マタイ受難曲


 名訳に事欠かないマタイ受難曲ですが、多くの訳は美しさや荘重さ
を重視するあまりか、分かりやすさや原文との正確な対比が、ともす
ればないがしろになってしまっています。そこで今回は、なるべく平
易かつ逐語訳的に訳してみました。
     (訳 伊藤 啓)

[註]
・合唱、ソロは4声部×2グループからなり、各グループで受け持つ
性格が若干異なります。訳中パートの後に示されたローマ数字 I, II は、
この分担を示しています。
・曲番号はベーレンライター原典版に準拠しているので、旧バッハ全
集に準拠したCDや楽譜(ペーター版など)とは番号が異なります。

[歌詞の構成]
・聖句   マルチン・ルターによるドイツ語版
      新訳聖書(1522訳)
      マタイ福音書第26〜27章より抜粋

・自由詩(レシタティーボとアリア)
      クリスチャン・フリードリヒ・ヘン
      リーツィ(筆名ピカンダー)作
       「まじめな冗談と好色な詩 第 II 部」
      に掲載  (1729刊 P.101〜112)

・コラール ルター派教会の賛美歌(バッハ編曲)
      訳中にもとの作者、制作年、使われ
      た節を掲示

※マタイ受難曲の初演は、1727年の受難週(4/15)と推定されている。


     第 I 部


第1曲
二重合唱
 来たれ、娘たち、共に嘆こう。
 見よ。−誰を?
       −その花婿を。
 見よ。−どのような?
       −子羊のようなのを。
 見よ。−何を?
       −その忍耐を。
 見よ。−どこを?どこを?
       −私たちの罪を。
 愛と慈しみのために十字架の木を
 みずから担ぐ彼を見よ。
コラール   (N.デーツィウス作 1522 1〜2節)
 おお神の子羊、
 罪なくして十字架の上にて殺され、
 どんなに辱めを受けても
 どんなときにも堪えている。
 あなたは全ての罪を負っているが、
 そうでなければ私たちは絶望してしまう。
 おおイエスよ、我らを憐れんで下さい。

第2曲
福音史家 イエスはこれらの言葉をみな言いおえ
     てから、弟子たちに言われた。
イエス  皆の知っているとおり、2日後は過越
     の祭りである。そこで人の子は、十字
     架につけられるために引き渡されるだ
     ろう。

第3曲 コラール (J.ヘールマン作 1630 1節)
 心より愛するイエスよ、こんなに厳しい判決を
 受けるようなどんな罪を、あなたは犯したとい
 うのですか?
 その罪とは何ですか?どんな悪業に陥ったとい
 うのですか?

第4曲
福音史家 そのとき、大祭司や律法学者、民の長
     老らがカヤパという大祭司の邸宅に集
     まり、策略をもってイエスを捕らえて
     殺そうと話し合った。しかし彼らは言
     った。
二重合唱 そうだ、祭りの間はいけない。
     民衆の間に暴動が起こらないように。

福音史家 さて、イエスがベタニアのらい病人シ
     モンの家にいたとき、ある女性が高価
     な香油の入った石膏の壺を持って彼に
     近づき、食卓についていたイエスの頭
     に振りかけた。
     弟子たちはそれを見て、憤って言った。
合唱 I   何のためにこんな無駄をするんだ?
     この香油を高く売って、貧しい人に施
     しをすることが出来たじゃないか。
福音史家 イエスはこれに気づいて、弟子たちに
     言った。
イエス  なぜこの女性を困らせるのだ?私に良
     いことをしてくれたのだ。諸君はいつ
     も貧しい人と一緒にいるが、私とはい
     つも一緒にいるわけではない。
     彼女が私の体に香油を注いだのは、私
     の埋葬の準備をしてくれたのだ。
     確かに諸君に言っておこう。全世界ど
     こででも、この福音の宣べ伝えられる
     ところでは、彼女のしたことも記念と
     して語られるだろう。

第5曲 レシタティーボ(アルト I )
 愛する救い主の君よ、
 この心やさしい女性が香油をもってあなたの体
 に葬りの用意をしたのを、弟子たちが愚かにも
 とがめるならば、
 そのときには私の目にあふれる涙をあなたの頭
 に注ぐのをお許し下さい。

第6曲 アリア(アルト I )
 懺悔と後悔は罪の心を二つに引き裂く。
 私の涙のしずくは、まことなるイエスの、
 かぐわしい香料になるでしょう。

第7曲
福音史家 そのころ、12人の弟子の1人のイスカ
     リオテのユダという者が、大祭司らの
     所に行って言った。
ユダ   私にいくらくれますか?彼をあなたが
     たに売りましょう。
福音史家 そこで大祭司らは銀貨30枚を差し出し
     た。そのときからユダはイエスを引き
     渡そうと機会を狙っていた。

