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Drosophila Newsletter (Japanese) No. 19
The Newsletter of the Japanese Drosophila Research Conference (in Japanese)
Apr 2001

ショウジョウバエ通信 No.19 2001年 4月

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PDF 版 (595kb) はこちら



ごあいさつ      林 茂生
第5回研究集会のご案内(第一報)
ショウジョウバエ遺伝資源センターの本格的稼動 山本 雅敏
「はじめてのショウジョウバエ−憎しみが愛に変わるまで−」 安佛 尚志
42nd Annual Drosophila Research Conference報告
「ポストシークエンス時代のハエ研究」 上田 龍
「ポストゲノムプロジェクトのアメリカflyミーティング」 津田 玲生
「42nd Annual Drosophila Research Conference 体験記」 金井 誠
お知らせ
会則について

代  表:林 茂生 (任期2年)
次期代表:西郷 薫 (任期4年)
事務局 :村田 武英(任期4年)
通  信:猪股 伸幸(任期2年)
J-Fly  :伊藤 啓

ごあいさつ

林 茂生
国立遺伝学研究所

 春を迎えて新メンバーが加わりお忙しい研究室も多いことと思います。年度末を控えた三月、今号の報告にありますアメリカでのDrosophila Meetingに私も行ってきました。時差ボケに耐えつつも発表のあまりのおもしろさに連日深夜まで過ごす5日間でした。感想を一言でいえばこのミーティングがショウジョウバエを発信源とした、より広いバイオロジーの発信源にかわりつつあることです。ショウジョウバエが遺伝学の使えるモデル生物の王者であった時代は世紀の変わり目と共に終り、新しい生物学を開拓するために何が必要かを意識した攻めの姿勢が新たに求められていることを感じました。同時に古くて未解決の問題に現代的な回答を与えるチャンスが到来していることも事実です。こういった転機に際して今年のショウジョウバエ研究会を三島で開催できることは重要だと思います。プログラム編成を進めていますがこれからも皆様からのご意見を取り入れてより有意義なものにしていきたいと思います。事務局(JDRC2001@lab.nig.ac.jp)までご連絡をお願いいたします。

 今回は東レのご厚意で研修所(とっても豪華!)をお借りして泊まり込み形式にて行うことにいたしました。また特別企画としてショウジョウバエ研究会特製のハエTシャツの販売も予定しております。皆様ふるってのご参加をお待ちしています。


第5回研究集会のご案内(第一報)


ショウジョウバエ研究会・第5回研究集会「ショウジョウバエ2001」が、下記の要領で開催予定です。みなさま奮ってご参加ください。

とき  2001年 8 月 8 日午後〜10日午後(2 泊 3 日)
ところ 東レ総合研修センター(静岡県・JR三島駅より徒歩約 12 分)
     参加申し込み 〆切   6 月 8 日
     アブストラクト〆切   6 月 22 日

プログラムの一部(シンポジウム)をお知らせします。

1 「Genome Scan」(仮題)
コーディネーター:高野敏行
スピーカー:Greg Gibson (NC State University)、相垣敏郎(東京都立大学)、権藤洋一(理化学研究所)、林茂生(遺伝研)、高野敏行(遺伝研)、他演者交渉中。

2 「生理学再び」(仮題)
コーディネーター:岡部正隆
スピーカー:木村賢一(北海道教育大)他演者交渉中。

参加および発表の申し込み方法等の詳細は、
ホームページ:http://www.nig.ac.jp/labs/InvGen/JDRC2001/JDRChome.html
に掲載予定です。
また、jflyでのアナウンスも随時行う予定です。
jfly メーリングリストと WWW サーバー:http://jfly.nibb.ac.jp/index_j.html
も御覧ください。
なお、今回の研究集会では研究会記念Tシャツの販売を計画をしています。愛くるしいデザインのショウジョウバエをあしらったTシャツを着てあなたも集会に参加しませんか。図柄は、ホームページを御覧ください。

