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高校教科書:複対立遺伝子の扱い


Date: Tue, 02 Dec 2003 11:28:53 +0900
From: Yusuke Uchiyama
Subject: [Jfly] 複対立遺伝子 (3544)

内山@京大院農学研究科です。

Jfly新装開店一発目のメールですこし緊張しています。

今回は高校生向けの参考書の記述に付いて皆様の御意見をお伺い致したくポスト
します。

私は現在アルバイトの都合で高校生向けの参考書を見ながら高校生はどのレベル
の知識まで教わっているのか調べています。

そうした中で参考書を見ていていわゆる「複対立遺伝子」の記述に関してこれで
良いのかなと思うことが在りました。

今手許に在るのは数研出版のチャート式シリーズの「新生物」(昭和58年第1刷
発行)と同じ出版社の「フォトサイエンス 生物図録」(平成12年第1刷発行)です。

先ず「新生物」の記述を引用します。

"1組の対立する形質に,3つまたはそれ以上の遺伝子が関係している場合,それ
ぞれの遺伝子を複対立遺伝子という."

つぎが「フォトサイエンス 生物図録」からです。

"1つの形質について,3つ(あるいはそれ以上)の遺伝子が対立関係にあるとき,
それらの遺伝子を複対立遺伝子という。"

一方、
http://www.primate.or.jp/PF/yasuda/3.html
には、

"一遺伝子座に2つ以上の対立遺伝子があるときこれを複対立遺伝子があるという。"

と書いてありました。
これを見て戴ければ分かりますように前2者は「形質」と「形質」上の「対立関
係」を基礎にして複対立遺伝子の概念を教えています。

一方後者は「遺伝子座」の概念を基礎に議論しています。

前者のようなスタイルの書方をするのはWep pageを見た限りでは高校の参考書に
基づいているらしきページ(例として挙がっているのがABO式血液型ばかりなので
そう判断しました)が多いようです。

一方、後者のような書方をしているのは岩波の生物学事典やgooで引ける大辞
林、更に自宅にあった旺文社の古い百科事典がそうでした。大体大学生レベル以
上の知識を仮定しているところではそのように書いてあるようです。

また、問題としてとりあげた2冊の参考書には「遺伝子座」という概念の解説が
全くありませんでした。

私としては前者のような書方はたしかに間違いとまでは言い切れないような気も
しますが、遺伝子座という概念をしっかりと教えて話をしないことでかえって誤
解を招き易く分かりにくい書方になっているように思えます。

この問題に付いて皆様はどのようにお思いになるか御意見を戴ければ幸いです。

また、複対立遺伝子に関してはそれがあたかも例外であるかのように教えられて
いる事自体があまり良くないという考え方もあります。そのことに付いても御意
見をお寄せ下されば幸いです。

内山 有祐
京都大学大学院農学研究科


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Date: Tue, 2 Dec 2003 13:57:37 +0900
From: Yoshiaki FUYAMA
Subject: [Jfly] 複対立遺伝子 (3545)

内山様 皆様

At 11:28 AM +0900 03.12.2, Yusuke Uchiyama wrote:

> そうした中で参考書を見ていていわゆる「複対立遺伝子」の記述に関してこれで
> 良いのかなと思うことが在りました。
>
> 今手許に在るのは数研出版のチャート式シリーズの「新生物」(昭和58年第1刷
> 発行)と同じ出版社の「フォトサイエンス 生物図録」(平成12年第1刷発行)です。
>
> 先ず「新生物」の記述を引用します。
>
> "1組の対立する形質に,3つまたはそれ以上の遺伝子が関係している場合,それ
> ぞれの遺伝子を複対立遺伝子という."