第8曲 アリア(ソプラノ II )
 ただ血にまみれよ、愛する主のみ心よ。
 ああ、あなたの育てた子、あなたの胸で乳を吸
 った子は、その親を脅かし殺さんとする。
 その子は蛇になってしまったのだ。

第9曲
福音史家 さて、酵母無しパンの祭り(過越の祭
     り)の1日目に、弟子たちはイエスの
     ところに来て言った。
合唱 I   先生、過越の羊を食べるための用意を、
     どこにしたらいいでしょう?
福音史家 イエスは言った。
イエス  市内の例の人の所に行って、こう言い
     なさい。
     「先生が、私の時が来た、あなたの所
     で弟子たちと過越を守りたい、とおっ
     しゃっています。」
福音史家 弟子たちはイエスの命じた通りにして、
     過越の羊の用意をした。

     夜になって、弟子たちと机を囲んで食
     事をしていたとき、イエスが言った。
イエス  たしかに諸君に言っておく。諸君の中
     の一人が、私を裏切ろうとしている。
福音史家 弟子たちは非常に心配して、次々に言
     い出した。
合唱 I   先生、私ですか?

第10曲 コラール (P.ゲルハルト作 1647 5節)
 それは私です。私こそ悔い改めなければなりません。
 手と足を地獄につながれて。
 鞭と縄、そしてあなたの堪えたもの、
 それは私の魂こそが受けるべきものです。

第11曲
福音史家 イエスは答えて言った。
イエス  私と一緒に鉢に手を入れている人が、
     私を裏切ろうとしている。たしかに人
     の子は、書いてあるとおりに去って行
     く。しかし人の子が裏切られるその人
     はかわいそうだ。その人は生まれない
     方が、彼のためには良かっただろうに。
福音史家 イエスを裏切ったユダが答えて言った。
ユダ   師匠、私ですか?
福音史家 イエスは言った。
イエス  君の言うとおりだ。

福音史家 彼らが食事をしているとき、イエスは
     パンを取り、感謝して裂いて、弟子た
     ちに与えて言った。
イエス  取って食べたまえ。これは私の体だ。
福音史家 また杯を取り、感謝して弟子たちに与
     えて言った。
イエス  この杯から飲みたまえ。これは私の新
     しい契約の血だ。多くの人の罪の許し
     のために流す血なのだ。
     諸君に言っておく。私の父の国で諸君
     と共に新しいものを飲むまで、私は今
     後決して葡萄の実から作ったものを飲
     まない。

第12曲 レシタティーボ(ソプラノ I )
 イエスが私たちに別れを告げたことで私の心が
 涙に漂おうとも、それでもイエスの契約は私を
 喜ばせる。
 そのかけがえのない肉体と血を、イエスは私の
 手に残してくださった。
 イエスがこの世で彼らに悪くしなかったのと同
 様、世の終わりまで愛していてくださる。

第13曲 アリア(ソプラノ I )
 あなたに私の心を捧げます。
 私の救いを私に授けて下さい。
 私はあなたの内に沈みたいのです。
 この世があなたにとって小さすぎるとも、
 ああ、それなら私にとってあなただけが
 天よりも地よりも大きなものなのです。

第14曲 
福音史家 彼らは賛美歌を歌ったあとオリーブ山
     へ出かけた。そこでイエスは弟子たち
     に言った。
イエス  今夜、諸君はみな私につまづくだろう。
     聖書に「私は羊飼いを打つ。すると羊
     の群れは散りじりになる。」と書いて
     あるからだ。しかし私がよみがえった
     とき、私は諸君より先にガリラヤに行
     っていよう。

第15曲 コラール (P.ゲルハルト作 1656 5節)
 私の守り手よ、私を認めて下さい。
 私の牧者よ、私を受け入れて下さい。
 全ての善いものの源であるあなたから、
 私はいろいろ善いことをしていただきました。
 あなたのみ言葉はミルクと甘い食事をもって私
 を元気づけ、
 あなたの霊は沢山の天国の喜びを私に授けて下
 さいました。

第16曲
福音史家 しかしペトロは答えてイエスに言った。
ペトロ  みんなが先生につまづいた時でも、私
     は決してつまづきません。
福音史家 イエスは言った。
イエス  はっきり君に言っておこう。今夜鶏が
     鳴く前に、君は三度私を知らないと言
     うだろう。
福音史家 ペトロが言った。
ペトロ  たとえ先生と一緒に死ななくてはなら
     なくなった時でも、決して先生を知ら
     ないなどとは言いません。
福音史家 弟子たちはみな同じように言った。

第17曲 コラール (P.ゲルハルト作 1656 6節)
 私はあなたのそばにいます。私を侮らないで下
 さい。
 たとえあなたの心臓が裂けても、あなたのもと
 から離れません。
 最期のとどめのひと突きに、あなたの心臓が蒼
 ざめるとき、そのとき私は、腕とひざであなた
 を抱きましょう。

