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色覚の多様性に配慮した案内・サイン・図表等用のカラーユニバーサルデザイン推奨配色セット
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カラーユニバーサルデザイン推奨配色セットの塗料用、印刷用、画面用の詳しい情報と、組み合わせる色の注意点、使用する上でのノウハウなどをまとめた冊子の第2版を作成しました。 CUD_color_set_GuideBook_2018.pdf (PDFファイル、10 MB) 主要な内容を2ページにまとめた概要版はこちらです。本配色セットをUDガイドライン等で紹介される際は、このファイルを印刷にご利用下さい。 CUD_color_set_GuideBook_2018_for_print_cs4.pdf (PDFファイル、2.9 MB) |
いわゆる色弱(色覚異常)の人や、緑内障など網膜の疾患を持つ人、白内障の人は、色によっては違いを区別しづらいことがあります。公共施設の案内表示・工業製品・情報機器・印刷物・報道・教科書などのカラー化がすすみ、色を用いた情報をどのような色覚の人にも分かりやすく伝えることへのニーズが高まっています。それぞれの色覚タイプでどのような色が見分けにくいかは視覚神経科学の分野で研究されてきましたが、どうすれば分かりやすいのかに関する研究はこれまでほとんどありませんでした。そこで被験者実験による調整を重ねて、どのような色覚の人にも比較的見分けやすい色を絞り込み、実用的な配色セットを策定しました。塗料業界と印刷・デザイン業界の色指定の業界標準が本結果を盛り込んで、それぞれの分野で普及を図る予定です。
1:推奨配色セットの内容
配色セットは全20色あり、アクセントカラー・ベースカラー・無彩色の3つのグループに分かれています。(塗装用では、プラス代替色2色の合計22色)
参考ファイル(更新作業中)
・[DOWNLOAD] イラストレーター用スウォッチファイル
・リンクをクリックすると文字化けしたテキストが表示されてしまうときは、
左クリックして「リンク先のファイルをダウンロード」を選んでください。
CMYK 用 スウォッチライブラリ (.ase) ・ イラストレーターファイル (.ai)
(印刷物用:赤にはオレンジ転びしにくい数値を使っています)
RGB 用 スウォッチライブラリ (.ase) ・ イラストレーターファイル (.ai)
(画面表示用)
・スウォッチライブラリは、イラストレーターのスウォッチパネルから「スウォッチ
ライブラリを開く → その他のライブラリ...」を選択して、ダウンロードしたファイ
ルを読み込んでください。InDesign でも使えます。
・[DOWNLOAD] 画面用 RGB 版 マイクロソフトワード用見本ファイル (New 第3版)
・マイクロソフトワードで読み込んで、必要な色をコピーしてお使いください。
・[DOWNLOAD] 画面用 RGB 版 パワーポイント用見本ファイル (New 第3版)
・パワーポイントで読み込んで、必要な色をコピーしてお使いください。
註:本配色セットは、今後実際の使用実績から得られたノウハウを反映して、逐次改訂してゆく可能性があります。
● 小面積用の高彩度の色(アクセントカラー)
文字・サイン・線など、小さいものを塗りわけるのに使えるような、彩度の高い色です。
● 彩度をわずかに落とした代替色
黄色と緑に関しては、少し彩度を落とした色も用意しました(塗装用 JPMA 版のみ)。ただしこれを使った場合、次に示すクリームや明るい緑とは混同しやすくなるので、同時には使えません。
印刷用 CMYK 版や 画面用 RGB 版では、同時に使用する色数が塗料よりも多いと推定されるため、他と混同の可能性が大きくなる代替色は用意していません。
● 大面積用の高明度の色(ベースカラー)
地図や帯グラフなど、広い面積を塗りわけるのに使える色です。色の差が小さいため、小さなものを塗りわけるには不適当です。相互に区別しやすく、なおかつ小面積用のアクセントカラーともなるべく区別しやすい色を選びました。
● 無彩色
「グレー」と「色」の差は、一般の人ほど明確ではありません。緑・紫・ピンクなどをグレーと混同することがあるため、逆にニュートラルグレーやウォームグレーに、色があるように感じてしまうことがあるためです。やや青みのあるグレーが一番誤認しにくく「無彩色」だと感じられることが分かったので、このような色調を用意しました。また、配色セットの中でグレーと誤認しやすいような色とは明度差を確保しました。
● 推奨セットを使った塗り分け例
それぞれの色のカテゴリーを保った範囲で、なるべく誰にでも見やすい色調に調整しました。
以上のように、小面積用と大面積専用を分けることで、実用上十分な色数を確保しました。案内図・グラフ等の図版・表示パネルなど幅広い用途に利用可能です。また、塗料と印刷という異なる媒体で、共通の指標を提供することができました。従来はあまり交流がなかった2つの分野で、同じように色を指定できます。この配色セットが有効なツールになることを願っています。
● 比較的見分けやすい色の組み合わせ
下記の組み合わせは区別しやすい配色の一例です。これ以外の組み合わせを用いる場合は、見分けにくい組み合わせを避けてご利用ください。(New 第3版)
● 見分けにくい色の組み合わせ
推奨配色セットはできるだけ多くの色を用意するため、多少見分けにくい色の組み合わせも含んでいます。下記の組み合わせや同系色の濃淡は比較的区別しにくいので、片方のみを使用してください。(New 第3版)
● 日本塗料工業会塗料用標準色
2011年F版(発売中)に推奨配色セットの色を収録しています。全22色中、2009年E版からの継続色が15色、新規追加が7色です。その他、色弱の人に色みが分かりやすい色を7色追加、色票に追加しています。詳細は日本塗料工業会事務局にお問い合わせください。
● DIC 株式会社
プロセス印刷で使用可能なユニバーサルデザイン推奨配色セットの CMYK 数値を開発し、発表しました。色調見本と詳しい解説は、DIC プロセスカラーノートに掲載されています。詳細は DIC カラーデザインにお問い合わせください。
Q:カラーユニバーサルデザインを実現するには、この配色セットを使わなくてはいけないのですか?
