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Drosophila Newsletter (Japanese) No. 19
The Newsletter of the Japanese Drosophila Research Conference (in Japanese)
Apr 2001


ショウジョウバエ通信 No.20 2001年10月

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ごあいさつ      西郷 薫
第5回研究集会を終えて      林 茂生
第5期決算と事務局の交代にあたって    村田 武英
第1回森脇大五郎賞について
森脇大五郎賞 大賞受賞者の声
「学生時代を振り返って」   水野 智亮
第5回ショウジョウバエ研究集会報告
「第5回ショウジョウバエ研究集会に参加して」  影山 裕二
「JDRC5感想記」             島田 裕子
「第5回ショウジョウバエ研究集会感想記」   福井 智一
お知らせ
会則について
代  表:西郷 薫(任期2年)
次期代表:上村 匡(任期4年)
事務局 :松尾 隆嗣(任期4年)
通  信:猪股 伸幸(任期4年)
J-Fly  :伊藤 啓



ごあいさつ
西郷 薫
東京大学 大学院 理学系研究科

 この度、林さんの後任として、次回大会までの2年間、ショウジョウバエ研究会の世話人代表をつとめることになりました東京大学の西郷です。宜しくお願いいたします。先日の三島での研究会でも申し上げましたが、次回大会は、場所はまだ未定ですが、2003年の8月に、東京大学の多羽田さん、能瀬さん、小嶋さん、都立大学の相垣さん、お茶の水女子大学の松浦さん、三菱化学生命科学研究所の上田さんの6人との共同責任ということで運営されることになります。単なる責任回避と非難されるかもしれませんが、ショウジョウバエ研究の今後のあり方に関しての多様な意見を反映させたいとの気持ちの表れであるとご理解下さい。世話人代表を引き受けながら、このようなことを述べるにはけしからんことかもしれませんが、私個人としては、もう随分前からショウジョウバエ研究が大きな曲がり角にあると感じており、さてどうしたものかと悩んでおりました。また、実際、ここ2年くらいは研究室内分派活動と称して、従来のショウジョウバエ"命"という立場から少し離れ、ショウジョウバエをone of themとしてとらえる立場からの研究も始めつつあります。そんなわけで、素晴らしいショウジョウバエ研究をされている皆様の熱意をそぐことなしに、私の考えも少しは出したいという立場からの折衷案として、上の様な形式になりました。次回大会のあり方に関して様々な御意見や御提案があるかと思いますが、そのような場合は、上記6名のいずれの方でも結構ですし、勿論、私でもかまいませんが、お気軽に御意見をお寄せ下さい。



第5回研究集会を終えて
林 茂生
国立遺伝学研究所 系統生物研究センター

 第五回ショウジョウバエ研究会を無事に終えることが出来てほっとしています。今回の会を主催するにあたっては研究者コミュニティーの親睦と意見交換をはかる場を提供すること、これにくわえて組織として大きくなりすぎないことに気を配りました。後者についてはすでに忙しすぎる多くの研究者の方々が会の参加・運営に費やす負担を最小にすべきと考えたからです。幸いにしてすばらしい会場を東レ研修センターにお借りすることが出来、遺伝研の皆様方のご協力でスムースに運営を行えたと思います。今回の特別企画のひとつ、若手研究者奨励のための「森脇大五郎賞」は審査委員長の広海さんのユーモアあふれるプレゼンテーションで懇親会を盛り上げることが出来ました。研究会のあとご遺族代表として森脇和郎先生から今後もこの賞を継続して行くことのご許可とご寄付までいただきました。次回も趣向を凝らした発表を楽しみにしたいと思います。また平本さんがオーガナイズされたインフォーマルセッションは活きのいいプレゼンテーションでホットな話を聞くことが出来ました。自薦の方、突然の指名にお答えいただいた方々に感謝いたします。ショウジョウバエはほかの生物材料に比べても情報と材料のオープンな交換の原則が浸透しており、分野全体の活力の源になっています。研究会での交流を経てこの精神が新しい世代に引き継がれ、ショウジョウバエを越えたより広いバイオロジーの源流となることを願っています。最後に研究会の運営に多大な努力を払っていただいた遺伝研ハエグループと無脊椎動物遺伝研究室の皆様に深く感謝いたします。また二年後にお会いしましょう。