これは明らかな間違いですね。複対立遺伝子の例としてよく挙げられている
ABO血液型の例をみても、「1組の対立する形質」が何を意味するのかわ
かりませんよね。

> つぎが「フォトサイエンス 生物図録」からです。
>
> "1つの形質について,3つ(あるいはそれ以上)の遺伝子が対立関係にあるとき,
> それらの遺伝子を複対立遺伝子という。"

上よりもましですが、やはり、わかりにくい説明だと思います。

> 一方、
> http://www.primate.or.jp/PF/yasuda/3.html
> には、
>
> "一遺伝子座に2つ以上の対立遺伝子があるときこれを複対立遺伝子があるという。"

細かいことですが、「2つ以上」とすると、2つも含みますから、「3つ以上」
としないとまずいですね。

> 私としては前者のような書方はたしかに間違いとまでは言い切れないような気も
> しますが、遺伝子座という概念をしっかりと教えて話をしないことでかえって誤
> 解を招き易く分かりにくい書方になっているように思えます。

理由ははっきりしています。高校の教科書では、遺伝学のもっとも基本的な
概念である「遺伝子座」という用語が使えないのです。どの教科書をみても
見事に排除されています。その結果、複対立遺伝子だけでなく、多くのこと
がらの説明がきわめて難解になっています。

私の知る限り、学習指導要領やその解説の中に、「遺伝子座」という言葉を
使ってはならないとは書かれていないはずです。おそらく、教科書調査官の
信念で目の敵にされているのではないかと想像しています。

> また、複対立遺伝子に関してはそれがあたかも例外であるかのように教えられて
> いる事自体があまり良くないという考え方もあります。そのことに付いても御意
> 見をお寄せ下されば幸いです。

複対立遺伝子(multiple allelism)という言葉は、1910年代の初めに
モーガンによって使われたのが最初だと思います。この頃は、一つの遺伝
子座に複数の突然変異対立遺伝子が見つかることはまれであったために、
わざわざ名前を付けたのだと思いますが、現在では、これは至極あたりま
えのことですから、すでに死語といっていいですね。少なくとも、高校で
教える必要はまったくないことです。

ついでながら。。。

「遺伝子座」とは対照的に、「対立形質」という言葉は、どの教科書にも
律儀に出てきます。これは、日本独特の現象であり、高校における遺伝の
正しい理解を妨げる原因の一つになっているのではないかと感じています。

対立形質に相当する英語はallelic characterあるいは allelic traitだと
思いますが、海外の主要な遺伝学の教科書や遺伝学用語集にはこれらの言
葉はまずは出てきません。日本の高校の遺伝教育がいかに独特なものであ
るかを示す一例だと思います。

なお、文部省の「遺伝学用語集」では、allelomorphに対して「対立形質」
という訳語を当てていますが、これは誤りです。allelomorph は alleleの
古い言い方で、同義語です。教科書調査官はこの用語集をよりどころにして
いるそうですので、この間違いはまずいですね。


布 山 喜 章 Yoshiaki FUYAMA


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Date: Tue, 2 Dec 2003 17:52:16 +0900
From: "MATSUBAYASHI, Hiroshi"
Subject: [Jfly] 復対立遺伝子 (3548)

ショウジョウバエ遺伝資源センター松林です。

 布山先生の投稿を読む前に送ったのですが、こちらの手違いで配信されなかったようなので再送信します。
 布山先生の的確な内容が出た後で、今さらながらの内容ですが。

 手元の遺伝学事典では、「一つの遺伝子に3つ以上の対立遺伝子が知られている時それらを一括して復対立遺伝子と言う」とでています。またUPバイオロジー大羽滋著「集団の遺伝」でも「1つの遺伝子座に3種類以上の対立遺伝子が知られている時、これらは復対立遺伝子(multiple allele)という」とでています。自分も3つ以上の対立遺伝子をさす場合用いるものと理解していました。
 もともと遺伝子は対立関係にある2つの形質が存在して初めて認識できるものでした(メンデルの豆の色(緑、黄色)、形(しわ、つるつる)など)。そうした中、1つの遺伝子座に3つ以上の対立遺伝子が存在するという例が見つかって、それらを区別する意味でmultiple alleleと言う言葉が出て来て、当初はそれなりに意味のある言葉だったのではと思います。しかし現在ではあえて対立遺伝子ですむところを、その数の違いだけで復対立遺伝子と区別するのはほとんど意味のないことのように思います。ましてや、高校の遺伝子を習い始めの時期にさも意味があるように教えるのは混乱のもとと思います。