A:そういうわけではありません。この配色セットと違う色であっても、相互に見分けやすく工夫されていれば、カラーユニバーサルデザインになります。また、この配色の一部を利用して、それにデザイナーのオリジナルの色を加えることも可能です。ただし、これらの場合には、選んだ色がさまざまな色覚の人に見分けにくい色の組み合わせになってしまっていないかを、デザイン制作者自身がきちんとチェックする必要があり、それだけの時間・ノウハウ・コストが必要になります。推奨配色セットは、そうした手数を踏まなくても一定の見やすさを実現できるように作られました。
Q:自分には、これがいちばん見分けやすい配色だとは感じられないんですけど・・・?
A:この配色セットは、一般の色覚の人(C型)にとって従来あまり馴染みのなかった色合いを使っている部分があり、多少違和感があるかも知れません。これは、従来の色調が色弱の人などにとって見分けにくく、バリアになっていたのを解消するための工夫です。また、色弱の人のことだけを考えれば、これよりももっと見分けやすい配色を作ることができます。しかしそうすると、一般の人にはもっと違和感が大きい、見分けづらい配色になってしまいます。網膜症や白内障の人についても同様です。特定のタイプの人の使い勝手だけを考えて、他の人が不便になってしまうのは良くありません。なるべく多くの人が同じように見分けやすいように工夫するということは、逆に言えばどのタイプの人にとっても、「自分にとっていちばん見分けやすい」ものにはならないということです。お互いが少しづつ譲り合うことでどの人にも使いやすくするというのが、この配色セットの根底の発想です。
Q:よく使われる色づかいと推奨配色セット、そんなに色が変わったようには見えないのですが?
A:どのような色を同じような色だと感じ、どのような色をずいぶん違う色だと感じるかは、色覚のタイプによって大きく異なります。一般の人にとっては、赤や緑やピンクや紫はちょっと色味が変わった程度にしか見えない場合もありますが、色弱の人などにとっては、かなり違う色に感じられます。
Q:このセットにある色は、どれを選んでも同じように見分けやすいのですか?
A:そうではありません。一般に、全ての人が間違いなく確実に色を見分けることができるのは、せいぜい数色だと言われています。しかし現実には、10色以上の色で塗りわけることが必要なケースも少なくありません。そのような場合に対応するために、この配色セットは、組み合わせによっては多少見分けにくいおそれがある色も含んでいます。同時に使う色数が少ない場合は、そのような色の組み合わせを選ばず、より確実に見分けやすい組み合わせを選ぶように注意する必要があります。見分けやすい組み合わせ、見分けづらい組み合わせの情報は、このページの上のほうをご覧ください。JPMA 日本塗料工業会標準色票、DIC プロセスカラーノートの中でも紹介しています。
Q:CMYK版で、赤がどうもオレンジっぽくなりすぎるのですが。
A:赤色の指定は C,M,Y,K = 0,75,95,0 になっていますが、印刷条件によってはオレンジに偏りすぎることがあります。そのような場合は C,M,Y,K = 0,75,90,0 をご使用ください。 Q:基本色・追加色の区別はどうしてなくなったのですか?
