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Drosophila Newsletter (Japanese) No. 13

The Newsletter of the Japanese Drosophila Research Conference (in Japanese)

October 1997

From the new organizer of the 4th JDRC Meeting (1999)by NISHIDA Yasuyoshi
From the former organizer of the 3rd JDRC Meeting (1997)by TANIMURA Teiichi
Balance sheet of the 3rd Meeting
Analysis of the Enquete
Meeting Report : 3rd JRDC Meetingby SATO Akiko
Meeting Report : 6th Cold Spring Harbor Meeting "Neurobiology of Drosophila" by HIROZANE Tomoko
Balance sheet of the 3rd and the next executive committee
New JDRC Charter


ショウジョウバエ通信 No.13

1997年 10月

この通信は研究室単位でお送りしています。研究室の方全員に読んでいただけるようご配慮お願いいたします。
     ごあいさつ                西田 育巧
     第3回研究集会を終えて          谷村 禎一
     経理報告
     アンケート集計結果
     第3回ショウジョウバエ研究会印象記    佐藤 明子
     第6回 Cold Spring Harbor Meeting "Neurobiology of Drosophila"
                          広実 朋子

     第3期決算と今期の運営費について     事務局
     会則について
     編集後記

ごあいさつ

        西田 育巧(名古屋大学理学研究科生命理学)

 福岡での第3回ショウジョウバエ研究会は200名を超える参加者があり、また、
大学院生を中心に若い人たちの活発な参加で大盛会のうちに終了することができまし
た。企画・運営に御尽力くださった谷村禎一さんはじめ九州地区の皆様方に感謝いた
します。これから1999年の第4回研究会に向けて、以下の世話人により、ショウ
ジョウバエ研究会を運営していくことになりました。どうぞ宜しくお願いいたします。

 代表     西田 育巧(名大・理、任期4年)
 次期代表   林  茂生(遺伝研、任期4年)
 通信     木村 賢一(北海道教育大、任期2年)
 事務局    丸尾 文昭(筑波大、任期2年)

 これまで通信を担当していただいた最上要さん、どうも御苦労さまでした。事務局
には、丸尾さんにあと2年間引き続き留まっていただけますが、残りは新メンバーで
す。不馴れなことも多いかと思いますが、皆様方からいろいろと御指摘、御指導いた
だければと思います。なお、伊藤啓さんは、これまでどおりにショウジョウバエ研究
会と並行して、J-FLYを運営して下さいます。宜しくお願いいたします。
 第4回研究会については、福岡での研究会でのアンケートも参考にして、1999
年8月上旬に名古屋市内の愛知県がんセンター国際医学交流センターにて開催するこ
とを現在検討しつつあります。具体的なことは、これからいろいろと検討していきた
いと思っていますが、研究会について御意見・御要望や企画案などがありましたら、
私宛お寄せいただけると幸いです。また、この時期に外国から日本に来られる方があ
りましたら(外国人、日本人とも)、御連絡いただけると助かります。シンポジスト
としての可能性を検討したいと思います。今後、ショウジョウバエ通信やJ-FLYを通
じて、研究会やその他の情報をお伝えしてゆきたいと思います。次回研究会を実りあ
るものにするために、できる限りのことをしたいと思います。また、皆様方の御支援
もお願いいたします。世話人を代表して、宜しくお願い申し上げます。


第3回研究集会を終えて

     谷村 禎一(九州大学理学部生物学教室)