第18曲 
福音史家 それからイエスは彼らと共にゲッセマ
     ネという園に来た。彼はそこで弟子た
     ちに言った。
イエス  私が向こうに行って祈っている間、こ
     こに座っていなさい。
福音史家 そしてペトロと、ゼベダイの2人の子
     らを連れて行ったが、イエスは悲しみ、
     悩み始めた。そこで彼らに言った。 
イエス  私の心は滅入って死にそうなほどだ。
     ここにいて、私と一緒に目を覚まして
     いなさい。

第19曲 レシタティーボ(テノール I )とコラー
    ル(合唱 II  J.ヘールマン作 1630 3節)
テノール おお悩みよ、悩める心はここにうち震
     える。

     心は沈み、顔は蒼ざめる。
合唱 II   このような苦難の原因は何なのですか?
テノール 裁き人は主を法廷に連れて行く。

     そこには慰めも救いもない。
合唱 II   ああ。私の罪があなたを打ったのだ。
テノール 主は地獄の苦しみに傷つく。

     他人の罪をあがなわねばならなかった
     のだ。
合唱 II   ああ主イエスよ、あなたの堪え忍んだ
     ものは、私の引き起こしたものなので
     す。
テノール ああ、私の愛と救いがあなたの震えと
     おののきを和らげ、担うのを手伝うこ
     とが出来るものなら、私は喜んでここ
     にとどまりましょう。

第20曲 アリア(テノール I と合唱 II ) 
テノール 私はイエスのもとで目覚めていよう。
合唱 II   そうすれば私たちの罪は眠りにつく。
テノール 主の霊の苦しみが私たちの死をあがな
     い、主の涙は私の最高の喜びとなる。
合唱 II   だから、主の尊い苦しみは、私たちに
     は確かに苦いけれども、それでも甘い
     ものなのである。   

第21曲 
福音史家 そして少し進んでいき、うつ伏せにな
     って、祈って言った。
イエス  我が父よ、もし出来ることなら、この
     杯を私から遠ざけて下さい。しかし私
     の思うようにではなく、あなたの思う
     ようになさって下さい。

第22曲 レシタティーボ(バス II )
 救い主は父のみ前にひれ伏している。こうして
 主は私と全ての人を、我々の堕落から神の恵み
 へと再び引き上げて下さる。
 主は、この世の罪がそそぎ込まれ、悪臭を放つ
 死の苦しみの杯を飲む覚悟を決めた。愛する神
 がそれを望んだのだから。

第23曲 アリア(バス II )
 喜んで私は、十字架と杯を我慢して取り、
 救い主にならって飲み干そう。
 なぜなら、乳と蜜にあふれる主のみ言葉は、苦
 い恥辱の根底と悲しみを、最初の一口で甘くさ
 せるのだから。

第24曲
福音史家 そして主は弟子たちの所にきて、彼ら
     が眠っているのを見つけて言った。
イエス  ひとときすらも私と一緒に目を覚まし
     ていられないのか?誘惑に陥らないよ
     うに目を覚まして祈っていなさい。魂
     は熱心だが、肉体が弱いのだ。
福音史家 また2回目に行って、祈って言った。
イエス  我が父よ、もしこの杯を私から遠ざけ
     ることが出来ないのでしたら、私はそ
     れを飲みます。それであなたのご意志
     が成就しますように。

第25曲 コラール (アルブレヒト作 1554 1節)
 私の神の望むものは、つねに成就される。
 その意志こそ、最高のもの。
 神を堅く信仰する者に、神は助けを惜しまない。
 正しき神は、人を苦悩より救い、情けをもって
 懲らしめる。
 神を信じ、神の上に堅く礎を築くものを、
 神は見捨てようとはしない。

第26曲 
福音史家 主が来ると、弟子たちが寝ているのを
     見つけた。彼らの目はすっかり眠って
     いた。それで彼らをそのままにして、
     また行って、3度目に祈って同じ言葉
     を語った。そして弟子たちの所に帰っ
     てきて、彼らに言った。
イエス  ああ。諸君はまだ眠りたいのか?休み
     たいのか?
     見よ、時が来た。人の子は罪人らの手
     に渡されるのだ。立て、行こう。見よ、
     私を裏切るものがあそこにいる。
福音史家 そしてイエスが話しているときに、見
     よ、十二弟子の1人ユダが来た。彼と
     共に、大祭司、民の長老たちから遣わ
     された大勢の群衆が剣と棒とを持って
     やって来た。
     裏切り者は予め合図を決めて言った。
     「私のキスする人がその人だ。そした
     ら捕まえろ。」
     そしてすぐにイエスに近寄って言った。
ユダ   師匠、ご機嫌いかがですか?
福音史家 そしてイエスにキスをした。しかしイ
     エスは彼に言った。
イエス  友よ、なぜ君は来たのだ?
福音史家 このとき、人々が進み寄ってイエスに
     手を掛け、捕まえた。

第27曲 アリア(ソプラノ I 、アルト I 、合唱 II ) 
二重唱  こうしてイエスは今や捕らわれた。
合唱 II   彼を放せ!待て!縛るな!
二重唱  月も光も悲しみに姿を消した。私のイ
     エスが捕らえられたから。
合唱 II   彼を放せ!待て!縛るな!
二重唱  彼らは縛られたイエスを連行する。

二重合唱 稲妻も雷鳴も雲の中に消え去ったのか?