(この分の安全マージンを考え、スウォッチファイルでは C,M,Y,K = 0,75,90,0 にしています。)
A:第2版では、アクセントカラーとベースカラーをそれぞれさらに基本色と追加色に分け、基本色を「どの組み合わせでも各色の違いが見分けやすい色」、追加色を「一部の色と混同の可能性があるが、使い方に注意をすれば問題なく使用できる色」として区別していました。しかし、見分けづらい/見分けやすい色の組み合わせをさらに検証した結果、基本色と追加色の組み合わせでも非常に見分けやすいものがあったり、逆に特にベースカラーの場合に、基本色同士でもあまり見分けやすくないものがあったりすることが分かりました。
また、実際の使用状況を考えた場合、基本色と追加色に分けられているのは使い勝手が悪く、それよりも見分けづらい組み合わせ、見分けやすい組み合わせの情報をより詳細に提供した方が便利だろうということになりました。そこでこのような区別は廃止しました。
なお、色自体には変更はありません。色の区分けをなくしただけです。
Q:プリンターで刷ってみたら、画面とずいぶん色が変わってしまいました。どの色でもいいんですか?
A:この配色セットは色数が多いため、それぞれの色調が非常に細かく工夫されています。少し色が変わるだけで、見分けにくい組み合わせがとたんに増えてしまうことがあります。画面表示や印刷には、カラーマネジメントがきちんと調整された機材が必要です。正確な色調は、色票をご参照ください。
また、印刷用の業務用機器では指定の色色調どおりに印刷するカラーマネジメントの技術がかなり普及していますが、一般のオフィスや家庭用の液晶モニターやプリンターでは、色調をなるべく忠実に再現するモードが現状ではほとんど備わっていません。この点に関しては、次章にある デジタル機器メーカー各社へのお願い をご覧ください。
Q:JPMA 版と CMYK 版と RGB 版、色が違って見えるのですが?
A:以下の理由により、それぞれの版で色の指定が微妙に異なっています。
1:塗料(JPMA 版)、商業用のプロセスカラー印刷(CMYK 版)、パソコン画面表示用の sRGB 規格(RGB 版)では、再現できる色の範囲が異なります。それぞれの制限の中でなるべく見やすい色を選ぶため、色調が異なっています。
2:JPMA 色票ではマンセル値で0.25もしくは0.5刻み、CMYK の印刷では各色5%刻みよりも細かい指定は、色再現の精度を考えると現実的ではありません。そのため、それぞれのケースでこの刻みに合うように色を選んでいます。
Q:CMYK 版はどのように色管理すればよいのですか?
A:標準的な状態で白色のコート紙にオフセット印刷することを前提にしています。ICCプロファイルはJapan Color 2001 Coated で近似できますが、正確には DIC 株式会社ホームページから「DIC 標準色プロファイル DIC Standard Color SFC_AM2.0(油性プロセス/枚葉印刷/アート紙/AMスクリーニング)」をダウンロードしてご使用ください。SWOP Coated、Euroscale coated v2などの欧米の標準的印刷プロファイルにしたがった印刷機でも、多少差は出ますが、近似した色調で印刷することができます。
色の調整に用いた印刷条件は以下の通りです:
使用インキ: DIC スペースカラーフージョン G EZ
刷り順: K→C→M→Y
用紙: 三菱 特菱アートN(135kg)
スクリーン: 175線 スクエアドット
ベタ濃度: Y: 1.35 / M: 1.5 / C: 1.6 / K: 1.85
ドットゲイン:各色15%
この条件と大きく異なる条件(新聞紙など色のついた紙への印刷や、オフセット用でなく輪転機用インキによる印刷など)では、色再現が異なってしまいますのでご注意ください。
Q:画面用 RGB 版 はどうして色再現範囲が広い AdobeRGB 規格でなく、再現できる範囲が狭い sRGB 規格で色を決めているのですか?
A:AdobeRGB は印刷を前提としたデザイン分野で広く使われる規格ですが、この業界では色指定は RGB 値でなく CMYK 値で行われるのが通例です。そのため、AdobeRGB 規格の RGB 値で色を指定するケースは非常に少ないと思われます。一方、RGB 値で色指定することが多いパソコンの画面表示では、AdobeRGB 規格の広い色範囲を再現できるモニターはまだまだ少数で、大多数のユーザーはsRGB 規格の範囲の色しか表示できない状況にあります。また、ホームページのブラウザやプレゼンテーションソフトも sRGB 規格を前提にしているものがほとんどです。このため sRGB 規格で表示できる範囲内の色を使って指定を行っています。
Q:画面用 RGB 版の「最終版」(ver3)は、ver2で公開されていた「暫定版」とどこが違うのですか?