 213名の参加者を得て「第3回日本ショウジョウバエ研究集会」を盛会のうちに終
えることができました。天候にも恵まれ、また快適な会場であったことがよかったか
と思います。参加者の半数が院生レベルの若い方であることがこの研究会の特徴であ
ると感じました。実際、会場には活気が満ちていて、この分野の将来は明るいという
声を聞きました。今回はいくつかの新しい試みを行いました。参加申込、要旨の送付
を電子メールでお願いしましたところ、全員の方に電子メールで要旨を送っていただ
きました。そのため、名札の作成、要旨集の編集作業などを省力化することができま
した。しかし、思わぬミスもあり、ご迷惑をおかけしたした方には、この場を借りて
お詫びいたします。ビデオセッションは「まあまあ」も入れると多くの方に興味をも
っていただけたかと思います。次回を目指して多くの方がビデオの製作にも挑んでい
ただきたく思います。反省点としては、ポスター会場が手狭であったことがありす。
ポスター会場における自由な討論がこの研究集会のポイントのひとつですから、今後
は、もっと広い会場で時間的にも余裕をもって開催できればと思います。今回は、で
きるだけ少人数で手間をかけないで運営を行うという方針をとりました。しかし、い
ろいろと配慮が足りなく反省すべき点が多々ありましたことをお詫びします。今回の
運営や諸準備に当たっては、世話人、これまで運営に関わってこられた方と綿密な相
談をメールで行いました。3カ月の間に交わされたメールの数は200通を越えました
。会則の原案を作成し、今回の集会で承認を得たことは今後の会の運営にとって収穫
と言えるでしょう。
 この研究会には、ショウジョウバエを研究材料としている様々な分野の方
が加わっているわけですが、研究集会では、発生、神経系の遺伝子・分子レベルの研
究発表が大半を占めています。これは時代の流れではありますが、他の分野の研究者
が参加しにくい雰囲気にならないことを希望すると共に、今回参加されなかった方も
次回はどうか加わってくださるようお願いします。今は目立たないテーマであっても
それが育ってゆくと皆が注目するようようになることは、これまでの研究の流れを見
ても言えるからです。この報告をもって、通信担当の最上さんと私はお役御免となり
ます。あらためて皆様のこれまでのご協力に感謝します。次期代表のもとで、研究会
が実りある交流の場として発展することを祈ります。


1997年度第3回研究集会  会計報告


  支出  収入
================================
 アクロス会場経費573,720 参加費(213名) 612,000
 備品賃貸*1178,235 寄付金*4505,000
 講師謝礼*264,000 動物学会より*550,000
 アルバイト謝金103,620 事務局より借入150,000
 休憩時飲み物・茶菓15,412
 雑費*331,220
 要旨集印刷製本199,500
================================
   合計1,165,707   合計1,317,000
================================
 +差額(事務局へ返済)151,293

*1パネル、マイク、VTRプロジェクター、スライドプロジェクター、OHP、スクリーン
*2冒頭講演、公開講演、*3寄付関係郵送料、名札等事務用品、アクロス駐車料金
*4展示、広告、賛助金、*5公開講演会補助



アンケート集計結果

 (回収総数119名)

 第3回研究集会の会場にて行われましたアンケートの集計結果です。皆様方か
ら研究会に対する貴重な意見をいただくことができました。今後の研究会の進むべき
方向について、会員皆様が考え、議論していく資料として、以下に集計結果と皆様
から寄せられた意見を、そのままのかたちで報告させていただきます。

A. 研究集会の開催頻度について
1. 現状の1年おきでよい (71%)  2. 毎年がよい (11%)  3. どちらでもよい (18%)

B. 開催時期について
1. これまでのように夏でよい (94%)    2. 検討を要する (6%)

C. 検討を要するとのご意見の場合どの時期がよいですか?
1. 春 (2人)  2. 夏(2人)  3. 秋 (4人)  4. 冬 (1人)   

D. とくに好都合だと思われる月があれば書いて下さい( 月、人数)
7月(5)  8月(10) 9月(1) 10月(1)  11月(2) 12月(1)

E. 特に避けて欲しいと思われる月があれば書いて下さい ( 月、人数)
1月(13)  2月(9) 3月(11)  4月(10) 5月(9) 6月(5) 
7月(8) 8月(5) 9月(8) 10月(8) 11月(5) 12月(12)

F. 第1回の八王子セミナーハウスのように宿泊場所と会場が同じであることが望ま
しいですか

1. 是非そうしてほしい (5%)  2. できればそうしてほしい (32%)
3. あまりこだわらない (50%) 4. 別でよい (13%)

 開催地についての希望
関東から関西の間/アクセスのしやすいところ/夏なら涼しいところ/都市(交通の
便のよいところ)/北海道/沖縄/沖縄(誰が世話するかが問題)/近畿/名古屋/
名古屋の班会議で使用した会場/東京近辺/遠いところ