> 先ず「新生物」の記述を引用します。
>
> "1組の対立する形質に,3つまたはそれ以上の遺伝子が関係している場合,それ
> ぞれの遺伝子を複対立遺伝子という."
>
> つぎが「フォトサイエンス 生物図録」からです。
>
> "1つの形質について,3つ(あるいはそれ以上)の遺伝子が対立関係にあるとき,
> それらの遺伝子を複対立遺伝子という。"

 引用された、高校の教材の例は、上の定義を遺伝子座と言う概念を説明せずに無理矢理定義してきわめて曖昧なものになっているように思います。私も、対立遺伝子の概念を教えるのならば、その前提となる遺伝子座の概念をきっちり教えておく必要があると思います。
 最近では形質の変化を伴わない変異(DNA置換など)も一括して、対立遺伝子としてますが、高校レベルではそこまで突っ込んだ定義を教えるのは難しいのでしょうか?

松林宏
京都工芸繊維大学
ショウジョウバエ遺伝資源センター


Date: Tue, 2 Dec 2003 19:04:34 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] 複対立遺伝子 (3550)

皆さま、

メーリングリストの配送を基生研から分生研のメールサーバー
に移したのですが、これまでのサーバーより古い機種で、しか
も複雑な処理をやっているため、配送に長い時間がかかってお
ります。メール到着を気長に待ってやってください。来年早々
に機種更新の予定です。

あと、2時間以上たってもメールが到着しない場合は、アドレ
スではねられている可能性が高いです。1文字でも違っている
とはねられてしまいます。Jfly ホームページの名簿に出ている
アドレスと比較してチェックしてみてください。


ところで、ゼミナールなどで大学1年生の相手をすることもあ
るのですが、高校で「遺伝子」や「遺伝子座」を意図的に教え
ていないとすると、大学教養レベルの講義ではどう扱っている
のでしょう?受験勉強のおかげで、高校で教わらなくてもいつ
の間にかちゃんと理解しているものなのでしょうか?

いとうκ


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Date: Wed, 3 Dec 2003 09:16:11 +0900
From: "Sawamura, Kyoichi"
Subject: [Jfly] 遺伝子、遺伝子座、対立遺伝子 (3551)

>ところで、ゼミナールなどで大学1年生の相手をすることもあるのですが、高
> 校で「遺>伝子」や「遺伝子座」を意図的に教えていないとすると、大学教養レ
> ベルの講義では>どう扱っているのでしょう?受験勉強のおかげで、高校で教わ
> らなくてもいつの間に>かちゃんと理解しているものなのでしょうか?

自分のことを思い返してみますと、恥ずかしながら大学生時代、「遺伝子」・
「遺伝子座」・「対立遺伝子」という用語の区別がなかなかつきませんでした。
実際に遺伝を研究するようになって、それぞれが英語では「gene」・
「locus」・「allele」という全く異なった呼び名であるということを知って、
納得した覚えがあります。

問題は、「locus」・「allele」に対応する日本語の中に「遺伝子」という言葉
が含まれてしまっていることにあると思います。教科書会社も、似た用語が増え
ることによる混乱を懸念されているのではないでしょうか。

そこで提案です。
「locus」・「allele」に対応する新しい日本語(「遺伝子」という言葉を除
外)を考えることはできないでしょうか?
(試案)「locus」は「座位」でいいと思うのですが、「allele」のいい訳が思
いつきません。

澤村京一


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Date: Wed, 03 Dec 2003 10:48:47 +0900
From: Daisuke Yamamoto
Subject: [Jfly] 遺伝子、遺伝子座、対立遺伝子 (3552)


Dear Friends,
私は大学の講義でalleleについて「対立遺伝子、という日本語は不適切なので、アリ
ルと覚えましょう」と言っています。一方、私の娘たちが高校でちょうどいま生物が
遺伝のところをやっていて、期末の特訓?をしてやったのですが、locusの概念がな
いので困ったもんだと思っていました。私はlocusを教えましたが。複対立遺伝子に
ついても、未だにこんなことを教えるなんで、と思いながら、「マル」「しわ」以外
に「小ジワ」とか「はなマル」とか、実際には無限といっていいほど、alleleがある
と考えよ、と暴走していたところです。
そもそも、「複対立遺伝子」「致死遺伝子」「補足遺伝子」などと、概念的にまるで
異なるカテゴリー分けをした名前が並列に出てくるんですから、いったい何考えてい
るのかとあきれます。