     火の淵を開け、おお地獄よ。
     打ち砕け、  滅ぼせ、
     飲み込め、  粉々にしろ!
     激しい怒りを込めて、
     あの不実の裏切り者を、人殺しの血を!

第28曲 
福音史家 すると見よ、イエスと一緒にいた弟子
     たちの1人が、手を伸ばして、大祭司
     の従僕に切りつけて片耳を切り落とし
     た。そこでイエスは彼に言った。
イエス  剣を元の所に収めなさい。剣を取るも
     のは剣によって滅びるからだ。それと
     も君は、12軍団以上の天使を私のもと
     に遣わすよう私が父に頼めないとでも
     思うのか?
     しかしそれではどうして聖書の言葉が
     成就されよう?その通りにならねばい
     けないのだ。
福音史家 そのとき、イエスは群衆に言った。
イエス  あなたがたは人殺しに向かうように剣
     や棒を持って私を捕らえにやって来た
     のか?私は毎日あなたがたのそばに座
     り、神殿で教えを語っていたのに、あ
     なたがたは私を捕まえはしなかった。
     しかし起こったこと全ては、予言者た
     ちの書いたことが成就するためである。
福音史家 そのとき、弟子たちはみなイエスを見
     捨てて逃げ去った。

第29曲 コラール・ファンタジー(合唱 I, II )
         (S.ハイデン作 1525 1節)
 おお人よ、汝の罪の大きさに泣け。
 それゆえにキリストは、父の膝より出て地上に
 来たのだ。
 清くやさしい乙女より、主は私たちのために生
 まれた。とりなしの主となるために。
 主は死者に生命を与え、そのうえ全ての病を取
 り去った。
 まことに十字架の上で私たちのためにいけにえ
 となり、私たちの罪の重荷を担う時の来るまで。


     第 II 部


第30曲 アリア(アルト I )と合唱 II
アルト  ああ、今や私のイエスは行ってしまわ
     れた。
合唱 II   女たちのうちで最も美しいあなた、

     あなたの友人はどこへ行ってしまった
     のですか?
アルト  私は見つけることが出来るでしょうか?
合唱 II   あなたの友人はどこへ向かったのです
     か?
アルト  ああ!虎の爪に捕らえられた私の子羊、

     ああ!私のイエスはどこへ行ってしま
     われたのだろう? 
合唱 II   それでは私たちも、あなたと一緒に彼
     を探しましょう。
アルト  ああ!魂が不安にかられて私に尋ねる
     ならば、私は何と言うべきだろうか?

     私のイエスはどこへ行ってしまわれた
     のだろう? 

第31曲 
福音史家 しかし、人々はイエスを捕らえ、大祭
     司カヤパのところへ彼を引いて行った。
     そこには律法学者や民の長老たちが集
     まっていた。

     ペテロはことの成り行きを見届けるた
     めに、大祭司の館までイエスに遠くか
     らついて行き、中に入って従僕たちの
     間に座った。

     大祭司たち、長老たち、全議会は、イ
     エスを死刑にするため彼に対する偽り
     の証拠を探したが、何も見つからなか
     った。

第32曲 コラール (A.ロイスナー作 1533 5節)
 世の中は、偽りと作りごと、多くの網と秘密の
 罠をもって私をあざむいた。
 主よ、このような危険の中で私を顧み、
 偽りの企みより私を守って下さい。

第33曲
福音史家 そこで多くの偽証者が出てきたのだが、
     何も証拠を見つけられなかった。最後
     に2人の偽証者が出てきて言った。
証人2人 彼は「私は神殿を打ち壊し、3日で建
     て直すことが出来る。」と言いました。
福音史家 すると、大祭司が立ち上がってイエス
     に言った。
大祭司  彼らが汝に不利な証言をしているが、
     それに何も答えないのか?
福音史家 しかしイエスはじっと黙っていた。

第34曲 レシタティーボ(テノール II )
 私のイエスは偽りの嘘にじっと黙っておられた。
 私たちに次のことを示すために。
 憐れみに満ちたみ心が、私たちのために苦悩を
 受けたことと、   
 同じような傷みの中で私たちもイエスと同じよ
 うに、迫害の中でもじっと黙っているべきこと
 とを。

第35曲 アリア(テノール II )
 堪えよ、堪えよ、偽りの弁舌が私を刺すならば。
 私の罪や侮辱、あざけりに対して私が苦しむな
 ら、
 ああ、私の愛する神が、私の心の無実に報いて
 下さる。