・今回の集会についてお尋ねします

G. 参加申込の手続き、案内等について
1. 便利だった (97%)   2. 複雑だった (2%)   3. 不行き届きだった
(2%) 

H. 参加費について
1. ちょうどよい (90%)  2. 安すぎた (5%)   3. 高い (5%)

I. 冒頭講演について
1. よかった (90%) 2. 要らない (10%)  

・講演について

J. 1題当たりの発表時間
1. ちょうどよい (81%) 2. 長い (3%) 3.短い (15%)

K. 演題の選定について
1. バランスがとれていた (88%)  2. 偏っていた(具体的に書いて下さい)
(12%)

具体的に書けというのも難しいがショウジョウバエを用いた研究分野から見た場合,
明らかに偏っている/集団遺伝関係が少ない/発生学・神経中心/発生・分子中心/
神経関係が多い/神経科学・情報伝達系/集団・進化・生態などの分野にも積極的な
呼びかけをして欲しい/日本でmajorな神経系、“種”に関しての演題が多かった/
脚、翅の発生、wg-dppがover represented/偏ってはいるが、テーマを絞った演題の
選び方でよいと思う。何が今、hotかが感じられるから/ショウジョウバエ研究の現
状を反映していると思う

L. 講演の難易度について
1. 良い (83%) 2. やさしすぎた (1%)   3. 難しかった (16%)

M. ビデオセッションについて
1. 良かった (57%)   2. まあまあ (37%)    3. つまらなかった (4
%)  

N. ポスター発表の時間について
1. ちょうどよい (63%)   2. 長い (17%)   3. 短い (20%)

・その他のご意見
 ポスターについて
ポスター展示の片面「あるいは表面」に偶数を配置し,「裏面」に奇数を配置するな
どの工夫が欲しかった.狭いところで,菱面を見ながら議論するのは,非常に困難で
あった.あるいは,ポスター展示を2回に分けて,広い空間を使った配置が欲しかっ
た/ポスター展示が2日くらいあるとよかった/大会中はずっと見られるようにして
欲しい/発表時間外で展示を見られる時間がもっと欲しい/ポスター発表が夕方・夜
もあると良かった/会場のボードの間・通路が狭かった/貼る場所を広くとるか、片
面張りにすると良かった/座ってデスカッションできるくらいの余裕があると良かっ
た/会場は今回の2倍は必要。ポスターとポスターの間を離す必要がある。日本の学
会は全て似たようなものですが。飲み物を取りながらゆっくりと話せるレイアウトだ
と最高/ポスター発表の時、他のポスターを見れない。ポスター発表の前に各人2分
程度のスライド発表(1〜2枚)の時間をとってはどうでしょう/自分が発表の時、他
の人の発表を聞けない。やっぱり本人から聞きたい/前日に張り出しができると良か
った/多くの人と話ができておもしろかった/充分な時間があったと思う/1日で全
てやって欲しいが、その半分の時間自分が発表する番では聞きに行けない

 ビデオについて
コピーが欲しい/初心者向けだけでなく、研究用技術をフリーに見られるようにして
はどうか/ポスターと同時にやると良かった(装置の準備の問題があった)/発表数
を増やして欲しい

 講演について
初日の演題数が多く時間も長くつらかった/もっと分かりやすく発表して欲しい(一
部の演者)/演題数を増やして欲しいが、演題数を増やすとしたら発表時間に何らか
の工夫が必要でしょう/特定のテーマに絞らずに、最近の各分野の発表を勉強できる
ようにするとよい/速すぎる人が多い/古手、若手を問わず良いdata、paperを出し
た人に発表の場を与えてはどうか/

・今後の研究会、集会について

O. 研究集会で他の分野の研究者を招いて講演を聞くことは?
1. 賛成 (70%)  2. 必要ない (23%) 3. その他 (8%)

素人向けの解説付きなら賛成/動物系が良い/他の学会、財団等のシンポジウムと違
う視点で企画できれば賛成/特に必要なとき以外はなくて良い

P. 海外の研究者を招くことは?
1. 賛成 (82%)  2. 必要ない (11%) 3. その他 (8%)

太平洋、アジア圏の若手なら価値がある/経費はどうするの/他の学会、財団等のシ
ンポジウムと違う視点で企画できれば賛成/特に必要なとき以外はなくて良い/つい
でがあれば/

・ショウジョウバエ研究会は研究集会の開催と通信の発行を行っていますが、今後ど
のような活動を期待されますか?