山元大輔
早稲田大学理工学部
遺伝学研究室(遺伝子生物学)


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Date: Wed, 3 Dec 2003 11:23:09 +0900
From: Yoshiaki FUYAMA
Subject: [Jfly] 複対立遺伝子 (3554)

伊藤様 皆様

At 7:04 PM +0900 03.12.2, ITO, Kei wrote:
> ところで、ゼミナールなどで大学1年生の相手をすることもあ
> るのですが、高校で「遺伝子」や「遺伝子座」を意図的に教え
> ていないとすると、大学教養レベルの講義ではどう扱っている
> のでしょう?受験勉強のおかげで、高校で教わらなくてもいつ
> の間にかちゃんと理解しているものなのでしょうか?

意図的に教えていないというわけではないと思います。教科書
にも参考書にも出てこないので、教える先生ですら「遺伝子座」
という言葉自体を聞いたことがないという人が多いのではない
でしょうか。

高校の先生たちの中には、この問題点をよく承知しており、教
科書にはなくてもちゃんと教えておられる人もいますが、全体
からみると、やはり少数派だと思います。ですから、大学に入
ってくる学生たちの中には、遺伝の基礎をきちんと理解してい
る者と、根本から誤解している者が混在しており、私の経験で
は、後者の方が多いように感じます。しかし、なみの入試問題
では、両者をふるい分けるのは困難でしょう。大学教養レベル
の授業ではこのことをふまえてかかる必要があると思います。
受験勉強のインプリンティングの威力はすごいですから、誤解
を解くのはさほど簡単ではないと感じています。

「遺伝子座」の概念が欠けていることが原因と思われる誤解に
ついて、もう少し具体的な例を紹介します。

数年前のセンター試験に、ショウジョウバエの眼の色の遺伝の
問題が出たことがあります。常染色体の遺伝子座が関係する問
題だったのですが、「眼の色はX染色体の遺伝子で決まるはず
なので、問題が間違っているのではないか」という質問が複数
の高校の先生からありました。

ショウジョウバエの白色眼(white)の伴性遺伝の例はたいて
いの教科書に出てきますので、このような誤解自体は珍しいこ
とではないのですが、びっくりしたのは、眼色突然変異の遺伝
子座が常染色体上にもあることを理解してもらうのがそれほど
容易ではなかったことです。

これは、whiteの遺伝子座の野生型対立遺伝子が何であるかを
理解していないことが原因ではないかと思います。つまり、対
立遺伝子というのは、「対立形質」なるものを規定しているの
であって、「白眼」の対立形質は、当然、「赤眼」であり、し
たがって、「赤眼の対立遺伝子」もX染色体にあるはずだとい
う論法のようです。「赤眼の対立遺伝子」というものが存在し
ないことを理解してもらうのは結構大変でした。

「遺伝子座」の概念が欠如することによって、対立遺伝子の本
来の意味が理解できなくなり、結果として、「対立形質」に直
結してしまっているという図式が浮かんできます。

--
布 山 喜 章 Yoshiaki FUYAMA


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Date: Wed, 03 Dec 2003 11:26:50 +0900
From: Tadashi Uemura
Subject: [Jfly] 遺伝子、遺伝子座、対立遺伝子 (3553)

on 03.12.3 10:48 AM, Daisuke Yamamoto at daichan@waseda.jp wrote:

> Dear Friends,
> 私は大学の講義でalleleについて「対立遺伝子、という日本語は不適切なので、アリ
> ルと覚えましょう」と言っています。

私も同じです。遺伝学用語の議論に口を挟めるほど私は経験を積んでませんが、「遺
伝学は難解で、複雑な用語が乱れ飛んでいる。」などと学部学生に印象を与えると致
命的だとの認識は持ってます。講議では思いきった oversimplification をしてます
(それしかできない?)。