第36曲
福音史家 そこで大祭司は答えて言った。
大祭司  生ける神の御名によりて汝に命ずる。
     汝が神の子キリストなのかどうか、我
     らに答えよ。
福音史家 イエスは言った。
イエス  あなたの言うとおりだ。しかし、私は
     あなたがたに言っておく。今よりのち、
     あなたがたは人の子が力あるものの右
     に座し、天の雲に乗って来るのを見る
     であろう。
福音史家 大祭司はその着物を引き裂いて言った。
大祭司  こいつは神を冒涜した。もうこれ以上
     の証言の必要があろうか?見よ、諸君
     は今、こいつの神への冒涜の言葉を聞
     いた。どう思うか?
福音史家 彼らは答えて言った。
二重合唱 やつは死罪だ!
福音史家 そこで、彼らはイエスの顔に唾をかけ、
     こぶしで打った。また何人かは顔をひ
     っぱたいて言った。
二重合唱 あてて見ろ。あてて見ろ。
     キリストさんよ、おまえをぶったのは
     誰だい?

第37曲 コラール (P.ゲルハルト作 1647 3節)
 私の救い主よ、誰があなたをこんなにも打ち、
 苦痛を与えてこのように不当に裁いたのですか?
 あなたは、私たちやその子孫のような罪人では
 全くありません。あなたは悪事をご存じないの
 です。

第38曲 
福音史家 さて、ペテロは邸の中で屋外に座って
     いた。するとひとりの女中が来て言っ
     た。
女中1  おや、あなたもガリラヤ人のイエスと
     一緒にいましたね。
福音史家 彼は皆の前で打ち消して言った。
ペテロ  何を言っているか、わからないです。
福音史家 門まで出て行ったとき、他の女中が彼
     を見て、そこにいた人々に言った。
女中2  この人もナザレ人のイエスと一緒にい
     たよ。
福音史家 そこで、彼はまた打ち消して、誓って
     言った。
ペテロ  そんな人、知らないです。
福音史家 しばらくして、そこに立っていた人が
     ペテロに近づいて来て言った。
合唱 II   確かにおまえもあいつらの一人だ。訛
     りでわかる。
福音史家 彼は呪い、誓いだした。
ペテロ  そんな人、知らないです。
福音史家 そしてそのとき鶏が鳴いた。ペテロは
     「鶏が鳴く前に君は三度私を知らない
     と言うだろう。」というイエスの言葉
     を思い出し、外へ出て激しく泣いた。

第39曲 アリア(アルト I )
 憐れんで下さい、神よ、私の涙のゆえに。
 見て下さい、心も目もあなたの前で激しく泣い
 ているのを。
 憐れんで下さい、憐れんで下さい。

第40曲 コラール (J.リスト作 1642 5節)
 私は、たとえあなたからすぐに離れて行っても、
 それでも再び、み前に現れます。
 あなたのみ子は、不安と死の苦しみを通じて私
 たちを許して下さいました。
 私は罪を否認しません。しかしあなたの恵みと
 恩寵は、私の内にいつも見いだせる罪よりずっ
 と大きいのです。

第41曲
福音史家 朝がくると、大祭司や民の長老たち一
     同はイエスを殺そうと協議した。そし
     てイエスを縛り、引き出して総督ポン
     ツィオ・ピラトに渡した。

     イエスを裏切ったユダは、イエスが死
     刑の宣告をされたのを見て後悔し、銀
     貨30枚を大祭司や民の長老に返して言
     った。
ユダ   私は悪いことをしました、罪の無い人
     の血を売るなんて。
福音史家 彼らは言った。
二重合唱 我々になんの関係があるのか? 自分
     の勝手にしたまえ。
福音史家 そこで彼は銀貨を神殿に投げ込み、出
     て行って、自ら首をくくった。

     大祭司らは銀貨を拾って言った。
大祭司2人これは血の代価だから、神の金庫に入
     れるのは良くない。

第42曲 アリア(バス II )
 私のイエスを返せ。
 見よ、人殺しの報酬の金を
 放蕩息子は足元に投げ出したのだ。
 私のイエスを返せ。

第43曲
福音史家 彼らは協議して、その金で旅行者の墓
     を作るために陶器師の畑を買った。そ
     のためにこの畑は今日まで血の畑と呼
     ばれている。こうして予言者エレミヤ
     によって言われたことが成就したので
     ある。すなわち
     「主が私にお告げになったように、彼
     らは、イスラエルの子らから買った売
     り物(=イエス)の代金である30枚の
     銀貨を取り、陶器師の畑の代価として
     与えた。」
     さて、イエスは総督の前に立ち、総督
     は彼に尋ねて言った。
ピラト  汝はユダヤの王なのか?
福音史家 イエスはそこで言った。
イエス  あなたの言うとおりです。
福音史家 そして大祭司や長老たちからの告発が
     あったが、彼は何も答えなかった。ピ
     ラトはイエスに言った。
ピラト  彼らがあのように激しく汝を告発して
     いるのが、聞こえないのか?
福音史家 しかし、総督が不思議に思うほどに、
     イエスは一言も答えなかった。