第5期決算と事務局の交代にあたって
村田武英(前事務局)
理化学研究所 バイオリソースセンター

1.新事務局(名簿変更情報、各種問合わせはこちらに)
松尾 隆嗣 まつお たかし
E-mail: mts@comp.metro-u.ac.jp
所属:東京都立大学 理学研究科 細胞遺伝学研究室
所在地:〒192-0397 東京都 八王子市南大沢1-1
phone: 0426-77-2575; fax: 0426-77-2559

2.収支決算報告
 第5回研究集会の総会で報告、ご承認をいただいた第5期決算を掲載します。第4回研究集会(名古屋)から第5回研究集会(三島)までの期間のものです。
日本ショウジョウバエ研究会 第5期(1999 - 2001)収支決算
収入
 研究集会(JDRC4,名古屋)準備金の清算* 362,187円
 受取利子 917円
=====================================================
 小計 363,104円
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 前期繰越金 429,545円
=====================================================
 合計 792,649円

*研究集会(JDRC4,名古屋)年会運営費、懇親会費及び受取利子残高363,027円のうち振込手数料840円を差し引いた額。

支出
 ショウジョウバエ通信発送費(No.18-19)* 14,470円
 研究集会(JDRC5, 三島)準備金 250,000円
 振り込み手数料 735円
 通信費(公印郵送、研究会名簿郵送) 6,560円
=====================================================
 小計 271,765円
-----------------------------------------------------
 次期繰越金 520,884円
=====================================================
 合計 792,649円

*ショウジョウバエ通信発送費
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第18号 国内発送 69通 @90円 6,210円
海外発送 12通 @190円 2,280円
計 81通 8,490円
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第19号 国内発送 61通 @80円 4,880円
海外発送 10通 @110円 1,100円
計 71通 5,980円
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3.この2年間のこと

 2年前に事務局を名古屋大学西田育巧さん(第4期代表)から依頼された時、少々不安がありました。私の研究室ではハエ屋は1グループ1名しかなく、たった一人で200を超える研究グループの事務ができるのだろうかと。しかしながら、世話役の皆さんとの円滑な連絡網があったため、支障なく運営ができたと思います。

 事務局を筑波大学丸尾文昭さんから引き継いだ時の研究グループ数が182でしたが、いまでは220です(2001年8月6日現在)。研究グループの分割以外に新たに参加を申し込まれた方すべてがメールで申し込んでこられ、しかもwebで公開しているフォーマットで送ってこられたことから、インターネットはもはや常識的な情報収集と通信の手段になったと思います。

 集会でもふれましたが、日本ショウジョウバエ研究会は会費を集めていません。毎回の研究集会の余剰金がこの研究会の資金源となっております。運営費は研究集会開催のための予約金のバッファーとして使われていますが、その他にはショウジョウバエ通信の配布に使われています。前事務局までは、通信を研究室単位で印刷物を郵送するという伝統的なスタイルで配付してきました。しかし、前述のように通信手段としてインターネットが普及したことから、各研究グループに郵送での配信を中止し、ネットでの配信に切り替えてよいかどうかのアンケートをとりました。その結果、約2/3の研究室にネット配信に切り替えて頂くことができました。ご協力に感謝いたします。研究集会で言い漏らしたかもしれませんが、収支決算には通信の編集から印刷までの費用は一切含まれていないことにご注意下さい。通信担当の方が経費を請求することなく作成しております。ネットでは不安を抱える方がまだ居られるかもしれませんが、今後ともご協力をお願いいたします。