研究会に関する御意見、お問い合わせは、
ショウジョウバエ研究会2001事務局
JDRC2001@lab.nig.ac.jp
までお願いします。


ショウジョウバエ遺伝資源センターの本格的稼動


京都工芸繊維大学
ショウジョウバエ遺伝資源センター
 山 本 雅 敏 

 生命科学研究の分野において、遺伝子を基盤とした生命機能の解析研究が急速に発展しています。線虫やショウジョウバエの遺伝子配列の解読に続き多くの生物のゲノム解析研究が急速に展開されています。ヒトのゲノム解析もほぼ完了し、生物種間の塩基配列の比較研究でかなりの部分の生命機構が明らかにされるのではないかと期待されています。

 ショウジョウバエは生物遺伝資源の中でも最も遺伝学的研究が進んでおり、広範な生命科学分野の研究には不可欠であり、研究を行うためのモデル生物として、その重要性が認められてきました。さらに、最近のゲノム解析研究の成果にともない、これまで以上にショウジョウバエ遺伝資源の重要性が高まってくることは確実です。研究も多様になり、研究対象となる遺伝子数が急激に増加することで、研究者の要請に迅速に対応できるショウジョウバエ系統の維持・管理・分譲など、研究支援体制の拡充が国際的に必要となっていました。これを受け、ショウジョウバエ遺伝資源センターが、我国で始めて平成11年4月京都工芸繊維大学に設置され、平成13年3月ショウジョウバエ遺伝資源センター棟が竣工しました。国際的にもアメリカのインディアナ大学と本校の2ヶ所だけのショウジョウバエ研究機関としてこれから本格的に事業を展開することになります。

 今年の日本ショウジョウバエ研究会で、改めて本センターの事業内容を紹介し、現在の国内における系統維持状況を把握しながら、ショウジョウバエ研究者のセンター利用と系統の提供やモニタリングへの参加など、新しい研究体制の整備を整えてゆく予定です。みなさんすでに御存じのように、スウェーデンのウメオ大学ではショウジョウバエの系統維持が打ち切られることとなりました。ウメオ大学で維持されていた系統の中から重要と思われる系統、この判断は難しいのですが、を本センターでまず維持することを検討し、その後国際的系統維持体制をインディアナ大学の系統センターと協議して行く予定です。

 系統の維持は、系統数が増加すればするほど困難な事業になってきます。分譲依頼に応える体制も確立しなければなりません。本格的稼動を日本ショウジョウバエ研究会開催前に開始するようにして、維持する系統の調査、開発された実験系統の受入れなどについてお話ができるようにしたいと現在準備を整えているところです。

竣工記念式典でのテープカット


「はじめてのショウジョウバエ−憎しみが愛に変わるまで−」

安佛 尚志
産業技術総合研究所・生物遺伝子資源研究部門

 皆様はじめまして。産総研ポスドクの安佛尚志と申します。ショウジョウバエとつきあい始めて1周年記念を迎えたばかりのショウジョウバエ初心者です。このたび「全くの異分野からショウジョウバエの世界に飛び込んできた感想を綴ってほしい」との依頼を受けましたので、この1年間に味わったショウジョウバエに関する悲喜こもごもについて書かせていただきます。

 「異分野から」と申しましたが,私のバックグラウンドは昆虫生態学です。大学院ではカミキリムシの産卵生態を研究していました。そんな私がなぜ,ショウジョウバエを扱うことになったかといいますと、最初のポスドクの時、大腸菌や緑膿菌などが持つ広宿主域の伝達性プラスミドを研究したことが大きく関わっています(そういう意味では異分野への飛び込みは既に経験済みであったわけで、この時に分子生物学・分子遺伝学の基礎を学びました)。そして、プラスミドの研究を通じてこの分野の面白さを知った私は、次は昆虫の世界で分子生物学・分子遺伝学的技術を駆使するような研究に携わりたいと思うようになりました。そんなある日、ショウジョウバエの内部共生微生物を研究するためのポスドクを募集していることを知りました。ショウジョウバエのバックグラウンドがないから不利だろうな、と思いつつも応募した結果、幸いにも採用していただき、ショウジョウバエとのおつきあいが始まりました。それから今日にいたるまで、この小さなパートナーに振り回される、辛くも楽しい日々を過ごしています。