今のままでよい/しばらくこのままで続けてみては/まだ、活動範囲を広げる必要は
ない/基本的には,「日本ショウジョウバエ研究会」の活動は研究集会の開催と通信
の発行でいいと思う.内容に関しては,研究室レベルの立案だけでなく,個人レベル
の研究・活動にたいして,発表・公開の場を設けるといった姿勢での研究集会の計画
立案を希望する/山元プロジェクト終了後、Jflyの継続、バックアップ/海外のDrosophila
meeting等の案内等があると良い/特集記事/ハエ通信においてショウジョウ
バエ研究の歴史を関係者に語ってもらうコーナーを設ける(E. Lewisの記事はおもし
ろかった)/初心者向きの講演会/ショウジョウバエ研究者、他分野の人に対しての
技術講習会を開いてはどうか/stock center(系統保存施設)/ストックリストの完
備、Labマニュアル等を載せる/初心者のための各分野の導入的書き物(まとまった
ら本にして売り込む)/国内のハエのストック・クローンのリストの整備/Work shop
等、実験技術の講習会/研究者間の交流の場に徹し、あまり欲張らない方がよい。Jfly
の貢献は大変大きいので、今後とも密接な速携をお願いしたい/研究会が責任編
集する書物やビデオの製作、一般研究者向けのマニュアル書、プロトコール集、初心
者向け実習用の解説ものなど/インターネットなどを通した情報交換がもっと盛んに
なることを期待している/基本的には今のままが良いと思います。今の活気ある雰囲
気を保ちたいので、重たい学会になってほしくないと思っています。組織、役員など
もなるべくlightであることを希望します/wwwの抄録の出し方は工夫されたし。一つ
一つ出てくるのはわずらわしい。一つ一つとズラズラと両方で来るようにしてもらい
たい。

Q. あなたは
1. 学部生 (3%)  2. 院生、研究生 (47%) 3. ボス (Lab head)
(18%) 4. それ以外 (31%)



第3回ショウジョウバエ研究会印象記

大阪大学大学院理学研究科生物科学専攻 佐藤 明子

 第3回ショウジョウバエ研究会は、福岡のアクロス福岡というクラシックコンサー トや国際会議が行われる豪華な施設で行われました。京都工繊大で行われた第2回研 究会は非常にカジュアルな印象があり、今年の会もとても気軽な会だとアナウンスさ れていたので少し驚きましたが、研究会場は前回同様、200名以上の参加者で埋め尽 くされていました。参加者は院生やポスドクが多く、先生方も若い方が多くて非常に 活気がありました。たった1つの科に関する集会にも関わらず、これだけの人数の研 究者が集まってくるとは、さすがはショウジョウバエです。

 さて、余談はさておき、研究会の日程を簡単に説明させていただきます。1日目は 冒頭講演で始まり、その後9つの講演がありました。2日目は、朝、ビデオセッショ ンでハエの世話の基本と培地作りが紹介された後、懇親会まで1日中ポスター発表で した。3日目は午前中だけで、講演が6題でした。

 冒頭講演は東大の堀田凱樹先生がされ、1960年代に考えていたことが今どれだけ実 現されたかということを先生の夢とともに話されました。昔、先生が生物学全体を見 渡して今後の研究課題であると考えられたテーマ、それを解明するために必要な手法 について、さらに具体的な様々な研究成果について話され、先生の研究に対する姿勢 を聞くことができました。このような数十年単位の科学の進歩やそれに対する先生の 姿勢を聞いていると、自分は今後どうすべきかをつくづく考えさせられます。新しい 技術を積極的に貪欲に吸収しつつ自分のオリジナルの研究スタイルを作っていくこと は多くの研究者が抱いている理想でしょう。現在の実験の進展の詳細を知ることはも ちろん大切ですが、将来の研究分野全体の展開を視野に入れて自分の研究テーマを考 え直すことは常に必要なことですから、とくに院生にとっては良い刺激です。