 この2年間、事務局の運営を支えてくださった会員の皆様、運営委員・世話人の方々、Jflyの伊藤啓さんに深く感謝いたします。伊藤さんには通信原稿のHTML化もお願いいたしました。また、ショウジョウバエ通信の袋詰めは、うちの連合いが手伝いました。新事務局の松尾隆嗣さんには次期研究集会の開催にも関わって頂くことになっております。どうかよろしくお願いいたします。



第1回森脇大五郎賞について

 第5回研究集会から特別企画のひとつとして若手研究者奨励のための「森脇大五郎賞」が設けられ、懇親会の席で大賞はじめ各賞が以下のように発表されました。受賞者のみなさん、おめでとうございます。次回からも「森脇大五郎賞」は継続されることになりましたが、各賞につきましては選考委員の方々のアイデアで毎回フレキシブルなものになる予定です。

「大賞」
P-33A 背部閉鎖におけるミオシンホスファターゼによる非筋ミオシンIIの制御
水野智亮(名大・理)


「立体ポスター賞」
P-39B ショウジョウバエを用いた低次視覚野と高次領域を結ぶ投射神経経路の網羅的解析
大綱英生(基生研)

「頭すっきり賞」
P-42A ショウジョウバエの概日時計のゲノムワイドな解析
上田泰己(東大・医、山之内製薬(株))

「白黒ポスター賞」
P-37B RAB5はシナプス小胞サイズの維持に機能している
志水英之( 大阪大・院理・生物)

「hair賞」(二名)
P-32B アクチン細胞骨格系の動態を制御する新規フォスファターゼSlingshotの機能解析
丹羽隆介(京都大学・ウイルス研究所)

P-50B 7回膜貫通型カドヘリンFlamingoと細胞質因子Dishavelledの非対称分布:平面内細胞極性の形成
島田裕子(京都大学・ウイルス研究所)



第1回森脇大五郎賞 大賞受賞者の声
「学生時代を振り返って」
水野 智亮
名古屋大学 大学院 理学研究科・科学技術振興事業団

 私にとって森脇大五郎賞受賞は全く思いがけないことでした。受賞者として「ひとこと」ということですが、何を書くべきかよく分からないので、ついこの春まで学生でしたことから、学生時代を振り返って、現在考えていることについて書きたいと思います。

 現在、修士課程や博士課程の学生さん、特に博士課程に在籍中の皆さんの中には、優れた研究、面白い研究をしたいという思いと、結果を出したいという気持ちの間を行ったり来たりしている人がいるのではないでしょうか?少なくとも、学生時代の私は、常に揺れ動いていました。博士課程に進学することを決めた当時の私は、何かおもしろいことをしたいと思っていたはずでした。しかし、博士課程に進学した頃は、それまで行っていた研究が行き詰まったこともあり、学位取得と限られた時間に対する不安がとても大きくなっていました。こういった思いが交錯する中で、私の修士課程で手がけていた突然変異体が非筋ミオシンIIの変異体のひとつであったことと、シグナル伝達機構に以前から関心があったことから、「ショウジョウバエの発生過程における非筋ミオシンIIの制御機構」を明らかにするために、非筋ミオシンIIを制御する因子の同定と機能解析を始めました。そして博士課程も半ばにさしかかった頃、何とか学位取得の目処がつきましたが、ほとんど学位取得のためだけに時間を費やしてきた自分の姿勢に疑問を感じ、「自分の行っていることは面白いのか」、「自分はこれをしていて本当に楽しいのか」と思うようになっていました(今は違いますが)。ですから、私は、学生の皆さんには、まず自分が「楽しい」研究をしてもらいたいと考えています。少なくとも自分が自分の行っていることに魅力を感じていなければ、最も重要な点を見誤ってしまい、優れた研究、面白い研究をできないと思うからです。私もまだ、学びたいこと、学ばないといけないことが多くあります。また、研究者としての方向性も明確でなく、今後も模索する時間が続く気がします。しかし行く行くは、私自身にあった研究者としての色を出していきたいと思っています。

