虫ですか
ら、幼虫と人工飼料と遺伝子操作を組み合わせれば味覚情報処理についていろい
ろと面白いことが分かるかも知れません。

次に"other species"についていえば私は筑波大学の小熊さんがなされた
ananassaeとpallidosaとの系が面白いのではないかと思っております。あの系の
分子的基盤というのは是非知りたいところです。またmelanogasterとsimulansの
求愛歌の違いの分子的基盤も明らかになればなあとは思っています。

他人頼みな意見が多くて済みません。ご参考にして下されば幸いです。

内山 有祐
京都大学大学院農学研究科昆虫生理学分野