ショウジョウバエ通信 No.131997年 10月 |
支出 | 収入 | ||
================================ | |||
アクロス会場経費 | 573,720 | 参加費(213名) | 612,000 |
備品賃貸*1 | 178,235 | 寄付金*4 | 505,000 |
講師謝礼*2 | 64,000 | 動物学会より*5 | 50,000 |
アルバイト謝金 | 103,620 | 事務局より借入 | 150,000 |
休憩時飲み物・茶菓 | 15,412 | ||
雑費*3 | 31,220 | ||
要旨集印刷製本 | 199,500 | ||
================================ | |||
合計 | 1,165,707 | 合計 | 1,317,000 |
================================ | |||
+差額(事務局へ返済) | 151,293 |
第3回ショウジョウバエ研究会は、福岡のアクロス福岡というクラシックコンサー
トや国際会議が行われる豪華な施設で行われました。京都工繊大で行われた第2回研
究会は非常にカジュアルな印象があり、今年の会もとても気軽な会だとアナウンスさ
れていたので少し驚きましたが、研究会場は前回同様、200名以上の参加者で埋め尽
くされていました。参加者は院生やポスドクが多く、先生方も若い方が多くて非常に
活気がありました。たった1つの科に関する集会にも関わらず、これだけの人数の研
究者が集まってくるとは、さすがはショウジョウバエです。 さて、余談はさておき、研究会の日程を簡単に説明させていただきます。1日目は 冒頭講演で始まり、その後9つの講演がありました。2日目は、朝、ビデオセッショ ンでハエの世話の基本と培地作りが紹介された後、懇親会まで1日中ポスター発表で した。3日目は午前中だけで、講演が6題でした。 冒頭講演は東大の堀田凱樹先生がされ、1960年代に考えていたことが今どれだけ実 現されたかということを先生の夢とともに話されました。昔、先生が生物学全体を見 渡して今後の研究課題であると考えられたテーマ、それを解明するために必要な手法 について、さらに具体的な様々な研究成果について話され、先生の研究に対する姿勢 を聞くことができました。このような数十年単位の科学の進歩やそれに対する先生の 姿勢を聞いていると、自分は今後どうすべきかをつくづく考えさせられます。新しい 技術を積極的に貪欲に吸収しつつ自分のオリジナルの研究スタイルを作っていくこと は多くの研究者が抱いている理想でしょう。現在の実験の進展の詳細を知ることはも ちろん大切ですが、将来の研究分野全体の展開を視野に入れて自分の研究テーマを考 え直すことは常に必要なことですから、とくに院生にとっては良い刺激です。 講演では、レベルの高い、まとまった研究成果を聞くことができました。内容は発 生・シグナル伝達・集団進化・神経について各2-5題ずつ取りあげられていました。 ここでは、私が特に興味を持ったいくつかの講演に限って簡単に紹介させていただき ます。初めの演題は、筑波大の小林悟さんによる、ショウジョウバエの生殖細胞形成 メカニズムの話でした。極細胞の形成過程にミトコンドリアのRNAが、極細胞の分化 過程にはnanos蛋白質が必須であるという2つのことを話されました。発生に関する イベントへのミトコンドリアの関与という意外な発見を、電顕レベルのin situ やリ ボザイムといった最新の技術を用いて示されました。また、nanos蛋白質は複数の蛋 白質の発現を正にも負にも制御していること、意外なことに、少なくともCyclin Bに ついては 蛋白質合成開始時期の決定を行っていること、つまり翻訳レベルで発現制 御しているとお話になりました。 神経センターの松崎文雄さんは神経幹細胞の非対称分裂時に、幹細胞で合成された 転写因子 prospero が神経母細胞だけに不等分配され、そこで初めて機能すること、 さらに、 prospero を細胞の一方に局在化することによって不等分配に導く因子 miranda について話されました。 遺伝研の広海健さんは、2種の視細胞ニューロン間の分化スイッチとして働くseven- up についての発表でした。chimeric recepter system というseven-up のリガン ド結合部位(LBD)の転写制御活性を生体内で測定する方法を開発し、seven-up のLBD が転写抑制活性 を持つことをお示しになりました。今大会で特に印象的だったのは 、この広海さんを初め、多くの方がこれまでのショウジョウバエの分子生物学的手法 をさらに発展させた実験系を開発していたことです。伊藤啓さんのFRT-GAL4法とそれ を利用した成体脳の細胞系譜解析も印象的でした。また、研究者間の協力もめだちま した。作成した変異体をお互いに融通したり、また、相垣さんの開発した Gene Search 法については、複数の研究室が利用して変異体の単離を行っていました。 都立大の菅谷茂さんは単食性のDrosophila sechellia のホスト転換の機構を遺伝 学的手法によって解析した結果を話されました。D. sechellia は、 D. melanogaster や D. simulans が忌避し、食すとその毒により死ぬ、Morinda 果実を唯一の繁殖 場所としています。D. sechellia は、D. melanogaster や D. simulans との間で種 間雑種を得られるために、これらの性質を支配するための遺伝子座の決定が可能です 。その結果、誘因・産卵行動は第2染色体右腕の劣性遺伝子、毒に対する耐性は第3 染色体上の優性遺伝子によっていることが明らかになりました。