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プロピオン酸蒸気の毒性


Date: Thu, 19 Dec 2002 12:07:39 +0900
Subject: [Jfly] プロピオン酸蒸気の毒性について
From: Masahiko Sakaguchi

JFLYの皆様。信州大の坂口です。

ハエ培地に防腐剤として一般にプロピオン酸を加えますが、揮発した気体濃度が高く
なるとキイロショウジョウバエ成虫が死亡することがわかったのでお知らせします。
(死亡しない濃度域でも行動実験などに影響がないとは限らないのではと思ったので)

D及びL乳酸CH[3]CH(OH)COOH及びプロピオン酸(CH[3]CH[2]COOH、沸点140.7度C at
1気圧)の味覚に違いがあるか、ないかを卒業研究でやってもらっているのですが
(共通酸味だけで違い多分ないと予想)、谷村先生から頂いたNuncの60穴micro test
plateの30穴に3%プロピオン酸入り1%寒天液10マイクロl/wellいれ、のこり30穴に
は1%寒天液のみいれ、2時間ほど蓋をかぶせておいてから無麻酔ハエ成虫60匹いれ
たのですが、いれた瞬間に激しく動きだし、死ぬそうです。閉空間体積は24mlほどで
す。完全密閉してるわけではありません。おなじモル濃度にした酢酸(CH[3]COOH)、
沸点118度C at 1気圧)では死なないそうです。1.5%プロピオン酸では2時間おい
ても死にません。

そこで麻酔ロートに、エーテルの代わりに、プロピオン酸をくわえてみました。エー
テルに比べ、プロピオン酸は揮発しにくいのですが(机の上に1滴おとすと揮発性の
違いがよくわかります)、ためしにエーテルの8倍量?くらいくわえ、10分ほどおく
と蒸気が飽和するのか、ハエをいれるとすぐに麻痺したように動かなくなります。す
ぐに外にだしたのですが、12時間後にみると、半分くらいしか生き返りません。死ん
だハエの翅はエーテルでの死亡時のようにはならず、そりません。入れた量のどのく
らいが揮発するのか綿にしみこませるのでわかりませんが、揮発しにくいことを考え
ると気相濃度はエーテルなみでしょうか?

通常はエサ培地として0.4%ぐらいのプロピオン酸を添加しておられると思います。
低濃度、ハエの動きによる気体の撹拌、スポンジ栓を介した気相の交換で、死ぬこと
はないと思いますが、ひょっとすると行動実験に影響があるかもしれません。プロピ
オン酸なし培地だと餌のいたみが早いようで、なしにすることは難しいかもしれませ
んが。CO[2]麻酔では空気より重いため、床に倒れると危険といとけいさんが以前書
いておられましたが、プロピオン酸も空気より重いだろうし、結構ビンの中の気相の
濃度は高いかもしれませんね。また食べたエサから体内に吸収されて、毒性を発揮す
る可能性もあります。

プロピオン酸は細胞に取り込まれて、乳酸、ピルビン酸関連の代謝を阻害して防腐効
果を示すのでしょうか?人筋肉細胞内の乳酸は血液にでて、肝臓の細胞に取り込まれ
てピルビン酸にもどるそうですから、COOH輸送タンパクを介してプロピオン酸も体内
に取り込まれ毒性を発揮するのかもしれません。生化学or防腐剤の研究をしておられ
る方がお近くにおられたら聞いていただけないでしょうか?

嗅覚では、プロピオン酸低濃度にハエは誘引され、高濃度では忌避に転じますが、
嗅覚としていやがるようになるのか、体がおかしくなってきたのでさけるのかわから
なくなってきました。

信州大学教育学部生物
坂口雅彦


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From: Takashi Shiraiwa
Original-Reply-To: takashi.shiraiwa@yale.edu
Subject: [Jfly] Re: プロピオン酸蒸気の毒性について

坂口様、
Olfaction, Taste 両方をやっているラボにいます白岩@Yaleともうします。

(propionic acidの毒性についてはどのように働いているかは分かりませんが)

可能なら電気生理学的な手法の方がいいと思いますよ。そうすれば、『体がおかしくなっ
て避けているか否か』といった問題を避けることができます。また、propionic acidを用
いた味覚の行動実験だと嗅覚が関わっている可能性を除外するのが最後まですごく難しい
です。

行動実験でやるなら、two-choice testの代わりにproboscis extention assayを用いられ
たら、ハエがpropionic acidにさらされる度合いを最小限にしつつ味覚の行動実験を行え
ると思います。

すごくたまたまなんですが、ちょっと試したいことがあってちょうどproboscis extention
assayをやっていたところだったんです。大した手間じゃないので、1%propionic acidを
ハエにあげてみたら、ごくたまに反応らしきものがありました。ただ、にぶい反応なので
これが本当なのかはこれくらいじゃ分かりません。いろいろな濃度を試してみたらいいか
もしれません。

sucrose solutionをベースにpropionic acidの濃度をどんどんあげていって、反応しなく
なる点をみるのも手だと思います。

ではでは

Takashi

白岩 敬 (しらいわ・たかし)
Department of Molecular, Cellular & Developmental Biology
Yale University


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Date: Fri, 20 Dec 2002 20:03:43 +0900
Subject: [Jfly] プロピオン酸蒸気の毒性について
From: Masahiko Sakaguchi