 新しい研究室では、私はショウジョウバエとその内部共生細菌スピロプラズマの研究に取り組むことになりました。この細菌は、感染したメスの残す子孫が全てメスになる(オスの子だけを胚発生初期に殺してしまうため)という非常に面白い細菌です。この「オス殺し」や内部共生の維持に関わる分子機構を解明することを目指して研究を開始しました。最初のうちこそ、カミキリと比べてあまりにも小さな体と素早い動き(飛行)に惑わされ、系統維持にも苦労しましたが、ハエの扱い自体については早く慣れることができました。しかし、ハエに慣れることよりずっと困難だったのが、ショウジョウバエで可能な様々な分子生物学・分子遺伝学的手法を駆使するために必要な膨大な知識の吸収でした。そして、実際にその知識が不足していたためにいくつかの失敗も経験しました。

 ショウジョウバエとの出会いから約1ヶ月が過ぎた頃、交配のシェマも完成し、いよいよP因子挿入突然変異体の作成を開始しました。オス殺しが救済されるような突然変異体を取得するのが狙いです。しかし、何度交配を繰り返してもP因子の転移がうまくいきません。とうとう専門家の先生に助けを求めたところ、原因は簡単にわかりました。私は「P因子を飛ばす時にはハエを28℃で飼う」ということを知らなかったのです。この件は私の勉強不足が主因ではありますが、私のような全くの初心者は正常な現象さえ実際に目で見た経験がないわけですから、失敗の原因に気づかないことも多いと思います。必要な時には、恥ずかしがらずに素直に専門家の意見を求めることの大事さを痛感する出来事でした。

 恥ずかしついでにもう一つ。以前、Jflyメーリングリストで「インジェクション後の幼虫がシャーレの壁で乾燥して死亡する」のを防ぐ方法が求められた時、私は「シャーレを逆さまにする」という意見を返しました。私の場合はインジェクション後の幼虫ではなかったのですが、同じシャーレで飼育した時に同じ現象に遭遇し、その方法で解決した経験があったからです。しかし、その後、専門家から寄せられる回答はどれもインジェクションの方法に関わることばかり。新しいレスがあるたびに自分の回答の異質性がどんどん増してきて、とても恥ずかしい思いをしました。インジェクションは自分にとっても将来的に必要不可欠な技術ですが、方法や器具に関してはJflyに流れるだけでも膨大な情報があり、後込みしてしまうというのが正直なところです。しかし、避けては通れない道ですので、専門家の皆様からの情報を頼りにしながら、マスターしていきたいと考えています。

 ショウジョウバエとつきあい始めてから1年が過ぎ、目的であったオス殺しが救済されるような突然変異体についても、複数の候補を得ることができました(現段階では、まだ確信には至っていません。そう簡単に目的の変異体が取れるものではないと聞いていますので)。うまくいけば、ショウジョウバエで確立されている高度な実験手法を駆使して、原因遺伝子の同定、機能解析を行う予定です。これからの研究の発展を考えると、楽しみでしようがありません。ようやく、ショウジョウバエに対する印象が、「憎いやつら」から「よく言うことを聞く可愛いやつら」に変わりつつある、今日この頃です。まだまだショウジョウバエ研究者としては未熟な私ですが、今後はJDRCのような集まりにも積極的に参加し、専門家の皆様の御意見を拝聴したいと思っています。その時は御指導御鞭撻のほどをどうぞよろしくお願いいたします。


42nd Annual Drosophila Research Conference報告


「ポストシークエンス時代のハエ研究」
上田 龍
三菱化学生命科学研究所・遺伝子機能研究ユニット

 と、タイトルは大袈裟ですが、第42回フライミーティング(ワシントンDC、3/21〜25)に参加した報告を書くようにとの仰せに従って、ごく簡単にその印象を述べさせていただきます。
 このところアメリカのフライミーティングには隔年でしか参加していないので、昨年のゲノムフィーバーがどのような物だったか知る由もありません。今年は“その後”を期待して参加したのですが、或る部分はその期待通り、或る部分は物足りなさを感じました。