A:厳密な色管理がかなりのレベルで期待できる塗料や印刷と異なり、パソコンの画面表示の色調は、使用するコンピューターの種類やモニターの品質、表示に用いるソフトウェアの種類などにより、大きく異なってしまうのが現状です。ver2で公開した色指定値は、Windows 7 と MacOS 10.5 の両環境で、sRGB 規格の色調にハードウェアキャリブレーションしたデジタル接続のモニターを用いて色の調整を行ったものですが、さまざまな環境下でどの程度色再現のずれが生じるか、それに応じてどのような修正が必要かの検証を引き続き行いました。その結果、
・sRGB 規格に正しく合わせたモニターでの色の見分けやすさをより高め、
・調整が不十分なモニターで表示した場合に生じる色の変化の影響を勘案して、
より見分けやすい色調になるように微調整を行いました。
また、暫定版では可能なかぎり web safe カラー(256色表示のモニターできちんと表示できる、16進数での色指定値に合わせた216色)の値に合うようにしていましたが、最終版では web safe カラーの値に合わせることよりも、色の見分けやすさや色調を優先して、指定値を調整しています。
情報を発信する側がせっかく分かりやすい色づかいに配慮して色を指定しても、ユーザーが実際に目にするものが全然違う色調になってしまったのでは、配慮の効果は大きく減じてしまいます。「色指定がどれくらい正確に機能するか?」という点から考えた場合、JPMA, CMYK, RGB の3つの色指定法では、おおむね以下のような状況にあります。
【塗装用 JPMA 版】日本塗料工業会が作成した塗料標準色に準拠して色を指定していますので、日本塗料工業会の会員各社(日本のほとんどの塗料・塗装メーカー)は、これにほぼ忠実な色調で塗装を行うことができます。
【印刷用 CMYK 版】温度・湿度・紙質・インキ銘柄などで微妙な差は出てしまいますが、高い技術を持つ印刷会社で代表的な白色アート紙に4色プロセス印刷した場合、ほぼ忠実な色調で印刷することができます。上質紙でも、ほぼ近い色調で印刷できます。CMYK 印刷エミュレーション機能を備えた高価格レーザープリンターでも、誤差は出ますがある程度近似した色調で印刷することができます。
【画面用 RGB 版】Windows7, MacOS X などカラーマネジメント機能を備えたパソコンシステムで、sRGB モードにカラーキャリブレーションされたモニターを使って画面表示した場合には、ほぼ近い色調で表示できます。RGB ワークフローに基づく印刷でも、高い技術を持つ印刷会社ではほぼ正確な色調で印刷できます。
しかし、一般的なユーザーが用いるほとんどの環境では、以下の2つの問題が生じます。
1:sRGB の色指定に忠実な色調で表示する機能を、ほとんどのデジタル機器が備えていない。
・ノートパソコン:機種によって画面表示の色調が大きく異なります。カラーキャリブレーション機器による画面の色調整を行わない場合(つまり大多数のユーザーの利用環境の場合)、「sRGB になるべく忠実な色調で表示する」ように設定する方法がありません。
特に最近のパソコンは、バッテリー駆動時間を延ばすために低消費電力化しつつ画面の明るさを確保するため、R, G, B 各色の色調が sRGB の規定とかなりずれているものが見受けられます。(バックライトの光をなるべく多く透過するような赤緑青の液晶フィルター色素の色が、sRGB の規定の色合いと必ずしも一致しない。)
・デスクトップパソコン用の液晶モニター:ノートパソコン同様、カラーキャリブレーション機器による色調整を行わない場合に、sRGB になるべく忠実な色調で表示するように設定する方法がありません。
・プロジェクター:機種によって色調が大きく異なります。プロジェクターではプレゼン、シネマ、スタンダードなど多くのカラーモードが用意されていますが、sRGB になるべく忠実な色調で表示するモードを搭載した機種はありません。
・携帯電話、スマートフォン:機種によって色調が大きく異なります。sRGB になるべく忠実な色調で表示できるような機能を備えた機種はありません。
・プリンター:ポストスクリプトプリンターなど上級機種の中には色管理機能を備えたものもありますが、オフィスや家庭で一般的なレーザープリンターでは、sRGB になるべく忠実な色調で印刷できる機能を備えた機種はほとんどありません。
インクジェットプリンターでは「あざやか」「ナチュラル」などの印刷モードを備えている機種が数多くありますが、これも sRGB になるべく忠実な色調で印刷する機能を備えている機種はほとんどありません。
2:sRGB の規格が許容する色の誤差が大きすぎる。
現行の sRGB の規格では、R, G, B 各色の色調やコントラスト(ガンマ値)を規定しているものの、それとかなり誤差(色差)のある製品でも「sRGB 準拠」と表記できるように、許容誤差がとても大きくなっています。(sRGB 準拠の規格の策定時に、なるべく多くの製品が合格するように許容基準を甘くしたという歴史的経緯があります。)そのため、sRGB 準拠と銘打たれている製品でも、実際に表示される色調は相当ばらついています。