第44曲 コラール (P.ゲルハルト作 1653 1節)
 あなたの道と、あなたの心を患わすものとを、
 天をつかさどる最も信ずべき守りにゆだねよ。
 主は、雲や空気や風に道と進路と方向を与え、
 あなたの足の進むことの出来る道を、見いだし
 て下さるだろう。 

第45曲
福音史家 さて、祭りのさいに総督は民衆の望む
     囚人1人を許してやる慣例になってい
     た。時にバラバという有名な囚人がい
     た。そこで人々の集まったとき、ピラ
     トは彼らに言った。
ピラト  汝らは私が誰を許すのを望むのか?バ
     ラバか?それともキリストと呼ばれる
     イエスか?
福音史家 というのは、彼らは妬みからイエスを
     引き渡したのだと、ピラトはよく知っ
     ていたからである。また、彼が裁判の
     席についていたとき、彼の妻が人を遣
     わせて言わせた。
ピラトの その正しい人に関係しないで下さい。
    私はきょう夢の中で、この人のことで
     さんざん苦しみました。
福音史家 しかし、大祭司や長老たちは、バラバ
     の許しを願い、イエスを殺してもらう
     よう民衆を説き伏せた。      
     さて、総督は彼らに答えて言った。
ピラト  2人のうち、どちらを許してもらいた
     いのか?
福音史家 彼らは言った。
合唱 I, II  バラバを!
福音史家 ピラトは言った。
ピラト  それではキリストと呼ばれるイエスは
     どうしたら良いのか?
福音史家 彼らはいっせいに言った。
合唱 I, II  やつを十字架につけろ!

第46曲 コラール (J.ヘールマン作 1630 4節)
 まったくこの罰の何と驚くべきことだろう。
 善良な羊飼いが羊たちのために苦しみ、
 正義の人である主が、そのしもべのために負債
 を支払うというのだ。

第47曲
福音史家 総督は言った。
ピラト  彼は一体どんな悪いことをしたのか?

第48曲 レシタティーボ(ソプラノ I )
 主は私たちすべてに、良いことばかりされた。
 盲人に見る力を与え、不具者を歩かせ、
 私たちに父のみ言葉を語り、悪魔を追い払い、
 悲しむ者を励まし、罪人を迎え入れ、受け入れ
 た。
 その他には、私のイエスは何もなさらなかった。

第49曲 アリア(ソプラノ I )
 愛ゆえに私の救い主は死にたもう。
 主はたった1つの罪さえ知らない。
 かくて、永遠の滅亡も裁きの罰も、
 私の心にはとどまらない。 

第50曲
福音史家 すると彼らは、いっそう激しく叫んで
     言った。
合唱 I, II  やつを十字架につけろ!
福音史家 ピラトは手のつけようがなく、かえっ
     て大暴動になりそうなのを見て、水を
     取り、群衆の前で手を洗って言った。
ピラト  私は、この正しい人の血について責任
     を持たない。汝らの勝手にするがよい。
福音史家 すると、全群衆が答えて言った。
合唱 I, II  その血の責任は、俺たちと俺たちの子
     孫が取ってやる。
福音史家 そこで、彼はバラバを釈放し、イエス
     を鞭打たせ、十字架につけるために彼
     らに引き渡した。

第51曲 レシタティーボ(アルト II ) 
 神よ、憐れんで下さい。
 ここに救い主は縛られて立っている。
 ああ鞭打ち、殴打、傷!
 執行人よ、やめて下さい!
 心の傷みが、このような痛ましい光景が、
 あなたたちを和らげないのか?
 ああそうだ、あなたたちも心は持っているが、
 それはちょうど拷問の柱のように、いやそれよ
 りもっとずっと、冷酷なのに違いない。
 彼を憐れんで、やめて下さい! 

第52曲 アリア(アルト II )
 たとえ私の頬に涙が流れなくとも、
 おお、私の心を受け取って下さい。
 しかし主の傷が慈しみ深くも血を流すとき、
 私の心をこの血で満たし、捧げ物の皿とならせ
 て下さい。

第53曲
福音史家 それから総督の兵士たちはイエスを官
     邸に連れて行き、全部隊を彼のまわり
     に集めた。そして服を脱がせて紫のマ
     ントを羽織らせ、いばらの冠を編んで
     作って頭にかぶせ、右手には葦の棒を
     持たせて、その前にひざまづき、彼を
     あざけって言った。
二重合唱 ユダヤの王さま、ごきげんよう!
福音史家 また彼に唾を吐きかけ、葦の棒を取っ
     て、それで頭を叩いた。

第54曲 コラール(P.ゲルハルト作 1656 1〜2節)
 おお、血と傷にまみれ、苦しみと辱めに満ちた
 み頭よ。
 おお、あざけっていばらの冠で縛られたみ頭よ。
 おお、かつては最高の栄誉と誇りで美しく飾ら
 れ、しかも今は「ごきげんよう」などとひどい
 屈辱を受けるみ頭よ。

 かつては偉大な最後の審判さえも驚き、恐れた、
 あなたの気高いみ顔、
 なんと唾を吐きかけられ、なんと蒼ざめている
 ことか。
 かつては他に比肩しうる光のなかったあなたの
 眼光を、
 誰がこうも恥辱にまみれさせたのか?