 講演では、レベルの高い、まとまった研究成果を聞くことができました。内容は発 生・シグナル伝達・集団進化・神経について各2-5題ずつ取りあげられていました。 ここでは、私が特に興味を持ったいくつかの講演に限って簡単に紹介させていただき ます。初めの演題は、筑波大の小林悟さんによる、ショウジョウバエの生殖細胞形成 メカニズムの話でした。極細胞の形成過程にミトコンドリアのRNAが、極細胞の分化 過程にはnanos蛋白質が必須であるという2つのことを話されました。発生に関する イベントへのミトコンドリアの関与という意外な発見を、電顕レベルのin situ やリ ボザイムといった最新の技術を用いて示されました。また、nanos蛋白質は複数の蛋 白質の発現を正にも負にも制御していること、意外なことに、少なくともCyclin Bに ついては 蛋白質合成開始時期の決定を行っていること、つまり翻訳レベルで発現制 御しているとお話になりました。

 神経センターの松崎文雄さんは神経幹細胞の非対称分裂時に、幹細胞で合成された 転写因子 prospero が神経母細胞だけに不等分配され、そこで初めて機能すること、 さらに、 prospero を細胞の一方に局在化することによって不等分配に導く因子 miranda について話されました。

 遺伝研の広海健さんは、2種の視細胞ニューロン間の分化スイッチとして働くseven- up についての発表でした。chimeric recepter system というseven-up のリガン ド結合部位(LBD)の転写制御活性を生体内で測定する方法を開発し、seven-up のLBD が転写抑制活性 を持つことをお示しになりました。今大会で特に印象的だったのは 、この広海さんを初め、多くの方がこれまでのショウジョウバエの分子生物学的手法 をさらに発展させた実験系を開発していたことです。伊藤啓さんのFRT-GAL4法とそれ を利用した成体脳の細胞系譜解析も印象的でした。また、研究者間の協力もめだちま した。作成した変異体をお互いに融通したり、また、相垣さんの開発した Gene Search 法については、複数の研究室が利用して変異体の単離を行っていました。

 都立大の菅谷茂さんは単食性のDrosophila sechellia のホスト転換の機構を遺伝 学的手法によって解析した結果を話されました。D. sechellia は、 D. melanogaster や D. simulans が忌避し、食すとその毒により死ぬ、Morinda 果実を唯一の繁殖 場所としています。D. sechellia は、D. melanogaster や D. simulans との間で種 間雑種を得られるために、これらの性質を支配するための遺伝子座の決定が可能です 。その結果、誘因・産卵行動は第2染色体右腕の劣性遺伝子、毒に対する耐性は第3 染色体上の優性遺伝子によっていることが明らかになりました。毒耐性が優性である ことは理解しやすいことですが、特異性の高い誘因・産卵行動が劣性遺伝子によって 引き起こされるというのは、その遺伝子産物の機能をどう考えればよいのでしょう。 D. melanogasterで有利な分子生物学的技法により遺伝子産物の同定が進めば、その 糸口が見えてくると思われます。この研究は菅谷さんの強調するホスト転換と種分化 の機構の解明に留まらず、分子行動遺伝学の発展にも大きく貢献するだろうと期待し ています。種分化は生物学的にはたいへん興味ある研究テーマですが、それに対する アプローチが難しく、最先端の技術を導入しにくいのが常であると私には思われてい たのですが、ショウジョウバエではそのような分野にも意外に簡単にアプローチでき るのだと知り驚きました。

 ポスターセッションは前後半2時間ずつ行われました。ほとんどその間しかポスタ ーが貼っていてもらえなかったのが残念でした。自分が発表している間は人のポスタ ーを聞きに行けないし、残りの半分では、聞いてみようと思っていた発表の1部しか 聞けませんでした。先生には、要領が悪いんだとしかられてしまいましたが・・・。 どのポスターも非常に美しく、使われている技術も多岐にわたっていました。前回の 研究会ではエンハンサートラップで、何か面白い変異体をとったという発表が目立っ たのに対して、今回はgene trap 法による変異体の単離 や GAL4-UAS systemという 異所的発現系を利用するなどより高度に発展した手法が広く浸透していました。