 私の学生生活は、多くの方々に支えられてきました。特に、お名前は伏せさせていただきますが、二人の先生に色々な面で大変お世話になりました。両先生には、培養細胞と酵母を利用した解析方法などを教えていただき、また、頻繁にディスカッションに応じていただきました。両先生に教えていただいたことは、私にとってこの先も貴重な経験であり続けると思います。この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。そして学生の皆さんにも、研究に限らず様々なことを先輩方と話すことをお勧めしたいと思います。色々な意味で勉強になりますよ。最後になりましたが、学生時代から現在に至るまで、私の自主性を重んじ、余りあるサポートをしていただいた西田育巧先生にお礼を申し上げて終わりたいと思います。



第5回ショウジョウバエ研究集会報告

「第5回ショウジョウバエ研究集会に参加して」
影山裕二
奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科

 今回の研究集会はポスター発表(99題)、シンポジウム(2セッション)、インフォーマルセミナーおよびワークショップという構成で行われました。前回・前々回の研究集会は、日本を離れていたせいで私は参加できませんでしたが、プログラムを見る限り今回は第4回までの趣向とは少々違う試みがいくつかなされていたように思います。研究会のメンバーの多くは実際に参加されて内容は御存じと思いますので、個々の発表についての詳細な報告よりもそれぞれのセクションに対する私個人の勝手な感想を述べたいと思います。

 まずは2つあったシンポジウムですが、どちらも一つの大きなテーマ(研究分野ではない)に沿って、それぞれの演者が話題を提供するといった形になっており、聞く側としてはポイントを絞りやすく、なおかつバラエティに富んだ内容であったと思います。シンポジウム1は全てのショウジョウバエ研究者が関心を持たざるをえないポストシークエンスの戦略についてであり、タイトル(Whole genome approaches to development, evolution, and physiology: progresses and prospects)が示すように様々なアプローチが紹介されました。勝手な希望を言わせていただければ、それぞれの研究で作製された系統がいつ、どこで、どのようなかたちで入手可能になるのか(もしくはならないのか)といった具体的な点もあわせて紹介していただければ、これから利用したい人に参考になったのではないかと思います(一般公開は簡単ではないとは思いますが、率直な感想ということでお許しください)。シンポジウム2は生理学(生理学が何を意味するかは個人差がありそうですが)に焦点を当てたもので、分子生物学的な手法と古典的な方法論を併せて用いることで成功した研究が紹介されました。特に北海道教育大の木村さんは羽化直後の翅における細胞死について、Univ. Illinoisの千葉さんはaxon pathfinding におけるmuscle/glial cellsのmicroprocessについて、それぞれ非常にインパクトのあるtime-lapseの映像を提供されており、それぞれの系の研究がいかに興味深いものであるか視覚的に訴えていたのが印象的でした。研究成果ではありませんが、国立遺伝研の岡部さんによる色盲の方にもわかりやすいプレゼンテーション法について発表があり、非常に参考になったことを付け加えておきます。