 さて、期待通りの部分ですが、これはゲノム配列が全て分かったということを反映した、次のレベルへの展開が始まっているということにあります。大きく二つあります。一つはハエをヒトの疾病モデルとして利用しようという研究の発展であり、二つ目はゲノム情報を利用した、というかそれを基礎にして、遺伝子機能解析を進めるための種々の技術の進歩、というものです。

 皆さんご存じのように、ハエの13,600遺伝子中にはヒトの疾病責任遺伝子のカウンターパートと認められる遺伝子が結構な数、存在します。例えばFortiniらはコンピューターのサーチプログラムを工夫して、疾病責任遺伝子287のうち、178遺伝子(62%)をハエで見つけています(J. Cell Biol., 150, F23-F29, 2000)。癌や神経疾患関連遺伝子が多いのですが、循環器系、免疫系、代謝系の疾患に関連する遺伝子のホモログもあります。ハンチントン氏病やspinal cerebellar ataxia type 2などでは患者において蛋白質のポリグルタミンドメインが長くなるため、シャペロンやプロテオソーム構成因子と大きな複合体を形成し、中枢神経の細胞死がおこります。ハエのtransgenicでも同様の神経細胞死が観察され、シャペロンを強制発現するとそれが抑圧されるとか、その変異体を利用し、エンハンサー/サプレッサー・ハンティングをして相互作用する候補遺伝子を幾つか同定している、という調子の発表が多くありました。パーキンソン氏病、アルツハイマー病、脆弱X症候群などの責任遺伝子の遺伝学的な解析も見られました。私自身不勉強で意外であったのは、免疫系の領域で多くの発表があったことです。ハエには細胞性免疫しかないのかと思っていたのですが、体内に侵入したカビやグラム陽性、あるいはグラム陰性菌それぞれに対して複数のバクテリオシンが脂肪体で特異的に発現誘導されるシグナル伝達系があり、その経路のカセットがヒトの免疫系においても保存されているのだそうです。ただ残念なのは、これらの発表は過度の競争に晒されているからでしょうか、肝心の遺伝学的な相互作用解析の結果は伏せられていることが多かったのでした。

 技術的な進歩という点では、マイクロアレイを用いた遺伝子発現解析や、新たな変異作出法が目を引きました。国内ではハエを用いた研究で、アレイを利用したという発表は未だなされていないように思います(不勉強?)。私個人はまだアレイは感度が悪くて、大量の材料を必要とするから、組織が小さいハエの解析には向いていないのではないか、また得られるデータの振れが大きく信頼性に欠けるのではないか、と漠然と考えていました。ところがAffymetrixとIncyteの両企業が共にハエのマイクロアレイに乗り出したのですが、その発表を聞いたとき、正直、目から鱗の感がありました。前者の発表では、明暗リズムをつけたハエの頭部を材料にし、4時間おきのサンプリングをして、13600全遺伝子のアレイ(オリゴ)解析をやると、perとかtimとかサイクリングすることがわかっている遺伝子の発現が見事に再現されていました。新規遺伝子が検出されたかどうかは知りませんが、データはお見事!というものでした。信頼性を得るために最低4回のハイブリをおこない、偏差を取りましょうね、という忠告もありましたが、でもそれってお金もかかるよなぁ。血球の細胞を材料にしたものもあり、確かに均一な材料を使うということではアレイ解析に適したシステムであると思います。変異体、あるいは菌が侵入した個体からのサンプルで、免疫に関連する遺伝子の枚挙が進んでいます。