 また、さらに魅力的な会合が多くの参加者の宿泊先であったリーセントホテルで開 かれました。修学旅行、或いは zakone club と参加者が呼んでいるこの会は、同じ ホテルにみんなで泊まって夜通し語らうもので、初めてあった方々と研究についての 議論はもちろん、研究室の内情や裏情報がきけたり、同じD3の悩みを語らったりと、 とても楽しい夜を過ごしました。

(この印象記は、日本比較生理生化学会発行の雑誌「比較生理生化学」vol.14, No.4
(1997)に掲載(予定)のものを、一部著者による変更のうえ、日本比較生理生化学会
の転載許可のもと、掲載させていただきました。)



第6回 CSHL Meeting (Neurobiology of Drosophila) 印象記

             九州大学大学院理学研究科生物学専攻 広実 朋子

 第6回 Cold Spring Harbor Laboratory Meeting (Neurobiology of Drosophila)が、 9月24日から28日まで、アメリカ・ニューヨーク州・ロングアイランドの北部の海 岸沿いにあるCold Spring Harbor Laboratory (CSHL)で行われました。マンハッタン から、ロングアイランド鉄道で約1時間のところにあるCSHLは、入江の海岸に沿って 約30の建物がたち並ぶ自然にかこまれた静かなところです。それぞれの建物は、一見 Labとは思えない別荘のような外観で、窓から見える実験机がむしろ不釣り合いに思 えました。1年おきに開催される本会議への参加者は前回よりまた増え今回は318人で 、そのうち日本人は23人(日本からの参加者は16人)でした。ヨーロッパからの参加 者は、イギリス14人、ドイツ11人、フランス5人でした。また、若い人も多く、院生 は61人もいました。演題は口頭発表が約60題、ポスター発表が約200題で、朝9時から 夜11時頃まで発表、活発な討議が行われました。想像していたより女性の数が多く、 ずいぶん勇気づけられました。この夏に福岡で開催された日本ショウジョウバエ研究 会では女性の発表者は16人中2人でしたが、CSHでは、口頭発表の4分の1強が女性でし た。口頭発表をした日本人は4名でした。

 口頭発表は、neuronal-glial specification、cell-cell signaling、axon guidance、synapse formation and function、neurotransmitters・receptors・ ion channels、sensory systems、behaviorの7つのセッションが行われました。 各分野とも確実に進んではいるけれども、これはといったホットなトピックスはな かったように感じました。私自身の興味からodorant binding protein、in vivo イメージング、サーカディアンリズム、mechanosensoryトランスダクション についての発表を紹介します。odorant binding proteinは、嗅覚受容において 感覚上皮粘液中で疎水性の分子を可溶化させるためのcarrierとしての役割をはた すと考えられています。D. P. Smith (Univ. Texas)らは、アンテナで発現して いるエンハンサートラップ系統から、P因子のexcisionによってodorant binding proteinを欠くmutantを単離しました。このmutantの匂い物質に対する 応答を調べたところ、高濃度のエタノールに逆に誘引されることがわかりました。 このodorant binding proteinのプロモーターに蛾のpheromone binding proteinをつないで発現させると、このハエは低濃度でpheromoneを忌避するよ うになりました。この結果はodorant binding proteinが匂いに対する特異性を 決めていることを示唆するものとして興味がもたれました。イメージングについては 、A. Chiba (Univ. Illinois)らが membrane-targeted GFPを用いて、胚におけるニ ューロンの発生をin vivoで観察した結果を発表しました。また、N. J. D. Wright ( CSHL)らは、脳の特異的な領域でGFPを発現しているトランスジェニックハエを用いて 、キノコ体での嗅覚応答のカルシウムイメージングを観察する方法を報告していまし た。R. Stanewsky (Brandeis Univ.)らはper-luciferase fusion-geneを用いて、per RNAの変動のリズムをbioluminescence counterで測定する方法を利用してmutantのス クリーニングを行っていました。今後、これらのイメージングを用いた研究はさらに 発展するのではないかと思います。リズムについては、M. Kaneko (Brandeis Univ.) らが幼虫でのperの発現を組織レベルで調べ、幼虫の神経系でもperの発現が振動して いることを示しました。Y. Cheng (Univ. Houston)らは、複眼でper mRNAの振動なし にPERタンパクが振動することから、per mRNAの振動が、活動リズムに必要とされな いという報告をしました。今回のElkins Awardは、H. Zeng (Brandeis Univ.) のtim /perの仕事に対して与えられました。mechano-transductionについては、今までC. eleganceでdegenerinがクローニングされており、これがepithelial sodium channel とホモロジーがあることからこのイオンチャネルがmechanosensitive ion channelで はないかと思われていました。今回、W. A. Johnson (Univ. Iowa )らによって、シ ョウジョウバエの機械感覚子のニューロンで発現している2種類のdegenerinが同定さ れました。同定されたdegenerinはイオンチャネルのサブユニットとして機能し、mec hano-transductionのプロセスに関わっていることが報告されました。mechanoに関連 したものではこの他に、D. F. Eberl (SUNY at Stony Brook)らが、ラブソングの応 答異常からスクリーニングしたmutant、beethoven (btv)の電気生理学的解析を行っ ていました。