 ワークショップはいわゆるゲノムプロジェクトや、系統(突然変異や他種のショウジョウバエ)保存、大規模スクリーニングといった「遺伝資源」をキーワードとしたものでしたが、演者の話を一通り聞いた後で聴衆参加型のパネルディスカッション形式で進められました。シンポジウム1もそうであったように、ポストシークエンシング時代に入り避けて通れない話題であり、参加者のニーズに沿ったものであるためか、多くの質問・討論がされました。その中でもD. melanogaster / D. pseudoobscura以外の種のゲノムのシークエンスを決定するという提案は、様々な研究において非常に有用な情報として期待できるものであり、今後の進展を期待したいと思います。
 ある意味今回もっとも際だった試みであったインフォーマルセミナーですが、時間配分をしない、特定のテーマを設定しない、若手(35歳以下?)のみで構成するといった学会ではあり得ない試みであるにもかかわらず、演題の選択が(もちろん発表内容そのものも)秀逸であったせいか非常に盛況であったと思います。時間無制限に質疑・応答が続くという座長泣かせのセッションでしたが、質疑応答が多い方が聴衆の理解が深まるようにも思いますし、こういった形式にこだわらない議論ができる場を今後も提供していただけるとありがたいと思います。少し気になったのが、演者と同じ研究グループからの意見・コメントが比較的少なかった点で、演者に配慮してのことだとは思いますが、もう少しシニアの意見も聞きたいと感じられるときもありました。私自身、発表させていただけるよう自分からお願いすればよかった、と思うくらい楽しいセッションでもありました。

 ポスター発表に関しては、ほとんどのショウジョウバエ研究者が何らかの形で名前を連ねているわけで、そういう意味では日本のショウジョウバエ研究の動向がよく現れていると思います。私が参加した6年前(!)の研究集会と比べると、様々な方法で新規遺伝子のスクリーニングを試みる研究室が目立つようになり、神経発生関連の研究発表も多くなってきているという印象を受けました。反対にaxis formationやsegmentationといった初期発生・ボディプランの研究や、欧米で最近盛んな自然免疫の研究、もしくはクロマチン・染色体構造の研究は比較的少なかったように思います。

 全体としてレベルの高いオリジナリティーのある研究が以前よりも多くなってきた感があり、ハエの研究者人口も拡大しつつあると思います。人口が増えて研究テーマが専門化すると(ショウジョウバエに限ったことではありませんが)どうしても分野外の研究者にはわかりにくくなってきますし、ショウジョウバエを使っているという以外に共通の視点を持たない人も多いのがこの集会の特徴でもあるのですが、今回は聴衆にわかりやすい(興味を引く)シンポジウムやワークショップであったと言えるのではないでしょうか。

 最後になりましたが、懇親会や特別企画(ぜひ今後もお願いいたします)を含めて、今回の研究集会は非常に周到に準備されていたように感じました。研究集会の準備・運営にご尽力くださった国立遺伝研の皆様に、一参加者としてお礼を申し上げたいと思います。



「JDRC5感想記」
島田裕子
京都大学 ウイルス研究所

 第5回日本ショウジョウバエ研究集会が三島東レ総合研修センターで催されました。私自身は、2年前の名古屋についで2回目の参加です。2年前、4回生の時は、右も左もわからぬ身でしたが、集会の楽しい雰囲気は肌に感じることができました。そして、今回も前と変わらぬコミュニティーの雰囲気の良さを感じ、ハエ専門用語にもようやく慣れ、熱心な議論の場に自分も参加できたような気がします。

 今回の集会のキーワードの1つとして、1日目のシンポジウムで取り上げられた「ゲノムワイドな網羅的解析のアプローチ」が挙げられます。ゲノムプロジェクト終了後の課題として、得られたシークエンスをどのように活用するかが重要なことは言わずもがなの昨今ですが、何を明らかにするためにどのような手段をとるかについて、様々な観点からの話を聞くことができました。中でも相垣さん(都立大)が進めておられたGSベクターのP因子挿入系統に関する情報のデータベース化は、大量な情報を効率よく処理する上で非常に有用だと思いました。ただし、異所的に発現された遺伝子の発現パターンやそれが示す表現型の情報が、本来の機能を理解するのにどれ程貢献するのか注意深く検討する必要があるように思われました。

 また、ポスター発表 P-42A「ショウジョウバエの概日時計のゲノムワイドな解析」(上田さん、東大)は、gene chip上の各mRNA量の変動をサインカーブに近似することで、サーカディアンリズムを支配する遺伝子を網羅的に探そうというエレガントな内容でした。どのような基準で目的の遺伝子だけを選択し、いかにフォルスポジティブを減らすかを考えることは、ポストゲノム時代の解析にとって必須の課題となりそうです。