以上2つの問題のため、
・ホームページの画面
・携帯電話・スマートフォンのサイトの画面
・ワード、エクセル、パワーポイントなどのオフィス業務用ソフトを用いた画面
・PDF 形式で配布された文書の表示画面
・これらをプリンターで印刷したときの結果
といったオフィスや家庭の大多数のユーザーが利用する場面において、「デザイン制作者の指定通りの色調で表示・印刷することができない」という困った状況にあります。これでは、デザイン制作者がいくら見やすいように配慮してホームページや文書、プレゼン資料などの色調を調整しても、それがどのように表示・印刷されるかが予想できません。コンピューターや携帯電話を通じた情報提供の比重がますます高まっている今日、これは色のバリアフリーを普及させる上で重大な問題です。また、オフィスや官公庁で制作・配布される文書や学校で先生方が作られる教材におけるバリアフリーを実現する上で、重大な障害になっています。
この問題は、バリアフリーの問題のみならず、通信販売のサイトなどで商品の色合いを正確に伝えることができないという実用上の経済的問題にもつながっています。購入したものの色が予想と違うという理由で返品される商品の比率は高く、通販業界の大きな収益阻害要因になっています。印刷されたカタログでは色校正の際にある程度は色の管理が可能だったのですが、ネット経由の通信販売では、印刷カタログが主流だった時代よりもはるかに色の誤差が大きくなってしまっています。
そこで、ノートパソコン、液晶モニター、プロジェクター、携帯電話、プリンターのメーカー各社におかれましては、
日本のメーカーの高い品質管理技術を活かしたこのような規格の実現は、メーカーにとって大きな社会的貢献になるとともに、低廉な海外製品と競合する上での有力な商品差別化につながります。困難はあると思いますが、ぜひ実現いただけるようお願いいたします。
すでに一部海外メーカーでは sRGB 規格で個別にキャリブレーションを行った液晶モニターを2万円台の低価格で発売しているケースもあり、日本のメーカーも早い対応が必要です。
眼には杆体と錐体の2種類の光を感じる細胞(視細胞)があります。杆体は約1.5億個ありますが、暗い所だけで機能し、昼間はほとんど使われません。杆体は1種類しかないので、色を感じることはできません。一方錐体は、約700万個あり、明るい所だけで機能します。錐体には長い波長の光に反応するL細胞、中ぐらいの波長の光に反応するM細胞、短い波長の光に反応するS細胞の3種類があります。脳はこれら3種類の錐体の反応の差を計算して、色を判断します。
色覚の多様性を産む3つの要因
色の見え方には様々な個人差がありますが、なかでも次の3つの現象は、色の見え方に大きく影響します。
● 錐体の感度特性を決める遺伝子の変異
いわゆる色弱(色覚異常・色覚障害・色盲とも呼ばれる)の人は、遺伝子の変異によってL錐体またはM錐体のどちらかを持たないか、感度特性がずれています。
P型(Protanopia, 1型)
強度:L錐体がない
弱度:L錐体の感度がM錐体側に寄っている
D型(Deuteranopia, 2型)
強度:M錐体がない、
弱度:M錐体の感度がL錐体側に寄っている
男性の5%, 女性の0.2%(欧米では男性の8〜10%, 女性の0.5%)がこのような眼を持っており、頻度から推計すると、日本では推定320万人存在することになります。青〜紫、緑〜赤など、赤みの違いに鈍感です。一方青みの違いや明暗の弁別には敏感で、視力には変化がありません。
● 網膜の疾患(ロービジョン)
緑内障・網膜色素変性症・黄斑変性症・糖尿病性網膜症・未熟児網膜症などの網膜の疾患では、視細胞が減少して最悪の場合失明しますが、その前にもともと数が少ないS錐体が最初に全滅してしまいます。日本では、軽度から失明まで合わせて推定数十万人居ると眼科医は推計しています。短い波長を感じるS錐体がないため、T型(tritanopia)に近い見え方となり、色弱とは逆に緑〜青など、青みの違いに鈍感です。また明暗の弁別にも影響があります。視力が極端に低下し、視野狭窄なども起こるため、色の見え方の違いよりも視力の低さの方が問題になることが多いですが、色の問題も無視できません。
● レンズ(水晶体)の着色
白内障では、水晶体が黄色く濁るために長波長の光を通さなくなります。このため紫〜青が暗く見えます。また視野全体が黄色く濁るため、明るい黄色と白の区別がしにくくなります。光が散乱するため視力も低下します。水晶体を人造レンズに置きかえる手術をすると、濁りはなくなりますが、眼のピント調節ができなくなります。日本では百数十万人が医者にかかっています。
カラーユニバーサルデザインが注目されだしたのには、いくつかの要因があります。
● 色による情報伝達の急速な増加