毒耐性が優性である ことは理解しやすいことですが、特異性の高い誘因・産卵行動が劣性遺伝子によって 引き起こされるというのは、その遺伝子産物の機能をどう考えればよいのでしょう。 D. melanogasterで有利な分子生物学的技法により遺伝子産物の同定が進めば、その 糸口が見えてくると思われます。この研究は菅谷さんの強調するホスト転換と種分化 の機構の解明に留まらず、分子行動遺伝学の発展にも大きく貢献するだろうと期待し ています。種分化は生物学的にはたいへん興味ある研究テーマですが、それに対する アプローチが難しく、最先端の技術を導入しにくいのが常であると私には思われてい たのですが、ショウジョウバエではそのような分野にも意外に簡単にアプローチでき るのだと知り驚きました。 ポスターセッションは前後半2時間ずつ行われました。ほとんどその間しかポスタ ーが貼っていてもらえなかったのが残念でした。自分が発表している間は人のポスタ ーを聞きに行けないし、残りの半分では、聞いてみようと思っていた発表の1部しか 聞けませんでした。先生には、要領が悪いんだとしかられてしまいましたが・・・。 どのポスターも非常に美しく、使われている技術も多岐にわたっていました。前回の 研究会ではエンハンサートラップで、何か面白い変異体をとったという発表が目立っ たのに対して、今回はgene trap 法による変異体の単離 や GAL4-UAS systemという 異所的発現系を利用するなどより高度に発展した手法が広く浸透していました。 また、さらに魅力的な会合が多くの参加者の宿泊先であったリーセントホテルで開 かれました。修学旅行、或いは zakone club と参加者が呼んでいるこの会は、同じ ホテルにみんなで泊まって夜通し語らうもので、初めてあった方々と研究についての 議論はもちろん、研究室の内情や裏情報がきけたり、同じD3の悩みを語らったりと、 とても楽しい夜を過ごしました。 (この印象記は、日本比較生理生化学会発行の雑誌「比較生理生化学」vol.14, No.4 (1997)に掲載(予定)のものを、一部著者による変更のうえ、日本比較生理生化学会 の転載許可のもと、掲載させていただきました。) |
第6回 Cold Spring Harbor Laboratory Meeting (Neurobiology of Drosophila)が、
9月24日から28日まで、アメリカ・ニューヨーク州・ロングアイランドの北部の海
岸沿いにあるCold Spring Harbor Laboratory (CSHL)で行われました。マンハッタン
から、ロングアイランド鉄道で約1時間のところにあるCSHLは、入江の海岸に沿って
約30の建物がたち並ぶ自然にかこまれた静かなところです。それぞれの建物は、一見
Labとは思えない別荘のような外観で、窓から見える実験机がむしろ不釣り合いに思
えました。1年おきに開催される本会議への参加者は前回よりまた増え今回は318人で
、そのうち日本人は23人(日本からの参加者は16人)でした。ヨーロッパからの参加
者は、イギリス14人、ドイツ11人、フランス5人でした。また、若い人も多く、院生
は61人もいました。演題は口頭発表が約60題、ポスター発表が約200題で、朝9時から
夜11時頃まで発表、活発な討議が行われました。想像していたより女性の数が多く、
ずいぶん勇気づけられました。この夏に福岡で開催された日本ショウジョウバエ研究
会では女性の発表者は16人中2人でしたが、CSHでは、口頭発表の4分の1強が女性でし
た。口頭発表をした日本人は4名でした。 口頭発表は、neuronal-glial specification、cell-cell signaling、axon guidance、synapse formation and function、neurotransmitters・receptors・ ion channels、sensory systems、behaviorの7つのセッションが行われました。 各分野とも確実に進んではいるけれども、これはといったホットなトピックスはな かったように感じました。私自身の興味からodorant binding protein、in vivo イメージング、サーカディアンリズム、mechanosensoryトランスダクション についての発表を紹介します。odorant binding proteinは、嗅覚受容において 感覚上皮粘液中で疎水性の分子を可溶化させるためのcarrierとしての役割をはた すと考えられています。D. P. Smith (Univ. Texas)らは、アンテナで発現して いるエンハンサートラップ系統から、P因子のexcisionによってodorant binding proteinを欠くmutantを単離しました。このmutantの匂い物質に対する 応答を調べたところ、高濃度のエタノールに逆に誘引されることがわかりました。 このodorant binding proteinのプロモーターに蛾のpheromone binding proteinをつないで発現させると、このハエは低濃度でpheromoneを忌避するよ うになりました。この結果はodorant binding proteinが匂いに対する特異性を 決めていることを示唆するものとして興味がもたれました。イメージングについては 、A. Chiba (Univ. Illinois)らが membrane-targeted GFPを用いて、胚におけるニ ューロンの発生をin vivoで観察した結果を発表しました。また、N. J. D. Wright ( CSHL)らは、脳の特異的な領域でGFPを発現しているトランスジェニックハエを用いて 、キノコ体での嗅覚応答のカルシウムイメージングを観察する方法を報告していまし た。