 ショウジョウバエの系統に関連して、近縁種間でのゲノムの比較が話題となりました。もし、2種で全ゲノムが比較できれば、種を種たらしめている違い、例えば形、色、行動、性質などの違いを生み出している実体が明らかになるのではないかと、私は単純に期待しました。

 山元さん(早稲田)の講演で紹介されていましたが、ショウジョウバエ属はハワイ諸島で局所的な多様化を遂げていることから、環境変動と種分化の研究によいモデル系を提供すると考えられています。例えば、melanogasterのDNA配列と近縁な種のそれとの違いは、その配列に調節される遺伝子の発現パターンの違いに反映されるかもしれません。また、逆に種間で保存された配列を調べることによって、何か重要な機能を持つゲノム領域が見出される可能性もあります。そういった近縁種間での遺伝子レベルの差異点/共通点を、目に見える違い、つまり形態や行動などの種特異性と結びつけて考えることは可能でしょうか。さらには、棲息環境の違いや発生的制約、生殖隔離の起こった経緯なども考慮して、種分化の過程を議論できればおもしろいだろうと思いました。しかしながら、会場で挙げられた意見を聞くと、実際には私の想像ほど簡単な仕事ではないようでした…。得られたゲノム情報を個体レベルにまで還元するための解析方法なくしては、生物を統合的に理解することを望むべくもありません。今後、ゲノム情報がよりマクロな学問分野において利用されるための手法の開発と、マクロ/ミクロ間の情報交換・技術提供が多望されます。
 多くのポスターでは、議論が夜遅くまで熱心に続いていました。情報交換の場として非常に有意義であったと思います。とりわけ、ポスターが学会を通じて貼られていたので、シンポジウムの合間にもポスターをチェックできたことが幸いでした。全てのポスターをフォローできませんでしたが、GAL4/UASシステムを利用した解析が多かったように見受けました。例えば、細胞死に関与する新規遺伝子の探索をされた嘉糠さん(理研)の仕事(P-23A)では、スクリーニングで眼の切片を一枚一枚切るという気合いの入った内容でした。その他、伊藤啓ラボ(基生研)の方々の神経の投射パターンの解析withビューティフル立体写真(P-38B/39B/40A)は非常に印象的でした。

 普段耳にするサイエンスの話は、ともすれば自分の仕事の分野だけに偏りがちな傾向がありますが、今回ショウジョウバエをキーワードに遺伝学から神経生理学まで幅広い分野の話を拝聴できて、非常に勉強になりました。また、ポスター発表では同じ研究室の丹羽さんと共に「剛毛賞」をいただき、今後の研究の励みとさせていただく所存です。ポスターの内容に関して、貴重なコメントを下さった方々、コンフォーカル顕微鏡の観察技術を教えて下さった大綱さん(基生研)には、大変お世話になりました。

 最後に、私の不注意でポスター要旨を提出し忘れ、学会3日前になって気付くという大失態をしでかしたにもかかわらず、ポスターを貼ることを許可していただいた本集会代表の林さん(遺伝研)、急遽要旨をコピーして配布していただいた津田さん(遺伝研)はじめ、お世話になった事務局の方々にはこの場を借りて深くお礼申し上げます。ありがとうございました。