かつて免疫学の用語でヘキヘキした上村

上村 匡
京都市左京区聖護院川原町53
京都大学ウイルス研究所 分子遺伝学研究分野


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Date: Wed, 3 Dec 2003 12:13:31 +0900
From: Akira Komatsu
Subject: [Jfly] 複対立遺伝子 (3555)

Jfly の皆様

小松@東京女子医大です。
遺伝学、分子生物学以外からショウジョウバエを使うようになった人間としてのコメ
ント。
私は以前文献を読んでいて、allele という語が出たらそのまま allele として頭に
入れていて対立遺伝子という日本語と対応させないでいた時期があります。というの
は手元にあった遺伝学辞典(田中信徳監修、共立出版、昭和56年初版6刷、という
古いもの)で、次のように出ていて混乱させられていたからです。

"対立遺伝子 [allele] ...同一の座を占める遺伝子が示す、2つあるいはそれ以上の
二者択一的な型の一つ一つをいう。..."
"対立形質 [allelomorph] (1) 対立遺伝子と同義的に用いられる。(2) 対立遺伝子
が遺伝子型を中心とした概念であるのに対し、表現型を中心に考える場合に用いる。
.."

布山先生のメールから:
> 対立形質に相当する英語はallelic characterあるいは allelic traitだと
> 思いますが、海外の主要な遺伝学の教科書や遺伝学用語集にはこれらの言
> 葉はまずは出てきません。日本の高校の遺伝教育がいかに独特なものであ
> るかを示す一例だと思います。
>
> なお、文部省の「遺伝学用語集」では、allelomorphに対して「対立形質」
> という訳語を当てていますが、これは誤りです。allelomorph は alleleの
> 古い言い方で、同義語です。教科書調査官はこの用語集をよりどころにして
> いるそうですので、この間違いはまずいですね。

布山先生が上のように書いていましたが、文部省の「遺伝学用語集」だけではなかっ
たようで、このような混乱は日本の遺伝学の流れの中にずっとあったんじゃあないで
しょうか。ちなみに、Webster's 3rd New International Dictionary を引くと、

"allelo- 1: alternative , 2: of or for each other: reciprocal:
reciprocally ..."
"-morph: one having (such) a form (isomorph>..."

と出ていて、訳語として "対立形質" としても不思議はないような気がします。日本
の翻訳文化のなせる技だとおもうのですが。昔の日本の遺伝学を知っている方のコメ
ントをいただけると参考になります。
Bateson が "allelomorph" という語を導入したそうですが(King and Stanfield, A
Dictionary of Genetics, 4th Ed. Oxford: p.356)、欧米では "allelomorph" の意
味の理解に混乱はなかったんでしょうか?あるいは、欧米の現在の学生が同じような
混乱には陥らないのでしょうか?留学経験のある方、欧米で遺伝学の教育に携わった
方、いかがでしょうか?

以前何かの用語についてのディスカッションの際に、遺伝学用語集を新しくつくらな
ければならないんじゃあないか、という提案がなされたことがあったように記憶して
います。(hypermorh, hypomorph, amorph のことでのディスカッションだったので
はないかと...。不確かです。)用語についてのアーカイブがかなり集まったら考え
てもいいんじゃあないでしょうか。

------------
小松 明
東京女子医科大学・医学部・第一生理学教室


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Date: Wed, 3 Dec 2003 15:57:03 +0900
From: Yoshiaki FUYAMA
Subject: [Jfly] 複対立遺伝子 (3556)

小松様 皆様

At 12:13 PM +0900 03.12.3, Akira Komatsu wrote:

> 布山先生が上のように書いていましたが、文部省の「遺伝学用語集」だけではなかっ
> たようで、このような混乱は日本の遺伝学の流れの中にずっとあったんじゃあないで
> しょうか。ちなみに、Webster's 3rd New International Dictionary を引くと、
>
> "allelo- 1: alternative , 2: of or for each other: reciprocal:
> reciprocally ..."
> "-morph: one having (such) a form (isomorph>..."
>
> と出ていて、訳語として "対立形質" としても不思議はないような気がします。日本
> の翻訳文化のなせる技だとおもうのですが。昔の日本の遺伝学を知っている方のコメ
> ントをいただけると参考になります。

昔の日本の遺伝学を知っているというほどの歳ではありませんが。。。(^^ゞ

allelomorphという字面からは「対立形質」と訳したくなる気持ちは理解
できます。Websterの解説もそのように受け止めているふしがありますね。

> Bateson が "allelomorph" という語を導入したそうですが(King and Stanfield, A
> Dictionary of Genetics, 4th Ed. Oxford: p.356)、欧米では "allelomorph" の意
> 味の理解に混乱はなかったんでしょうか?