 このような、特定の生命現象に関与する候補遺伝子の枚挙は、それをターゲットする変異作出法と組み合わさると無敵の強さを発揮するわけですが、ハエでも配列特異的な変異作出法が2種類、利用できるようになっています。homologous recombinationとRNAiです。どちらもreverse geneticsには無くてはならない方法ですが、残念ながらこれらは期待していたほどには利用が進んでいないようで、RNAiがハエ以外の昆虫の進化遺伝学的な解析に利用され成功していたのが印象に残ったぐらいです。逆にある意味で今がチャンスなのかも知れません。トランスポゾンを利用し、染色体欠失変異を誘導する方法で面白かったのはGelbertのHoboを利用するものです。Hoboの両側にwとyのマーカーをおき、Pベクターで染色体に挿入しておいて、transposaseを供給すると染色体の挿入点からの欠失を誘導することが出来ます。欠失がどちら側かはマーカーの有無で判断できますし、ゲノムの配列からプライマーを設定することができるので欠失の範囲をゲノム上で特定する事も出来ます。数百kb離れた2つの挿入点から互いの方向に向かった欠失を多数作成し、適当な2つの欠失染色体をヘテロ接合に組み合わせることによってその2点間に存在する転写ユニット(例では6個だったか?)の任意の1個だけを完全に欠失した個体を作り出すことができるというわけです。どれぐらいの手間で元の欠失のセットを作れるのかわかりませんが、システマティックにそれぞれの遺伝子欠失を作成することができるということは確かです。

 昨年はハエ、今年はシロイヌナズナとヒト。マウスのゲノム配列もセレラは既に持っていると聞きますし、最近ほど遺伝学が面白くなった時はないと思います。全ての遺伝子がいろいろな意味で網羅的に見れる、網羅的に解析できるこの時に、あなたは何をしますか?どのような手法が使えるのでしょう?期待はずれというか、残念だったのは、今回のフライミーティングで見かけた我が国のヒトが例年と同じ顔ぶれ、しかも数が減ってるんじゃないのかな、という印象を受けたことです。もちろん飛行機代は安くなったとはいえ会場のホテル費用は結構するし、学生さんが気軽に参加できる金額ではないことは確かです。それでも、もっと沢山の人たちが居ても良いんじゃないのかな、と気にかかりました。この研究会の次の代表は西郷さんのはずですが、テーマは「研究会はこれで良いのか」ということになるとか。同様に(西郷さん、ごめんなさい)そろそろ先の見えてきた私の杞憂であれば良いのですが。


「ポストゲノムプロジェクトのアメリカflyミーティング」

津田 玲生
理化学研究所・発生再生総合研究センター

 今年のアメリカflyミーティングは3月21日から25日までワシントンDCで開かれました。私自身このミーティングへの参加は今回で4回目となりますが何を隠そう日本から参加するのは初めてでした。いろいろな人から日本からアメリカの学会に参加したときの感想として時差ボケが厳しく、やっと終り頃になって体が慣れてくるという、学会がいわば”修行”の場の様なものだとは聞かされていたのですが、私自身も時差ぼけに悩まされました。時差ぼけが解消されてくるのと反比例して疲労とビールの酔で体がボロボロになってきた頃にミーティングが終了するという状態でした。経験から時差ボケの対応策としては、なるべく早く寝て(ポスターセッションが11時までなので難しいが)、朝早く(5ー6時ごろ)起きることをお勧めします。

 ところで今回のミーティングの内容ですが、演題が1000を越えていて、とても全てをここで網羅しきれないので興味のある方は、アブストラクト参照あるいは行った人から直接聞いてください。2、3トピックを揚げるとすればジーンターゲッティングと、ヒト遺伝子疾患モデル系の解析が揚げられます。ジーンターゲッティングはKent Golicらがすでに昨年のミーティングで発表していましたが、彼等は最初の方法をさらに改良して、実際にpug, p53, Sir2などの遺伝子を共同研究で破壊していることを述べていました。詳しい方法は彼等の最近の論文(Genetics 157, p1307)を参照していただきたいのですが、次回のミーティングではターゲティングを用いた発表が激増することを予感しました。ヒト遺伝子疾患のモデル系といえば以前は疾患原因因子のハエホモログの解析あるいは原因因子自身をハエに導入して異常があった、無かったでお茶を濁していたのが、最近はマイクロアレイなどを応用して、細胞レベルで体系立ててそのメカニズムを解明しようとする研究が増えてきたような気がします。マイクロアレイそのものに関しては、どれくらいのRNAをどのように調整するかなど条件はほぼ確立してきており、これからは出てきたデータを使って次にどうするかに重点が移行してきたような気がしました。