R. Stanewsky (Brandeis Univ.)らはper-luciferase fusion-geneを用いて、per RNAの変動のリズムをbioluminescence counterで測定する方法を利用してmutantのス クリーニングを行っていました。今後、これらのイメージングを用いた研究はさらに 発展するのではないかと思います。リズムについては、M. Kaneko (Brandeis Univ.) らが幼虫でのperの発現を組織レベルで調べ、幼虫の神経系でもperの発現が振動して いることを示しました。Y. Cheng (Univ. Houston)らは、複眼でper mRNAの振動なし にPERタンパクが振動することから、per mRNAの振動が、活動リズムに必要とされな いという報告をしました。今回のElkins Awardは、H. Zeng (Brandeis Univ.) のtim /perの仕事に対して与えられました。mechano-transductionについては、今までC. eleganceでdegenerinがクローニングされており、これがepithelial sodium channel とホモロジーがあることからこのイオンチャネルがmechanosensitive ion channelで はないかと思われていました。今回、W. A. Johnson (Univ. Iowa )らによって、シ ョウジョウバエの機械感覚子のニューロンで発現している2種類のdegenerinが同定さ れました。同定されたdegenerinはイオンチャネルのサブユニットとして機能し、mec hano-transductionのプロセスに関わっていることが報告されました。mechanoに関連 したものではこの他に、D. F. Eberl (SUNY at Stony Brook)らが、ラブソングの応 答異常からスクリーニングしたmutant、beethoven (btv)の電気生理学的解析を行っ ていました。 私は「ショウジョウバエの味覚受容細胞特異的遺伝子のスクリーニングと同定」と いうポスターを出しました。機械感覚子の減少したcut突然変異体で発現している遺 伝子から化学感覚子の欠失したpoxn突然変異体で発現している遺伝子を差し引くサブ トラクション法とdifferential screeningを用いて化学感覚細胞特異的な遺伝子を単 離する方法についての発表です。事前に英語でポスターを説明する練習をしてのぞみ ました。サブトラクション法について興味をもっている人や、これからサブトラクシ ョンを用いた研究をしたい人からの質問が多く、細かな実験方法やどのくらい有効か などといった、かなり具体的な事を聞かれました。緊張の連続の発表が終わってから の Wine and Cheese Partyのワインの味は格別でした。 口頭発表やポスター発表で情報を得るのも収穫といえますが、それ以上にいろいろ な人々と生活をともにしたことも良い体験でした。宿泊場所は、事務局によってCSHL 内の宿泊施設と近くのホテルに割り当てられており、食事は食堂で各自自由にとれる ようになっていました。私は、バスで15分程のところにあるホリデイ・インに滞在し 、黄色いスクールバスで毎日通いました。私のルームメイトはMITのSuman Reddyとい うインド系の人でしたが、彼女の紹介により彼女の知り合いやLabの人と食事をした り、雑談をすることができました。食事は自分で好きなものを選べるのですが、量が 多く味もいまいちでしたが、いろんな人と話をしながらの食事は英語力がないながら も楽しく、とても勉強になりました。 今回、初めて国際会議に参加しましたが、刺激と情報がたくさんあってとても興奮 する毎日でした。英語の未熟さを痛感し、あまり理解できなかったというのが本当の ところですが、セッションの間の休憩や朝、昼、夜の食事の時間に個人的に多くの人 と話をする機会をもつことができたのはとても有意義でした。院生でありながら、こ のような貴重な経験をすることができてとてもうれしく思います。より多くの若い院 生の方々が参加されるとよいのではないかと思います。 |
収入 | |
研究集会(JDRC2,京都)準備金の残額 | 259,780 |
CD-ROM(EofD2)共同購入代金(2,500円 X 41枚) | 102,500 |
寄付金 | 3,000 |
利息 | 296 |
=========================================================== | |
小計 | 365,576 |
前期繰越金 | 329,429 |
=========================================================== | |
合計 | 695,005 |
支出 | |
CD-ROM(EofD2)共同購入経費 | 99,462 |
原稿謝礼 | 3,000 |
ショウジョウバエ通信発送費(No.7-12) | 65,740 |
文具代(封筒、ラベルなど) | 9,574 |
研究集会(JDRC3,福岡)準備金(会場予約費) | 150,000 |
振込み手数料 | 210 |
=========================================================== | |
小計 | 327,986 |
次期繰越金 | 367,019 |
=========================================================== | |
合計 | 695,005 |