塗装・印刷・コンピューター技術の発展によって、従来は白黒表示だった様々なものが急速にカラー化してきました。たとえば
・公共施設の案内表示・サイン・案内図
・家電製品・OA機器などの操作パネル
・電子機器・携帯電話などの操作画面
・新聞・テレビ等の報道メディア
・教科書などの教材
これらのメディアでは、色分けによって情報を伝えやすくしたつもりが、かえって一部の人には情報が伝わりにくくなるケースが出てきました。
● 不便を感じる人への理解が進んだ
以前は「障碍者」は不便が多くて当たり前だという意識が強かった面がありました。しかしバリアフリーやユニバーサルデザインの思想の普及により、当事者でなく社会の側も、不便に対応するような工夫をしてゆこうという意識に変わってきました。
このため、最近は以下のような様々な取り組みが進められています。
● 自治体発行のガイドライン (2004〜)
2004年以来、多くの自治体(県、市区町村)が色のバリアフリー/ユニバーサルデザインに関するガイドラインを発行しています。(神奈川県、埼玉県、静岡県、山口県、茨城県、東京都足立区、中央区、世田谷区などがあります。)
● JISアクセシビリティー (2006制定、2008にISO化)
コピー機・複合機などオフィス用の電子機器の業界団体が中心となって策定した「JIS X8341-5 高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス−第5部:事務機器」では、操作ボタンや画面、パイロットランプなどに、色覚に対する配慮をするように盛り込んでいます。
● バリアフリー新法のガイドライン (2007)
バリアフリー新法では、従来よりも対象者を広く捉えるようになり、公共施設・交通機関の案内表示やサインについて、色覚に配慮した配色とデザインの必要性を明記しています。
● 文部科学省・色覚に関する指導の資料 (1989, 2003)
授業・教材・進路指導などに関する主な内容をカバーしたハンドブックを作成し、全国の学校に配付しています。一方で、2003年より教科書の本文のカラー化が解禁になり、多くの教科書がフルカラーになりました。このため、現行教科書では見分けづらい表記や図版が問題になっています。文科省では新しい教科書の検定に際して、色覚によく配慮するように教科書会社に要請しています。
以上のような社会の流れの中で、視覚に関する科学研究はどのような貢献をしてきたでしょうか?
本来は3種類あるはずの錐体が2種類しかない場合、どのような色が見分けにくくなるかは、古くから研究されてきました。上の図のように色をCIE xy色度図という方法で座標に表すと、どれかの錐体が無い人が見分けにくい色は、グラフのうえでほぼ一直線に並びます。これを「混同線」といいます。混同線の理論は、1950年代には完成していました。(L. C. Thomson & W. D. Wright, 1953; D. Farnsworth, 1955)。
しかし、どのような色が見分けにくいかが理論的に分かっていたにもかかわらず、それから50年以上経った今でも、そうした見分けにくい色が世の中にはあふれています。科学者は、研究結果を論文として発表したら、ついそれで満足してしまう傾向があります。しかし実社会の色を決めているのはデザイナーや設計者で、これらの人は学会にも行かないし、学術雑誌も読みません。こうした人に研究成果を伝える努力は、残念ながらこれまで十分にされてきませんでした。
また、混同線の理論は、そのままでは実際のニーズに応えられません。CIE色度座標を知るには特殊な測定器が必要なため、工場の品質管理などごく一部を除いて、色関連の業界の現場ではほとんど使われていません。
このような状況をふまえた上で、ヒトの色覚に関する研究成果を実際の社会に反映させようという発想が、科学者の間にはこれまでほとんどありませんでした。医学・生物学の研究者は、薬や治療法の開発以外には、自分たちが社会に貢献できることがあるという意識が薄い面があるのは否めません。
● 見分けにくい色の理論をデザイン現場に応用
私たちは、このような状況に対して科学者がより具体的な貢献ができるように、いくつかの試みを行ってきました。その一つが、色弱の人が混同しやすい色を1つの色にまとめて変換することで、元の図の見分けにくさをチェックするツール(いわゆる色弱シミュレーションソフト)の開発です(石川県工業試験場前川博士との共同研究)。この種のソフトは以前からいくつか発表されていますが、私たちのものは多くの色弱被験者による様々な変換式パラメーターの比較検討によって、幅広い色範囲で高い色変換精度を持っているのが特徴です。また、従来のものがホームページからのダウンロードなど、興味を持った一部の人にしかアクセスできない方法で提供されていたのに対し、色を扱う業界に広く普及しているソフト・ハードの制作会社のこの機能を提供して、製品の標準搭載することで、普及啓発を図っています。ソフト関係では、Adobe 社のイラストレーターとフォトショップのCS4版(2008年発売)の全世界版に、CUDソフトプルーフ機能としてこの機能を搭載しています。また、ハード関係では、ナナオ社(2007〜)と NEC 社(2010〜)の高画質液晶モニターシリーズにリアルタイムの変換機能を標準搭載し、静止画だけでなく動画の高速変換も実現しています。