「第5回ショウジョウバエ研究集会感想記」
福井 智一
京都工芸繊維大学 繊維学部

 背広に身を固めた出張のビジネスマンでごったがえした新幹線を降りると、そこは伊豆半島の付け根、富士の麓は三島市であった。修士一年にして初めての研究発表をここ三島の東レの研修所でこれから行うのだ。発表する会の名前は日本ショウジョウバエ研究会。ショウジョウバエを素材に研究をしている人たちの集まりだ。逆にいえば、出席する人たちとの間で保証される共通点はショウジョウバエしかないということである。私の発表のネタは遺伝生態学だが、同様の研究を行っているグループは全体から見ればむしろ少数で、初めての研究発表を行う身としては、これは結構な不安の種であった。ポスター発表を聴きに来てくれる人が全然居ないと何をしに来たか分からないし、畑違いの人から予想もしない守備範囲外のことをバンバン訊かれても困る。慣れている人にとっては畑違いの人とのディスカッションも非常に刺激的で面白いのだろうけど、とにかく初めての経験である。無難に終わってほしいと祈るばかりであった。

 会場の東レ研修施設は曲面を多用した造りのとてもモダンな建物で、もっと殺風景なビルディングを予想していた私はこんな立派な建物でやるのかと些か面食らってしまった。巨大な吹き抜けのあるロビーで参加の手続きを済ませて、早速ボードにポスターを貼り付ける作業に取りかかる。「隣の花は赤い」という諺はあるけれど、周りのポスターが自分のものに比べてやけに立派に見える。中にはボードに金属製のフレームをつけて無理矢理曲面上にポスターを貼り付けてあるところまである。ともあれ、ここまで来たら自信を持ってやるしかない、と自分に言い聞かせつつシンポジウムの会場へと足を運んだ。

 初日のシンポジウムはすべて英語である。聴覚に全神経を集中させればある程度は聞き取ることもできるのだが、何せポスター発表の前でそのことばかりに気を取られてほとんど上の空であった。講演者のみなさんごめんなさい。

 シンポジウムが終わるとポスター発表である。私のポスター番号は奇数なので、発表は夕食後である。非常にたくさんあるポスターの中には(その殆どはさっぱり分からないのだが)、非常に好奇心を喚起させられる研究発表も少なからずあった。九州大の猪股氏のグループのアミラーゼ遺伝子重複の話、産総研の安佛、深津両氏の内部共生微生物スピロプラズマの雄殺し遺伝子の話、大阪府立大の菊農氏のグループの日本野外集団のhobo因子の分布の話、都立大の上山氏の雌の交尾コストの話、鈴木氏の精子競争におけるY染色体の役割の話などがそれである。ディスカッションは非常に刺激的で面白かった。実際に他のいろいろな研究をしている人達とのディスカッションはとても刺激的で、ともすればマンネリ化しがちな自分の研究にとっても、とてもいい刺激になった。

 夕食が終わるといよいよ自分の発表の番である。初めの十分ほどは誰も来なくて不安にもなったが、一人が聴きにくると芋づる式に何人かが聴きに次々やってきた。気がつくと殆どヤケクソで説明しまくっている自分が居た。緊張も不安も何度も練習して覚えた台本もかなぐり捨てて、ディスカッションの鬼になってしまったのであった。すべてが終わったときには精根尽き果ててフラフラと宿へと向かった。

 次の日の晩はお楽しみの懇親会であった。疲れた後のビールは何より旨い。しかし初めてということもあって知り合いが全然居ない。学生に至っては皆無である。フラフラとさまよっていると九州大の人達に呼び止められてしばし談笑の時を過ごした。そこで猪股氏に感想文を頼まれて、此処にこの拙い文章をお披露目することになったのである。

 最後に、この文章を掲載する機会を与えてくださった猪股伸幸氏、研究発表の機会を与えてくださった山口政光先生、伊藤雅信先生、また会期中お世話になった多くの方々にこの場を借りて深謝申し上げます。



お知らせ

「日本ショウジョウバエ研究会」名簿はホームページ (http://wwwsoc.nacsis.ac.jp/jdrc/)で原則として登録していただいた内容全てを公開していますが、連絡先(住所、電話番号、E-mailアドレス)が個人のものになっている方はその項目を非公開としたいと思います。該当される方は、事務局・松尾までご連絡下さい。