 私は「ショウジョウバエの味覚受容細胞特異的遺伝子のスクリーニングと同定」と いうポスターを出しました。機械感覚子の減少したcut突然変異体で発現している遺 伝子から化学感覚子の欠失したpoxn突然変異体で発現している遺伝子を差し引くサブ トラクション法とdifferential screeningを用いて化学感覚細胞特異的な遺伝子を単 離する方法についての発表です。事前に英語でポスターを説明する練習をしてのぞみ ました。サブトラクション法について興味をもっている人や、これからサブトラクシ ョンを用いた研究をしたい人からの質問が多く、細かな実験方法やどのくらい有効か などといった、かなり具体的な事を聞かれました。緊張の連続の発表が終わってから の Wine and Cheese Partyのワインの味は格別でした。

 口頭発表やポスター発表で情報を得るのも収穫といえますが、それ以上にいろいろ な人々と生活をともにしたことも良い体験でした。宿泊場所は、事務局によってCSHL 内の宿泊施設と近くのホテルに割り当てられており、食事は食堂で各自自由にとれる ようになっていました。私は、バスで15分程のところにあるホリデイ・インに滞在し 、黄色いスクールバスで毎日通いました。私のルームメイトはMITのSuman Reddyとい うインド系の人でしたが、彼女の紹介により彼女の知り合いやLabの人と食事をした り、雑談をすることができました。食事は自分で好きなものを選べるのですが、量が 多く味もいまいちでしたが、いろんな人と話をしながらの食事は英語力がないながら も楽しく、とても勉強になりました。

 今回、初めて国際会議に参加しましたが、刺激と情報がたくさんあってとても興奮 する毎日でした。英語の未熟さを痛感し、あまり理解できなかったというのが本当の ところですが、セッションの間の休憩や朝、昼、夜の食事の時間に個人的に多くの人 と話をする機会をもつことができたのはとても有意義でした。院生でありながら、こ のような貴重な経験をすることができてとてもうれしく思います。より多くの若い院 生の方々が参加されるとよいのではないかと思います。


第3期決算と今期の運営費について


 第3回研究集会の総会で報告、ご承認をいただいた第3期決算を掲載します。
第2回研究集会(京都)から第3回研究集会(福岡)までの期間のものです。さて、
今期は繰越金の 367,019円と福岡の研究集会準備金の返済 151,293円の合計 518,312
円からスタートしました。できるだけ運営費の徴収をしないで、ショウジョウバエ通
信の発行経費と次の研究集会の準備経費を賄っていきたいと考えております。


事務局

日本ショウジョウバエ研究会 第3期(1995 - 1997)収支決算

収入
  研究集会(JDRC2,京都)準備金の残額259,780
  CD-ROM(EofD2)共同購入代金(2,500円 X 41枚)102,500
  寄付金3,000
  利息296
===========================================================
  小計365,576
  前期繰越金329,429
===========================================================
  合計695,005
支出
  CD-ROM(EofD2)共同購入経費99,462
  原稿謝礼3,000
  ショウジョウバエ通信発送費(No.7-12)65,740
  文具代(封筒、ラベルなど)9,574
  研究集会(JDRC3,福岡)準備金(会場予約費)150,000
  振込み手数料210
===========================================================
  小計327,986
  次期繰越金367,019
===========================================================
  合計695,005