● 色チェックツールだけでは不十分
しかし、このようなチェックツールは、「どのような配色が見わけにくいか」しか示すことができません。見分けにくいことが分かったとして、それをどのように色合い調整すれば見分けやすくなるかを工夫するには、経験とノウハウが必要です。また、色チェックツールの精度にはどうしても限界があるので、実際の被験者を使った検証実験も欠かせない場合があります。
そこで、「どういう色なら見分けやすいのかを具体的に知りたい」、「この中から色を選べば一定の見分けやすさを確保できるような色のセット」を示して欲しい、という要望が多く寄せられてきました。これに応えるため、
・実生活で利用頻度が高い色で、
・当事者によって見分けやすさを検証した、
・多色の配色セットを作成する。
というプロジェクトを行うことにしました。
このような配色セットには、以下のような特性が要求されます。
● 色名を想起しやすい色のセットであること
人間は、赤・オレンジ・黄・緑・青・紫・ピンク・茶色・ベージュ・クリームなどの「色名」を使ってコミュニケーションします。色名を表現しにくい微妙な中間色でなく、色名を表現しやすいような色調を選ばないと、実用性の低いものになってしまいます。
● 塗装・印刷などで実現可能な色の範囲に納まっていること
眼が知覚できる色の中で、塗装や印刷に利用できる色の範囲は限られます。理論的にいくら見分けやすくても、この範囲を超えた色を使ったのでは、実用上意味がありません。
● 塗装と印刷で同じような色のセットを作ること
案内やサインは、塗装された現物と同時に、印刷物でも提供されることが多いのが実情です。従来は、塗装は塗装、印刷は印刷で、相互に関連なく色指定のシステムが動いていましたが、この配色セットでは同じような色を塗装でも印刷でも再現できることが必要です。
● 選ばれた色が、正確な色調で、幅広く利用可能になっていること
特殊で高額な測定器を使わないと色調を指定できないような方法ではなく、色を扱う現場のすべての人が分かりやすい方法で、色を提供する必要があります。
日本の社会の色は「色票」で決められている
塗装業界・印刷業界には、それぞれ業界標準の色票があり、それを用いて色を指定するのが一般的です。色票の色は厳密に管理され、色番号を指定すればその色が塗装・印刷されるように品質管理がされています。従って、業界標準の色票を使って見分けやすい配色を指定するのが、もっとも確実で実用的な方法です。
幸い、塗料業界の色指定の業界標準である JPMA 塗料用標準色を発行している社団法人日本塗料工業会と、印刷・デザイン業界の色指定の業界標準である DIC カラーガイドを作成している DIC 株式会社/DIC カラーデザイン株式会社の協力を得て、これらの色票システムをベースにした見分けやすい配色セットを作ることになりました。
プロジェクト参加企業・団体の紹介
日本塗料工業会(JPMA)は1948年設立、1986年社団法人化した業界団体で、塗料製造メーカーおよび団体からなる正会員(96社)と、関連業界の賛助会員(167社)からなります。塗料用標準色を発行し、隔年で改訂しています(現在は2009年E版)。この色票は1,500色の元帳から、社会動向に応じて使用頻度の高い600〜650色を選んで収録しています。塗装されているものの多くは、JPMA 色票で色が指定されています。今回は色票の見本や元データの提供、新しい候補色の調色などの協力を得ました。
DIC 株式会社は1908年創業、1962年に社名を大日本インキ化学工業株式会社に変更し、2008年に社名を現在の DIC 株式会社に変更しています。印刷インキでは世界トップシェアで、有機顔料・合成樹脂なども提供するファインケミカルメーカーです。パート1、パート2、日本、フランス、中国の伝統色の5部からなる DIC カラーガイドシリーズは、2,230色を収録し(2009年4月現在)、印刷だけでなくデザイン関係の色指定などでも非常に幅広く使われています。また DIC カラーデザイン株式会社は、2000年設立の DIC 株式会社100%出資の子会社で、DIC 株式会社の色彩技術をベースとした、色彩管理に関するノウハウをもとに、カラーコンサルティング・カラー調査・カラー管理・カラーセミナーなど、カラーを機軸としたソリューションを提供しています。今回は色票の見本や元データの提供、新しい候補色の調色、候補色の選考などの協力を得ました。
カラーユニバーサルデザイン機構は2004年設立の、科学者、デザイナー、色弱の当事者で組織されたNPO法人です。製品・施設・出版物・教科書などのデザインを色弱の当事者等がチェックして、色覚に応じた見分けやすさに関する問題点と改善法を指導し、従来のものより向上していると推奨できるものにマークを認定います(2008年末現在、約240件)。これまでもテレビリモコン・電子番組表・駅時刻表などの配色の調整に協力しています。今回は色に関する詳しい知識を持った色弱被験者や、配色ノウハウの協力を得ました。