Bateson (1902) Rep. Evol. Comm. Roy. Soc. 1: 125-160. ですね。
幸いなことに、これは下記のサイトでpdf判を読むことができます。

http://www.esp.org/foundations/genetics/classical/holdings/b/wb-02b.pdf

この中で、allelomorphという名前を提唱した部分は以下の通りです。

 We thus reach the conception of unitcharacters existing in antagonistic
 pairs. Such characters we propose to call"allelomorphs", and the zygote
 formed by the union of a pair of opposite allelomorphic gametes we shall
 call a "heterozygote".

unitcharacterという表現からは、一見、形質を意味するかのように受け取
れますが、heterozygoteの定義からもうかがえるように、実際には、現在の
alleleと同じ意味で使われていることが、これ以降の部分を読めばよくわかり
ます。geneという言葉すら存在しなかった時代の話ですから、現在の知識から
みると多少の混乱はあるかも知れませんが、少なくともBateson 自身ははなか
らalleleの意味で使っていたと思います。

日本だけでなく、海外でも同じような混乱がもしあるとしたら、おそらく、
allelomorphという言葉自体が誤解を招いた可能性があります。これをallele
と呼ぶようになったのは、Johannsen (1909) 以降のようですが、この本はみ
たことがありませんので、その理由が書いてあるかどうかは知りません。どな
たか調べていただけるとありがたいです。

--
布 山 喜 章 Yoshiaki FUYAMA


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Date: Wed, 3 Dec 2003 17:41:23 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] 複対立遺伝子 (3557)

At 11:23 +0900 03.12.3, Yoshiaki FUYAMA wrote:
>大学に入ってくる学生たちの中には、遺伝の基礎をきちんと理解してい
>る者と、根本から誤解している者が混在しており、私の経験で
>は、後者の方が多いように感じます。

文科省の指導要領にとらわれずに、大学の教官から見て高校で教わって
おくべきだと思われる内容をまとめた高校生向けの生物の本が出版準備
されているという噂(?)を以前どこかで聞いた記憶があるのですが、
これはもう出版されているのでしょうか?

いとうκ


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Date: Wed, 3 Dec 2003 18:37:41 +0900
From: Yoshiaki FUYAMA
Subject: [Jfly] 複対立遺伝子 (3558)

伊藤様 皆様

At 5:41 PM +0900 03.12.3, ITO, Kei wrote:

生物系学会連合傘下の10学会から代表が出て、そのようなプロジェクト
がスタートしたことはしたのですが、何分にも(エライ)船頭が多すぎて
座礁状態です。遺伝学会からは私が代表として(キワメテマジメニ)出て
おりましたが、あまりにも多様な意見が出て、全体の構想すらまとめられ
ないといったありさまでした。

石和遺伝学会長からうかがったところでは、先日の学会連合の会合で、
学会連合としては直接タッチしないことになったそうです。というよう
な次第で、よほど強力な言い出しっぺが表れない限り、この計画は頓挫
したとみていいと思います。

生態学会では、これとは別に大学教養レベルの生態学の教科書を作って
いますが、これくらいの単位でないと現実的ではないような気もします。

--
布 山 喜 章 Yoshiaki FUYAMA


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Date: Fri, 5 Dec 2003 15:20:57 +0900
From: "ITO, Kei"
Subject: [Jfly] 複対立遺伝子 (3566)

布山様 皆様

もったいないですね。医療の現場でゲノム診断が当たり前になって
いる今日、遺伝子や遺伝に関するきちんとした概念の基礎を教える
ための本がどこにもないというのは、非常にまずい状況だと思いま
す。布山さん独力でも、遺伝学会でもいいので、なにか本は出せな
いのでしょうか?

いとうκ