 ショウジョウバエに続いてヒトゲノムプロジェクトが完了した現在、ショウジョウバエとヒトの間の垣根は益々低くなってきていると思います。地球上に60億以上ものヒトが様々な環境下で住んでいて、多くのヒトがそのゲノムに傷を持っており、それが遺伝子疾患という形で現れてきています。その疾患の原因遺伝子は(膨大な研究費が投入されていることもあり)日新月歩で明らかにされてきているという現状です。私の知人の持論では、それはまさに(少し不謹慎ではあるが)60億ものヒト遺伝子疾患の変異スクリーニングを絶えず行なっていることと同様だと考えられるということです。ゲノムという共通言語の下に、ハエのこれまでの研究の蓄積と哺乳動物の研究から出てくる怒涛のデータを細胞レベルで捉え、未知の細胞機能を探っていこうとする方向は今後大きな潮流になって行くのではないかという予感がしました。

 最後に気がついたこととして今年は日本から学生の参加者が例年に比べ少なかったような気がしました。現在は以前に比べて希望すれば学生時代からこのような学会に参加できることが可能であるケースが多いと思うのですが、若いうちからこのような学会に参加して、いろいろな人とのディスカッション等で刺激を得るというのも、日本に居て実験をしたり論文を読むのと同様にあるいはそれ以上に大切であるような気がします。このflyミーティングはそういう意味で思いきって参加する価値ある学会だと思います。


「42nd Annual Drosophila Research Conference 体験記」

金井 誠
国立遺伝学研究所・発生遺伝研究部門

 「えっマジ?この人たちみんな、ハエやってんの?」なんともとぼけた一言ではあるが、これがたくさんの人々でうめ尽くされたセッション会場で受けた、僕のこの学会に対する第一印象である。それはKent Golic のgene targeting に対する発表であったが、会場内に空席はなく、しかも空いているスペースには座ることができないでいる人々が床に直接座り発表を聞いていた。「どおりでみんな朝、早く起きて準備してたっけ。」と時差ボケでなのか何なのかわからないが相当のんきに学会の初日を迎えた。

 今回の42nd Annual Drosophila Research Conference はWashington,D.C.のMarriott Wardman Park Hotel を会場に3月21日から25日にかけて行われた。発表演題はcell division and cytoskeleton, chromosome structure and function, evolution, gene regulation, immune system and apoptosis, neural development,neural physiology and behavior, organogenesis, pattern formation, reproduction, signal transduction, techniques and genomics のそれぞれのsessionに別れ、各sessionの口頭発表、ポスター発表、それにworkshopなどを合わせ、1000近くの演題が発表された。日程はかなりタイトで午前、午後に各sessoionの口頭発表が行われ、ポスターの発表者とのdiscussionは夜8時から11時の間に行われた。ちなみに、今回の参加者は約1600人、そのうち約1 / 3が学生で、海外からの参加者は350人だったそうである。

 これは、どの会場でも感じられたことだが、『みんな、かなりアツイ』のである。DNA Microarrayのsessionは夜中の12時過ぎまで行われていたそうである。これは決してみんな時差ボケで眠れなかったからではないだろう(当たり前だ!)。会場を共有している人々が同じ目的に向かっているからこそ出せる雰囲気なのだろう。のんきに朝を迎えていた僕も期間が終わる頃には知らずに席とりに励んでいたのは、その熱気をすこしでも自分自身で感じられるようになったからだろう。 ただ今回はこの雰囲気のはしっこにいて、そのさわりを感じたに過ぎないと思う。次回は、その真ん中で、その雰囲気を感じられるようにしなくてはと感じた。

 この体験記では発表演題の内容については他の方々に譲ることにし、僕自身の感想を書かせていただいた。ただ、「百聞は一見にしかず」である。是非皆様も参加してみてほしい。

 最後に学会出席の機会を与えていただいた広海健先生、この原稿執筆の機会を与えていただいた林茂生先生、ホテルの部屋をshareさせていただいた上田均先生、小林正友さん(Thomas Jefferson University)、Bethesda周辺を案内していただいた相田紀子さん(NIH)、そして期間中お世話になった皆様にこの場をお借りして御礼申し上げます。