色覚タイプの間での利害を調節
上掲の図にあるように、見分けにくい色が並ぶ方向は、色覚のタイプによって異なります。そのため、ある色覚の人に見分けやすい色は、他の色覚の人には見分けにくいことがあります。そこで、人数が圧倒的に多い一般の人(C型)に違和感がないこと、次に人数が多い色弱の人(P, D型)にとって十分に見やすいこと、ロービジョンの人(T型)にとって不利益にならないこと、白内障の人への黄色、青の見やすさを確保すること、などを考慮して、利害を調整しながら配色を選びました。
ある色に感じられる範囲が一般の人よりも狭い
一般の人は、非常に広い範囲の色を「赤」や「緑」の色に感じ、その中のわずかな色の違いは、色名の認知という点ではあまり影響しない傾向があります。一方色弱などの人は、同じ赤や緑でも色調によっては他の色と紛らわしく感じるため、明確に「赤」や「緑」に感じられる色の範囲が狭くなっています。このような範囲の色を選ぶことが必要になります。(他の色でも同様です。)
従来の色票でカバーしきれない色を新規作成
ひとつの例として、「消火器の赤」(JPMA 色票E07-40X マンセル色相7.5R)は一般の人には赤く見えますが、色弱の人には黒っぽく地味に見えることがあります。一方、「東京タワーの赤」(E09-50X マンセル色相10R)は、色弱の人には鮮やかな赤に見えますが、一般の人には赤というよりもオレンジに近く感じられます。従来の JPMA 色票では、この2つの「赤」の中間には、色票が設定されていませんでした。そこで、色弱の人にも鮮やかな赤に感じられ、一般の人にもオレンジでなく赤に見えるぎりぎりの色として、両者の中間のマンセル色相8.75Rの色票を、新たに作成しました。
作業の経緯
本プロジェクトは、2007年秋に開始しました。まず、 JPMA と DIC の色票を吟味して、場合によっては追加を検討する新規色の選定や試作調色を行いました。次に、これら二千種以上の色票から、一般色覚の人が「○○色である」と色名を認知しやすい色票を抽出しました。(色名を認知しにくい微妙な中間色は、この段階で除外されました。)この結果、30数色のグループが選ばれました。
この中から、色弱の人が「そのような色名の色には見えにくい」と感じるものを除外してゆきました。この結果、非常に多くの色票が除かれました。
一般色覚の人が選んだ色
色弱の人が紛らわしいと感じる色を除外
次に、残った色票の中から、色弱の人が相互に区別できる色の組み合わせを選抜してゆきました。他の色とどうしても見分けにくくてぶつかってしまう色のグループは、この段階で除外されました。
2008年4月には、色関係の見本市「カラーセッション」で、DIC 株式会社が試作版の公開を行いました。その後被験者の種類と数を増やして、さらに見分けやすさを検証し、色調の再調整と絞り込みを行いました。色弱の人約10人と一般色覚のデザイナー数名が参加した検討会(1回8〜10時間)をこれまでに4回行い、述べ40名程度の色弱の被験者の参加を得ました。また、白内障の手術経験者と未熟児網膜症の人(各1名)の協力によって、S錐体が少ない場合や白内障への対応も行いました。
以上の結果より、第1版として JPMA の色票をベースにした全20色の配色セットを2009年4月末に公開しました。
次に、策定した全20色のそれぞれについて、プロセスカラー印刷で再現できる近似色を中心に CMYK の各色の値を微妙に変化させた多数の色票を印刷し、その中から相互になるべく判別しやすくなるような色調を選びました。これによって 印刷用 CMYK 版の数値を確定し、2009年10月の印刷関係の見本市「JGAS」で発表しました。
さらに、キャリブレーションした sRGB 規格のモニターとキャリブレーションしていないいくつかのモニターを用いて、これらの色調になるべく近く、なおかつ相互になるべく判別しやすいような画面表示色を比較検討しました。これによって 画面用 RGB 版の数値の暫定値を作成し、印刷用 CMYK 版とともに推奨配色セットの第2版として公開しました。
【謝辞】
本研究に協力いただいた多数の被験者の皆様と、新規に調色したサンプルを用意いただいた企業の皆様に感謝いたします。本研究は文部科学省科学研究費萌芽研究・挑戦的萌芽研究(神経科学一般分野)の支援によって得られた成果です。
挿話:このプロジェクトは作業チーム内部では神田川プロジェクトと呼ばれています。「神田川」という歌の2番で、「あなたはもう捨てたのかしら/二十四色のクレパス買って/あなたが描いた私の似顔絵/うまく描いてねって言ったのに/いつもちっとも似てないの」という歌詞があります。彼氏が買っても色を間違えにくいクレパスのようなセットを作ろうという企画です。