白岩様。信州大の坂口です。メールありがとうございます。
Carlson研におられるのですね。Or71aの論文でたら別刷いただけませんか?
電気生理はお金と技術を持ってないので、やれないですね(森田弘道先生と久野宗先
生という電気生理の大先生に指導してもらってきたのですけど、ははは)。面白い結
果がでたら相談にのってください。

信州大学教育学部生物
坂口雅彦


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Date: Sun, 22 Dec 2002 20:54:52 +0900
From: Ken Honjo
Subject: [Jfly] プロピオン酸蒸気の毒性について

筑波大学 古久保-徳永研の本庄と申します。

成虫の行動実験にプロピオン酸が影響するかどうかはわからないのですが、
幼虫の嗅覚行動は、プロピオン酸の添加によってかなり変化するようです。
私達の研究室では通常0.3%のプロピオン酸を培地に添加しています。
以前この培地で育てた幼虫で様々な物質に対する嗅覚行動を調べたところ、
いくつかの物質に対する誘引・忌避の傾向が先行研究と全く逆になり、困ったことが
ありました。
しかし、その後プロピオン酸を含まない培地に切り替えたところ、
そのような逆転が見られなくなり、概ね先行研究と合致するデータが得られるように
なりました。

そんなわけで現在、行動実験に関してはプロピオン酸抜きの培地を用いています。
プロピオン酸を抜くとカビが生えやすくなるので、ちょっと注意が必要です。
ちなみにボーキニンはこれまで通り入れています。
これも行動に影響していない保障はないのですが・・・・・・。

本庄 賢
筑波大学 生物科学系 古久保-徳永研究室


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Date: Tue, 24 Dec 2002 11:40:34 +0900
Subject: [Jfly] プロピオン酸蒸気の毒性について
From: Masahiko Sakaguchi

本庄様。有益な情報ありがとうございます。
もしよければどのような物質で逆だったのか教えていただけませんか?
プロピオン酸抜き培地でも気をつければ飼育できますか?

内の研究室で今、幼虫の嗅覚をL乳酸、D乳酸、プロピオン酸、2プロパノール
などでやってるのですが、培地にプロピオン酸があると、プロピオン酸ー餌を連想
の連合学習(あるんかいな?)?やプロピオン酸添加の効果があってまずいと思い、
毒性うんぬんの前からプロピオン酸なし培地での飼育をためすよう学生さんにいった
のですが、餌がすぐいたんでダメだというので、現在0.4%プロピオン酸添加培地を
使っています。成虫が死ぬ条件で幼虫は死なないようなので、だいじょうぶかと思っ
ていたのですが、、、。行動実験は大変ですね。

信州大学教育学部生物
坂口雅彦


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Date: Tue, 24 Dec 2002 13:28:25 +0900
From: Yoshiaki FUYAMA
Subject: [Jfly] プロピオン酸蒸気の毒性について

坂口様 皆様

At 11:40 +0900 12/24/02, Masahiko Sakaguchi wrote:
>内の研究室で今、幼虫の嗅覚をL乳酸、D乳酸、プロピオン酸、2プロパノール
>などでやってるのですが、培地にプロピオン酸があると、プロピオン酸ー餌を連想
>の連合学習(あるんかいな?)?やプロピオン酸添加の効果があってまずいと思い、
>毒性うんぬんの前からプロピオン酸なし培地での飼育をためすよう学生さんにいった
>のですが、餌がすぐいたんでダメだというので、現在0.4%プロピオン酸添加培地を
>使っています。成虫が死ぬ条件で幼虫は死なないようなので、だいじょうぶかと思っ
>ていたのですが、、、。行動実験は大変ですね。

ペニシリンなどの安価な抗生物質やソルビン酸、サリチル酸などは、
短期的には有効だと思います。

布 山 喜 章 : 東京都立大学大学院理学研究科生物学教室


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Date: Wed, 25 Dec 2002 00:01:12 +0900
From: Ken Honjo
Subject: [Jfly] プロピオン酸蒸気の毒性について

坂口様

実験進行中なので全てはお答えできないのですが、
酢酸ペンチル、酢酸イソアミルなどで逆転がみられました。

プロピオン酸抜きの培地での飼育は、経験的には問題ないようです。
作った培地は4℃で保存し、使う前に室温に戻して使っています。
親バエがカビを持ち込まないように気をつければ、カビもすぐには生えません。

本庄 賢
筑波大学 生物科学系 古久保-徳永研究室


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Date: Wed, 25 Dec 2002 11:09:19 +0900
Subject: [Jfly] プロピオン酸蒸気の毒性について
From: Masahiko Sakaguchi

布山様。アドバイスありがとうございます。
本庄様。 実験進行中なのにお答え頂き恐縮です。

大変参考になりました。ありがとうございました。
酢酸ペンチルCH[3]COO(CH[2])[4]CH[3](M.W.130.19)、
酢酸イソアミルCH[3]COO(CH[2])[2]CH(CH[3])[2](M.W.130.19,沸点142度C
別名banana oil)
はプロピオン酸CH[3]CH[2]COOH(M.W.74.08,沸点140.7度C)と
-CH[2]COO部が共通だから、何らかの嗅覚への影響があるのでしょうかね。
幼虫嗅覚受容neuronは数が少なく、幼虫antennal lobe,mushroombody経路で
の嗅覚、連合学習の解析にはいいかもしれませんね。
ショウジョウバエ研究会などでぜひお話を聞かせてください。

信州大学教育学部生物
坂口雅彦