お知らせ


「日本ショウジョウバエ研究会」名簿はホームページ (http://wwwsoc.nacsis.ac.jp/jdrc/)で原則として登録していただいた内容全てを公開していますが、連絡先(住所、電話番号、E-mailアドレス)が個人のものになっている方はその項目を非公開としたいと思います。該当される方は、事務局・村田までご連絡下さい。

「日本ショウジョウバエ研究会」会則

1. 本会を「日本ショウジョウバエ研究会」(JDRC: Japanese Drosophila Research Conference)と称する。
2. 本会はショウジョウバエを利用した研究を行う人およびショウジョウバエ研究に興味を持つ人を広く結集し、相互の情報交換と研究討議を行う場を提供する。
3. 上記の趣旨に賛同する者は誰でも会員になれる。
4. 本会には代表1人を含め世話役4人を置く。
5. 代表は本会運営の責任者であり、また研究集会の計画・実行に責任を持つ。代表は研究集会が開かれるごとに交代する。
6. 代表以外の世話役のうち、1人は「ショウジョウバエ通信」の編集を担当し、全員に必要な情報を伝達する。
7. 他の1人が事務局を分担し、名簿の管理、通信の発送、金銭の出納を行う。
8. 世話役は会員全体のために、緊密に連絡し広い視野で活動する。
9. 世話役は2人ずつ2年毎に交代し連続4年勤める。4年を越えるのは認めない。世話役を辞めたのち4年間は再び世話役になることができない。
10. 新しい世話役は地域、研究分野等のバランスを考慮して現世話役が決定する。会員は世話役に候補者を推薦することができる。
11. 世話役の交代は研究集会時に行い、出席者の承認を得る。
12. 新しい世話役に不満がある者は代わりの候補を立てて選挙を要求できる。
13. 会の運営費が不足してきた時には、これを徴収することがある。この場合、研究室を主管する立場にある者が多くを負担するものとする。
14.この規定に無かったり、詳しく決めてない事態が発生した場合の処理は世話役に一任する。

補則
1. 入会するには事務局へ申込む。研究会名簿に登録され「ショウジョウバエ通信」を受け取ることができる。同時にJfly mailing listにも参加されるようお勧めします。
2. Jfly は伊藤啓氏のボランティアによって運営されています。ショウジョウバエ研究会の活動ではありませんが、良好な協力関係のもとに、情報伝達等に利用させてもらっています。
3. 何らかの事情で任期中に世話役の交代が必要になる場合の手続きは14 項を適用して対処する。
(以上)


日本ショウジョウバエ研究会(世話役)
ホームページ:http://wwwsoc.nacsis.ac.jp/jdrc/
林 茂生(代表):〒411-8540 三島市谷田1111 国立遺伝学研究所 系統生物研究センター 無脊椎動物遺伝研究室 Tel: 0559-81-6823 Fax: 0559-81-6825 
E-mail: shayashi@lab.nig.ac.jp
西郷 薫(次期代表):〒113-0033 東京都 文京区本郷7-3-1 東京大学 大学院 理学系研究科 生物化学専攻 西郷研究室 Tel: 03-5689-5606 Fax: 03-5684-2394 
E-mail: saigo@biochem.s.u-tokyo.ac.jp
村田 武英(事務局): 〒305-0074 茨城県つくば市高野台3-1-1 理化学研究所 バイオリソースセンター Tel: 0298-36-3612 Fax: 0298-36-9120 E-mail: tmurata@rtc.riken.go.jp
猪股 伸幸(通信):〒812-8581 福岡市東区箱崎6-10-1 九州大学 大学院理学研究科 生物科学専攻 分子集団遺伝学講座 Tel: 092-642-4344 Fax: 092-642-2645 
E-mail:ninomscb@mbox.nc.kyushu-u.ac.jp
Jfly:伊藤 啓 〒444-8585 愛知県 岡崎市明大寺町 字西郷中 38番地 岡崎国立共同研究機構 基礎生物学研究所 細胞増殖部門 Tel: 0564-55-7532 Fax: 0564-55-7533 
E-mail: iitokei@nibb.ac.jp
Jfly サーバー:  http://jfly.nibb.ac.jp/index_j.html