「日本ショウジョウバエ研究会」会則

1. 本会を「日本ショウジョウバエ研究会」(JDRC: Japanese Drosophila Research Conference)と称する。
2. 本会はショウジョウバエを利用した研究を行う人およびショウジョウバエ研究に興味を持つ人を広く結集し、相互の情報交換と研究討議を行う場を提供する。
3. 上記の趣旨に賛同する者は誰でも会員になれる。
4. 本会には代表1人を含め世話役4人を置く。
5. 代表は本会運営の責任者であり、また研究集会の計画・実行に責任を持つ。代表は研究集会が開かれるごとに交代する。
6. 代表以外の世話役のうち、1人は「ショウジョウバエ通信」の編集を担当し、全員に必要な情報を伝達する。
7. 他の1人が事務局を分担し、名簿の管理、通信の発送、金銭の出納を行う。
8. 世話役は会員全体のために、緊密に連絡し広い視野で活動する。
9. 世話役は2人ずつ2年毎に交代し連続4年勤める。4年を越えるのは認めない。世話役を辞めたのち4年間は再び世話役になることができない。
10. 新しい世話役は地域、研究分野等のバランスを考慮して現世話役が決定する。会員は世話役に候補者を推薦することができる。
11. 世話役の交代は研究集会時に行い、出席者の承認を得る。
12. 新しい世話役に不満がある者は代わりの候補を立てて選挙を要求できる。
13. 会の運営費が不足してきた時には、これを徴収することがある。この場合、研究室を主管する立場にある者が多くを負担するものとする。
14.この規定に無かったり、詳しく決めてない事態が発生した場合の処理は世話役に一任する。

補則
1. 入会するには事務局へ申込む。研究会名簿に登録され「ショウジョウバエ通信」を受け取ることができる。同時にJfly mailing listにも参加されるようお勧めします。
2. Jfly は伊藤啓氏のボランティアによって運営されています。ショウジョウバエ研究会の活動ではありませんが、良好な協力関係のもとに、情報伝達等に利用させてもらっています。
3. 何らかの事情で任期中に世話役の交代が必要になる場合の手続きは14 項を適用して対処する。
(以上)


日本ショウジョウバエ研究会(世話役)
ホームページ:http://wwwsoc.nacsis.ac.jp/jdrc/
西郷 薫(代表):〒113-0033 東京都 文京区本郷7-3-1 東京大学 大学院 理学系研究科 生物化学専攻 西郷研究室 Tel: 03-5689-5606 Fax: 03-5684-2394 
E-mail: saigo@biochem.s.u-tokyo.ac.jp
上村 匡(次期代表):〒606−8507京都府 京都市左京区聖護院川原町53 京都大学ウイルス研究所 遺伝子動態調節研究部門 分子遺伝学研究分野 Tel: 075-751-4031 Fax: 075-751-3989
E-mail: tuemura@virus.kyoto-u.ac.jp
松尾 隆嗣(事務局):〒192-0397 東京都 八王子市南大沢1-1 東京都立大学 理学部 生物学教室 細胞遺伝学研究室 Tel: 0426-77-2575 Fax: 0426-77-2559
Email: mts@comp.metro-u.ac.jp
猪股 伸幸(通信):〒812-8581福岡県 福岡市東区箱崎6-10-1 九州大学 大学院理学研究院 生物科学部門 分子集団遺伝学講座 Tel: 092-642-4344 Fax: 092-642-2645 
E-mail:ninomscb@mbox.nc.kyushu-u.ac.jp
Jfly:伊藤 啓 〒444-8585 愛知県 岡崎市明大寺町 字西郷中 38番地 岡崎国立共同研究機構 基礎生物学研究所 細胞増殖部門 Tel: 0564-55-7532 Fax: 0564-55-7533 
E-mail: iitokei@nibb.ac.jp
Jfly サーバー:  http://jfly.nibb.ac.jp/index_j.html