第55曲
福音史家 そしてこのようにイエスを嘲弄したあ
     と、マントを剥いで元の服を着せ、十
     字架につけようと引いて行った。彼ら
     の出てきたとき、クレネ出身のシモン
     という男を見つけたので、イエスの十
     字架を無理やり背負わせた。

第56曲 レシタティーボ(バス I )
 そうだ、もちろん我々の中でも、肉体と血に十
 字架を背負わせよう。
 我々の心が善になればなるほど、つらさも増す
 のだ。

第57曲 アリア(バス I )
 来たれ、甘き十字架よ。私はあえてそう言おう、
 我がイエスよ、さあ十字架を我に与えたまえ。
 私の苦難の重すぎるとき、私がそれを負うのを
 助けたまえ。

第58曲
福音史家 そしてゴルゴタ、すなわちドイツ語で
     Schaedelstaett(=しゃれこうべの場)
     という所につくと、彼らは苦みを混ぜ
     た酢っぱくなった葡萄酒をイエスに飲
     ませようとした。イエスはこれをなめ
     たが、飲もうとはしなかった。

     兵士たちはイエスを十字架につけてか
     ら、くじを引いて彼の服を分けあった。
     これは予言者によって「彼らは私の服
     を仲間うちで分けあい、私のローブを
     くじ引きにした。」と言われたことが
     成就するためである。

     そして彼らはそこらに座って、イエス
     の見張りをした。イエスの頭の上には、
     「これはユダヤ人の王、イエスである」
     と、死刑宣告の理由書が掲げられてい
     た。
     イエスとともに、2人の殺人犯が1人
     はイエスの右側、もう1人は左側に十
     字架につけられた。
     そこを通りかかった者たちは、イエス
     をののしり、頭を振りながら言った。
二重合唱 神殿を壊して3日で建てるというお前
     さんよ、自分を助けてみろ。
     もし神の子だと言うんなら、十字架か
     ら降りて見せろよ。
福音史家 同じように大祭司たちも、律法学者や
     長老らといっしょにあざけって言った。
二重合唱 こいつは他人は救っても、自分は救え
     ないわけだ。
     イスラエルの王ならば、いますぐ十字
     架より降りて来たまえ。そうすれば信
     じてあげよう。
     こいつは神を頼りにしている。神はこ
     いつを救い出したいはずだ。なにしろ
     「私は神の子だ」と言っていたのだか
     ら。
福音史家 一緒に十字架につけられていた殺人犯
     どもまでも、同じようにイエスをのの
     しった。

第59曲 レシタティーボ(アルト I )
 ああゴルゴタよ、呪うべきゴルゴタよ、
 栄光の主は恥辱にまみれてこの地で滅びなくて
 はならない。
 この世の祝福と救いは、十字架についた呪いの
 ようになってしまった。
 天と地の創造者も、大地と空気を奪い取られ、
 無実の者もここでは罪を負って死ななくてはな
 らない。
 これは私の心をつき動かす。
 ああゴルゴタよ、呪うべきゴルゴタよ、

第60曲 アリア(アルト I と合唱 II )
アルト  見よ、イエスは我らを受け止めようと
     手を広げていらっしゃる。
     来たれ。
合唱 II     どこへ? 
アルト  イエスの腕の中へ。
     救いを求め、憐れみを受けよ、
     求めよ。
合唱 II      どこに?
アルト  イエスの腕の中に。
     ここで生き、ここで死に、ここで憩え、
     汝ら見捨てられたひよこたちよ、
      とどまれ。
合唱 II     どこに?
アルト  イエスの腕の中に。

第61曲 
福音史家 第6時(昼の12時)から地上が全部暗
     闇になって、第9時(午後3時)に及
     んだ。そして第9時に、イエスは大声
     で叫んで言われた。
イエス  エリ、エリ、ラマ アサプタニ。
福音史家 これは、「我が神、我が神、なぜ私を
     見捨てたのですか?」という意味であ
     る。
     そこに立っていた何人かが、これを聞
     いて言った。
合唱 I   あれはエリヤを呼んでるんだ。
福音史家 そこで中の1人がすぐに走ってゆき、
     海綿を取って酸っぱい葡萄酒を含ませ、
     葦の棒につけてイエスに飲ませた。
     一方、他の者たちは言った。
合唱 II   待て、待て、エリヤが来て彼を助ける
     かどうか見てやろう。
福音史家 しかしイエスはもう一度大声で叫んで、
     息絶えた。