会則について


 第3回ショウジョウバエ研究集会の総会(1997年8月21日)において、前世話
役より「ショウジョウバエ研究会」会則案が提出され、協議の上、以下のような会則が
承認されました。

「日本ショウジョウバエ研究会」会則

1. 本会を「日本ショウジョウバエ研究会」(JDRC: Japanese Drosophila Research
 Conference)と称する。
2. 本会はショウジョウバエを利用した研究を行う人およびショウジョウバエ研究に
 興味を持つ人を広く結集し、相互の情報交換と研究討議を行う場を提供する。
3. 上記の趣旨に賛同する者は誰でも会員になれる。
4. 本会には代表1人を含め世話役4人を置く。
5. 代表は本会運営の責任者であり、また研究集会の計画・実行に責任を持つ。代表
 は研究集会が開かれるごとに交代する。
6. 代表以外の世話役のうち、1人は「ショウジョウバエ通信」の編集を担当し、全
 員に必要な情報を伝達する。
7. 他の1人が事務局を分担し、名簿の管理、通信の発送、金銭の出納を行う。
8. 世話役は会員全体のために、緊密に連絡し広い視野で活動する。
9. 世話役は2人ずつ2年毎に交代し連続4年勤める。4年を越えるのは認めない。世
 話役を辞めたのち4年間は再び世話役になることができない。
10. 新しい世話役は地域、研究分野等のバランスを考慮して現世話役が決定する。会
 員は世話役に候補者を推薦することができる。
11. 世話役の交代は研究集会時に行い、出席者の承認を得る。
12. 新しい世話役に不満がある者は代わりの候補を立てて選挙を要求できる。
13. 会の運営費が不足してきた時には、これを徴収することがある。この場合、研究
 室を主管する立場にある者が多くを負担するものとする。
14.この規定に無かったり、詳しく決めてない事態が発生した場合の処理は世話役に
 一任する。

補足
1. 入会するには事務局へ申込む。研究会名簿に登録され「ショウジョウバエ通信」
 を受け取ることができる。同時にJfly mailing listにも参加されるようお勧めし
 ます。
2. Jfly は伊藤啓氏のボランティアによって運営されています。ショウジョウバエ研
 究会の活動ではありませんが、良好な協力関係のもとに、情報伝達等に利用させても
 らっています。
3. 何らかの事情で任期中に世話役の交代が必要になる場合の手続きは14 項を適用し
 て対処する。
 (以上)


日本ショウジョウバエ研究会(世話役)

西田 育巧(代表):〒464-01 名古屋市千種区不老町
 名古屋大学 理学部 生物学科 動物学第2講座 
Tel: 052-789-2472 Fax: 052-789-2511
 E-mail: nishida@bio.nagoya-u.ac.jp
林 茂生:〒411 三島市谷田1-111 国立遺伝学研究所 
 遺伝実験生物保存研究センター 無脊椎動物研究室 
Tel: 0559-81-6823 Fax: 0559-81-6824
 E-mail: shayashi@lab.nig.ac.jp
丸尾 文昭(事務局): 〒305 つくば市天王台1-1-1 筑波大学生物科学系 
Tel: 0298-53-4909 FAX: 0298-53-6669 
E-mail: maru@biol.tsukuba.ac.jp
木村 賢一(通信):〒068 岩見沢市緑が丘2丁目 
 北海道教育大学岩見沢校 生物研究室 
Tel: 0126-22-1470 内線341 Fax: 0126-23-2556 
E-mail: kimura@iwa.hokkyodai.ac.jp
ホームページ:http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~maru/JDRC/
Jfly:伊藤 啓 〒194 町田市南大谷11号 三菱化学生命科学研究所内 
 科学技術振興 事業団山元行動進化プロジェクト 
Tel: 0427-21-2334 FAX: 0427-21-2850 
E-mail: itokei@fly.erato.jst.go.jp
Jfly サーバー: http://flybrain.jst.go.jp/jfly/index_j.html 
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編集後記:この号より編集を担当させていただくことになりました。原稿依頼など、
様々なことで皆様方にご協力お願いすることもあろうかと思います。どうぞよろしく
お願い申し上げます。最上さん、長い間編集どうもご苦労さまでした。(KK)
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(ショウジョウバエ通信 13 号終)