O-2-2
複眼光受容ニューロンの運命決定における核内過程
広海 健 1,2、Steve R. West 2
(1: 遺伝研・発生遺伝, 2: Dept. Mol. Biol, Princeton University)
ショウジョウバエ複眼発生過程では、個眼内の細胞がニューロン・非ニューロンの選択、ニューロン種選択などの多くの細胞運命選択を行う。seven-upはこのような運命決定のうちのひとつに必要な遺伝子である。seven-up突然変異では8個の光受容ニューロンのうちR3/R4/R1/R6が、R7と呼ばれる別の種類のニューロンに運命転換する。seven-upはR3/R4/R1/R6でのみ発現しているため、SEVEN-UP(seven-up蛋白)は2種のニューロン間の遺伝的スイッチとして働く、と考えられる。SEVEN-UPは進化的に保存された核内リセプターであり、ショウジョウバエのSEVEN-UPとCOUPと呼ばれるヒトのホモログは、DNA結合領域,リガンド結合領域(LBD)いずれも93%以上の相同性を示す.このことはショウジョウバエとヒトの蛋白が共に同じ,もしくは似た塩基配列を認識し,LBDが結合する分子(リガンド或いは他の蛋白)もヒトとショウジョウバエの間で保存されていることを強く示唆している.
我々はchimeric receptor systemとよぶLBDの転写制御活性を生体内で測定する方法を開発し、SEVEN-UPのLBDが転写抑制活性を持つことを示した。この転写抑制活性は複眼発生過程で時間的・空間的に制御されていないため、SEVEN-UPのリガンドは(もし存在するなら)調節的情報を伝えていない、と考えられる。興味深いことに、SEVEN-UPのLBDだけを強制発現しても、発生過程の複眼で種々の細胞運命変換を引き起こす。この現象は、SEVEN-UPのLBDが他の蛋白(蛋白Xと呼ぶ)をtitrate/sequesterしたために生ずる,と考えられる.蛋白Xは多くの細胞種においてそれぞれの細胞運命決定に関与している重要な分子であり,SEVEN-UP或いは他の転写因子と結合しその標的遺伝子の転写調節に寄与する可能性が高い.おそらくSEVEN-UPは蛋白Xに対して細胞特異性・標的塩基配列の2種類の情報を与えているのだろう.