第62曲 コラール (P.ゲルハルト作 1656 9節)
 いつの日か私が世を離れ去らなくてはならない
 とき、私から離れ去らないで下さい。
 私が死に苦しまなくてはならないとき、
 そのとき私の所へ来て下さい。
 私の心のまわりにとても不安なことがあるとき、
 あなたの受けた不安と苦痛をもって、
 私を不安から遠ざけて下さい。

第63曲
福音史家 そのとき見よ、神殿の幕が上から下ま
     で真っ二つに裂けた。そして地は震え、
     岩は裂け、墓が開いて、眠っていた多
     くの聖者の死体が生き返った。そして
     イエスの復活ののち、墓から出て聖都
     に来て、多くの人の前に現れた。
     百卒長や、彼とともにイエスの見張り
     をしていた人々は、地震とこれらの出
     来事を見て、とても恐ろしくなって言
     った。
合唱 I, II  ほんとうに、この人は神の子だったの
     だ。
福音史家 さて、そこにはイエスを遠くから見て
     いた沢山の女性がいた。ガリラヤから
     イエスに従って来て、イエスにつくし
     ていた人たちである。その中にはマグ
     ダラのマリア、ヤコブとヨゼフの母マ
     リア、ゼベダイの子らの母などがいた。
     夕方になって、イエスの弟子であるア
     リマタヤ出身のヨセフという金持ちが
     来た。彼はピラトのところに行って、
     イエスの遺体の下げ渡しを願い出た。
     そこでピラトは、遺体を彼に渡すよう
     命じた。
 
第64曲 レシタティーボ(バス I )
 涼しいこの夕べに、アダムの堕落は明らかにな
 った。
 この夕べに、救い主は自らひれ伏した。
 この夕べに、鳩は帰ってきて、口にオリーブの
 葉をくわえてきた。
 おお美しい時間!おお夕べの時!
 イエスが十字架を全うしたおかげで、平和の契
 りが、いまや神と結ばれた。
 その遺体は安息に入る。
 ああ、愛する心よ、おまえに頼もう、
 行くのだ、死せるイエスをまかせよう。
 おお、救いをもたらす尊い追憶よ。

第65曲 アリア(バス I )
 我が心よ、清らかになれ、私はみずからイエス
 を葬ろう。
 主はいまこそ私の中で、永遠に、永遠に、甘き
 安息を得ているはずなのだから。
 世界よ、出て行け、イエスを招き入れよ。

第66曲 
福音史家 ヨセフは遺体を受け取って、きれいな
     亜麻布で巻いた。そして岩に彫らせて
     あった自分自身の新しい墓に横たえ、
     墓のとびら用に大きな石を転がしてお
     いて、立ち去った。
     しかしそこにはマグダラのマリアと他
     のマリアが残り、墓の前に座っていた。

     あくる日、すなわち準備日の次の日、
     大祭司とパリサイ人らが全員でピラト
     の所にやって来て、言った。
二重合唱 閣下、思い出したのですが、あの嘘つ
     きがまだ生きていたとき、「私は3日
     めに再びよみがえる」と言っていまし
     た。
     ですから弟子たちが来て遺体を盗み、
     「イエスが死人の中からよみがえった」
     などと言うことのないよう、3日めま
     で墓を警備するよう命じて下さい。そ
     んなことになると、今度の嘘は、前の
     よりもっと始末に負えないものになり
     ます。
福音史家 ピラトは彼らに言った。
ピラト  番兵を貸してやる。行って望むだけ警
     備したらよかろう。
福音史家 彼らは行って、番兵を置いて墓を警備
     し、石に封印をした。

第67曲 レシタティーボ(バス I 、テノール I 、
    アルト I 、ソプラノ I 、合唱 II )
バス   今や主は憩いの床へ運ばれた。
合唱   私のイエスよ、お休みなさい。
テノール 我らの罪のために受けた苦しみも去っ
     た。
合唱   私のイエスよ、お休みなさい。
アルト  おお至福なるなきがら、
     見て下さい、私の堕落のためにあなた
     があんな苦しみに会ったことで、私が
     どんなに懺悔と後悔に泣いているかを。
合唱   私のイエスよ、お休みなさい。
ソプラノ 私の命の続く限り、あなたの受難に対
     し、私の魂の救いをかくも重んじて下
     さったという千の感謝を捧げます。
合唱   私のイエスよ、お休みなさい。

第68曲 二重合唱(終曲)
 私たちは涙にくれてひざまづき、
 墓の中のあなたに呼びかける。
   −憩え安らかに、安らかに憩え。
 あなたの傷ついた手足を、憩わせて下さい。
   −憩え安らかに、憩えこころよく。
 あなたの墓と墓石は、
 悩める良心にとっての心地よい枕、
 心の憩いの場所になるでしょう。
   −憩え安らかに、安らかに憩え。
 このうえなく満ち足りて、そこで眼をまどろま
 せて下さい。
 私たちは涙にくれてひざまづき、
 墓の中のあなたに呼びかける。
   −憩え安らかに、安らかに憩え。